――さすがに体がだるいわ―― 麗華は準備投球をしながら、軽く体を捻ってみる。 予選の日程で準々決勝からは中一日、間があいたが、ここへきて一回戦の後の、あの無謀ともいえる投げ込みと、一試合毎に蓄積された疲労が、まるで機械が錆びついていくように麗華の体にまとわりついているのだった。 「マッサージしてやろうか?」 昨日大鉄がそう言ってきたが、麗華は断わった。 いくら仁の体とはいえ大鉄に全身を触られるのが恥ずかしかったのだ。 だがそれで、せっかく大鉄と二人きりでゆっくり話せそうな機会まで失ってしまったことが、麗華には残念だった。 大鉄とは二度、試合後に一緒に食事をしたが、それは二度とも満腹亭のカウンターに並んで慌しくラーメンをすすっただけで、話題は野球のことばかりだった。 一度くらいはゆっくりコーヒーでも飲みながら、野球以外の話もしてみたかったが、それは到底かないそうになかった。 今度フィリップが現われた時は、ほぼ間違いなく仁を連れてくるだろう。 昨夜は結局こなかった。 それでは今日くるのだろうか。 この試合中にくるのだろうか。 いや、もしかしたら今、この瞬間にくるかも知れない。 止むを得ない事情とはいえ、ひどい話だと麗華は思う。 自分の気持ちなど全く無視されているのだ。 ――もう、大鉄には全部本当のことを言っちゃおうかな―― 昨日からふとそんな衝動に駆られることが何度もあったが、それは大鉄にとって迷惑以外のなにものでもないのだ。 今日と明日の試合で甲子園に出られるかどうかという時に、エースの仁がまたわけのわからないことを言い出せば、彼の余計な心配事が増えるだけだった。 「今までいろいろとごめんね」 なにも知らずにマウンドに駆け寄ってきた大鉄に麗華はとにかくそう言ってみた。 考えてみればはじめて仁として会ったあの時、つい口から出てしまったあの言葉が、この素敵な野球バカをどれだけ傷つけたことだろうか。 大鉄は「えっ」と一瞬戸惑った直後、一度ひどく悲しげな目になったが、すぐに、 「今は試合に集中しろ」 と、言い放った。 その目と言葉のあまりのアンバランスに、麗華は胸を絞めつけられ、そして失笑してしまいそうにさえなるのだった。 この大根役者は、あふれるほどのいたわりと優しさと自己否定を、その目で饒舌に語っているくせに、口ではまるで真逆のセリフを言葉少なに語って、この期に及んでなお悪役を演じているのだ。 男というのは変な生き物だと、麗華はつくづく思う。 麗華は噴き出しそうに笑いを堪えながら「うん」とだけ返事を返すのだった。 大鉄はそっけないくらいにぶっきらぼうに麗華に背中を向けて、ホームへもどろうとした。 ――野球選手って、かっこいい……―― 麗華はなんだか堪らない気分になって、気づいた時にはその背中を膝で蹴っているのだった。 「痛ってえな、なにすんだよ」 大鉄はどこか嬉しそうに麗華をにらみつけた。 彼も苦しんでいたのだ。 いつもマウンドにくる時には笑顔を絶やさないが、マスクの下ではどんな顔をしているのだろう。 ――こん畜生、絶対甲子園行けよ―― 大鉄の背番号2がにじんで見え、麗華は小さく咳き込んだ。 自分がこの世で、最も好きになった男。 手をつなぐことすらできない男。 この万人に誇れるヘタクソな千両役者の、子供じみた大きな夢が今は自分の右肩にかかっているのだ。 ――負けるもんか……絶対―― 麗華は渾身の力を込めて、第一球を投げた。
