耕太郎が操作すると、ゴルフ・クラブを振りかざした水色のポリゴンモデルが、頭上から振り下ろした。そしてピンク色のポリゴンモデルに命中した。 「問題は、ゴルフ・クラブの場合、部屋の天井の高さを考えると、縦の方向で、遠心力を利用しようとすると、天井に引っかかるのよ。今度は、天井の高さを考慮したゴルフ・クラブを使ったシミュレーション画像を送るから」 鑑識の渡辺さんは言った。 耕太郎は送られてきた画像を再生した。 今度のデータには天井が入っている。藤田彩が殺された自室の家具なども再現されている。 ポリゴンで被害者と表示されている藤田彩のシミュレーション画像であるピンク色のポリゴンモデルを、背後からゴルフクラブで殴りつけようとした。だが、天井で引っかかって殴りつけることは出来なかった。 「横に振りかぶって、殴りつけた可能性はないのですか」 耕太郎は言った。 「よく見て頂戴。この脳挫傷の傷の深さの角度は、垂直から振り下ろした角度になっている。つまり、横殴りにフル・スイングした傷では絶対に有り得ない事になる」 鑑識の渡辺さんは言った。 耕太郎は検死の画像を確認した。 「だから、縦の垂直方向から力の強い人間がハンマー状の凶器で殴りつけた事になるのですか」 耕太郎は確認しながら言った。 「だけど、縦方向の場合、力学のエネルギーのベクトルを脳挫傷の深さと一致させるには。ハンマーの頭を重くする必要があるけれど。脳挫傷の傷口の幅からは、何キロもあるような巨大な先端を持ったハンマーで無い事は明らかでしょう」 鑑識の渡辺さんは言った。 「打ち出の小槌のような巨大なハンマーでは無いのですか」 耕太郎は言った。 「違うようね。この打ち出の小槌から出てきたモノは人の死だけれど」 鑑識の渡辺さんは言った。 「だが、ハンマーは現場には無かったはずです。それとも藤田彩のワンルーム・マンションの部屋の中から発見されましたか」 耕太郎は言った。 「それが、見つからなかったのよ」 鑑識の渡辺さんは言った。 「藤田彩を殺した犯人は、ハンマーを持って入ってきて、犯行を行い、ハンマーを持って出ていった」 耕太郎は言った。 「藤田彩が家の中に持って居たハンマーでなければ、そうなるけれど」 鑑識の渡辺さんは言った。 「女性が、そんな大振りのハンマーを持って居るとは考えにくいですね。藤田彩が日曜大工を趣味にしていた形跡は無いですよね」 耕太郎は言った。 「確かに現場からは、そういった物は見つからなかった。実際、藤田彩の部屋からは大工道具や、工具らしい物は発見されなかった」 鑑識の渡辺さんは言った。 「藤田彩以外の、DNAは出ていますか?」 耕太郎は言った。 「第一発見者、皆瀬靜美の毛髪が洗面台から見つかっている。他の人間のDNAは出てきていない」 鑑識の渡辺さんは言った。 耕太郎は思い出した。「国家建設強硬派」と藤田彩の繋がりを。 「狩川渉の毛髪は見つかりましたか?」 耕太郎は言った。 「見つかっては居ない」 鑑識の渡辺さんは言った。 「どうやら、皆瀬靜美以外の人間が立ち寄った形跡は無い。家族の遺伝子も見つかってないのですか」 耕太郎は不思議に思って聞いた。 「そうね。皆瀬靜美以外は見つからなかった」 鑑識の渡辺さんは言った。 耕太郎は携帯端末の電話を切ると溜息を付いた。 「逆に謎が増えただけだ。ハンマーを持った、力の強い人間が、藤田彩を殺した。なぜ、こんな事件が起きたんだ」 耕太郎は、藤田彩の殺人事件が、時間が経つにつれて混迷を深めていく結果。苛立ってきた。 「藤田彩の家族構成を調べては、どうですか」 レイナは言った。 「家族か。判った、調べてみる」 耕太郎は、藤田彩のアソシエーションのデータセンターに登録されている戸籍を調べた。 「父親に母親。弟が一人か。ウチの家と同じ家族構成だ。だが、弟の年齢が大分離れているな。まだ小学生だ」 耕太郎は結果を見て言った。 そして妙な事に気がついた。 「レイナ。アソシエーションのデータ・センターのGPS移動履歴上では、一度も家族が藤田彩のマンションに来たことが無い」 耕太郎は言った。 「藤田彩と家族の間の関係は疎遠なようですね」 レイナは言った。 「それで、東京の中に家族が住んではいるが、ワンルーム・マンションを借りて一人暮らしをしているのか。狩川渉は、両親と兄と一緒に暮らしている。国家主義者でも家族の問題は異なるわけだ」 耕太郎は考えながら言った。 少しは進展が在ったのか。まだ判断は出来なかった。
第1章 コージャ国支持者
