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作品名:電脳世紀北京(下) 作者:m.yamada

第2回   三分冊2
に在る。だが、信者の大半の五十八パーセントは、北京に住んでいる。ホーム
ページ上の信者の公称数は一万人。これらのデータに、企業共同体のデータ・
センターの情報を加えていく。金仙機団と、取引の在る個人は、五千五百二十
五人。多分、これが、実際の信者数に近い数字だ。そして取引している企業は
千三百七十八集団。かなりの数だ。ただの新興宗教にしては奇妙だ。なぜ企業
が、新興宗教と取引するかだ。金仙機団の人的なネットワークと、金仙機団の
企業のネットワークが、重なっているのか調べる」
 永宗は、美麗の言葉を思い出しながら端末を操作した。
 結果が出た。金仙機団の企業のネットワークは、百パーセント、金仙機団と
取引の在る個人のネットワークの中に収まることになる。
永宗は検索結果を見て考えながら喋った。
 「このネットワークの中に、メンテナンス技師と、黒い景剛の持ち主の家族
が含まれているわけだ」
永宗は、メンテナンス技師と黒い景剛の持ち主の家族達が含まれていること
を、端末を操作して確認しながら言った。
 永宗は端末の大画面のディスプレイを見ていると気がついた。
トレーラーの汽車司機を殺した警察官は、この金仙機団と取引の在る個人に
含まれているのか。
 永宗は慌てて端末を操作した。
 「金仙機団と取引の在る個人の警察官は八十一人。結構な数だ。その内、北
京在住の警察官は、三十七人だ」
 永宗は表示された、データを見て言った。
「碧髪。トレーラーの汽車司機殺害の容疑が掛かっている、今日非番の五人
の警察官と一致するか調べて端末に転送してくれ」
永宗は碧髪に指示を出した。
「三人が金仙機団に入っています」
碧髪は言った。
そしてデータ室の大画面のディスプレイに三人の警察官達が映し出された。
 男二人、女一人だった。
「どうやら一気に解決とは行かないようだ」
 永宗は期待が外れて気落ちした。
 「どうしますか」
 碧髪は言った。
「?捜査官に連絡する」
 永宗は言った。
永宗は?捜査官に携帯端末で電話を掛けた。
 ?捜査官にトレーラーの汽車司機殺害事件の犯人が三人まで絞り込めたこと
を伝えた。
 「詰めに入ったわね」
 ?捜査官は電話の向こうで言った。
「ああ、そうだ」
永宗は言った。
 「私は、この三人の警察官達のライフ・ログを調べていくから。でも三人が
全員、金仙機団という新興宗教に入っているとすると、トレーラーの汽車司機
殺害事件の犯人と、趙捜査官を襲ったフルフェイスの警察官は別人かもしれな
いわね」
 ?捜査官は言った。
「その可能性も出てくる」
永宗は言った。
「大型、中型のバイクは三人とも持っていない。少なくとも企業共同体のデ
ータ・センターに登録はされてはいない」
 ?捜査官は言った。
「つまり借りたか、盗んだ物だ」
永宗は言った。
「趙捜査官は、バイクの型番を見なかったのでしょ」
?捜査官は言った。
 「バイクは詳しくない。アンドロイドが居なかったから証拠の画像を撮れな
かった」
 永宗は言った。
「それでは、判らないわね」
?捜査官は言った。
 「バイクは汽車と違って、トラフィック・セイフティ・システムの監視が甘
い。GPSを切って走っている違法改造されたバイクは、この北京では多い」
永宗は言った。
「三人の警察官達は、ライフ・ログのGPSの移動履歴が、丁度、趙捜査官
がブラスターで撃たれた時間帯に動いていない。だから、ライフ・ログのGP
Sの移動履歴は証拠にならない」
?捜査官は言った。
 「一度、三人の警察官達の尋問をするか」
 永宗は言った。
 「尋問は、もう少し、証拠が集まってから、行った方が良いわね。今はライ
フ・ログのデータだけだから、証拠としては弱い」
 ?捜査官は言った。
 「馮科学捜査官の捜査は、どうなっている」
永宗は聞いた。
 「トレーラーの汽車司機が殺害された時間帯に消えた監視カメラの画像デー
タの原因を捜しているわ」
?捜査官は言った。
 「三人の警察官達のライフ・ログのGPSは、トレーラーの汽車司機達が撃
たれた時間は、どうなっている」
