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作品名:Yamizo Story Part1 米沢の廃屋 作者:Tosh

第5回   ボッコレ小屋
ボッコレ小屋

 俺は空き地でタンポポとカタクリの花を見ながらいろいろと考えているうちに、ふと子供のころ、味噌屋の息子で同級生の秀之、通称“ヒデ”たちと遊んだときのころのことを思い出した。

 俺たちはよく、暑い夏の昼下がりに、時間があると、虫取り網を持って誰からともなく誘いあって、根岸川にトンボを捕りに行った。涼しい沢風に乗って、川面すれすれに、ゆうゆうすいすいと飛ぶオニヤンマはとてもカッコ良かった。
川に行くと、大抵何匹かのオニヤンマが川面の1メートルくらい上を飛んでいた。目の前を過ぎ、下流へ行ったかと思うと、ずっと先で上流方向をくるりと変えて帰ってくるというパターン化された行動を繰り返していた。時折目の前で、上流から来るトンボと、下流から来るトンボがかち合う。かち合ったかと思うと、ぐるぐるともつれ合い、一緒になって飛んでいった。
 俺たちは、根岸川のすぐ隣を平衡して走る、一段高い道路をはしゃぎながら、のらりくらりと上流へ向かって歩いた。トンボがやってくると、一人が網を持ってかまえる。川に向いて、仁王立ちをし、網を寝せる。待ち伏せをし、目の前を過ぎようとするトンボ目掛けて、「待ってました」とばかりに、

 「エイ」

 と声を出して網を振り下ろしすのだ。が、たいていのトンボはその網をひょいと避けて、何事も無かったかのように下流に飛んで行くのだった。
 獲れても取れなくてもチャンスは一度で交代だった。そんなことを続けているうちに、たいてい一日に一匹か二匹は獲れたものだった。

 後日、俺はヒデといつもの仲間を誘ってトンボ捕りに行った。珍しいことに、その日はいつまで経ってもトンボが取れなかった。トンボを求めて、根岸川を歩き、立ち止まっては網を振り、いつものように上流に向かって進んだ。この日はいつもより早いペースで長源寺の前まで来てきてしまっていた。川に来てさほど時間はたってはいないが、気分的なものがあってか、皆疲れていた。

 「今日はだめだわ。全然とれねー。もう帰っぺ」

 ヒデが切り出した。他の人も、

 「うん。そーすっぺ」

 と口をそろえた。皆でっくりと肩を落としながら今来た道を引き返そうとした。

 すると、ヒデが、

 「あっ、そうだ」

 と言って、米沢の方向を見ながら駆けて行き、高欄に寄りかかりながら、米沢の空を指で差してながら言った。

 「あのなあ、米沢のおっとまりになあ、ボッコレ屋があったんだってよ。そんでなあ、そごには幽霊がでるんだってよ。だがら近づくなって、爺ちゃんが言ってたぞ!」

 「なんだそれ?」

 誰かが言った。

 「そんなのゴジャッペだ!ボロ小屋なんてどごにもねーべや」

 「そだ、そだ、そんなのねーべや、そんなのどごにある?」

 他の人も相槌を打つように言った。

 「昔あったんだってよ。そう言ってたぞ、ウチの爺ちゃんが。」とヒデは言った。


 俺は、しばしの間、タンポポとカタクリを眺めながら、ひょいとそんな思い出に耽っていた。ふと気付くと、自分はタンポポとカタクリの咲く陽の当たる場所に座っていた。ぽかぽかと暖かかった。やさしい風が吹いた。タンポポとカタクリがゆらゆらと揺れた。

 「もしかしたら、ヒデが言っていたボッコレ屋って言うのはここにあったのかもしれない。そして…」

と考えているうちに、直行はこくりこくりと眠り始めた。


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