人質解放交渉に失敗した紗緒里はサラシナに報告した。コージャ国代表の可児川を怒らせて失敗した事も正直に報告した。 「結局、ヤツラは人質を取って、居座ったままだ」 サラシナは言った。 「どうやってコージャ国を解体させれば良いのでしょうか。私達、ビューロクラシー社すぐやる課の仕事は、コージャ国解体ですが。説得には応じないし。人質は取っているし。立て籠もっているし。どうすれば良いのか皆目見当が付かないのです」 紗緒里は言った。 「確かに、食料や燃料の様な物資が尽きるまで待つのも一つの手だ。今やっている兵糧攻めが、それだ。だが、ヤツラも考えてはいる。日本挺身電撃隊のような物資を運び込んでくる仲間達が居る」 サラシナは言った。 「どうしましょうか」 紗緒里は言った。 「時間が掛かるが待て」 サラシナは言った。 「判りました」 紗緒里は牛島来美と顔を見合わせて言った。 しばらく、機動隊の放水車の放水が続いて時間が経っていった。紗緒里と牛島来美は時折、メガホンで説得していた。 お昼になった。 紗緒里は朝起きて自分で作った?冷凍食品をレンジで温めただけの弁当を食べていた。 牛島来美は、コンビニ弁当を食べていた。 サラシナは、警察の機動隊に配られた弁当を食べていた。 そして昼食も終わって午後に入った。 「エリア・コージャの警察です」 制服を着た男性の警察官がやって来た。 「どうした」 サラシナは言った。 「エリア・コージャ内で、コージャ国に賛同する人間達が、集会を各地で開いています」 エリア・コージャの警察官は言った。 「集会?」 サラシナは言った。 「エリア・コージャ内で、住民が集まってコージャ国を支持しているのです」 エリア・コージャの警察官は言った。 「そうか」 サラシナは、腕を組んで、しばらく考え込んでいた。 そして紗緒里と牛島来美の方を向いて顔を上げた。 「お前達、エリア・コージャの中の様子を見てこい」 サラシナは、紗緒里と牛島来美を見て言った。 「判りました」 紗緒里は言った。 紗緒里は、人質解放交渉に失敗した事に責任を感じていた。そのため受諾した。 「ええっ?」 牛島来美は露骨に嫌そうな声を出した。 紗緒里は、エコプリに牛島来美と乗って、エリア・コージャの中を走ることになった。 「何ですか、あのサラシナという対テロ課の刑事は、時間が経つにつれてドンドンと、横柄になっていって。私達、ビューロクラシー社の人間達を顎で使っていますよ」 牛島来美は言った。 「しょうが無いでしょ。サラシナさんはコージャ国解体の責任者だから」 紗緒里は言った。 「確かに対テロ課が、あの現場を仕切っていることは知っていますが。私達は、ビューロクラシー社ですよ、ビューロクラシー社。警察とは全然違いますよ」 牛島来美は言った。 「でも、あの現場の指揮系統は対テロ課のサラシナさんに統一されているでしょ」 紗緒里は言った。 「不満です。とてつもなく、不満です」 牛島来美は言った。 「なんか変だけれど」 紗緒里は言った。 「何が変なのですか?」 牛島来美は言った。 「エリア・コージャの中に日の丸が沢山在るのだけれど」 紗緒里はエコプリを運転しながら言った。 「確かに怪しい光景ですね」 牛島来美は言った。 エコプリが走る、コージャ国の町の中は、住宅地も含めて、そこら中に日の丸の民族旗が飾られていた。 「どうやら、サラシナさんが、私達を偵察に出した事は正解のようだけれど」 紗緒里は、 「日の丸が、何故、こんなに沢山在るのですか」 牛島来美は言った。 「今日は、記念行事の日でもないし、きっと、この、日の丸の民族旗は、エリア・コージャの住民達がコージャ国を支持してる事の意思表示」 紗緒里は言った。 「確証はあるのですか?」 牛島来美は、げんなりした声で言った。 「確証は無いけれど、多分間違い無いと思う」 紗緒里は言った。 「私も、多分間違い無いと思いますよ。ネオウヨ達は、日の丸という民族旗に異常な愛着を感じているのですから。エリア・コージャの人間達は、コージャ国を支持しているようです」 牛島来美は更に、げんなりした声で言った。 「どうやら、コージャ国は、ビューロクラシー社のコージャ支店に立て籠もっている人間達だけでなく、エリア・コージャ中にも居るようだけれど」 紗緒里は言った。 「どうします。街の中に、これだけ日の丸があるなんて」 牛島来美は辺りを見回しながら言った。 「間違い無く、エリア・コージャは、コージャ国の支配下に在るようね」 紗緒里は言った。 「支配下では無くて、きっと支持をしているのですよ」 牛島来美は言った。 紗緒里が、エコプリを走らせると、コージャ第三小学校とトラフィック・セイフティ・システムのカーナビに表示された場所に出た。 学校の校庭には、老若男女問わず、沢山の人間達が集まっていた。 皆、額に日の丸の鉢巻きを締めていた。 紗緒里は、エコプリのスピードを落として微速前進させた。 「牛島さん。窓、開けて」 紗緒里は言った。 「いいですよ」 牛島来美は、エコプリのパワーウインドウの窓を開けた。 外で、流れている、音楽が聞こえてきた。 スメタナの「我が祖国」だった。紗緒里はフェンス越しにエコプリを駐めた。 そしてコージャ第三小学校のスピーカーからは……。 コージャ! コージャ! コージャ国! エイエイオー! コージャ! コージャ! コージャ国! エイエイオー! 我々は、アソシエーションから独立する! おおっ!いいじゃん! 我々は、国家を建設する! おおっ!いいじゃん! 我々は、日本民族である! おおっ!いいじゃん! 