永宗は聞いた。
「非番の休暇は昨天(昨日)の傍晩(夕方)から始まっているわよ。そして
GPSの移動履歴は動いていない」
 ?捜査官は言った。
 「それでは、仕方が無い」
永宗は言った。
 「私は、金仙機団と関わりのある、三人の警察官達を調べていくから。私は
証言を集めて、馮科学捜査官が裏付けの証拠固めをしていく事になる。それじ
ゃ切るわ」
 ?捜査官は言った。
そして電話は切れた。
「馮科学捜査官の証拠固めを待つことになりますね」
碧髪は言った。
 「問題は金仙機団だ」
 永宗はデータ室の端末を操作しながら言った。
画面上に金仙機団の人的な繋がりを示すデータが映し出された。
それに加えて取引のある企業共同体に加盟する企業のデータも重なってい
る。
 永宗は、取引のある企業と、個人の人数のデータを円グラフにして表示し
た。
 取引のある企業の大半は、取引のある個人の人数が一人だと表示された。
 これが奇妙だった。
「人的な繋がりは、かなり広いことになる。だが、この一人だけの個人が、
企業に居ることが判らない。一人だけで新興宗教の勧誘が出来るのか。新興宗
教は普通は何人かで組んで勧誘を行う」
永宗は円グラフに変化させたデータを見ながら言った。
「円グラフの内訳のデータを使う。取引の金額を職種別に、棒グラフにして
表示する」
永宗は端末を操作した。
 棒グラフが幾つも大型ディスプレイの画面に並んだ。
「棒グラフの取引の金額から、支出と収入に分離してみる」
永宗は端末を操作して職種のカテゴリーを見ていった。
 「やはり、企業の職種によって、ばらつきが出てくる」
そして宇宙の貨物輸送集団が職種のカテゴリーに出てきた。永宗は端末を操
作して、調べた。競合している中国系の集団は二つだけだった。
 「宇宙行李集団が出てきた」
永宗は手応えを感じていた。
 「金仙機団と、取引のある宇宙行李集団。張・礼殺害事件と繋がっているは
ずだ」
 永宗は宇宙行李集団に勤めていて、金仙機団と取引のある個人をデータから
抽出した。
「合計で六十七人か。数は、他の企業よりも多い部類に入る」
永宗は並べられたデータを見た。
「職務(役職)順に並べ替える」
 永宗は並べられた姓名のデータを操作した。
「CEOの張・礼は金仙機団と関わりが無い。そして取締役達も全員が、金
仙機団と関わりが無い。社外取締役達も全員が金仙機団と関わりが無い。金仙
機団と個人的な関わりのある役職は、宇宙行李集団の下の方だ」
永宗は金仙機団と取引のある個人の職務を見ながら言った。
 「年齢順に並べ替えても、職務の中で金仙機団と取引のある個人に、極端に
年齢が高い人間は居ない」
永宗は言った。
「一番高い職務が、財務部門の幾つもある責任者の一人か。企業共同体に提
出している組織図から調べるか」
永宗は端末を操作しながら言った。
 大型ディスプレイの画面に組織図が映し出され、財務部門の幾つもいる責任
者の中に、金仙機団と取引のある責任者が表示された。そして、その下には金
仙機団と取引のある個人が括弧でくくられて映し出された。
「やはり、この財務部門の責任者の下に金仙機団と取引のある個人が手下人
員(部下)として多く居る。金仙機団との取引も、この財務部門が担当してい
る。金仙機団の貨物の発送を行っているのか。行き先は、セカンドだ。貨物の
発送を行う輸送部門にも、金仙機団と取引のある個人が勤めている」
永宗は、ここまで調べると端末を切った。
 碧髪は言った。 
「それでは、作成したデータを一つのファィルに編集して証拠のデータ・ベ
ースに加えます」
「頼む」
 永宗は考えながら言った。
金仙機団は、確実に張・礼がCEOを務めていた宇宙行李集団に信者を送り
込んでいる。
年齢が二十代から四十代ぐらいの者達が多い。
だが、経営に直接関係する人間達は居ない。
財務部門の責任者が手下人員に金仙機団と取引のある個人を抱えている。
 何の為に、金仙機団が信者達を宇宙行李集団に送り込んでいるのか判らなか
った。
 だが、金仙機団が、宇宙行李集団のCEO張・礼の殺害に関わっていること
は間違いない。
 なぜ、宇宙に貨物を送る企業に新興宗教の金仙機団が関わっているのか皆目
見当が付かなかった。
金銭目的か?
