20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:TYPE-勇者。 作者:葟

第9回   9
クイーンの背中に、回転する剣を突き刺した。
刺した途端、クイーンの体が上下左右に揺れ、チェーンブレード諸共振り落とされた。

「(…まだ慌てなくてもいい)」

落下してきたチェーンブレードを空中でキャッチし、体を回転させ遠心力を作用させて投げ飛ばす。

ヴィッ ヴィ ヴィッ ヴィ

クイーンの羽の付け根に勢いよく突き刺さる。
二枚の羽を失ったクイーンは、俺と同じく落ちていった。
このまま落ちていくだけなので、俺はゆっくりと目を瞑り風に身を任せた。
目を瞑ると意識が飛び、深い夢の中へ飛び込んで行った。
…目の前にはテレビがあり、ニュースなどが映っていた。

「【次のニュースです、世界的にインフルエンザが大流行中です。お手洗い、マスクなどの予防を―】」

プツンッ

この光景、どこかで見た事がある。
振り返ると、仁王立ちの妹。

「…菖蒲?」
「なによ?」
「いや、なんでもない、…良かった」
「どうしたのよ、いきなり」
「なんでもねぇよ」

今までのは夢だったのか?
さっきまで空から太平洋に落ちていた筈だ。
俺は自分の頬を抓るが、どうも目が覚めない。

「兄ちゃん、新学期の初登校だよ!早く行こうよ!!」
「ん、あぁ、そうだったな」

通学用カバンに手を掛けた瞬間、視界にノイズが走り、一瞬だけカバンがチェーンブレードに見えた。
驚いて手を離すと、それはなんて事の無い普通の通学用カバンになっていた。

「…」
「どうしたの?さっきからおかしいよ?」
「ちょっと眩暈がしただけだよ、大丈夫だ」
「それならいいけど」

いつもの制服にコートと着てマフラーを巻き、靴をしっかり履いて外に出る。
しかし、視界にノイズが又もや走り、街は崩壊し、通行人は感染者に見えた。
どうせ夢だと割り切り、足を踏み出すと、俺の歩いた後の景色は全てモノクロになっていった。

「…競争、しようぜ」
「え〜!地面凍ってるから危ないよ!」
「いいから早く!!」

兎に角走った。
後ろのモノクロの世界に追い付かれないように。
走っている最中、足に人の手の様な物が絡んだりしたが、気にしなかった。

「(やっと着いた!)」

菖蒲と一緒に走り一緒に学校に入って、そして自分の席に座る為、カードを探したが、そのカードには自分の名前も番号も書いてなかった。

一号 (TYPE-1)
1st (ファースト)

欠席の奴らの席には目が琥珀色の友達。
授業内容も覚えていなかった。
視界に走るノイズが、全てを壊す。
気がつくと、目の前に菖蒲がいた。

「ゲームセンター行こうよ、兄ちゃん」
「…あぁ、分かった」

ピンボール台で遊んでいると、ボーナスゲートに弾が入った。

「お〜、やったね!」

菖蒲はハイタッチしようとしてきたが、俺は躊躇った。
もう、気づいていたのだ。
…その時に、俺は感染したんだと。

「…なんだ、気づいてたの?」
「…最初からな」

菖蒲の目から涙が溢れ出た。

「ゴメンね、あの時ハイタッチしてなければ…」
「いいんだよ、過ぎた事はしょうがない」

そっと抱き、向こう側の鏡に反射して見える自分の目を見た。
…確かに、左目が琥珀色になっていた。

「…待ってろよ」
「もう手遅れだよ!クイーンに取り込まれちゃったんだもの…」
「大丈夫だ、兄ちゃんが何とかする」

仮初の夢の世界が崩壊して行く。
いつしかノイズが走らなくなっていた。
通学用のカバンを手に取り構えると、チェーンブレードになった。
服はあの特殊なスーツになり、アーマーもフルフェイスマスクも壊れていた。
そして、妹がいた所には、クイーンの胸のコア。
どうやら、落下してから無意識でここまで来ていたらしい。

「いま、助ける」

チェーンブレードを回転させ、振り上げる。
力を込めて、コアに叩きつける。

ヴィィィィィィィン!

「うぉぉぉぉぉぉ!!!」

火花が散り、次第にコアの中が見えてくる。
だが、チェーンブレードが壊れてしまった。
俺はは両手で切り開いたコアを掴み、こじ開ける。
ブチブチッ、と何かが切れる音と共に吹き出る血。

「がぁぁぁぁぁあぁ!!!!」

片目で見る世界が琥珀色に見えてきた。
感染が早まっているのだろう。

「開け!開け!開け開け開け開けよッ!!!」

ヘッドバットをやったり、両手で殴ったりした。
拳から血が滲んでいるが、そんな痛みも感じなかった。

「喰らえッ、オラァァァァァッ!!!」

次第にコアにヒビが入ってきた。
ピシッ、と音が鳴った。
無茶苦茶に振り回した腕を、コアにぶつける。
今までの想いを込めて。

パリィンッ

コアが完全に割れ、その割れたコアの中に手を突っ込む。
肩まで入るその大穴を掻き回す。

「(どこだ…、どこにいる…!)」

取り込まれた菖蒲を探していると、力強く何かが俺の手を握り返した。
俺もソレをしっかりと握り、コアの下部分に片足を掛け引き摺り出す。
血と共に出たそれは、菖蒲だった。
菖蒲の足は血管の様にクイーンへ伸びていた。

「菖蒲ッ!アヤメッ!!」
「兄…ちゃん…」

確かに菖蒲だった。
目は琥珀色に、足はクイーンに繋がってはいたが。
菖蒲を御姫様抱っこすると、菖蒲は突然泣き出した。
安心したのだろうか、それとも―。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 1498