我々は、日本民族の国家を作る! おおっ!いいじゃん! ……。 その掛け声に合わせて、コージャ第三小学校に集まった老若男女達は,頭に日の丸の鉢巻きを着けて右腕を振り上げながら手拍子を打って唱和していた。 なぜか和太鼓の音も聞こえていた。 「コレは、完全に時代錯誤ですよ。本物のネオウヨです」 牛島来美は言った。 「サラシナさんに知らせないと」 紗緒里は慌てて言った。 エコプリは急発進して、日の丸の旗が、そこら中に飾られた、エリア・コージャの中を走り、ビューロクラシー社のコージャ支店前に戻った。 「どうだった」 サラシナは言った。 「エリア・コージャの街の中は日の丸だらけでした」 紗緒里は言った。 「対テロ課の掴んでいる情報と同じだ」 サラシナは頷いて言った。 「でも日本民族の国家を作ると言って、みんなで音頭を取っていました。これもネオウヨなのでしょうか?」 紗緒里は言った。 「本当か?」 サラシナは言った。 「ええ、そうです」 紗緒里は頷いて言った。 牛島来美も頷いた。 「間違い無い。コージャ国は、ネオウヨ系の国家建設を進めている。エリア・コージャがコージャ国の国境を作り始めている」 サラシナは言った。 「コージャ国とは、ビューロクラシー社のコージャ支店に立て籠もっている人達だけではなかったのですね」 紗緒里は確認するように言った。 「そうだ」 サラシナは頷いた。 「国境を作るとは、どういう事でしょうか」 紗緒里は聞いた。 「エリア・コージャの中だけで、コージャ国が出来るわけでは無い。昔の国家という物は,国境線を作って、戦争という今では無くなった武力衝突の結果、国家の勢力範囲を増やしたり減らしたりしていた」 サラシナは言った。 「つまり、コージャ国がドンドンと広がっていくのですか。エリア・日本全域に向かって?」 紗緒里は言った。 「そうなる」 サラシナは断言するように言った。 紗緒里は、牛島来美と顔を見合わせた。
第2章 国家建設会議会長
耕太郎は、データ処理室の大画面のコンピュータを使って、捜査資料となるデータを纏めていた。 藤田彩と石村教授の死について、関連性が取れなかった。 証言は、国家主義者の藤村准教授、石村教授の妻、第一発見者、皆瀬靜美から取っている。 そして証拠は、レッド・コード規格のデータ交換端末の通信内容。 石村教授の死は狩川渉の犯行で間違い無い。だが、狩川渉は、自白をしようとはしない。だから、証拠を突きつけて、自白させる必要がある。 だが二つの事件を繋ぐ、理由が見えてこない。聞き込みを続ける必要が在った。証言を集めていく。 そして科捜班が調べる証拠と突き合わせて、犯罪を立証しなければならなかった。 だが、無制限の人海戦術は取れなかった。この二つの事件は、世間が注目するような事件や、マスコミが注目するような事件では無い。対テロ課の情報統制がマスコミに対して掛けられている特殊な事件となる。だから人海戦術は取れなくなる。 この二つの事件。正式には耕太郎は、藤田彩の殺人事件を追っているわけだが。エリア・筑波の警察が石村教授の殺人事件の担当になる。 だから、耕太郎も、時間を考えて、証言を取る人間達を絞り込んでいく必要があった。 耕太郎は、次に証言を取る人間達の優先順位を絞り込んでいった。 政治商科研究大学の国家主義者の他の教授達から証言を得るか、それとも、「国家建設会議」の人間達から、証言を得るか。 耕太郎は、結局、皆瀬靜美の証言を補強していく事を選んだ。国家建設会議の人間関係が、狩川渉が殺した石村教授の殺人事件も含めて、まだ理解が出来ていなかったからだ。 過激な国家主義の学生運動に藤田彩は「国家建設強硬派」として関わっている。その内情は対テロ課ではない耕太郎には皆目見当が付かなかった。 耕太郎はツワブキに携帯端末で電話を掛けた。 「政治商科研究大学の中には、他に対テロ課と関係の在る人間は居るのですか」 耕太郎は言った。 「居る」 ツワブキは言った。 「良ければ教えてくれませんか、これから、「国家建設会議」の会長、竹崎悦子に聞き込みに行くんです」 耕太郎は言った。 「その竹崎悦子が対テロ課と関係がある」 ツワブキは言った。 「意味が取れませんが」 耕太郎は混乱して言った。 「簡単な話だ。政治商科研究大学の「国家建設会議」の中に警察はスパイを送り込んでいる。他の大学の国家主義のサークルも同じだ。そのスパイが、学年が上がり、人望を得て「国家建設会議」の会長になった。それが竹崎悦子だ」 ツワブキは言った。 「藤田彩の様に、対テロ課を騙している可能性は在るのですか」 耕太郎は言った。 「騙していると言うより、竹崎悦子は、藤田彩の話では、対テロ課の事を国家建設の必要悪と呼んでいるらしい」 ツワブキは言った。 「良く判らない表現ですが」 耕太郎は更に混乱して言った。 「竹崎悦子は最初から口が軽い。藤田彩からの情報では、対テロ課との関係を喋っているらしい」 ツワブキは言った。 「なぜ、それで、「国家建設会議」の会長なのですか」 耕太郎は言った。 