 確かに、宇宙行李集団のCEO張・礼の資産は膨大だった。
 だが、それならば新興宗教の金仙機団が、なぜ張・礼を殺す必要が在ったの
か判らなかった。金仙機団はカルト宗教なのかもしれなかった。
そして、家族の張・夫人や、張・峰が関わっているのか?
だが、一人や二人で使うには張・礼の遺産は多すぎる事になる。
今の段階では見当がつかなかった。

第三十章 緊急事態

美麗は、武術の訓練をしていた。
 套路と呼ばれる武術の型の訓練をしていた。
仙踊機会館のアンドロイド達との闘いで、少し功夫が足りないように思って
いた。
 今の時間は、美麗の他にも訓練をしている門下生が居た。
 美麗は套路の訓練をしていた。
「美麗、大変よ」
 羌夫人が、慌てた顔で、やってきて言った。
「どうしたんですか」
 美麗は訓練を止めて言った。
 「湯夫人と三人の妻達が、今から、集まるそうよ」
 羌夫人は言った。
 「それは、いきなりですけれど、どうしたんですか。確か明日会うはずだっ
たんですけれど」
美麗は言った。
 「仙踊機会館に入る証拠の画像ファイルを見たいそうよ。もう湯夫人の家に
集まっているそうだから」
羌夫人は言った。
「それじゃ一度、私が行ってきます」
 美麗は言った。
そして、美麗は快馬に乗って湯夫人の家へと向かった。

第三十一章 発見される証拠

王捜査主任から携帯端末に連絡が入った。
「趙、黒い景剛を運んだトラックと借りた人間が判った」
王捜査主任は電話の向こうで言った。
 「本当ですか。これで捜査が大分進みます」
永宗は驚いて言った。
 王捜査主任は電話の向こうで話した。
 「使われたのはレンタカー集団のトラックだ。張・礼の邸宅と黒い景剛の発
見現場との間をつなぐ、トラフィック・セイフティシステムの監視をくぐり抜
けるには、GPSを使用しない整備不良の汽車はトラックやトレーラーで運ぶ
しか無い。トラフィック・セイフティシステムのGPSの移動履歴を調べて張
・礼の邸宅と、黒い景剛の発見現場の間にある、トラフィック・セイフティシ
ステムの監視ポイントの通過履歴を鋼玉に検索させて、通過した黒い景剛を運
べるトラックやトレーラーに条件を限定して調べた。その結果、犯行に使われ
たと、思われる、トラックが出てきた。レンタカーは企業共同体の通貨を使っ
て利用料が支払われている。そして、支払った者達が企業共同体のデータ・セ
ンターから割り出された。画像を送る。この男がレンタカーを借りた」
永宗は携帯端末の画面を見た。
 三十台ぐらいの男だった。
 仕事は、運送集団のトラックの汽車司機だった。中型や大型のトラックの運
転が出来る許可証を持っている。
 「この男が、黒い景剛を運んだことは間違いないですね」
 永宗は言った。
 「ああ、そうだ」
王捜査主任は電話の向こうで言った。
 「この男は金仙機団に入っていますか」
永宗は言った。
「間違いなく入っている」
 王捜査主任は言った。
「一気に見通しが付きましたね。これは、組織犯罪です。メンテナンス技師
や、黒い景剛の持ち主も含めて金仙機団の人的なネットワークで犯罪が全てが
繋がっています」
永宗は言った。
「だが、何が狙いだ。今のままではネットワークの目的が見えてこない。た
だのカルト宗教が、宗教的な目的で起こした組織犯罪なのか、それ以上の何か
があるのかだ」
王捜査主任は言った。
「今のままでは判りませんね」
 永宗は言った。
 「捜査を進めていくしか無い」
 王捜査主任は言った。
王捜査主任は電話を切った。
 携帯端末を操作すると、永宗の携帯端末の電話に禹・敬世から電話が掛かっ
ていたことが判った。
永宗は電話を掛けた。
「永宗、黒い景剛の屋根に付いていたアンテナの種類が判った」
 禹・敬世は言った。
「本当か?」
永宗は言った。
 「間違いない。これは、企業共同体の情報処理ネットワークの基地局に使う
アンテナだ。製造メーカーも特定できた」
禹・敬世は言った。
