前書きにも書いた通りだが、モクとはその後一切会わなかった。彼は私の前、いや舞台から姿を消すことに決めたのである。これから先の人生を憂い命を絶ったのか、あるいは過去を憎み今の人生を捨てたのか、おそらく読者は、はっきりとはわからないだろう。私も大学生の間、ずっと考えていたが結局答えが出せなかった。 しかし、最近ようやく彼がどちらの道を選んだか、はっきりとわかるようになった。なぜなら本質的には彼と私は同じであるから。本編には書かなかったが、モクが「君も僕と同じだ」と言ったことがある。何の脈絡もなく例によって唐突に、である。当時の私はその言葉を軽く受け流していたが、今になってその言葉の意味に気づいた。彼は《君も僕と同じような人間だ》と言いたかったのである。いつか私が自分自身でその事に気づけるように少し言葉足らずで呟いたのである。 また食堂で彼に初めて会った時、私は彼の独特の雰囲気には気づいていたが、それが何なのかわからなかった(いや、考えようともしなかった)。しかし、今ではそれが何であるのか良くわかる。彼が何を見て、何を感じていたのか今の私ならわかる。けれども、それが何かは、ここでは言及しない(それはとても言葉で伝えられるものではないし、無理に書いた所で読者の大多数が理解に苦しむことになるから)。
彼はずっと以前から私という人間を見極めていた。そしておそらく自分と同じ道を私が歩むことを予期していたに違いない。彼は首を長くして私を待っているだろう。天国で、はたまた新しい人生を歩みながら、ずっと。彼と同じ道を歩くのも悪くはない。事実彼もそう思っているからこそ、わざわざ最後に私に会いに来たのだから。彼は自分と同じ道を歩む仲間が欲しかったのである。 しかし、同じ人間がいっしょの所を歩いたって何も生まれはしない。あの金木犀までの道を彼が作ったように、私も自分で新しい道を作って金木犀にたどり着きたい。 だから私は、彼とは違う結末を歩もうと思う。
|
|