「対テロ課との関係を公言していても人望が在るらしい」 ツワブキは言った。 「そうなのですか」 耕太郎は釈然としない物を感じながら言った。 「問題は、竹崎悦子は、対テロ課から金銭を受け取ったことが一度も無い」 ツワブキは言った。 「対テロ課のスパイではないのですか」 耕太郎は言った。 「良く判らない人間だ。学問的な善に従って居ると本人は言っている。その結果が、国家主義者と警察のスパイの両方が成り立つと言う事だ」 ツワブキは言った。 「なぜ、警察の報奨金を欲しがらないのですか」 耕太郎は怪訝に思って聞いた。 「金銭的な理由は判っている。竹崎悦子の家は資産家だ。エリア・日本証券取引所一部と二部に上場している企業三社の筆頭株主を、実家が務めている。他にも実家の保有資産は多い。藤田彩の様に生活費として対テロ課の報奨金を使う必要は、どこにもない」 ツワブキは言った。 「それでは、どうやって、対テロ課は、竹崎悦子をコントロールしているのですか」 耕太郎は言った。 「対テロ課は竹崎悦子を操っている訳では無い。竹崎悦子は国家主義者でありながら、自発的に対テロ課に協力している」 ツワブキは言った。 耕太郎は、殺人事件の捜査の権限で、アソシエーションのデータ・センターの竹崎悦子のライフ・ログに、アクセスした。 現在、竹崎悦子は、政治商科研究大学に居る。 耕太郎はレイナとフライアーに乗って、政治商科研究大学に向かった 政治商科研究大学の地下には、式典用の大規模な講堂が在った。体育館とは違う。折りたたみ式の席が映画館の様にしつらえてある、作りだった。 講堂の中には、ステージの上にグランド・ピアノが一台置かれていた。 そして、スポットライトが、暗闇のステージの上を照らす中、人が一人ピアノを弾いていた。陽気で優美な旋律が流れる。 耕太郎は携帯端末で確認した。そのピアノを弾いている、若い女が、竹崎悦子だった。 耕太郎とレイナはステージに近づいて行って、階段を登り、ステージのスポットライトの中に出た。 「失礼、警察です」 耕太郎は警察証を見せた。 「何か、御用ですか?刑事さん」 竹崎悦子はピアノを弾きながら、笑顔で会釈をした。グランド・ピアノの電子譜面台の電源は入っていなかった。 「素敵な曲ですね。誰の曲ですか」 耕太郎は竹崎悦子のピアノの調べが美しく思い、そう聞いた。 「これは、ショパンのワルツ「華麗なる大円舞曲」です」 竹崎悦子はピアノを弾きながら言った。 「楽譜は見ないのですか」 耕太郎は言った。 「ええ。暗譜が出来る曲は見る必要は在りません」 竹崎悦子はピアノを弾きながら言った。 「失礼ですが、ピアノの演奏を止めていただけませんか。重要な話を伺いに来ました」 耕太郎は言った。 ピアノの演奏は止まった。 「殺害された藤田彩の事ですね」 竹崎悦子は、椅子から立ち上がった。 「殺害された、藤田彩さんが、入っていた、「国家建設会議」のメンバーに殺人の容疑が掛けられています。もし、よろしければ、「国家建設会議」の代表者として話を聞かせていただけませんか」 耕太郎は言った。 「ええ、いいですよ」 竹崎悦子は笑顔を浮かべて言った。 殺人事件の事情聴取で笑顔を浮かべる人間も多くは無い。耕太郎は気分が悪くなった。 「「国家建設会議」はアソシエーションの転覆を行う事が目的なのか」 耕太郎は語調を変えて言った。 「そうですよ」 竹崎悦子は言った。 「それは、重犯罪だ」 耕太郎は言った。 「なぜ重犯罪なのですか」 竹崎悦子は言った。 「アソシエーションの法律が重犯罪として定めている」 耕太郎は言った。 「法律を定めるアソシエーションとは、一体何ですか?」 竹崎悦子は言った。 「全ての企業が加盟する、企業の共同体だ」 耕太郎は言った。 「なぜ、企業が政治や,行政、司法を行うのですか」 竹崎悦子は言った。 「企業とは、そういう物だ。政治企業や,行政企業、司法企業が三権分立を行う」 耕太郎は言った。 「政治、行政、司法は、本来、国家が行う仕事なのですよ。国家が存在しないから、企業の集合体であるアソシエーションが肩代わりをするのです」 竹崎悦子は言った。 「いや、アソシエーション以前の時代は、古い国家という組織が在った時代だ。アソシエーションが無い方が、おかしい」 耕太郎は言った。 「そもそも、国家が無い状態が正常と言えるのですか」 竹崎悦子は言った。 「生まれたときから、国家は無かった」 耕太郎は言った。 「だが、あなたが生まれる以前には国家は在りました」 竹崎悦子は言った。 「国家が在った時代は古い時代だ。野蛮で暴力的な時代だ」 耕太郎は言った。 「ですが、国家の機能の代わりをアソシエーションが行って居る。国家は無いようで在るとも言えるのです」 竹崎悦子は言った。 「もう、アソシエーションの話は止めて本題に入りましょう」 耕太郎は竹崎悦子の話に 「面白い話とは思いませんか?私達の全ての常識という確固たる物が、実は極めて、あやふやな前提の上に成り立っているという事です」 竹崎悦子は笑顔を浮かべた。 