兵舎の中は思ったよりも広く、軍事関係者やテレビでよく見るお偉いさん方までいた。 そんな奴等を横目に、俺は博士とか呼ばれている奴の所まで案内されている。
「着きました、ここです」
案内をしてくれた女性は《カードキー》を取り出し、カードの差し込み口に入れる。 ピピッ、とスキャンが終わった音が鳴り、無駄に機械的なその扉は開いた。 彼女はどうぞ、と言うと、そのまま帰ってしまった。 恐る恐る中に入ると、博士らしき人物と妹がいた。
「兄ちゃん!!」 「おう、生きてたぜ」
博士はそのやり取りに微笑むと、すぐさま真剣な顔になった。
「私が博士だ、…君が第一発見者だね?」 「はい」 「まぁ、幾らか質問してくれたまえ、後から山ほど君に質問をする事があるから」 「あ〜っと…、まず、アイツらは何なんですか?」
険しい顔になり、暫く間を置いた後、その重い口を開いた。
「1977年に、《ボイジャーのゴールデンレコード》が打ち上げられた事は知っているかい?」 「はぁ、少しなら」 「打ち上げられたのは、実はあれだけではなかったのだ」
まさか。 ネットでも教科書にも載っていない事が何故こんなジジィに分かる? 俺は疑問に思ったが、博士の言葉にその思考を遮られた。
「数種類の薬と数種類のウイルスを詰め込んだ物があった…、その中のインフルエンザウイルスが何らかの原因で途中で行方不明となり、他の星か何かで突然変異したと言われている」 「そ、そんな話…」 「嘘だと思うだろう?…実は去年のWHOの非公開会議により明らかにされていた、私も立ち会っていたので聞いているよ」 「じゃあ政府はそれを黙っていたのか!?」 「いや、違う……、その新種のウイルスはこの星に届くまで200年以上はかかると言われていたが、細かい隕石に付着し、その隕石までも感染して乗っ取ったのだよ」
自分の顔が引き攣っているのが分かる。 無機物の物にウイルスが感染しただって?…常識的に考えたら有り得ない事だ。 そしてそれが地球に落ちた…、普通なら大気圏内で消滅している筈だ。
「インフルエンザ改め、《VOLDVIRUS(ヴォルドウイルス)》………、他人のDNAまで書き換え、感染した者の肉片一つさえ残っていれば全て再生するという《最強かつ最凶のウイルス》」 「…対抗手段は無いんですか?」 「ウイルスの感染源を殺すことだ…、奴らはネットワークの様な物があり、それで連携や情報交換をしている……それと、感染者の脳を破壊しネットワークを遮断させ再生不能にさせる手がある」 「そうですか…、勝ち目が無い訳ではないんですね…」 「だが、予防手段がないから全身スーツなどで身を守らないといけない」 「…あ、そういえば」 「なんだね?」
忘れていたが、高速道路を走っている途中、ゴリラよりデカい感染者を遠くでみた事を伝えた。
「それは…《特殊感染者》だ、足が速い部類から君がみた部類など様々いるらしい」 「なるほど」
突然、生存者達の悲鳴と銃声が聞こえた。 何事かと窓を開けて見ると、高速道路で見た特殊感染者がバリゲートを破り、人を玩具の様に投げていた。
「話は後だ、コレを渡しておく!空港で会おう!!」
渡されたものは《ベレッタM92》、装弾数は15発で弾倉は4個。 ガスガンやエアガンは持っているが、やはり本物は重くて、ガスガンよりメタリックだ。 そして、博士が気を利かせてくれたのか、ベレッタM92は左手用に改造されていた。
「あの、利き手が左って俺いいましたっけ?」 「妹さんから聞いた、さぁ早く逃げるぞ!」 「分かりました、菖蒲!こっちに来い!」 「うん!」
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