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作品名:剣無しの騎士。 作者:葟

第2回   行きは怖いが帰りは楽ちん。
門を出たその先には、草原が広がっていた。
だが、思いがけぬ問題が生じた。
体全身に風圧が掛かり、目が乾燥した。

「(…空中!?)」

僕は空中に投げ出されたのだ。
真下には森があるが、助かる見込みは無い。
兎に角、落下姿勢の状態を維持した。
…そういえば、先に落ちたタッちゃんの姿が無い。
周りを見渡したが、人が一人もいない。
不思議に思っていると、森の木の葉が体に当たった。
ガサガサと音を立てて落下している。

「いででででで!!」

地面にぶつかった時だった。
地面は柔らかいマットの様に凹み、衝撃を吸収してくれた。
驚きと困惑が混じり合い呆然としていると、何者かに声を掛けられた。

「大丈夫かい、旅人よ」
「えっ、あ、はい、大丈夫です」
「君も願いを叶えに来たのか?」
「(あの話は本当だったのか…)」

声を掛けてくれた人はフードで顔が見えないが、立派な髭を生やし枯れた様な声をしていた。
僕はその老人に聞きたい事が沢山あったが、考えるよりも先に口が開いた。

「願いなんてどうでもいいんです、それより、先に人が落ちて来ませんでしたか?」
「あぁ、その子なら願いを叶える為にもう行ったよ」
「どこへ?」
「試練の洞窟へ、さ」
「どうすればそこに行けますか?」

老人は数秒頭を傾げて何かを考えた後、ポツリと言った。
成程、君の願いはその人と無事に帰る事か、と。
至って普通の事なのだが、その老人が言う言葉一つ一つに重みを感じた。

「残念ながら、この世界を救うまで帰る事は出来ない」
「えっ!?」
「願いを叶えたい人は何かを犠牲にしなければならない…、君の場合はこの世界を救う事だね」
「そんな…、叶えたい事なんて何も無いんです」
「…心の奥底では、何か思っているようだが?」

僕は黙り込んでしまった。
自分の心なのに、自分で分からなかった。
この老人には何もかも見透かされている様な気がした。
そして、今の僕には断るという選択肢は無かった。

「さぁ、服を着替えなさい! その服だと怪しまれるからね」

衣裳部屋が老人の横に現れ、老人はそこに入る様に指図した。
気付かなかったが、目の前には服があった。
フリューテッドアーマーと呼ばれる装備があるが腕と脚のみしか無く、胴体の所には魔女が着そうな金糸の装飾の服と、腰から下は同じく金糸の装飾に白いフリルの大きなスカート。
ベルトは黒く艶々していて、止め金は金色の六芒星の紋章。
左肩のみ肩当てがあり、そこから繋がる金色の鎖と止め金にマントが付いてあった。
さらに、フリューテッドアーマーにしては珍しくヒール状の靴。
アーマーの白銀の輝きと、魔女の服とスカートの黒さがマッチしていた。
着替え終わり、老人が何か私に言ってきた。
金色の部分が少ないが鮮やかさをだしており、老人曰く所純金だそうだ。
永延とこの装備への素晴らしさを語られた。
金糸にはルーン文字が刻まれているなど、魔力がどうのこうの…。
そして、コレを被りなさいと老人に渡されたのは、黒く三角の形で先っぽがヨレヨレの魔女の帽子と、少し汚れた肩掛け付きの皮のバッグだった。

「よく分かりましたね」
「造作も無い事だよ」

スカートから分かるかと思うが、性別は女だ。
男勝りな所が多々あるので、初対面の人は男だと思ってしまう事が多い。
ついでに、長い髪は服の中にしまってあるから尚更だろう。

「君はこの世界、アースワールドの住民になってもらう」

老人が僕に手を向けると、真っ黒な髪がアニメの世界のヒロインの様な綺麗で美しいブロンド色へと変わった。

「金髪になり、クロムウェルという種族に化けてもらうぞ」
「わぁ…!」
「言っておくが、この世界では魔法でも奇跡でも何でもある、時にそれはお前を傷つけたり癒したりするだろう……、だが恐れることは無い! さあ行け、七番目の勇者よ!!!」

何故かは知らないが自分が行くべき道が見え、僕達がいた世界に戻れるだろうかという不安も消えた。
方向は北、真っ直ぐ行けば洞窟に辿り着く!
根拠は無いが、確かな自信がそこにはあった。
黒いマントを靡かせ、今、親友と世界を救う僕の物語が始まる。
…とは言ったものの、試練の洞窟までは遠く、出鼻を挫かれた気がした。
アーマーは思った以上に軽く、十分に動けるし走れる。
洞窟への道中、老人の言った言葉を思い出した。