「確かに興味深い話ですが。殺人事件で私は来ています」 耕太郎は言った。 「刑事さんは、良い話し相手ですよ。頭の回転の速い方です。もっとアソシエーションに関する議論を続けたいのですが」 竹崎悦子は顔を曇らせて言った。 「竹崎悦子さん。「国家建設強硬派」が政治商科研究大学の中に存在することを知っていますか」 耕太郎は強引に話しを変えた。 「ええ、知っています」 竹崎悦子は言った。 「路線対立が在ると聞きましたが」 耕太郎は言った。 「それは、在りますよ。人が二人集まれば、争いの種は出来ます。当然、「国家建設会議」の中でも、派閥や争いは在ります」 竹崎悦子は言った。 「あなたは、「国家建設会議」の会長として、国家主義の路線対立を、どう考えますか。あなたは「国家建設漸進派」のはずです」 耕太郎は言った。 「私の「国家建設漸進派」は世界統一国家の建設を、アソシエーションの法律を破らずに目指して行くのですよ」 竹崎悦子は言った。 「それでは、なぜ、政治商科研究大学の「国家建設会議」の中に,異質な「国家建設強硬派」を放置しておくのですか」 耕太郎は言った。 「必要だからです」 竹崎悦子は言った。 「あなたは「国家建設漸進派」だ。それなのに、なぜ「国家建設強硬派」を容認するのですか」 耕太郎は言った。 「なんと言うのですかね。歴史的には、革命が起きるときには、意見の対立する集団が、お互いに正しいと思う理論を述べて革命を行うのです。フランス革命のジロンド派とジャコバン派。ロシア革命のボリシェヴィキとメンシェヴィキ。だから、「国家建設会議」の中で、「国家建設漸進派」と「国家建設強硬派」が対立することは極めて自然な現象なのです」 竹崎悦子は言った。 「藤田彩が、なぜ殺されたのか判りますか」 耕太郎は聞いた。 「確かに見当は付きませんね」 竹崎悦子は言った。 「人間関係から藤田彩に対する怨恨は在りましたか」 耕太郎は言った。 「私はサークルの会長ですが、全ての人間関係は把握できません」 竹崎悦子は言った。 「それはなぜですか」 耕太郎は聞いた。 「政治商科研究大学の「国家建設会議」は、学生のサークルとしては大所帯ですよ、あまり顔を出さない会員も含めれば、合計で、七十三人も居ます」 竹崎悦子は言った。 「藤田彩は比較的顔を出す会員だった」 耕太郎は言った。 「ええ、そうです」 竹崎悦子は言った。 「そして、藤田彩は「国家建設強硬派」だった」 耕太郎は言った。 「そうです。よく顔を出す会員の数は二十一人から二十五人ぐらい。そして「国家建設強硬派」の人数は七人です」 竹崎悦子は言った。 「それでは「国家建設強硬派」のメンバー達は、毎日のように顔をだすのですか」 耕太郎は言った。 「そうですね。ですが、少し違いますよ」 竹崎悦子は言った。 「どういう事ですか」 耕太郎は言った。 「私の知る限り「国家建設強硬派」の七人は、独自に集まっている時間が在るようでした。つまり「国家建設会議」とは別の集まる場所が在るようでした」 竹崎悦子は言った。 「その「国家建設強硬派」の狩川渉が「アソシエーション政治学」の石村教授を殺したことを知っていますか」 耕太郎は言った。 「そうですか」 竹崎悦子は言った。 外見上は変わった様子は無かった。 「なぜ、狩川渉が石村教授を殺したのか判りますか」 耕太郎は言った。 「政治的な闘争では、必ず、暴力事件は起きます。これも歴史的な事実としては正しい事です」 竹崎悦子は言った。 「あなたは、狩川渉が、石村教授を殺したことを認めるのですか」 耕太郎は言った。 「政治的な闘争の結果として認めます」 竹崎悦子は言った。 「あなたは、狩川渉に対して、教唆や共謀をした事は在るのですか」 耕太郎は聞いた。 「いいえ、私の知る限り在りませんよ。ただ……」 竹崎悦子は悪戯っ子の様な顔をして言った。 「ただ、なんですか」 耕太郎は問い詰めるように聞いた。 「ただ、私は、国家主義者のサークル「国家建設会議」の会長として、国家建設を推進する政治的な活動を行って居るだけです」 竹崎悦子は笑顔で言った。 「それは、アソシエーションの転覆活動に該当します」 耕太郎は言った。 「ですが、国家主義自体の主張は、言論の自由の権利によって守られます」 竹崎悦子は笑顔で言った。 「あなたは、狩川渉に教唆した、記憶は無いと言うのですか」 耕太郎は言った。 「私には、石村教授を殺す理由は在りませんよ。私はアソシエーションを、ひっくり返して世界統一国家を作るのが目的です」 竹崎悦子は言った。 「それは、重犯罪だ」 耕太郎は言った。 「私は法律違反はしませんよ。私の言葉を、どう受け取るかは、政治商科研究大学の「国家建設会議」のメンバー達の自由意思に基づく判断です」 竹崎悦子は言った。 「だが、政治商科研究大学の「国家建設会議」はアソシエーションの転覆デモには参加するつもりだ」 耕太郎は言った。 「あの、デモの話も結構有名ですからね」 竹崎悦子は言った。 「なぜ、今、アソシエーションの転覆デモが起きようとしているんだ」 耕太郎は言った。 