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作品名:処方箋なしの女たち 作者:kogbou

第1回   秀子
( 1)始動パスワードを知らない秀子
綾小路は、秀子の到着を待って、何か手伝うことはないかと秀子のオフィスを訪問した。まず、綾小路は書類を入れるための木箱を2つ、3段の稼働式レターケースの提供を行った。また、セロテープカッターがなかったのでその手配も行った。次に、パソコンから電子メールを受け取れるようにするセットアップを手伝った。なぜなら、「早く仕事をしなくっちや」という秀子に急かされたからである。パソコンの電源を入れる。すると、始動パスワードを聞いてくる。秀子は自分のパソコンの始動パスワードを知らなかったのである。綾小路は、障害受付窓口へ問い合わせをするも、パスワードばかりはどうにもならない。C事業所にいる○○君にパスワードを聞く秀子。セットアップは無事に終わった。

( 2)会議室予約の電子化
秀子が最初に行ったのは、B事業所での会議室の予約の電子化である。会議室前にぶら下がっているフラットカレンダーに、鉛筆で時間と予約者を記入する旧式の 予約システムを、C事業所でも行われているネットワークを通してパソコンから予約する方法に変更したのである。秀子は遅れているB事業所での会議室予約シ ステムをC事業所同様の新システムに統合したのである。秀子は良かれと思ってシステム化したのであるが、あにはからんや、パソコンで予約できない人からの 苦情が寄せられてしまった。しかし、その苦情は、秀子に対してではなく、前任者に対して寄せられたのである。

( 3)人を指差す秀子
週末には、業者さん、オーナー、秀子と前任者が、B事業所の運営会議を行っている。その席上で丁寧な言い方をする時もあるが、相手を指さして「あなたねー」とやる秀子には、人を指差す時はドロボーを意味するとの非難の声があがった。

( 4)自動販売機移動未遂
B事業所の地下階にはカフェテリアがある。エレベータを降りた右手に食券の自動販売機がある。秀子は自動販売機が壁に沿うように置かれていないことに疑問を もった。自動販売機を壁に沿うように設置し直すことを主張した。地震などが起こった時に倒れたら困ると考えたのであろう。カフェテリアの方が、「これは前 任者の○○さんと決めたことだ」と主張した。秀子は前任者に電話をし、設置し直すことを要求した。○○は「壁と直角の方が自動販売機が目立つ。自動販売機 には十分な長さの鉄板を穿かせているので倒れない」と主張したが、秀子はガンとして譲らない。○○は面倒くさくなって、「勝手にしろ」と言ってしまった。不動産を担当している社員の▲▲が秀子を説得してやっと元のままに落ち着いた。

( 5)綾小路の手助け
秀子がB事業所に就任した翌労働日のことである。電子メールの不要なものを消していなかった秀子は、メールボックスが一杯になってしまい、使用不能に陥っていた。午前中電子メールを使えなかった秀子はいらいらしていた。しかし、秀子から綾小路への応援依頼は来なかった。そのことに気づいた綾小路は、午後一番に メールのパソコン内への保管、メールボックスの圧縮を行い、電子メールが見られるようにしてあげた。

( 6)綾小路の意見無視
秀子が、カフェテリアについて何か意見があれば教えて欲しいというので、綾小路は「今日、スペシャルメニューでハンバーグを食べたかったが、12時15分頃に 行ったら売り切れだった」と苦情を申し出た。すると、秀子は「そうかー、やってくれたんだー、カフェテリアさん。やってくれたんだー」と大声を出した。400円でハンバーグが食べられるということで、売り切れが予想されることから、このような場合には、11時30分に10食、11時45分に10食という ように時間をずらせて提供することが必要となる。秀子は、綾小路に意見を聞きたいと言っておきながら、意見を聞こうともしなかった。綾小路は二度と意見は言う まいと心に誓った。

( 7)コーヒー自動販売機故障
綾小路は、朝、お茶を飲もうと入居フロアーのコーヒー自動販売機に向かった。ところが、全部売り切れの赤ランプがついていた。綾小路は早速、販売機に貼ってある連絡先をメモし、秀子に連絡した。秀子が連絡先に電話するも担当者はすぐに来られる状況ではなかった。そこで、綾小路は、秀子から「故障中」の張り紙を貼る ように依頼された。「貼っておいてよ」と。

( 8)冷蔵庫騒動
秀子が、朝お菓子を買って来た。
「○○ちゃーん、冷蔵庫ある」
「あるけど、汚いわよ」と○子。
冷蔵庫を開けると、秀子。
「汚いわねー。掃除してもらわなくちゃ」
○ 子が汚いと言ったのは、日本人特有の謙遜で、実際はそんなに汚くはなかった。にも拘わらず、汚いと秀子に言われた○子は、秀子の頭を叩きたくなるほど頭に 来たそうだ。○子は派遣で来ており、社員である秀子に対しては立場が弱いのである。○子は後日語る。「いいわねえー、社員は。会社の金看板背負っているから」

