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作品名:TYPE-勇者。 作者:葟

第8回   ハンターハンティング。
到着から2、3時間経っていた。
仲間達と俺は無言で廃都の正面門の前にいた。
この廃都の名前は《ザンビア・ラクナ》。
栄えていたらしいが、廃都というだけ普通の人間はいなかった。
いるとしたら、感染者とクイーンくらいか。
俺達は基本的に単独行動なので、皆、勝手に奥へ進んで行った。

「(……気配が…)」

尋常じゃない程の敵の数を感じた。
VOLD係数は9.98VOLD、ほぼ最大値の様な数だ。
そして、シン…、と静まり不吉な予感がした瞬間だった。

「グォォォォォッ…!」
「がぁぁぁぁぁッ!!!」

感染者の声と、恐らく仲間だと思われる声。
急いで声のしたところまで行ったが、その仲間は首を捩じ切られていた。
不思議と、悲しい感情は湧いてこなかった。
…これが仮面を付ける理由か。
そもそも人間というのは、自分の親や兄弟が亡くなってしまうと泣いたりするが、赤の他人だと泣くどころか無関心に近い。
それと同じで、仮面を付けて顔が分からない、喋らないせいで声がわからないし性格もわからない。
唯分かるのは、服の上から見ただけでの判断の性別と、俺達と同じ仲間だという事だ。
…友情を育んだ訳でもない、死線を乗り越えた訳でもない仲間にどう同情したら良いのだろうか?
…結果的に言うと、戦場で無駄な感情を出さない為の訓練だろうと思った。

「(…一人死んだか)」
「…ゴァァアァ…!」

仲間を殺った野郎がいた。
俺はM82A1を薙刀で払う様にして感染者を吹き飛ばし、M82A1と交代でチェーンブレードを使い胸に突き刺し、頭まで引っ張り上げた。

ヴィィィィン

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」

感染者の悲痛な叫び。
初めて聞いた時は全身の血が引く様な感じだったが、今はもう慣れた。
…だが、奴らはまだまだいた。
以前に紹介したが、壁を這うワンマンキラーが多すぎる。
ワンマンキラーが1匹いたら30匹はいると思え、か…。
正に《ゴキブリ》だな。
唯破壊するだけのショルダータンクは、フルオート改造のこの銃を撃ちまくればいいだけだが、強酸の液体を吐くガロッターは撃って殺すのとは訳が違う。
確実に頭を狙わないといけない。
普通なら、一度腹などを撃って動けない状態から頭を狙うのがセオリーだが、ガロッターの腹の中には強酸が入っている。
予想がつく通り、そんな腹を撃ったら強酸が飛び出す。
L○FT 4 DE○Dみたいに感染者を引き付ける効果はないが、俺達のスーツを溶かしてしまう。
あの強酸には硬度などは全く関係ないようだ。
そして、そいつ等のせいでドンドン味方が減っていく。

「【向日葵君!…いや、一号、《クイーン》は移動しようとしている、追いかけるんだ!】」
「【了解です】」

バイザーをサーチモードに替え、周りを見渡す。
と、その時、巨大な触手が地面から現れた。

「(空じゃなくて地中か!?)」

次々と触手が現れ、その内の一つが襲いかかって来た。
勿論、チェーンブレードで真っ二つにし、遠くはM82A1で軽く弾をばら撒く。
後で知り得た情報なのだが、《VOLDVIRUS武器》で攻撃した感染者は頭、所謂脳を破壊していなくても再生する事はないという。
詳しい情報は分からないが、改造したウイルスをどうにかして流し込んでいるのだろう。

「(本体が…!)」

地面が盛り上がり、本体が現れる。
しかし、周りの触手のせいで近づけなかった。
周りの味方も手古摺っていて、触手を一体一体倒していく奴も居れば、力及ばずそのまま押し潰される奴もいた。

「【撤退しろ!作戦を立て直すぞ!】」

オスプレイに乗っている時に聴いた、あのリーダーの声。
だが、そんな言葉は右から左に突き抜けて行った。

「(もう少しだ…!あとちょっとだけなんだ!!)」

既に飛び始めているクイーンの触手に、両手を伸ばし必至に捕まろうとする。

「待ってろ…!ぶっ殺してやるからな!!」

俺を目掛けて槍の様に速く向かってきた触手を、体を逸らして交わす。
そして触手を絡める様にして右手で捕まった。
左手で担いでる対物ライフルで、振り落とそうとする周りの触手を蹴散らした。

ドドドドドドドドドドッ

まるで、数百万体の自走砲や戦車が一斉射撃をしている様な、そんな爆音だった。
スーツの保護がなければ難聴になっていたかもしれない。

「【一号!聞こえるかね!?】」
「【はい、博士!】」
「【そいつは今、アメリカに向かっている!何としてでも太平洋内で撃ち落とすのだ!】」
「【わかりました!】」

覚悟はできていた。
例え、妹を助けれないという結果になっても、クイーンだけは跡形残らず消す事を。
母や父の仇を、友達の無念を、知らない誰かの哀しみを。
すべてクイーンにぶつける。
この時、俺は時間の間隔が狂っていた。
何日も経っていたのは事実だが、それとは違う。
一分が一日の様に遅く感じる。
博士は人には必ず《力》があると言っていた。
子供の妄想みたいな話だが、人間は脳を100%使うと何が起こるか分からないと言われている。
そして、それが俺の《極限まで集中して、感じる時間さえ緩やかにする力》。
スーツのおかげで補助されている部分もあるかもしれないが、VOLDVIRUSが世界中に流行るもっと前の時からあった力だ。
学校生活で無意識かつ反射的に使っていた力、いまここで役に立つとは。

「この先行き止まり(DEAD END)だ!、墜ちやがれ!」

クイーンの羽の根本を対物ライフルで撃ちまくる。
人間でもないくせに、赤い血が飛び出ている。

ドドドドドドドッ

たった一人の猛攻により羽一つは折ったが、ボックスマガジンは一個、全て撃ち尽くしてしまった。
あと一つ折る事ができれば、海に沈めれる。
銃を捨て、背負っているチェーンブレードを起動させる。
その瞬間、右手で掴んでいた触手が動き始める。

「くそっ!バランスが…」

触手を手放し、隣の触手に飛び移る。
そのままよじ登り、背中に到達し、回転する剣を振りかざした。


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