「そんな事も知らないのですか。確かに,マスコミは、対テロ課の情報統制が掛けられているのでしょう。だから、テレビやラジオ、新聞などの一方通行のマスメディアで取り上げられません。ですが、インターネットでは有名ですよ。だから国家主義者達はデモを行おうとしているんです」 竹崎悦子は言った。 「何が原因なんだ。説明してくれ」 耕太郎は言った。 「エリア・アラブの少年が、経済が上手く行かないことに対して、アソシエーション反対の主張をして、当地で警察に射殺された。それに対する、アソシエーションへの反対が世界規模で起きているのです」 竹崎悦子は言った。 「それが原因なのか」 耕太郎は言った。 「そうですよ。簡単な事から、革命は、いつも始まるんです。このアソシエーションに対する世界規模の反対デモも同じです」 竹崎悦子は言った。 「君は、このデモでアソシエーションが転覆すると考えるのか」 耕太郎は言った。 「それも歴史の流れでしょう。十分に有り得ます」 竹崎悦子は笑顔を浮かべて言った。 「だが君達は、その歴史の流れを作ろうとしている」 耕太郎は言った。 「そうですよ。私はアソシエーションの法律で捕まらない「国家建設漸進派」として参加します。しかし、アソシエーションの法律で捕まる「国家建設強硬派」もデモの参加者達中には居るのです」 竹崎悦子は言った。 「そうやって、君は人を操るのか」 耕太郎は言った。 「私は誰も操っては居ませんよ。そして、誰の価値判断にも影響は与えていないのです」 竹崎悦子は言った。 「なぜ、そう言う。君は、「国家建設会議」の会長として、七十三人のメンバー達を操っているんじゃないか」 耕太郎は言った。 「私が居なくても、「国家建設会議」は、アソシエーション反対のデモに加わります。つまり歴史の流れは変わらない。そして他の大学からも参加する人達は沢山居ます。国家主義運動に参加しなくても、賛同者の方達は大勢居ます。学生だけで無く、広く、一般社会にもです」 竹崎悦子は言った。 「君は自分を一体何だと考えているんだ」 耕太郎は言った。 「さあ何でしょう。刑事さん、教えていただけますか?」 竹崎悦子は笑顔を浮かべて言った。 耕太郎は、竹崎悦子の事情聴取を切り上げた。 耕太郎とレイナは、フライアーに乗った。 そして対テロ課のツワブキに携帯端末で電話をかけた。 「竹崎悦子から話を聞きました」 耕太郎は言った。 「そうか」 ツワブキは言った。 「なぜ、対テロ課は、エリア・アラブの少年がアソシエーションの警察に殺された事件を隠すのですか」 耕太郎は言った。 「デモが起きるからだ」 ツワブキは言った。 「対テロ課の隠蔽体質が逆に不信感を買って、デモに繋がるように思えます」 耕太郎は言った。 「そのまま、デモを放って置くことがよいと言えるのか?情報の隠蔽以上に良い方法が在ると言えるのか?」 ツワブキは言った。 「確かに他の方法は思いつきませんが、アソシエーションに対する不審感が強まるように思えます」 耕太郎は言った。 「確かに,世界には、アソシエーションが機能していないエリアもある。だが、世界の大部分はエリア・日本の様に、アソシエーションが機能し、上手く行っている」 ツワブキは言った。 「竹崎悦子は言っていましたよ、アソシエーションが、デモによって、転覆されることも歴史の必然だと」 耕太郎は言った。 「確かに竹崎悦子は、つかみ所の無い人間だ。そういう事を言っても、おかしくは無い」 ツワブキは言った。 「これから、反アソシエーションの大規模なデモが起きることは間違い無いのですか」 耕太郎は言った。 「間違い無い」 ツワブキは言った。 「反アソシエーションの大規模なデモは、竹崎悦子の話では、「国家建設強硬派」が強引に進めていくそうです」 耕太郎は言った。 「アソシエーションは対テロ課が転覆させない」 ツワブキは言った。 「国家主義者達が計画するデモ自体は、既に情報統制が効かなくなっているはずでず」 耕太郎は志賀班長の話を思い出しながら言った。 「ああ、そうだ。だが、打つ手は在る」 ツワブキは言った。 「エリア・アラブの少年のように殺すのですか」 耕太郎は言った。 「アソシエーションを守る為ならば仕方が無いだろう」 ツワブキは言った。 「それは、対テロ課の考えですか。それとも、あなた個人の考えですか」 耕太郎は言った。 「両方だろうな」 ツワブキは断言するように言った。 ツワブキの確信に満ちた声に耕太郎は鼻白んだ。 「しかし,デモの参加者達の中に居る「国家建設強硬派」の人間達が十パーセントだとしても、十万人のデモ参加者が居れば一万人も殺す事になります。エリア・セントラル・ソマリアの虐殺と同じじゃないですか」 耕太郎は言った。 「門倉刑事」 ツワブキは言った。 「何ですか」 耕太郎は嫌気が差しながら言った。 「これが、世界の現実だ。現実を直視しろ。エリア・日本の平和と安定も、全ては、砂上の楼閣の様に極めて、脆い基礎の上に建てられている。アソシエーションによる平和と安定を実現するためには犠牲が必要な場合がある」 ツワブキは言った。 「つまり、少数の犠牲者の上に、大勢の利益を実現する。そんな理屈は、間違っていますよ」 耕太郎は言った。 「これが世界の現実だ。アソシエーションの存続は過去に何度も危機に瀕してきた。だが、我々対テロ課は何度もアソシエーションを救ってきた。そして今度の反アソシエーションのデモからも救ってみせる」 ツワブキは言った。
