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作品名:TYPE-勇者。 作者:葟

第6回   嵐の前の静けさ。
そういえば、あの日から一睡もしていない。
ヘリから飛行機へと乗り移り、俺は爆睡していた。
何日経ったのかさえ分からなかった。

「起きてくれ、君の名前は…、向日葵だね?」
「…うぅ…ん…、えぇ、そうですけど…」
「君専用のスーツだ、機内の更衣室で着替えてくれ」
「はい」

渡されたアタッシュケースを受け取り、更衣室まで足を運んだ。
アタッシュケースを開くと、見慣れないスーツが入っていた。

「えぇと…、スーツをこの機械に差し込んで…ふむふむ」

スーツの着用方法は複雑で、更衣室の機械の中に入って着るようだ。
スーツを機械に差し込んで、その機械に入ると出入口が閉じられ、4、5秒もすると出入口は開いた。
黒い《d3o》入りのゴム質のスーツに、純粋かつ白銀の《ロンズデーライト》のアーマーが肩や背中、全身のあちらこちらに装備されてある。
腕にはタッチパネルがあり、マスクを装着する物や、現在位置情報を表示する物があった。
試しにマスクを装着するボタンを押すと、首元から、まるで折り畳まれていたかの様にフルフェイスのマスクが現れた。
マスク内のバイザーには、暗視モードや熱源探知モード、自分のバイタルが表示されていた。
勿論、ガスマスクの機能も付いている。
俺はマスクを戻し、博士の所へ向かった。

「終わりました」
「なかなか似合っているじゃないか、これは私からのプレゼントだ」

一つは、チェーンソーに柄が付いたもの。

「これは、チェーンブレード、君専用のVOLDVIRUS武器さ」
「ありがとうございます」
「もう一つは、ドッグタグ」

ドッグタグには、自分の名前と生年月日などが細かく記載されていた。
いつ調べた?、と思ったが、出生証明書で分かったんだろうと悟った。

「自分を象徴するマークをスーツに描きなさい」
「わかりました」

渡された数種類の色のペンの中で、若緑色を選び、右肩の装甲部分に《一つ葉のクローバー》を描いた。

「何故、それにしたのだね?」
「俺の新しい人生の《始まり》だからです」

これは古い俺が死に、新しい俺が生まれた日だ。
花言葉に《始まり》がある、この葉が適切だと感じた。

「さて、君の新しい名前だが、《一号(TYPE-1)》だ」
「新しい名前?、ドッグタグの名前は?」
「…ドッグタグは、自分の本当の名前を思い出すためだ」
「ふむ…」
「それに、アルティマの血液型がいなくならないように、お前たちのクローンを作る為番号の名前にさせてもらっている」

クローン技術。
もう、その程度では驚かなくなっていた。
非日常的な事が毎日のように起きているのだから。
俺は席に着き、チェーンブレードを起動させて様子を見たりして時間を潰していた。

「そろそろ、だ」
「どこに来たんですか?」
「アメリカだよ、私達の本部《V.D.T》があるのだよ」
「英語わかりません…」
「そのスーツの機能を甘く見ないでくれたまえ、マスクをつけると自動翻訳、自分が発する声も翻訳してくれる」
「マスクをつけていないとダメなんですか?」
「あぁ、基本的に、隊員同士が素顔を見ることは禁じてある」

理由は教えてくれなかった。
飛行機は着陸し、やっと空港についた。
チェーンブレードは背中に背負い、マスクは一人以外の時は常に装着。
外に感染者は見当たらず、博士によるとどこか一か所に集められているだとか。
でも、全部は集められないから、出来る限り感染者と生存者を分けているそうだ。

「よし、外に行こうか」

外に出て、待機していたヘリに乗る。
アメリカなのに、電光掲示板などは一切光らず、薄暗い気味の悪い雰囲気になっていた。
車は渋滞していて、どれも無人。

「もうすぐ着く」
「え…、アレって!?」
「そう、ホワイトハウス」

ヘリはホワイトハウスに向かっていた。
その地下に、本部はあるらしい。
大統領の顔が間近で見られるのかとドキドキしてきた。

「その、大統領っているんですか?」
「……彼は駄目だった…、だが、最後まで国民の為に働いてくれたよ…」
「…」

重い空気になったが、時間が経つと忘れてしまった。
ホワイトハウス近くのヘリポートに着陸し、ホワイトハウスの中に入る。
地下に続くエレベーターを降りると、目の前には巨大なモニター、左右至る所に通信機器、真ん中には3D映像仕様のマップが展開されていた。
そして更に下へ続く螺旋階段から登ってきたのは、俺と同じスーツをきた奴らだった。
恐らく、兵舎のような場所だろう。

「君は下に行き《TYPE-1》と書かれた部屋にいってくれ、服はこちらで用意してある」
「了解です」

カードキーを貰いその部屋に向かう途中、俺と同じ奴らを三人以上見た。
VOLDVIRUSを応用した兵器は俺を合わせて四人しか使えないが、スーツは誰でも着る事が出来るようだ。
VOLDVIRUSを応用した兵器は特殊感染者を一撃で葬る事ができるが、普通の武器では雀の涙ほどの威力にしかならないそうだ。
アルティマの血液型以外も戦力に加えている事から、窮地に立たされている事がわかった。

「ここが俺の部屋か…」

予想とは違い、しっかりとした造りになっていた。
中に入ると、ベットが一つ、その真正面にはテレビ、テーブルや椅子まであった。
ベットの横にはクローゼットがあり、着てもよい服にスーツ装着用の機械がある。
スーツを脱ぐのは簡単で、腕のタッチパネルのボタンを押せば大丈夫。
俺はスーツを脱いで、服に着替えた。
白色のパーカーに、よくあるジーパン。
靴は勿論軍靴で、靴を磨くためのセットまで置いてある。
その中に、奇妙な仮面があった。
説明には、通常の服で本部内を歩くときはこの仮面を付けろ、との事だった。
仮面は顔の形に目の穴が二つ、呼吸を行うための穴が二つで、黒い何かで戦化粧の物が書き込まれている。
渋々その仮面を付けると、思った以上にしっくりとくる。
顔を振り回しても外れない。

「(なぜ顔を見せちゃダメなんだろうなぁ…?)」

理解に苦しむが、仕方なくそのまま部屋を出た。
部屋はオートロックなので、ポケットにカードキーを入れた。


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