( 9)火事騒動と虫事件
秀子がB事業所に赴任した次の週に大事件が勃発した。地下室から火が噴出していることを近隣の住民が通報し、消防自動車と警察が飛んできた。この対応も総務の秀子が行った。この日、綾小路は外出しておりB事業所にはいなかった。
翌日、綾小路は、同じ課の同僚から「カフェテリアでのラーメンの中に虫が入っていた。食べていた女性は泣き出した」との話を聞いた。綾小路は「この話しを知って いるか」と秀子に問い合わせた。秀子は「知らなかった。調べてみる。有難う」と話すと電話を切った。秀子に報告をしなかったカフェテリアさんにも問題があるが、秀子は、食べた女性を探し出し、カフェテリアのオーナーまで呼び出した。当の女性が働く職場にオーナーを連れて行き、女性に謝罪させた。その時、 オーナーの手はぶるぶる震えていたそうである。良かれと思って女性に謝罪させたのは良かったのであるが。こういう場合、秀子は、別室に女性を呼び出して、 オーナーと合わせるべきであった。秀子の行動によって、「虫」の話しを知らなかった入居者まで、そういう事実を知ってしまったのである。更に、「ここだけ の話しだけどねー」と言っておきながら、秀子が何人もの社員に事実を電話で話してしまったのも問題があった。秀子は、キャフェテリアのおばさんにまで詰問 している。「なぜ知らせなかったのよ」と。おばさんは、カフェテリアの支配人に遠慮して何も言えなかったのである。おばさんは、女性が泣き出した時に「お 金を返してもらいなさいよ」と発言したから知っていたのではあるが。

(10)激励と忠告
秀子がB事業所に赴任してからいろんな事件が起きたので激励しようと考えた○○が、秀子に電話をかけた。
「いろいろ大変だったねー。あんまりいろいろ変えないほうがいいよ」と言うと、
「あなたにそんなこと言われたくない」と、○○はけんもほろろの答えを秀子から発せられた次第である。

(11)綾小路のお手伝い−2
会社には電子掲示板というのがあって、各事業所毎の総務の案内やらカフェテリアの食事メニューなどが紹介されている。綾小路は、掲示板で間違っている箇所や前任者の名前が残っている箇所を印刷して、秀子に届けたりもした。これらの訂正と変更は、秀子が面倒くさがったため、回されて、皆○○君の仕事になったよう だ。

(12)座席表
B事業所は古いビルで、始終工事を行っている。綾小路の入居するフロアーで「空調工事があります」との電子メールが回覧されてきた。な、何と、フロアーの図に綾小路が秀子に渡した座席表が含まれているではないか。座席表とは、各社員がどの位置に座っているかを名前入りで表した図で、その座席表は、組合員の名前を 綾小路が無造作に○印で囲ったままであった。新しい綺麗な図を秘書さんから入手し、それを添付するならまだしも、綾小路が印をつけた図を使用するとは。○○君 にでも頼んで図を作ってもらえばいいのに、余りにも不用意な秀子の所業に、綾小路は激怒した。
「送ってきた図は汚い」と秀子の面前で綾小路が言うと、
「綺麗じゃん」の一言。綾小路は秀子の美的センスを疑った。

(13)財布盗難疑惑事件
「私の財布、○○ちゃん知らない?」と、秀子が○子に尋ねる。秀子は、C事業所での会議に行くついでに銀行振込をしたかった。13時から会議があるので焦って いたのである。○子は「もし、ここで財布が見つからないで会議に行かせたら、自分が盗ったことにされてしまう」と思い必死だった。「後で見つかっても、○子が隠しておいてそこに置いた」と思われるのが目にみえていたからである。
「どこかにないのー。ポケット見たー。机の中見たー」と、○子。
「あった、あった机の中にあった」で、一見落着。しかし、秀子の行為は○子を犯人扱いしたことに問題があった。

(14)秀子の横暴
秀子は、B事業所だけではなくD事業所も管轄している。D事業所に物を運んでセットしなくてはならない事象が発生した。
「ねえー、D事業所に行ってくれない」と業者におねだりする秀子。
答えを渋る業者。
「いいわよ。業者を変えるから」と、秀子。
業者の立場は弱い。会社の権威を傘に威張り散らす秀子。業者からの苦情が前任者に寄せられた。本来契約にない事項については、お金を支払ってやってもらうのが筋である。