第3章 コージャ国支援隊到着
紗緒里と牛島来美は、機動隊の放水車の放水を見て居た。 のどかな感じだった。 日本挺身電撃隊は、一度来たきり,来なかった。 「池野先輩、変な仕事ですね。こんなに長引くとは思いませんでした」 牛島来美は言った。 「ええ。でも、こういう突拍子も無い仕事を片付けるのが、すぐやる課だから」 紗緒里は言った。 「池野先輩、なぜ、今の時期に、突然ネオウヨ国家が生まれたのでしょうか。今、世界統一国家を目指す国家主義者達のデモが起きることは判りますが。ネオウヨ国家が出来る事は理解できません」 牛島来美は言った。 「私に聞かれても判らないけれど」 紗緒里は困って言った。 「そうですか」 牛島来美も困ったような顔をしていた。 「サラシナさんに聞いてみようか」 紗緒里は言った。 紗緒里と牛島来美は、サラシナの所に行った。 「なぜ、今、コージャ国が出来たのでしょうか」 紗緒里は、皆目見当が付かずサラシナに言った。 「世界的に現在のアソシエーションに反対するデモを行う機運が在る」 サラシナは言った。 「でもコージャ国はネオウヨ系国家ですよ」 紗緒里は言った。 「ネオウヨ達の考え方は単純だ。世界統一国家を目指す、反アソシエーションの国家主義者達のデモに便乗して、日本民族だけのネオウヨ国家をエリア・日本に作り上げようとしている」 サラシナは言った。 「これは、便乗なのですか?」 紗緒里は言った。 「ああ、そうだ。世界統一国家を目指す国家主義を利用することで、ドサクサに紛れてネオウヨ国家を作り上げようとしている。つまりアソシエーションの力が弱まれば、いつでも、ネオウヨ国家建設を狙うのが、ネオウヨ達の考え方だ」 サラシナは言った。 「でも世界中にアソシエーションは在りますよ」 紗緒里は言った。 「だがネオウヨ達は国家を作り上げようとしている。それがコージャ国だ。コージャ国は、即日、捕まった他のローカルなネオウヨ国家とは違って、人質を取っている。その上、滝川班長の機動隊が合流した。だから手こずっている。問題は、これから世界統一国家を目指す、国家主義者達のデモがあるため、警察は機動隊の増派が出来ない。それが問題だ。補給路を断ち、兵糧攻めで時間を掛けて弱めていくしか無い」 サラシナは言った。 紗緒里と牛島来美は、エコプリの近くに戻っていった。 「池野先輩。当分、この仕事ですね。本当は国家主義者のデモに行きたいのですけれど」 牛島来美は言った。 「牛島さんは国家主義者だから、デモに参加したいの?」 紗緒里は言った。 「そうですけれど。仕事サボってはマズイですよね」 牛島来美は言った。 「永嶋課長に許可を取れば、いいんだけれど、でも、やっぱり、休暇を取るには、一週間前ぐらいから申請しないと勤務シフトの関係上マズイとは思うけれど」 紗緒里は言った。 紗緒里が牛島来美と話していると、クラクションが鳴り響いた。 紗緒里とは牛島来美は、同時に、音がする方向へと振り向いた。 「何ですか、あの大型トラックの大群は」 牛島来美は言った。 二十トン・トラックが長い車列を作って、ビューロクラシー社のコージャ支店に向かって突進するように連なって走ってきた。 先頭の二十トン・トラックの屋根に,サングラスを掛けて、戦争用のヘルメットを被っている、男性がメガホンを持って居た。 「我々は!コージャ国を支持する為に、エリア・日本各地から集まった有志達である!コージャ国支援隊だ!日本民族の国、コージャ国に必要な救援物資を!日本民族が日本民族の為に持ってきたぞ!」 二十トン・トラックの車列は、警察の車止めのバリケードを突破して、強引にビューロクラシー社のコージャ支店の入り口に横付けされた。長い車列が、止まった。 「一体何なの?」 紗緒里は、呆れて見て居た。 「何が起きたんでしょうか」 牛島来美は言った。 遠くの方から地鳴りの様な重低音の掛け声が聞こえてきた。 ……。 エイエイオー! コージャ! コージャ! コージャ国! エイエイオー! コージャ! コージャ! コージャ国! エイエイオー! 我々はコージャ国の国民だ!日本民族エイエイオー! 民族旗、日の丸を持った、老若男女の集団が、額に日の丸の鉢巻きを締めて集まってきた。 日本民族の国家を作る!エイエイオー! 紗緒里は、交差点から次々と、現れる日の丸の民族旗を持った、数百人を越す集団を見て居た。 「まさか、あれは、コージャ第三小学校に集まっていた、エリア・コージャの住民達では……でも数が多すぎるけれど。