20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:新しい道 作者:七藤四季

第9回   8
それからというもの私は読書にすっかりはまってしまった。モク程ではないと思うが、それこそ暇さえあれば読むようになった。大学はまだ専門科目の講義が少なかったのでレポートは少なく(後にものすごい量を書かされることになるが)、バイトも新学期が始まる際、週二日に減らしていたため、自由な時間がまだ作りやすかった。
 私は、昔のいわゆる文豪が書いた本を読み漁った(最初は日本人のものばかりだったが、その興味は海外にも広がってゆく)。物語を読んでいると、彼らの思想が次々に読み取れる。それが正しいか正しくないかは分からなかったが、彼らが見ていた世界を、本を読むことで共有することができた(特にDという文豪が書いたものが今でも一番感慨深い。彼の作品が与えてくれた影響だけでも一冊の本を書くことができるだろう)。
 少し余談になるが、私が大学生のときには電子書籍というものがあった(今ではもうすっかり見なくなってしまったが)。小型のタブレット端末で、何千もの小説が読めるというものだった。『本の置き場所にはもう困らない』とか『紙を使わないからエコだ』という謳い文句で、発売された当初はすごい注目を集めたが、それは結局広がらなかった。おそらく二〇二四年現在、読者の周りでもそれを使っている人をほとんど見かけないだろう(何ということでもない。同じ画面に次々と現れるそれは、もう《小説》ではなくただの《情報》に過ぎないのだから)。話が少し逸れてしまったが、私は流行に流されることなく、紙の本を買って読んでいた。
 そして月日は流れ、あっという間に冬休みになった。正月は、夏休みに帰省しなかったことを反省し、ちゃんと実家に顔を出した。しかし実家に居てもほとんど本を読んでいた(正月の特番もその年から一切見なくなってしまった。それほど本を読む方が面白かったのである)。
 正月が終わると、あっという間にまた学期末のテストになった。単位は落としたくなかったので(落とすと後々留年する可能性が出てくる)、読書の時間を減らして知識を詰め込んだ。本を読めないことに対してひどくストレスを感じたが、何とか乗り切ることができた。
そして二月の頭から四月の初めまでというまた長い休みに入る(大学の春休みは異常に長い)。私はバイトと読書に明け暮れた(本当にどちらかしかしていなかった)。
 十月に大学のベンチでモクと会ってからここまで、彼とは一切出会わなかった。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 2546