休日の昼下がり、小学生の息子がソファでうたた寝をしていた私を揺り起こした。 その小さな手には、見覚えのある手鏡が握られていた。
「パパ、なりたいものある?」 質問の意図を考えるうちに、手鏡の存在を思い出した。 昔、小さな雑貨屋で「願いが叶う手鏡」というものが売っていた。 信じた訳ではなかったが、何も買わずに出るのも悪く思い、何となく手にしたものだ。 それを、どこからか引っ張り出して来たのだろう。
「そうだなぁ、今は眠たいから、ゆらゆら浮かぶ雲になりたいな。」 「わかった! ボクも一緒にお願いするね!」 息子の頭を撫でながら、 「うん、ありがとう。」 そう呟き、小さな手鏡に祈るように目を閉じたまま、再びゆっくりと眠りに落ちた。
目が覚めたのは、勢いよく全身に水を浴びせられたからだった。
ぼんやりした頭で、妻が洗濯物を取り込みながら、息子に注意するのを聞いた。 「ほら、お昼にするから、水鉄砲はしまいなさい。」 「うん、もう少しでやっつける!」 「あら、助けてあげたのね。なんて優しい子でしょう。」 そう言いながら妻は、小枝を拾い一匹の蝶にからまる糸を解いてやった。
そして、私は8本の足でもがきながら、庭に出来た水たまりにゆらゆら浮かんでいた。
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