試合は大かたの予想通り、投手戦となった。 鳥羽は大胆にもクリーンナップ以外にはセカンドとショートを大幅に前進させるという露骨なバントシフトをとらせ、ヒッティングにきた相手には例の「落ちるカーブ」(ナイアガラエアーズロック)を多投し。一方麗華は一巡目の打者のほとんどを三振に仕留め。 お互い一歩も譲らず、それぞれ打者一巡目をノーヒットに抑えたのである。 だが、この三振ショーが麗華にとっては返って仇となった。 無意識のうちに力んで全力で投げ続けた疲れが五回の裏になってじわじわと効いてきたのである。 五回裏先頭打者、二巡目の四番鳥羽。 麗華としてはこれまでと同じように投げているつもりの球が、二球とも高めに浮いてしまったのだ。 カウントはツーボール・ノーストライク。 溜まった疲労と、意識のしすぎによる力みがボールを浮かせたのだった。 ボールを握る手が無意識に深くなりすぎていることを危惧した大鉄がスライダーを要求したが、鳥羽はこれをねらっていた。 長いリーチで振りぬかれた打球はセカンドの頭上を高々と超え、右中間の真ん中を深々と破りフェンス際まで飛んだ。 スタンディングダブル。 それはスライディングすることなく、余裕でセカンドベースを踏む二塁打だった。 つまりフェンス際まで転がって行った打球からすれば、三塁を窺ってもよさそうな当たりを、あえて二塁打に止めておくところに次の打者に対する絶対的な信頼が表れていた。 すでに三日月山の応援スタンドはさざ波のように湧き立っている。 「出てくるぞ、あいつが……」 そんな声がグラウンドまで降ってきた。 三日月山のベンチが動く。 監督は最早五番打者への代打に、なんのためらいもないようだった。 場内アナウンスが玉川の代打を告げると、三日月山の応援スタンドでは嵐のような太鼓の連打が吹き荒れた。 とうとう最も恐れていた事態を迎えてしまった。 「咆(ほ)えろ!アザラシ」 そう書かれた横断幕が待ちかねたように広げられた。 ――勝てる、これで勝てる―― 鳥羽は唇の端を歪めて笑った。 ――今年は違う、去年までのうちとはまるで違うんだよ―― とうとう現われてくれたのだ、喉から手が出るほど欲しかった、待望のポイントゲッターが。 まさか、こんな身近にいやがったとは。 監督が見損なっていたのもむりはねえ。 毎日一緒に練習してた俺でさえ気づかなかったんだからな。 ――みんな俺が強引にベンチ入りを薦めたと思ってやがるんだろうが、監督(やつ)がそんなに甘いわけねえだろ―― 鳥羽は単刀直入に玉川の手を見せて頼み込んでみたのだった。 だめで元々と思っていたが、意外にも監督は「わかった」とだけ言ってうなずいたのである。 知っていたのだ。玉川が一人、練習していることを。 だが、それだけでベンチ入りさせるまではできなかったのだ。 ――俺だって、まさかタマの野郎がほんとに打つとは思ってなかったもんな……―― グラウンドに雨のような拍手が降ってきた。 三日月山の応援席は、総立ちである。 玉川がベンチから出てきたのだ。 のそのそと這い出るように。 小柄でなで肩でぶよぶよの体。 およそユニフォームの似合わない不恰好なこの男こそ、三日月山高校にとって、今大会彗星のように現われた新しいスターだった。 その太い首に、すでに汗が光っているのを大鉄はじっと観察していた。 ――やはり裏でずっと素振りをしていたのか―― 試合開始直後から大鉄は三日月山ベンチに玉川の姿を探していたのだが、今まで一度も見つけられなかったのだ。 野球部員の中にあっては目立つ体型である。 三年間、三日月山にこの男がいることは知っていたが、打席に立つのを見たことは一度もなかった。 ところが、最後の、この大会になって突然現われ三打数三安打。 三日月山の数少ないチャンスに代打で出てきて必ずヒットを打ってきた。 ――チャンスに強い、ということか―― だが三打席だけではなんとも言えなかった。 トーナメントブロックの都合で、三日月山の試合は一度もテレビ中継されていなかったため、大鉄はこの玉川が打つところを一度も見たことがなかったのである。 ――油断してた、まさかこれほど警戒するような打者だったとは―― だが、次の瞬間、大鉄は愕然とした。 ネクストバッターズサークルに転がっていたマスコットバットに足をとられ、玉川がひっくり返ったのである。 スタンドがどっと笑いに包まれた。 ――もしかして、地に足が着いてないのか……?―― それはコントのような派手な大転倒だった。 足を乗せたマスコットバットが転がり、玉川は背中から地面に落下したのだった。 「す、すいません、すいません……」 玉川のような男の習性ともいうべきか、彼には反射的に周囲に謝る癖がついていた。 実際にはなにが起きたのか、自分でも分かっていない。 もしかしたら、転んだことさえ分かっていないかも知れないほど、この男はアガっていた。 ――か、監督、無理ですよ、代打の代打を……―― 「さっさと行ってこい」 泣きっ面でなん度も振り返る玉川に業を煮やし、監督の北条が思わず怒鳴りつけた。 「すいません、すいません」 ――ひどいよ、みんな無理なの分かってて……―― 「君……早くバッターボックスに入りなさい」 審判にまで急かされ玉川は反射的に「すいません」と謝ったが、彼はもうその相手が誰かも解ってはいなかった。 誰かになにかを言われたので、とりあえず「すいません」と反応しただけなのだ。 ――バットが震えてるのか?―― 玉川が構えたバットが小刻みにヘルメットにぶつかって音を立てている。 しかもまだ一度もバットを振っていないにも関わらず、すでに緊張のためか息遣いまで荒くなっていた。 ――決して油断するわけじゃないが、恐らく普通の代打に対するようなやり方でいいだろう―― つまり、打者に考えるすきを与えないくらいの早いテンポで、三球続けてストライクを投げる、最も単純だが効果的な攻略法である。 代打の打者というのは、ピッチャーの投げる球に目が慣れているはずもなく、試合のリズムにも乗れていないものだ。 つまり、落ち着いてしまう前に「気がついたらストライクを三つ取られていた」という形に持って行ってしまえばよいのである。 第一球。 大鉄はストレートを要求した。 ――ナイスボールだ―― だが、鋭い金属音が聞こえ、ボールは大鉄のミットには入らなかった。 慌ててマスクを飛ばして目で追ったが、すでにバックネットに当っていた。 ――当てた……真っ青な顔で震えてたくせに、仁の速球に、一球目から……いや、そんなことより……―― 見ると当の玉川は勢い余って尻餅をついている。 相変わらず怯えたような顔で、肩で息をしてむせていた。 大鉄はタイムをとってマウンドに駆けた。 「あいつ、スイングだけはすげえぞ」 「聞こえたぜ、サードまでブーンって音が」 八郎も興奮しながら話に入ってきた。 「ありゃ高校生の振りじゃねえよ、いったいどんな練習したらあんな音が出るんだよ」 「三試合連続ヒーローってのは、まぐれじゃないってことか」 「どうしよう……?」 「あのスイングだとお前の速球でもまぐれ当たりってことも充分考えられるだろう、当れば飛びそうだしな……代打で目が慣れてないから変化球だったらついてこれないだろう、低めのきわどいところを攻めよう。狙い球を絞らせないようにテンポよくこいよ」 「わかったわ……」 ――代打で目が慣れてないから変化球を低めに集めろ……大方そんなところだろうな―― セカンドベースの上で鳥羽はせせら嗤った。 ――よかったじゃねえかタマ、あいつらも今までのやつらと同じようにお前の見た目に騙されてくれて。警戒されて敬遠なんかされちゃあ泣くに泣けねえもんな―― 先ず内角低めいっぱいにスライダー。 外れてボールになってもよし、手を出してくれれば儲けもの。 どの道あの出っ張った腹が邪魔でイン・ローは見えねえだろうし、バットを振ろうにも腰が回らねえだろう。 ――俺にはバレバレで笑っちまうくらいだが……でもな……―― 金属製の打楽器を鳴らしたような美しい快音が糸を引き、打球は低い弾道のアーチを描いて、ライト線へ飛んだ。 観客は一瞬期待と不安を込めて沈黙するが、それはすぐにため息に変わった。 わずかに切れたのだ。 だがそれはフェンスにダイレクトで当るほどの大飛球だった。 ――やつに小細工は通用しねえのさ―― 横の変化に、ああまで完璧に対応されて、大江戸もさぞ頭が痛いことだろうな。 ストレートにバットが当った時は、半分はまぐれだと思っていただろうが、これでまぐれじゃないことを思い知らされたわけだ。 こうなるともう、残りは縦の変化しかねえ。 今度は外角低めにボールになるフォークで、縦の変化に対する反応を見る。 ――だが……―― 「うおおおおん……」 アザラシが咆えた。 咆えたというより悲鳴をあげたように麗華には聞こえた。 追いつめられた獣が少しでも早くその苦痛を逃れたくて呻いた悲痛な慟哭のようだった。 ゴギン! ボールの芯を外したバットは痛々しいほど鈍い音を球場に響かせた。 ――打ち取った……―― 麗華は「センター」と声をかけ、腰が砕けて尻餅をつく玉川を目の端に見ながら、サードのカバーに走った。 ――タッチアップがくる―― だが、ボールは落ちてこない。 青い空にふわふわと舞い上がったまま、まるで白い小鳥のように、むしろ加速していくようにさえ見える。 ――まさか……まさか―― 観客が一瞬静まり返る。 皆固唾を呑んで、ボールの行方を注視している。 やっとボールが落ちてきた。 だがその下のセンター花川口は構えていない。 背番号8をこちらに向けて、呆然とボールを見送っていた。 ――そ、そんな……―― ボールはバックスクリーンの手前で大きく跳ね上がった。 三日月山の応援席からは歓喜の雄叫びがあがった。 沢高の応援席からさえ感動のため息がもれた。 この最高に不様なホームランは敵味方を超えて、見ている者に感動を与えるほどにドラマチックだったのである。 ――当った?……バットに当ったのか―― 玉川は打球がフェンスを越えたころ、やっと我に返っていた。 ――走らなきゃ―― 慌ててゴム鞠のように跳ね起きると、太った体を本物のアザラシのようにだぶだぶとくねらせながら、一塁まで全力疾走した。 まだ足の震えが止まらない、つんのめって体が一回転するほど派手に転んだ。 ――まずい、アウトになる―― 文字通り這うように一塁ベースにたどり着いても、まだボールはきていなかった。 ――あれ?もしかして、またファールだったのかな?―― 「さっさと走れよデブ、ホームランだよ」 ベースを踏んできょろきょろしている玉川に鳥羽が堪りかねて怒鳴りつけた。 「え?ホームラン……この俺が?」 「いいから走れ、もたもたすんじゃねえ」 「あわわ……俺が、ホームランだなんて、ウソだ」 だがその時になってはじめて球場を見回すと、自軍の応援席から降り注ぐ大歓声と、痛烈で温かい祝福の罵声に包まれている自分に気がつき、玉川は恐縮のあまり再び地に足が着かなくなってしまうのだった。 ――こんなやつが世の中にいるとは―― 三日月山の監督、北条時政はさすがに呆れてベンチで苦笑いし、首を振っていた。 天才だった。 それも天性のバットコントロールとパワーを具(そな)えたスラッガーだった。 好打者と呼ばれる選手は大きく二種類に分かれる。 一つには、素振りできっちりスイングの軌道を作り込んで、「形」で打つタイプ。 そしてもう一つは、スイングの形を持たず、投手の投げた球に臨機応変にバットの軌道を変化させて対応してしまう、「無形」のタイプだ。 玉川は典型的なこの後者のタイプだったわけだが、彼にとって不幸だったのは、自分にはそんな器用さなどないと頭から思い込んでいるところだったのだ。 彼の見た目の悪さも災いしていた。 