「なんともまあ、おめえは何時も眠りこくっちまって・・・」
「あ?わりいなあ。んで、何を話してたんだっけ?」
「だからよ、オメーの見た夢って何を意味してんのか考えてたんだっぺよ。」
「あ、ごめん、そんで、何?」
「何っておめえ・・・肝心なときに・・・」
爺様はあきれ返っていた。
「だからよ、爺様はよ・・・」
ばあさんが助け舟を出して、話に割って入ってきた。
「オメーがよ、ここに来たのはよ、何であんな夢を見たのか誰かに意見を聞きてかったからだっぺ?」
「んだ。」
「そんで、それを、今爺さんがしゃべってたとこなんだ。」
「爺さんはな、『世の中は誰がどんな風に作っているのか、俺達もきちんと見張ってねえと駄目なのかもな』って言ってるんだよ。」
「・・・ふーん、つっても、良くワカンネエんだけど・・・」
「ナオ、オメエ、世の中の決まりって誰が決めてると思う?」
爺様が再び話始める。
「・・・つっても、あんまり話がでかすぎてピンと来ねえ・・・」
「そんじゃあな・・・、世の中にある正しいとか間違っているとかっつーものは誰がきめた?」
「そりゃあ・・・、親が教えてくれたり、学校の先生が教えてくれたり・・・」
「だべ?でもなあ、そのな、教えてくれた人は誰から教わったんだ?」
「もっと上の人らだべ?」 「んだ」
「つーことは、もっと更に上のよ、天辺にいる人達らが決めてんだべ?」
「うーん・・・」
直行はまだ理解しない。
「そして、自分らで決めたキマリを純粋で無垢な人達に上手に押し付けていく」
「なるほど、その人たちがそのキマリを常識とみなしていくわけだ」 直行は、わずかながら理解した。
「まあ、そうだな。」
「誰が良くて、誰が悪い、そんなふうに、自分たちから皆の目を背けとかにゃあ、自分達の身に危険が迫ってくるってのが分かってるんだよ。」
「は?また良くわかんなくなってきたぞ」
「つまりは自分達を善人に、ほかの誰かを悪人にしとかなけりゃ、それを常識にしておかなけりゃ自分達が悪者になって、責められっちまうべ?」
「あ、分かったぞ!!それが差別の理由か?!」
「だと思うな、おらあ。」
「なるほどなあ。」
「そんでよ、ばあさんの口癖によ、『何でこんな世の中になっちまんたんだ?』ってあるべ?」
「うん」
「あれってよ・・・つまりはよ・・・婆さんは・・・」
「なんだい?」
「・・・そのあとに、『俺たちゃ、何にもしてねえのに、何でいいつもいつもじめられんだよ?』と世の中を治めるお役人様に不平不満をぶちまけたかったんだと思うよ。」
「うーん、でも何で言えなかったんだい?」
「そりゃあよ、今は昔と違っていて、そんな不満を誰かに漏らせばお縄になるかも知んねえと思ったんだっぺなあ。」
「ふーん、まあ、よくワガンネげっと・・・」
「まあ、今からじゃあ考えられねえけど、戦時中は何か事あるごとに天皇様を引き合いに出しながら世の中を治めたっつーがらなあ。」
「ふーん、そんな時代もあったんけ・・・」
「役人はよ、つまりはよ、自分たちのデタラメを誰かが指摘すると、そいつのところに飛んで行って捕まえ、見せしめのために皆の前で罰をくれてたんだ。」
「そんな世の中って、何か間違ってるぞな・・・」
直行は、爺の話にのめり込む。
「オメエの見た夢はよ、きっと、どこかでまた同じことが起きつつある、いや、もしかしたら『起こっているから気を付けろ』っていう”お告げ”なんかも知んねえなあ。」
「・・・ううん・・・」
直行は合点したようなしないような不思議な気持ちであいまいな返事をした。久爺から視線を右にはずして窓の外を見る。窓の外には裏山に駆け上がる土手が広がっていた。土手には一面に片栗とタンポポの花がびっしりと咲いていて気持ちよさそうにゆらりゆらりと風に揺らいでいた。
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