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作品名:アンジエロ 作者:七藤四季

第11回   復帰に向けて
 どちらかと言うと、歩けるようになってからの方が大変だった。その頃には胸の切り傷と打撲した肩と腰の痛みはすっかりよくなっていたが、ずっと寝たきりだったので足の筋肉はかなり落ちていた。また羽を動かすのも精いっぱいで、長時間飛ぶのは辛かったし、その場でじっと留まる感覚もほとんどなくふらふらと安定しない。長い病院生活で貯金もみるみる減っていたから、早くトリエーレに戻らなければならなかった。このままでは餓え死にする日も近い。でも復帰するにしても今の状態で戻っても命を捨てにいくようなものだ。しかし僕の家には何もトレーニング用の道具がなく、またそれらを買い揃えることももちろんできない。
 そこで僕は訓練所に通い、感覚を取り戻すことに決めた。そこは主に新しいトリエーレを育成する場所だが、怪我をした者がリハビリできるようなスペースやまた現役のトリエーレが休日でも鈍らないように身体を動かせる所もある。しかし現役の者はここよりもアンフィと城下町の間にある調整所へ行くことが多く、僕もそちらの方に足を運んでいて、また僕が戦いの基礎を学んだのは他のところであったから訓練所はこの時が初めてであった。
 訓練所は、この空中に浮かぶ島の北東にある。カザール地方は北西の端っこにあり、飛べば2モルナ〈時間〉で着くが、今の状態ではその倍はかかりそうでとても宿舎から通えなさそうだった。だから多少の出費を覚悟で僕は訓練所に泊まり込むことにした。

 案内された訓練所は想像以上の大きさだった。入り口の門まで馬車を使って辿り着き、そこで4号棟へ行くように指示された。僕は馬車を降り、至るところに立てられている案内に沿って雑木林の中を進んでいった。しばらくすると見たことのない大きさの長方形の建物が目の前に現れた。まったく同じそれが3つほど確認できる。噂によると他に同じ建物が4つ、計7つもあるらしい。ナイトの育成を主とした建物達である。
4号棟の入り口に入り、受付で手続きをした。貴重品を預け、その後案内されたのは十人が寝泊まりする大部屋だった。一番安い部屋と言った結果、ここへ連れていかれた。とてもじゃないけれど10人の部屋とは思えなかった。せいぜいその半分しか寝られないと思う。今は部屋の端に乱雑に布団と荷物が置かれていて誰もいない。みんな出払っているみたいだ。
 しかし思ったよりも安い金額でしばらくの間ここに泊まれることになったから、僕としてはほっとした。ここはトレーニング用の機器が充実していて、各個人が望む練習を十分に行えると聞いている。まだ体力や筋力が完全でない僕は、いち早くそれらを取り戻せるよう着いたその日からトレーニングを開始した。


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