 「流通ルートは、どうなっている。一般のマーケットに出回る機械じゃ無
い」
永宗は言った。
「納入先は企業共同体の情報処理ネットワークの維持をする企業達が殆ど
だ」
禹・敬世は言った。
「金仙機団と取引があるのか調べてくれ」
 永宗は言った。
「情報処理のネットワークの維持をする企業は、金仙機団と関わっている企
業が多い」
禹・敬世は言った。
 「アンテナの納入先を一つや、二つの少ない取引量に絞ったらどうだ」
 永宗は言った。
 「ちょっと、待ってくれ、端末を操作する。確かに、小口の取引があるね」
 禹・敬世は言った。
「その、納入先を金仙機団と取引があるか、調べてくれ」
永宗は言った。
 「判った」
 禹・敬世は言った。
 「確かに、最近、基地局のアンテナを一つだけ納入している金仙機団と取引
のある企業が出てくる。北京電霊通信集団という聞いたことの無い企業だ」
禹・敬世は言った。
 「その北京電霊通信集団という企業が、黒い景剛の屋根にアンテナを付けた
可能性が高い」
永宗は言った。
「今、事業内容を見ているけれど、確かに通信集団なら。アンテナを買って
もおかしくは見えないけれど。問題は、この北京電霊通信集団の職員(社員)
の数が五人しか居ないと言うことだよ。かなりの零星(零細)企業だ」
禹・敬世は言った。
「金仙機団の偽装企業かもしれない。他にも事件で使われているような物を
取引しているか調べてくれ」
永宗は言った。
 「確かに、この北京電霊通信集団は機械の取引が多いね。それも一個だけや
数個ぐらいの取引が多い。おや、出てきたよ。変わった物が出てきた。アンド
ロイドのバックアップ用の大容量のメモリー・ドライブだ。それに、基地局の
役割を果たすデータ・通信用のサーバー。サーバーを載せる同じメーカーの専
用のラック、外付けの停電用の外部電源。全て同じ日に買っている」
禹・敬世は言った。
 「張・礼の邸宅にいたアンドロイド達のデータの行方が判る事になる。劉主
任に伝えた方が良い。俺は王捜査主任に伝える。一度電話を切る」
永宗は言った。
 永宗は携帯端末の電話を切って、王捜査主任に、電話を掛けた。そして張・
礼の邸宅に居たアンドロイド達のデータの行方が判ったことを伝えた。
北京電霊通信集団を強制捜査する事になった。王捜査主任も向かうことにな
った。
 永宗は碧髪が操縦する吉祥で北京電霊通信集団を目指した。
 永宗は左脇のショルダー・ホルスターに納めた鋼武八式のエネルギー・カー
トリッジを吉祥の中でフル・チャージしてある物に取り換えた。
銃撃戦が行われる危険があった。
 だから、鋼武八式の検点(点検)をした。
吉祥の中で、北京電霊通信集団の事業所を確認した。
五人だけの事業所だった。規模も大きくない。事務所と小さい倉庫があるだ
けだった。
 永宗と碧髪が乗った吉祥は、降下した。
 既に管区の警察車両が来ていた。
 王捜査主任の吉祥も停まっていた。
「趙、来たか。既に証拠品の押収を開始している」
王捜査主任は、鋼玉と倉庫の中に居た。
 中では警察官達が証拠品を集めていた。
 「劉達、科学捜査班が捜していた、アンドロイドのバックアップ・データ
も、メモリー・ドライブが出てきた、間違いなく違法改造されたアンドロイド
達のデータが入っているはずだ」
王捜査主任は言った。
黒い景剛に備え付けていたはずの、ラックに積んだサーバーも押収されてい
た。
 ラックの脚には固定するための金属零件(金具)が付けられていた。
 「どうやら、事件は解決に向かいますね」
 永宗は言った。
 「ああ、趙・礼殺害事件は、北京電霊通信集団から押収した証拠で立件出来
る」
王捜査主任は言った。
「問題は金仙機団が、組織犯罪での立件が難しい事です」
永宗は言った。
 「それは、これからだ。今は個別の事件から立件していく」
 王捜査主任は言った。
「北京電霊集団は張・礼の邸宅と、黒い景剛の発見場所の途中にあります
ね」
永宗は携帯端末の、鋼玉が作った証拠のデータを見ながら言った。
