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作品名:新しい道 作者:七藤四季

第14回   13
一月も終わろうとしていた頃、地域の人が雪かきに追われているように、私もまた学期末のテストに追われていた。計画的に学習することはいつもできず、半年間の勉強を一週間ほどで一気に詰め込む(これが終われば念願の長期休暇だが、それまでが異様に長く感じる)。

 三時限目の講義が終わり、この日はもう他に授業がなかったので、テスト勉強のラストスパートを懸けなければならなかった。だが、少し気晴らししたいのも事実だったので、正門の前にある以前モクと会った書店に少しだけ行くことにした。実に半年ぶりに、である(本屋にはよく行くが、そこは在庫が少なく、ほとんど行かなかった)。
 入口の扉を開けると、偶然にもモクが立っていた(後ろ姿であったが、リュックを見てすぐに彼だとわかった)。下はいつものようにジーンズを履いていたが、上はさすがに冬なのでジャンパーを羽織っている。モクはレジで会計をしていたので、商品を受け取った頃合いを見て、私は彼の名前を呼んだ。彼は首だけをちらりと後ろに回して、私の姿を確認すると身体ごとこちらに向けた。
 お互いの近況について少し言葉を交わした後、私は「何の本を買ったんだい」と尋ねてみた。彼はMという作家のKというタイトルを挙げた。私はその本をすでに読んでいたので、話しの核心を避けつつもその本が持つ魅力を語った。彼の一歩先をゆけたことに少々得意気になっていた(無数に本はあるのだから、私が読んで彼が読んでいない本なんていくらでもあるのに。ましてその逆なんてさらに多いだろうが)。だが彼は、私のそのような態度を気にしておらず(いや、そういった振りをしていたのかもしれないが)「それは読むのが楽しみだ」と私に合わせてくれた。その言葉を聞き、私はようやく自分の出しゃばったまねに気付き頭が冷えた。そして、彼に既視感について聞きたかったことを思い出し、モクに「今から時間はあるか」と尋ねた。帰ってテスト勉強をしなければという考えが一瞬(ほんの一瞬)だけ流れたが、目の前にいる彼と次にいつ出会うかわからないし、根を詰め過ぎるのもよくないといったように、様々な理由をこじつけて自分を納得させた。
 彼は「大丈夫だ」と言って私の誘いに乗った。モクも当然期末テストがあるはずだが、これと言って勉強しなくても、彼は単位を落とさないように見えた(あくまでもこれは私が勝手に持った偏見だが)。私達は本屋を出て、隣にあるあの喫茶店へと向かうことにした。


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