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作品名:TYPE-勇者。 作者:葟

第3回   犠牲には犠牲を。
友達と喧嘩ならした事はあるが、大人となると勝手が違う。
ガキの貧弱な力じゃすぐさま押し負けてしまう。
その為、錆びた鉄パイプを《殴る》としてではなく《刺す》ものとして使うことにした。
偶然にも先端は削られ尖っている。
…だが、ここで一つの問題が生じた。
感染者を殺してもいいのだろうか?
アイツらの元は人間だ。殺人罪などに問われないだろうか。
などと考えていると、先程のタンクローリーの運転手がドアから転げ落ち、襲いかかって来た。

「ヴァぁァァ…」
「くっ…!」

鉄パイプを槍の様に構え、間合いを取る。
感染者も知能があるのか、なかなか近寄ってはこない。
今なら走って逃げれる!と、思った瞬間だった。

「ア゛ァァァ!!」
「うわっ!!」

両手を上げ、覆い被さる様に攻撃らしき行動をした。
俺はビビってしまい腕を縮めてしまった。
だが、その行動が功を成したのか、鉄パイプの槍は感染者の心臓に深く刺さっていた。
傷口から出た血は赤色ではなかった。
茶色だが、唯の茶色ではない、何かに汚染された色だった。

「あ、あ…」

今の俺は、血の色がどうだとかそんなのは気にしていなかった。
人を殺めてしまったという恐怖が体の内から湧き上がり、その場から動けなかった。
追い打ちをかけるかの様にその殺した感染者の悲痛な叫び。
そして、若干だが、哀しみを含んでいた。

「クソッ!クソッ!!クソッ!!!」

ヤケクソになっていた。
よくよく考えれば、殺すか殺さないかなんてすぐ出る答えだ。
自分の命が危ないというのに他人の命を心配している場合じゃない!
確かにまだ恐怖が残っていたが、俺は自衛隊の兵舎まで走った。
感染者を大勢殺しながら。
交差点を左に曲がり、家の塀を登って屋根を歩き、感染者が大勢いれば掻い潜り、見つかったなら体を一突きし殺す。
まるでゲームの世界にいる様だった。
バ○オハ○ードのゾンビの方がまだ良心的だ。
トロいし、連携するだけの知能をもっていない。
ゾンビと違って感染者は、全力で走るうえに獲物を袋小路に追い込むという知能を持っている(実際に追い込まれたが、壁が低い塀だった為何とか難を逃れた)。
文句を垂れている内に自衛隊兵舎まで着いた。
入口にはバリゲートが作られ、周りのフェンスの上には有刺鉄線が巻き付けられている。
中からは女子供の泣き声が聞こえ、男の怒声なども聞こえた。

「すいませーん…、入れてくださーい…」

先程の事情もあり、テンションがガタ落ちしていた。
当然そんな声に中の人は気づく筈もない。

「すいませーん!!入れてくださーい!!!」

シン…、と中が静まり返った。
暫く経つと、入口のバリゲートの上から《89式5.56mm小銃》を構えた自衛隊の隊員が現れた。
引き攣った顔をしていた。…無理もない。

「…両腕を後ろに回して入ってきて下さい、そのあとは係の指示に」
「わかりました」

言われた通り腕を後ろに回し、開けられたバリゲートの中へと悠々と入って行った。
自衛隊兵舎にいる皆が見ているんじゃないかと言うほど凝視された。
医師の恰好をした女の人が此方に向かってきた。
多分、係の人だろう。

「目を確認します、…異常なし、その服を殺菌します」
「ついでに、その鉄パイプは預かっておきます」

スプリンクラーの付いた個室に入れられ、そのスプリンクラーからは細かい水が飛び出た。
殺菌作用のある液体だろうか?
個室の中にいると、外から話し声が聞こえた。

「あの子…どうやってここまで…」
「鉄パイプ持ってたし、それで応戦したんじゃないのか?」
「そうだろうけど…、あの子、感染者の第一発見者らしいよね?」
「あぁ、一応博士の所に連れて行ってみるか」

ガシャッ    プシュー…

「殺菌終わりました、これから博士の所へ連れて行きますね」
「いや、それより、妹を見なかったか?…菖蒲って言うんだけど」
「えーと、彼女も博士の所へいた筈です」
「あぁ、わかりました、鉄パイプは返してもらいますね」

鉄パイプを受け取り、案内してもらった。
ここからは単なる妄想の域だが、恐らく日本の政府機関のお偉いさんも感染したのだろうと思う。
完全にアドリブで対策をしているし、ラジオでも何の放送も無かった。
聞こえるのは、自衛隊兵舎外の感染者の呻き声と、ここに避難している人達の俺に対しての不安や称賛、陰口だけだった。


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