 「この北京電霊集団に立ち寄って、サーバーやアンテナを倉庫に運び入れた
のだろう。そして、その後で、中の機材を外した黒い景剛を発見場所まで運ん
だ」
 王捜査主任は言った。
?捜査官から携帯端末に電話が入った。
永宗は王捜査主任に合図して、携帯端末の電話を使った。
 「趙捜査官、警察医院に来てちょうだい。馮科学捜査官の説明があるから」
?捜査官は言った。
「トレーラーの汽車司機殺害事件の証拠が出たのですか」
永宗は言った。
 「そうなるわね」
 ?捜査官は言った。
永宗は王捜査主任に断って警察医院に碧髪と吉祥で向かった。
警察医院の駐車場に吉祥が降りると、?捜査官と女性型のアンドロイドの猫
眼、馮科学捜査官と女性型アンドロイドが居た。
「手短に説明するから」
 馮科学捜査官は、警察医院の建築物(建物)の裏側へと歩いて行った。
「警察医院の監視カメラが一斉に一時消えた理由が判ったわ。護士の中の一
人からDNAが出たから」
 馮科学捜査官は言った。
「護士は、どうやって監視カメラの画像が映らないようにしたのですか」
 永宗は聞いた。
 馮科学捜査官は、警察官が立っている、配線盤の前に来た。
 「この護士は情報機器のケーブルを繋ぐ配線盤の蓋子(蓋)を警察医院の外
で開けている。そして、間違いなくトレーラーの汽車司機殺害の時間帯にケー
ブルを外している。そしてトレーラーの汽車司機を殺した警察官が、警察医院
を出てから、ケーブルを繋いでいる」
馮科学捜査官は配線盤を指で示しながら言った。
 「どうして特定出来たのですか」
永宗は聞いた。
 「配線盤の蓋子を開けたところに、血が付いていた。皮膚らしい組織も付い
ていた。配線盤の蓋子には、金属の引っかかりが在った。おそらく暗い深夜の
作業だったから、注意が行かずに金属の引っかかりに皮膚が引っかかって傷が
付いた。その断片が残っていた。多分手袋をしていたようだから指紋は残って
いなかったけれど、皮膚と血液のDNAが決め手となった」
馮科学捜査官は言った。
「見たところ、配線盤の鍵は機械式のようですが」
永宗は言った。
 「そうよ。アンドロイドを使って、画像の検索をさせたところ、四星期前に
鍵の入った箱の前で、不審な動きをDNAが見つかった護士がしている」
馮科学捜査官は言った。
「鍵を持ち去ったのですか」
永宗は言った。
 「違うけれど。鍵の製造番号を調べた可能性が高いわ。この手の鍵は、制造
(製造)したメーカーに頼むとスペアの鍵を送って貰うことが出来るから」
馮科学捜査官は?捜査官を見て言った。
?捜査官は言った。
「これから、スペアの鍵の流通ルートは、私が調べるから。DNAだけでも
十分立件は出来るけれど」
「この護士は金仙機団と関わりが在るのか」
永宗は?捜査官に聞いた。
 「ええ、確認してある。間違いなく、金仙機団と金銭の、やり取りの履歴が
企業共同体のデータ・センターのライフ・ログ上である。後は、裁判用に証拠
を固めていくしか無いけれど」
 ?捜査官は頷いて言った。
携帯端末が振動した。
 禹・敬世からだった。
「永宗、重要な事が判った」
 禹・敬世が携帯端末の電話の向こうから言った。
「何が判ったんだ」
永宗は言った。
 「極めて奇妙な事が出てきた。端末にデータを送りながら説明するよ」
禹・敬世は言った。
 「奇妙な事とは、どういうことだ」
永宗は言った。
 「黒い景剛の持ち主の妻は、アンドロイドだ」
禹・敬世は言った。
 「まさか」
 永宗は言った。
「人間と同じ髪の色をしているが、遺伝子上はアンドロイドの人造細胞だ」
禹・敬世は言った。
「つまり俺は、アンドロイドに質問をしていたのか」
 永宗は狼狽して言った。
 全然気がつかなかったからだ。普通の人間と同じだった。どこにでも居る普
通の中年女性にしか見えなかった。
 「そうなるよ」
 禹・敬世は頷いた。
「どうして判った?」
永宗は言った。
 「子供の遺伝子が、おかしかった。遺伝子に改造された痕跡がある。人間の
