学期末のテスト、夏休みが立て続けに終わり、二学期になった。私はモクに会おうと思った。会って私の小説を読んでもらい、その感想を聞こうと決心していた。結局この前に会った時は言いそびれてしまっていた。 モクが私に会いに来た時を思い出し、私は文学部の棟に行き、出入り口近くのちょうど良いベンチを見つけ、そこに座って本を読み、彼が私を見つけ出すのを待った。その日は午後の講義が一コマしかなかったので、それをさぼって半日ずっと待つことにした。最初は五月蠅くて文字が頭に入ってこなかったが、慣れてくると、なるほど彼が言うように以外に気にならないものである。 モクに会うという本来の目的をすっかり忘れ、読み入ってしまった。気づいた時には、最終講義の終了時刻を三十分は軽く過ぎていた。辺りには誰もいなくなっていた。 次の日の午後も文学部棟に向かった。講義が二つ残っていたが、どちらもサボることにした。『昨日は私に気付かなかったのかもしれない』、『もしかすると午後に講義がなく、そもそも大学に来ていなかったのではないか』などと昨日モクと会えなかった理由を私はいろいろ考えていた。その日は本を読まず、ずっと当たりを見回していた。この文学部棟の中は男女比で言えば明らかに女子の方が多い。だからモクが現れればすぐに見つかるはずだと思っていた。だが時間だけが刻一刻と過ぎて行き、結局この日も彼を見つけることができないまま、一日の最後の講義が終わる時間を過ぎてしまった。
棟を後にする前に事務室に行った。彼のアパートの場所を聞いて、直接乗り込もうと考えていた。その時には胸の中で何か不安なものが広がっていた。事務の女性の人にモクの本名を伝え、彼のアパートを教えてほしいと私は言った。女性は当然不審な目で私を見る。私は「携帯電話を失くしてしまったので彼の所へそれを伝えに行きたいのだが正確な住所がわからない」と適当に話をでっちあげた。彼女はまだ疑っていたので「彼に電話を繋いでもらえれば後は自分で話す」と言った。すると女性は電話番号を調べてくると言い、渋渋パソコンに向かってくれた。 安心したのも束の間、時間だけがただ一向に過ぎて行き、私の胸には不吉な予感がさらに大きく渦巻いていた。女性はまだパソコンの画面を見ている。やがて女性は顔を上げ、部屋の奥の方に行き、男性と話し始めた。私は焦りのためか少々イライラして右足を揺すっていた。 それからまたしばらくして女性はやっと私の所に戻って来た。だがその返事は《彼は今年の七月に大学を止めている》というものだった。それを聞き、私はひどく愕然とした。その事実が信じられなかった、いや信じたくなかった。待っている間に、そのような最悪な考えが頭を過りはした。彼が七月にわざわざ会いに来たのはこのためなのではないかと。だとしたらあの時それに気づくことができなかった私はなんて愚かなのだろうかと自分を責めた。彼を留めることはできなかったかもしれないが、せめて彼の理解者になりたかった。心を開いてくれたからあのような彼らしくないことを言ったのだと勝手に勘違いしていた私がひどく情けなかった。 私は女性に礼を言い、覚束ない足取りで事務室を出た。
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