今まで彼と接した人間の誰もが、彼の体型や動作の野暮ったさに騙され、彼の才能に気づこうともしなかったのだ。 だが、だからと言ってそれらの人たちを責めることはできないだろう。 彼の父親からして、最初に左打ちを教え込んだ際に、彼の才能に気づくことなく、徹底して「形」から教えてしまったのである。 そして玉川も、頑ななまでにそれを守りすぎた結果、いざ投手の投げたボールを打つにあたって、その型にはまりすぎたスイングが仇となり続けてきたのだった。 ところが。 神は彼を見放してはいなかった。 彼の極度なアガリ性の性格が、試合の時だけ彼のスイングの「形」を忘れさせるのである。 舞台が大きくなり、顔面が蒼白になり、頭の中が真っ白になった時だけ、彼はその呪縛から解放されるのである。 追いつめられてはじめて天性の才能を垣間見せるバッター。 練習では、その一割も実力を発揮できず、大試合でしか能力の出せない、開き直れない性格。 天才というより異能打者と言うべきだろう。 もっとも監督の北条からしても、まだそこまで気づいているわけではない。 玉川のベンチ入りを決めたのは、確かに鳥羽に対する気遣いもないではなかった。 また、玉川が一人残って血のにじむような練習をしていたのも知っていた。 だが、それだけで誰が見ても実力のない者をベンチに入れたのでは、ОBや父兄に説明がつかない。 野球部などという得体の知れない組織の力学に、彼は臆していたのである。 ――他の部員を発奮させるため、なんて言えば聞こえはいいが―― 三日月山の貧打線に業を煮やしていたのは、鳥羽だけではなかった。 この北条とて、この「点の取れない打線」に忸怩たる思いでこの夏を迎えていたのである。 不動のレギュラーという座にあぐらをかいて、通り一遍の練習しかしようとしない他の部員たちに一泡吹かせてやりたい。 自分たちが打てないことを他人事のように棚に上げて、まるで鳥羽一人が頑張っているのが悪いかのように、陰でぶつぶつ言っている連中に思い知らせてやりたい。 鳥羽に玉川の手を見せられて、その思いが一気に弾けた。 中学・高校・大学と野球部に席をおいたが、あれほどカチカチに硬くなった手のひらは見たことがなかった。 一体どれくらいバットを振ったら、あんな手になるのか。 ――いいぞ玉川、この試合は残りの打席も全部打たせてやる、お前がどこまでやるのか見せてみろ―― 結果、ばくちというより自爆、玉砕と言ってもいい大抜擢が的中したのだった。 「お前、なに泣いてんだよ、試合中に?」 大鉄は二点先行されたことも忘れて、つい呆れて笑ってしまった。 「だって、悔しいんだもん、あんたに甲子園行ってもらいたかったのに……」 「まだ二点とられただけだよ、ヒットだってまだ二本打たれただけだ」 「ホームラン打たれるのが、こんなに悔しいなんて」 「フォークはちゃんと落ちてたよ、あんなワンバウンド寸前のクソボールをあそこまで飛ばされちゃ、プロだってお手上げだよ」 「信じられないわ、バットが軌道を変えて、ボールを追いかけてきたみたいだった」 「まるでイチローだな、あんなやつがまだいたなんて」 大鉄はボールの吸い込まれたバックスクリーンをまじまじと振り返った。 「とにかくこれでランナーがいなくなったんだし、思い切りバッターに集中していこうぜ」 ――これ以上打たれるもんですか。悔しい、キーッ!―― 三日月山の応援はがぜん勢いづいて、足を踏み鳴らし、太鼓もブラスバンドも押せ押せの鳴り物をならしている。 だが麗華の立ち直りは見事だった。 返って不屈の闘志に火がついたかのように疲れも忘れ、その後の打者を三者三振に仕留めたのだった。
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