遺伝子の操作は禁じられているのに改造された痕があった。そして、その特徴
は、見つかったアンドロイドの髪の毛から抽出された遺伝子と半分が同じだ」
禹・敬世は言った。
 「アンドロイドが、どうやって子供を産むんだ」
 永宗は気分が悪くなって言った。
「このアンドロイドの人造細胞の遺伝子は良く出来ている。生殖細胞の機能
も果たすように作られているよ。これからデータを送る」
禹・敬世は永宗の携帯端末に遺伝子のデータを送って言った。
「アンドロイドから人間が生まれるのか?」
永宗は、ますます気分が悪くなった。
 「証拠からは、そう推察するしか無いね」
禹・敬世は言った。
「本当にアンドロイドなのか。俺には人間にしか見えなかった」
 永宗は言った。
 「それじゃ、遺伝子の発現から、成長段階までのシミュレーションをコンピ
ュータ上でしてみよう。普通のアンドロイドの人造細胞は、人工筋肉の上を覆
うだけだから、それ以上の発現は起きない」
 禹・敬世は言った。
 「それじゃ、やってくれ」
 永宗は言った。
 禹・敬世は永宗の携帯端末にシミュレーションの画像を送ってきた。
 画面上に、人間の胎児のような形がポリゴンで作られて現れた、それが成長
を続けて人間になった。
 「どこに機械が入っているんだ?」
 永宗は言った。
 「判らないけれど、どうやら、人間と同じだね、これは、アンドロイドの遺
伝子を元に人間が作られているとしか言いようが無いね。遺伝子から作られた
生命体のアンドロイド、バイオロイドだ」
 禹・敬世は言った。
「なぜ、こんな、昔から法律で禁止されている技術で作られたバイオロイド
が居るんだ。それも家庭婦女(専業主婦)だ」
永宗は言った。
 「判らないけれど、バイオロイドの作成は重犯罪だよ。張・礼殺害事件を担
当している王捜査主任には連絡を入れてある。黒い景剛の持ち主の妻は既に連
行されている。王捜査主任が待っている」
 禹・敬世は言った。
 「判った、電話を切る」
 永宗は言った。
 永宗は碧髪と一緒に警察署に吉祥で戻った。
 永宗は、王捜査主任と、碧髪、鋼玉で取り調べ室に入った。
警察官に連れてこられた黒い景剛の持ち主の妻を取り調べた。
 「あなたは、人間では在りませんね」
 永宗は言った。
 「そんなことは失礼じゃ無いですか」
 黒い景剛の持ち主の妻は言った。
「あなたの遺伝子は人工的に作られている物です」
 永宗は言った。 
「そこまで判っているのですか。検査もしないで」
黒い景剛の持ち主の妻は狼狽えた顔で言った。
 「ええ、そうです。あなたの遺伝子は車庫で発見された髪の毛から判りまし
た。子供さんの遺伝子に半分出ています」
永宗は言った。
「お前は、新興宗教、金仙機団と繋がりが在るな」
王捜査主任は言った。
「話すことは出来ませんね」
 黒い景剛の持ち主の妻は言った。
「お前は、遺伝子の改造によって生まれた。法律上は人間として扱えない
な」
王捜査主任は言った。
「私は人間ですよ。ただ普通と違う遺伝子を持っているだけです」
 黒い景剛の持ち主の妻は言った。
「だが、人間の遺伝子の改造は禁じられている。重犯罪だ。お前と子供は、
人間から隔離されて生活しなければならない」
 王捜査主任は言った。
 「私と子供の遺伝子は人間の遺伝子と違うのでしょ。それだけの理由で、な
ぜ、隔離されなければならないのですか」
黒い景剛の持ち主の妻は言った。
「企業共同体の法律は人間を守るための物だ。改造された遺伝子の保持者達
は人間として扱われない」
王捜査主任は言った。
 「私は人間よ!人間として生きてきたのよ!それなのに何で人間として扱わ
れないの!」
 黒い景剛の持ち主の妻は言った。
「なぜ、金仙機団に入っている」
 王捜査主任は言った。
 「ただの宗教でしょ!」
 黒い景剛の持ち主の妻は言った。
 「ただの宗教は、犯罪を犯さない。金仙機団は、ただの宗教では無い」
 王捜査主任は言った。
 「私は金仙機団の事は話しません」
