20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:TYPE-勇者。 作者:葟

最終回   BAD END。
背中に、じんわりと痛みが広がった。
菖蒲を抱えた状態で後ろをチラリと見ると、クイーン本体の前脚が背中に刺さり貫通していた。

「菖蒲、泣くな」
「…え…?」
「痛くない、全然痛くないんだ」

ウイルスの効果だろうか。
全くと言っていい程、痛みは感じなかった。
血を吐き、意識が朦朧としていた時に無線が入った。

「【聞 え か? 水素 弾を 下する 逃げるんだ!!】」

無線は途切れていたが、確かに博士の声だった。
しかし、俺達は既に手遅れだ。
ウイルスに完全に乗っ取られるまでの時間、決着をつけようじゃないか。

「なぁ、クイーン?」
「ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ウ゛…」

菖蒲は、まるで掃除機のコンセントを戻す時の様にクイーンのコアに取り込まれた。
俺は前脚を引っこ抜いた。
傷口からは血が一滴も出ない。
VOLDVIRUSによって自己修復と感染領域の拡大をしているからだろう。
リンパ球などそんなモノは役に立たなかった。

「(…行くぞ!)」

近くにあるハワイと書かれた看板の瓦礫を拾い、逃げようとしているクイーンに飛び乗る。
瓦礫を両手で持ち、クイーンの頭に振り下ろす。

ガァンッ ゴンッ

剣が鎧に弾かれた様な音がしたが、足元がふらついている所を見るとダメージを与えているようだ。
そして、ウイルスの感染は加速し、遂には鉄骨を持ち上げる程の怪力になっていた。
勿論、スーツは壊れている。
だが、気にも留めずその大きな鉄骨で後ろ脚を重点的に叩く。
左後ろ脚は折れたようだが、残りの足がまだ生き残っていた。

「(視界が…)」

右目は自分の血で塞がったせいで、琥珀色の景色しか見えない左目で戦っていた。
最初は醜い景色だったが、美しく感じてきた。

「ふんッ!!」

鉄骨で地面を叩き飛び上がったコンクリートの瓦礫を鉄骨で飛ばし、クイーンに命中させる。
クイーンの後ろ脚は両方とも使い物にならなくなっていた。
グニャグニャに変形し、攻撃するたびに悲鳴を上げた。
前脚だけで、這いずる様に動く。
クイーンがダメージを負うごとに、俺の体もおかしくなっていく。

「ヴゥ゛ゥ゛…、あトもう少シ…」

言葉が思う様に喋れなかった。
ふと空を見ると、黄色っぽい空に戦闘機が飛んでいた。
落下してきたのは、《黒くて楕円形》の物。
クイーンの丁度真上だった。
俺は鉄骨を持ち直し、クイーンの背中に乗った。

「動クんジゃねェぞ!!!」

間髪入れずに太い鉄骨を背中に刺し、地面のコンクリートさえ貫いた。
ピクピクと痙攣し血を流していたが、奴はまだ生きていた。
俺は用心し、奴が動かなくなっても鉄骨を支えた。
そして、黒い楕円形の物がクイーンに当たり、途轍もなく明るい光を発した。
音が大きく、体が震えた。
体の節々が軋み、何も見えなくなった。





ふと目が覚めると体にはヒビ割れがあり、パリパリ、と剥げていく。
周りには、雪らしきフワフワとしたモノが体の上や建物に積もっていた。
確か現在位置はハワイ。
南国の島で、とても暑いのに。





現人口は70億人以上、その内6割以上が未知のウイルスに殺された。
しかし、現在のテクノロジーを考えるとたった六割で抑え切れた、と思う方が妥当だ。
前からそのウイルスを観測出来ていたこともあるが、《V.D.T》の迅速な対応もあるだろう。
そして、人類が元通りになるのには30年以上、水素爆弾が落とされたハワイが復興するのは60年以上も後の事で、島一つが爆発により消えた。

後に、《第一次VOLDVIRUS滅菌戦争》となずけられる事になった。





…そして人は、過ちを繰り返す。


← 前の回  ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 1498