(15)幽霊騒ぎ
ある朝、綾小路がいるフロアー全体を異様な音が支配した。ブン、ブン、ブン、まるで蜂の大群が押し寄せてくるような大響音であった。綾小路と他の組合員それにラ イン管理者の3人が、音の発生源である倉庫になっている小部屋のドアのノブを回した。中に入ると通気口から聞こえてくるようだった。綾小路は秀子に電話し状 況を説明した。電話を切ると音は自然と止んだ。作業服を来た二人が綾小路の職場にやって来た。綾小路は事の次第を話したが、全然信用されない。「B事業所の空 調はセントラル・・・(集中方式)で、各フロアーにはファンベルトは着いていないし、今日は工事もやっていない」との説明があった。結局、今度同じ事が起 こった時考えようということで幕がおりたかに見えた。早速、綾小路は、秀子に非科学的な現象を身振り手振りで説明した。「幽霊に違いない」と綾小路。
B 事業所ビルは、江戸時代お屋敷のあった場所で、若い女性が井戸に身を投げたという伝説が伝わっている。ビルメンテナンスの業者の人が地価の部屋に入ろうと したとたんに金縛りにあったそうだ。前に入居していた女性は、幽霊を連れて家に帰ってしまったため、御払いをしてもらったとか。近くの神社の神主さんを呼 んで御払いも実施されたほどだ。また、綾小路の入居するフロアーで入居前の工事をやっていた運送業者の人が、磁気カードによるドアの開閉がなければ絶対に入れない部屋に休んで寝転がっていたところ、長い髪の毛が見えたと話している。
翌日朝、綾小路が総務を訪問すると、○子が
「秀子さん、幽霊の『提案箱』を出したわよ」と言うので綾小路はビックリ仰天。
『提 案箱』とは、社内でのどこどこを改善して欲しいとかを具体的に専用の用紙に書いて、専用の封筒に入れ、『提案箱コーディネータ』に届けるという制度である。社員ならいつでも出すことができる。内容の概略は、『B事業所には幽霊が出ます。危険なので社員は他の事業所に移した方が良いです』というもの。
『提案箱コーディネータ』は、通常関係部署の長に用紙を配布するのが仕事となっている。今回の秀子のようなケースでは、関連部署は見つからない。用紙は結局、社内一般業務を扱うライン管理者の手に渡った。会社としても回答のしようがなかったのであろう。彼は、秀子に『提案箱』の取り下げを申しでてきた。取り下げで決着がついた。
「B(事業所)友の会」の会合では、「主任昇進の大事な時に、なんで幽霊に関する『提案箱』を出したのかしら」と、全員の意見が一致した。

(16)秀子暴言
 秀子はC事業所では○○の部下であった。○○は秀子に仕事を言いつける立場であった。秀子にとっては○○に大変お世話になったのである。しかるに、秀子は「○○に指導したことはあるが、指導を受けたことはない」と豪語するのである。

(17)秀子悪口
電話の設置などを受け持つ子会社の社員2名が仕事を終え、総務に報告するため訪問した。その時、偶然にも綾小路も現場にいた。
「コーヒーでも飲んで」と秀子。
「この留守番電話いいな。もらってもいい?」と、1人の社員。
「いいわよ」と秀子。ここまでは良かったのであるが、後がいけない。
「お宅の電話に出る人暗いわよー」などと、他社の社員を批判し出した。
そもそも、秀子はコーヒーのお金を出していない。秀子が○子に命じて、コーヒーを買いに行かせたのである。お金は、本来給料の高い秀子が出すべきなのに、○子が負担していた。しかも、あたかも秀子がお金を出したように思わせている。
秀子が、終業時間後、綾小路の職場を訪れた。
「他社の社員の悪口を言えば聞いた人も良く思わないし、職場に帰ってからこの話しを聞いた社員も良くは思わないから、あんなことは言わない方がいいよ」と綾小路がたしなめると、
「いいじゃん。いいじゃん」と秀子。一向に反省の色は見られなかった。善悪の分からない可愛そうな女性だと綾小路は今でも思っている。

(18)秀子、綾小路を無視
その後の朝、綾小路の職場に入るには磁気カードと呼ばれる社員証を読取機に通して読み取らせる必要がある。出入り口は2箇所である。片方の入り口から入ってきた秀子はもう一方から歩いてきた綾小路とすれ違った。朝一番だから当然「おはよう」の声がかかるものとふんでいたら、無言ですれ違った。少しの間をおいて、 背中の方から「○○さんおはよう」と他の社員に声をかける甘ったるい声が聞こえた。綾小路の体内で血液が逆流した。秀子の組合上の役職は、外部の方々との付 き合いから役職があった方が良いということで、名目上副委員長の肩書にしてあり、綾小路の書記長よりは格が上ということになっている。しかし、同じ事業所に 働き、年上でもあり、世話になっている綾小路に対して無言とは。秀子にとっては、きっと、秀子が綾小路をお世話しているとでも思っているのであろう。

