きれいな砂と、澄み渡った空と、どこまでも続く海しか視界にはなく、私はしばらく感動していた(この場所には何回か来ていたが、内陸県で育った私はいつ見てもやはり感動してしまう)。しかしすぐにその感動は冷める。その視界にさらにゴミが加わったから。空き缶、ペットボトル、電化製品、プラスチック類、また明らかに最近使用された花火のごみなど、それらを見てうんざりした。流木までもが何か忌々しいごみのように見えてしまう(ごみを不法に捨てる人はどうしてこの結末を予期できないのだろうかと思う。ごみは自然には無くならない)。 モクは波打ち際のすぐそばまで近づいていた。私に背を向け、海を眺めている。気温のピークは越えていたが、日差しはまだまだ強く、本格的な夏の到来を告げていた。私のこめかみには汗が浮かび始めた。 私は彼に近づこうと思い、歩き出した。サンダルを履いていたため(夏はほとんどそれで過ごしていた)、非常に歩きづらく、やっとの思いで彼の隣に立ったときには、浮かんでいた汗は流れ始めていた。私とモクはしばらく海を見眺めていた。 二人の間で沈黙が流れる。その“ま”を波の音が繋いでいた。海と空とごみとさらには私達しかその場には存在しない(他には誰もいなかった。平日のこんな時間にここに来る人はそうはいないだろうが)。
やがて彼は口を開けたが、その時モクが話したことはまったく彼らしくはなかった(当時の私もそのことに気づいてはいたが、彼が心を開いたからだと勘違いしていた)。 彼と会う日がこの日で最後になるとは思いもしていなかった。
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