「(七番目の勇者…? タッちゃんと僕以外にも扉を潜ったヤツがいるのか?)」

勝手に想像を膨らませていたが、色々と考えている内に洞窟へと辿り着いた。
入口は如何にも意味がありそうな程禍々しく、入ると真っ暗だった。
地面には松明が置いてあったが、火はついていない。
一体どうしたら良いかと考えていると、ふと、火薬の様な臭いを嗅ぎつけた。

「(…火薬か? 焦げくさい臭いだ…)」

臭いを辿ると、入口から間もない壁から発せられている事が分かった。
その壁は赤く、何かで擦られた痕があった。
ここで僕は閃いた。
松明をバットの様に握り、壁に擦らせる様に振る。
ジャリッ、という音と共に松明には火が付いた。

「(成程、マッチと同じか! 面白いなこれは)」

その壁を軽く蹴り、削れた欠片を幾つか取ってバッグの中に入れた。
触った感想だが、パサパサしているが湿っているという不思議な感触だった。
湿っている正体は、恐らくだが油ではないかと思う。
…しかし、この洞窟は長い。
洞窟に入った事は一度も無いが、これ程長いモノなのかと驚く程だった。
と、気を抜いていると、いきなり目の前に崖が現れた。
松明を使っているが足元まではハッキリ見えない。

「危ッ…危ね!」

思いもしない事だったので噛んでしまったが、膝を着き、崖に手を掛け下を覗いた。
崖の下は十字に道が出来ており、其々の方向に巨大な像が置いてあった。
回り道は無く、どうやらこの崖を下りるしか無いようだ。
高所恐怖症ではないが、これだけ高いと足が竦む。
凸凹に足を掛け、両手で体のバランスを取る。
その前にスタミナが持つだろうか…。
ゆっくりと着実に降りていくと、丁度十字の真ん中に降り立った。
東には、盾を持った石像。
西には、杖を持った石像。
南には、弓を持った石像。
北には、剣を持った石像。
石像から発せられた何かが、頭の中に響いてくる。

「汝、何にも負けぬ強き力を求めるか」
「汝、未来を知り得る知恵を求めるか」
「汝、尊き他人を守る勇気を求めるか」
「汝、心さえも射つ深き愛を求めるか」

一遍に話しかけられた為、頭が混乱した。
僕は聖徳太子じゃない!

「《もう一度言う、汝…》」
「どうでもいいから、全て下さい!!」
「《よかろう!!!》」

足元に隠されていた魔法陣が輝き、その上には巨大な槍が現れた。
僕の真上に槍があり、それが降ってきた。
どうしていいか分からず、とりあえず両手で地面の砂を払い魔法陣を消した。
そうしたら案の定、魔法陣の効果はおかしくなり、槍は盾の石像へと向かって発射された。
盾の石像は盾を構えたが劣化しているらしく盾諸共崩れ、その大きな破片が杖の石像に当たり破片も石像も壊れた。
驚きで腰を抜かして尻餅をついたが、それが功を奏したのか真上を石の矢が通り抜けた。
帽子がハラリと落ち、弓の石像が放った矢は剣の石像に刺さり、前のめりになって倒れ始める。

「きゃあああああああああっ!!」

自分に向かって倒れてくるという恐怖で、思わず叫び声が出た。
しかし、剣の石像は自分の真横に倒れ、倒れた時の衝撃で体が浮いた。
そして倒れた時の衝撃で、第二撃を放とうとしている弓の石像に当たりどちらも壊れた。
像が全て崩れた後、自分の帽子の横に在り来たりな盾が置いてあった。
帽子を被り、その盾とその下にある格子状の何かを入れるカバーと白い帯を手に取った。
その盾を握った瞬間、それは形を変え本の形へと変わった。
本を開いたが、全く意味が分からない。
所謂、魔導書というものだろうか?
兎に角、その本を格子状のカバーに入れ、白い帯を通し、ベルトと結んだ。
余った帯は帽子の付け根に巻き、柔らかくならない様に補強した。

「(何だったんだ…、なんちゃらを求めるとか言っておいてコレだけか)」

石像の破片に腰を掛けて休んでいると、あの老人の声がした。
非常に声が高くなっており、驚きと笑いが混じったような声だった。

「全てを求めておきながら自分では何もせぬ、か…、何と強運な奴だ!」
「あ、さっきの…」
「うむ! あぁ、その魔導書は好きにするがいい、その魔導書はお前の心に応える」
「…わかりました、大事にします」
「さぁ、試練は終わった! そうだ! 街に行きたまえ、お主の友達が待っているぞ」
「はい!」

老人に地図を貰い、タッちゃんが待つという街へ足を運んだ。


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