(19)「B事業所の2000年問題」
当時はコンピュータの2000年問題というのがあって、かつてコンピュータが高価であった頃、年を表すために西暦の下2桁を使用していた。というのもデータを蓄える磁気ディスク装置やデータを一時記憶しておくメモリーが高価であったので、できるだけ有効に利用するために、年を表すのに4ケタを使用しないで2桁を使っていたのである。たまたま翌年が2000年になると、下2桁だけでは00年となってしまう。年号が平成に変わった89年、平成元年から88を引き 算する計算を行うと89引く88で平成1年となる。00年から88を引き算すると、−88年となってしまい、年にマイナスはありえないから、絶対値を採っ て平成88年となってしまう。すると、99年の平成11年から一挙に77年経ってしまうことになる。このように、コンピュータの2000年問題は社会的な問題となっていた。秀子の2000年1月1日の主任昇進とかけて、「B事業所の2000年問題」と解いた。その心はどちらも心配だ。「B事業所の2000年問題」を討議する場が開催された。その名も「B(事業所)友の会」だ。A事業所、B事業所、C事業所の総務部門を中心とする会合に綾小路も誘われた。夕食 を共にしながらの目的はただ一点に絞られた。秀子は可愛そうな人だ、ここをこういう風に直せばね、こうすれば善いのにねと、討議するためだ。秀子の欠点が どんどん暴きだされ、改善策も熱心に討議された。しかし、悲しいかな猫に鈴をつける人がいない。「ここをこうすれば」と秀子に忠告すれば、「あなたにそん なこと言われることない」と、返答が返ってくるのは火を見るよりもあきらかだったからだ。

(20)秀子強すぎる
秀子はこうも言い切っている。「B事業所の入居者は満足している。その証拠に一つも苦情が来ていない」綾小路は思う、本当に可愛そうな人だ、秀子、あなたは。
苦情はみな前任者に来ている事実を認めようとしないからだ。勿論、秀子には確かめようもないが。なぜ、秀子に苦情が来ないのか。答えは簡単だ。誰もが秀子を 恐れているからだ。いつも、忙しそうにパソコンのキーボードを叩いている。パソコンに向き合っている時の顔はまるで夜叉のようだ。怖くて近寄れない。綾小路 が用事で会いにいっても見向きもしない。人の気配もかんじられないのだ。

(21)総務のお仕事
○○は総務の仕事をこのように表現している。「総務の仕事はお客さん、入居者あってのものだ。お客さん、さあいらっしゃいと、窓口をあけておかなきゃ」
綾小路が目撃した事実を紹介しよう。外部の取引先の若い男性が何か言いたそうに総務に入る敷居の前でもじもじしている。秀子はまったく気づかない、いや、気づこうともしない。3分以上は経過しただろうか、綾小路が「お客さんだよ」と教えてあげた。

(22)秘書さん、総務に行きたがらず
秀子がB事業所に赴任してから数日経った午前、綾小路の課を担当する秘書の女性が「事業部の組織図」を持って綾小路の座っているそばにやって来た。「綾小路さん、 総務に行きますか?」と問い掛けてくるではないか。最初は何を言っているのか分からなかったが、結局は秀子の所に行きたくないのであった。

(23)金に汚い秀子
「B(事業所)友の会」で出た話しだが、秀子が金に汚いとの話しがまた出た。「派遣で来ている女性が買ってきたお菓子が、しばらく手つかずで机の上に乗っていた。秀子さんが、派遣の女性に、『食べないならもらっていい。業者さんにあげると喜ぶから。業者さんにあげよう』」と言って、派遣の女性から秀子はお菓子を取り上げたというのだ。貰った業者さんは、きっと秀子が買ってきたと思うに違いない。或いは自宅に持ち帰ったかも知れない。秀子はお金に汚い。

(24)女帝秀子
どの会社に行っても、ご案内の看板や一寸したお知らせの小さな看板が立っている。B事業所では、この看板を前任者が不要と判断して捨てた経緯がある。せいぜい数個もあればこと足りると思うのだが、秀子は業者さんの要求に応じて多量に購入してしまった。看板は一個6桁の金額もする高価な物なのに。秀子はB事業所の女帝にでもなったつもりでいるのであろうか。

(25)ポスター撤去事件
上司の○○がB事業所にやって来た。
「秀子さん、これ(ポスター)掲示期限が過ぎているよ」
「あらー、いやだ。仲間に外しておくように頼んでおいたのに」と、秀子。
仲間とは、組合員のことらしいが、こんな依頼を誰が受けるのであろうか。


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