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作品名:TYPE-勇者。 作者:葟

第5回   反撃の時。
兵舎を出ると、先程の生存者が襲われていた。
呆然と立ち尽くす奴もいれば、何としてでも生き残ろうと武器を手にして戦う奴もいる。
当然、逃げる奴もだ。

「菖蒲、コレ使え!」
「え?…鉄パイプ?」
「あぁ、出来る限り俺が守るけど、危なくなったらそれを使え!」
「う〜ん……うん、わかったよ」

オープンサイトを覗き、感染者の頭に狙いを定める。
手がぶれないように出来る限り呼吸を整え、トリガーを引いた。

ドンッ

玩具の銃と違い、結構な反動がある。
しかし、俺でも撃てるほどだ。
放たれた弾は感染者の頭を砕け散らした。。
まるで、満開の薔薇の花が散る様に。
まだ殺す事に抵抗はあったものの、それを決める決断力は速くなった。

「特殊感染者だ!」
「あのデッカイのは…、《ショルダータンク》って言うんだって!」
「何故名前を?」
「博士が教えてくれたの!」

ふむ、と納得したが、明らかに勝ち目が無い。
門番らしき自衛隊の人が撃っていたマシンガンでも拒まないし、重火器がないと恐らく倒せないだろう。
奴に背中を向けて逃げようとした時だった。
突然、周りが暗くなった。
空を見ると、戦艦一個くらいはあるんじゃないかという、羽の生えた感染者。
いや、多分あれが感染原…、VOLDVIRUS…。
胸辺りには巨大なコアが有り、周りの人が撃っても傷一つ付かない。
その暗闇の中で、ショルダータンクや感染者の目は琥珀色に光っていた。
不気味で時が止まったかのように感じたが、その感染源はそのまま向こうへと飛んで行った。

「おい、あのデケェのが突進してくるぞ!」

生存者の声に気づき、ショルダータンクの方を見ると、肩が膨れ上がり突進してきた。
近い距離で突進された為、車のスピードのような速さを避ける事は出来ない。
そこで、俺が思いついた回避方法は……、《近くの給水タンクを撃つ》事だった。

「(数撃ちゃ当たる!)」

ドンッ ドンッ ドンッ

四個ある給水タンクの内の、二個に当たり勢いよく水が噴き出した。
ショルダータンクは水に足を取られて転んだ。

「菖蒲、博士の言ってた空港って!?」
「ココよ、結構近いよ」

アイフォンの地図機能で見ると、ここから700mくらい先の所だ。
俺は、わかったという風に頷き、銃の残り弾数を確認した。

「(装填している弾倉の中には13発…、後弾倉は4個ある…)」

十分に足りる数だなと思い、感染者の間を掻い潜り進んで行った。
時間はそんなにかからなかった。
残り弾数は8発、弾倉は3個で、どの感染者も皆ヘッドショットでぶち抜いた。

「クッソ、囲まれた!」
「いやっ!こっちに来ないで!!」

感染者は倒したものの、ゴキブリの様にドンドン出てくる。
空港に向かうまでも、新しい特殊感染者を何体か見た。
壁を這う《ワンマンキラー》に、強酸の液体を口から飛ばす《ガロッター》などなど。
そんな奴らに囲まれたら一巻の終わりだが、

「おい!此方が見えるかね!?」

上空には、博士の乗ったヘリが飛んでいた。
博士はそれから梯子を降ろすと、登ってくるように言った。
妹を先行させ、俺は追いかけてくる感染者を蹴落としたり銃で撃つだけだ。
これだけで弾倉2個も消費した。
そして、ヘリに登ると、何やら強い風に煽られた。

「《クイーン》だ!、VOLDVIRUSの感染源め!!」

ヘリの機材を掴み、振り落とされないようにしていると、そのクイーンの腹から無数の触手が出てきた。
風に煽られながらだと銃も撃てなく、なす術が無かった。
どうしたらいい、と考えていると、

「キャアアアアアア!!!」

妹が触手に捕まれ、そのままクイーンの母体へと連れ去られた。
俺の頭には血が上り、ヘリが揺れている事など考えなかった。
ただ、持っていた銃を左手で構え、右手でヘリの扉を掴み、身を乗り出すような形で触手を撃った。

ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ

周りの触手にも当たり妹を掴んでいる触手に当たったが、全く無意味だった。
そして妹を胸元のコア付近に運んだ。
コアはぱっくりと二つに割れ、妹をコアに飲み込むと同時に閉じてしまった。

「嘘だ…、嘘だ嘘だッ!!クッソォォォォッ!!!!」

ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ

「壊れろよ!菖蒲を出せよ!コノヤロォッ!!」

ドンッ…

最後の、一撃。
何とかコアにヒビを入れたが、菖蒲は助からなかった。

「ツいてねぇ…、ツいてねぇよ畜生ッ…!」

カチッ  カチッ

トリガーを引いても弾は出てこなかった。
クイーンはそのまま大空に飛び立った。

「妹さんの事は…、諦めろ…」
「………」
「…これから話の続きだが、君にあのクイーンを倒してもらいたい」
「………」
「出生証明書を見たが、血液型が適合する人は日本では君しかいなかった」

血液型では《キメラ》や《モザイク》という、二つの血液型を持った種類がいるが、俺は特に珍しい。
《全ての血液型を持ち、輸血する時に全ての血液が体に合う》というものだった。
その血液型の事を、《アルティマ》という。
確率では表せない程貴重で、世界には俺を合わせて四人いるそうだ。
何故血液型が関係するかというと、VOLDVIRUSを応用した兵器を使うため、その使用者は《VOLDVIRUSに感染した状態の血液型と似ている者でしか使えない》という博士の説明だ。
つまりVOLDVIRUSに感染した者と感染源は、全ての血液型を持っているという事だ。

「理解したかね?……嫌なら断っても構わん」
「…断る理由なんてないです、俺はアイツを倒して妹を救うんですから」
「決まりだな…、操縦士、無線を」
「はい、どうぞ」

博士は無線を取ると、大きな声で言った。

「【対VOLDVIRUS部隊に告ぐ!日本の適合者が仲間になった!短期決戦になるぞ、一斉に畳み掛ける!!】」

無線からは、爆音に近い歓声の声が聞こえた。
様々な国の人の声がする。
恐らく、全てお偉いさん方の声だが。
…俺にはもう、失うものは無い。両親も駄目だろうし、妹は連れ去られた。
目からは、ポツリと一滴の涙が落ちた。


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