よく考えてみたら、コージャ第三小学校と言う事は、コージャ第一小学校や、第二小学校も在ると言うことだけれど……。そこにもエリア・コージャの住民達が集まっていたの……」 紗緒里はドンドンと集まってくる日の丸の民族旗を見て居て顔が青ざめてきた。 「ネオウヨが沢山……。ネオウヨが沢山……」 牛島来美は、ブツブツ言い始めた。 紗緒里はブツブツ言い始めた、牛島来美の手を引っ張って、サラシナの所に行った。 更科は頷いて言った。 「どうやら、我々は,逆に取り囲まれてしまったようだな」 サラシナは現状を冷静に分析した。 「一体全体、どうするのですか?」 紗緒里はサラシナを見て言った。 「包囲されようが、されまいが、我々はコージャ国の解体を進める」 サラシナは少しもブレずに言い切った。 「でも、どうやってですか」 紗緒里は言った。 「持久戦だ。攻守が入れ替わった。今度は我々が守りに入る番だ」 サラシナは、やはり少しもブレずに言った。 どこから、その気丈さが出てくるのか紗緒里には皆目見当が付かなかった。 「ネオウヨが大地を埋め尽くして……。ネオウヨが大地を埋め尽くして……」 牛島来美はブツブツと言っていた。
第4章 デモ開始へ
耕太郎は、志賀班長からデモの件で呼び出しを受けた。 耕太郎とレイナが殺人課の刑事部屋に戻ると、志賀班長とパートナーのアンドロイド・サブロー。ツワブキとパートナーのアンドロイド・カヨが居た。 他にも志賀班長の殺人課第三十三班の刑事達が集まっていた。 刑事の山川文作とパートナーのアンドロイド・ミサ。女刑事の和崎美奈とパートナーのアンドロイド・シロー。女刑事の如月冬美とパートナーのアンドロイド・ゴロー。三人の刑事とパートナーのアンドロイド三体だった。 三人の刑事と三体のアンドロイド達は、整列していた。耕太郎とレイナも敬礼して整列した。 「門倉、国家主義者達の大規模なデモが東京で開始されようとしている。既にかなりの人数がエリア・東京に集まっている」 志賀班長は言った。 そしてツワブキの方を見た。 ツワブキは頷いて話し始めた。 「私から説明しよう。エリア・日本全域から、国家主義者達が移動を開始した。カヨ、国家主義者達の移動のデータ出してくれ」 ツワブキは言った。 電子黒板の画面にエリア・日本の地図が表示された。地図上に示された無数の矢印が、エリア・関東のエリア・東京へ向けて動いていた。 ツワブキは続けた。 「東京に向けて、国家主義者達は移動を開始した。その数は二十八万人近くだ。東京の国家主義者達が、どれぐらい動くかは判らない。だが、今夜から明日にかけてデモを開始することは間違い無い」 志賀班長は頷いて言った。 「警察も大規模な警備の為に、人員の動員を決定した。東京近隣のエリアから応援も呼んでいる」 ツワブキは言った。 「対テロ課の情報統制で、各メディアは,デモの規模を一万人と発表することが決まっている。だが、インターネットでは反アソシエーションのデモの様子が、動画や文章で配信される可能性が高い。インターネットの検索企業や動画サイト、SNSを運営する企業には、既に対テロ課から、情報統制の要請が行っている」 志賀班長が続けた。 「既に、殺人課にも、国家主義者達のデモに対する応援要請が来ている。第三十三班も国家主義者のデモに対するシフトに移行する」 ツワブキが続けた。 「このデモは事前に周到に計画されている物だ。各地の行政企業が運営する公営体育館などに。デモの参加者達が寝泊まりできるように手配が為されている。公営体育館の利用規程に従ってだが。そして違法な反アソシエーションのデモを行う。カヨ,最寄りの公営体育館の映像を出してくれ」 電子黒板の大画面のモニターには、体育館に大荷物を担いで中に入っていく、人間達の姿が映し出された。 ツワブキは続けた。 「行政企業の職員達の中にも、国家主義者達の支持者は居る。国家主義の同調者達が、行政企業の運営する公営施設の開放を行って寝泊まりが出来る様にして居る。カヨ、拡大してくれ」 電子黒板の大画面のモニターに、行政企業のスタッフ・カードを首から、ぶら下げた人間達が、拡大された。 「カヨ、東京駅の様子を見せてくれ」 電子黒板の大画面のモニターに、新幹線のホームが映し出された。 人が立錐の余地も無いほど,混雑している。 到着した新幹線から、人が降りてきて、迎えに出ている人間達と握手したり、肩を叩き合ったり、抱き合ったりしていた。 ツワブキは続けた。 「車で来ている家族連れも居る。カヨ、首都高の最寄りの料金所を出してくれ」 アソシエーション反対の横断幕や旗を立てた車両が連なり料金所近くで渋滞を起こしていた。 ツワブキは続けた。 「エリア・日本中から、国家主義者達が集まってきている。大問題だ」 志賀班長は続けた。 「我々、殺人課第三十三班は、反アソシエーションのデモに使われる、密造拳銃と爆発物の取り締まりを行う」 志賀班長は言った。
電脳世紀東京 ネイショニスト・ワルツ(中)了
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