 黒い景剛の持ち主の妻は言った。
 「警察官を呼んでくれ」
王捜査主任は鋼玉を見て言った。
 「判りました」
 鋼玉が、取調室の外から婦人警察官を呼んだ。
婦人警察官が、黒い景剛の持ち主の妻を連れて行った。
「ただの家庭婦女にしか見えませんが」
永宗は言った。
 「騙されるな。遺伝子改造で作られた人造細胞を持つバイオロイドだ。張・
礼殺害事件に関与している可能性が高い」
 王捜査主任は言った。
「確かに、企業共同体のライフ・ログでは金仙機団に入っているようです
が。外見上は、ただの家庭婦女にしか見えません」
 永宗は言った。
「だが、黒い景剛を、北京電霊通信集団の倉庫まで運ぶ手伝いをしたことは
間違いない」
王捜査主任は言った。
「そして、北京電霊通信集団で、黒い景剛にはアンテナが付けられ、サーバ
ーのラックが固定されて、電源を積んで、レンタカー集団のトラックに乗せら
れて、事件当天(当日)に移動したわけですね」
 永宗は言った。
 「ああ、そうだ。レンタカーのトラックのGPS移動履歴は、北京電霊通信
集団に止まっている時間が確実に在る。これは間違いなく、黒い景剛の積み卸
しをした時間だ。黒い景剛の持ち主が被害届を出した日の、前日の夜にも北京
電霊通信はレンタカー集団のトラックを借りている」
 王捜査主任は言った。
 「間違いなく詰めに近づいていますね」
「ああ、そうだ。だが、まだ、張・礼殺害の動機まで辿り着いていない。金
仙機団に、どんな理由があるのか判っていない」
王捜査主任は言った。
 「道教の分派のカルト宗教のようですが」
永宗は言った。
 「だが、本当に、ただのカルト宗教なのか」
王捜査主任は言った。
「ただのカルトにしてはコンピュータなどを使う能力が高いですね」
永宗は言った。
 「そうだ。それもインターネットで公表されている以上の技術を持ってい
る」
 王捜査主任は言った。
 「これからデータ室で情報を整理します」
 永宗は言った。

第三十二章 妻達の奮起

美麗は快馬で湯夫人の住む社宅の高層マンションに向かった。
その前に美麗は仙踊機会館に立ち寄った。
社宅の高層マンションのエレベータホールには湯夫人が居た。
 やつれた顔に元気があった。
 「子供さんは大丈夫なのですか」
 美麗は聞いた。
「今、私塾(塾)に通っています。さあ、中に入ってください」
 湯夫人は言った。
 リビングでは最近流行の赤いソファに三人の妻達が座って居た。
 眼鏡を掛けた妻、
 小柄な妻、
 背の高い妻
 の三人だった。
「あなたが方さん」
 眼鏡を掛けた妻が言った。
 「はい、そうです」
 美麗は言った。
 「私は夫に何度も、仙踊機会館に行くなって言ったんです。だけど、仕事の
付き合いだって言って、夫は仙踊機会館に通っているのです。何が仕事の付き
合いですか、女アンドロイドに熱を上げていているなんて、呆れた話にも程が
あります」
眼鏡を掛けた妻は言った。
小柄な妻は涙ぐんでいた。
「判っていたんです。うちの夫が仙郷機団という<いかがわしい新興宗教に
入っていたことは。ですが、私は言うに言えず、一人で苦しんでいたのです」
小柄な妻は言った。
「私は今日メールを貰うまで全然気がつきませんでした」
背の高い妻はニコニコしながら言った。
 「そんな弱気じゃ駄目よ!私達に必要なのは怒りよ!私達は、仙踊機会館の
女アンドロイド達から夫を取り戻すのよ!」
眼鏡を掛けた妻は言った。
 美麗は言った。
「それでは、今晩、仙踊機会館の前で、夫達を待っていればどうでしょう
か」
 美麗が言うと、眼鏡を掛けた妻が答えた。
 「確かに、そう。私達は奮起(決起)するべきよ。夫達に面と向かって、抗
議するべきよ」
 小柄な妻はうなだれて言った。
 「私は、自信がありません」
眼鏡を掛けた妻は、小柄な妻の両手を持った。
 「勇気を出しなさい。今こそ奮起して、夫達を一網打尽で取り返すのよ」
 眼鏡を掛けた妻は小柄な妻を励ますように言った。
 「私も参加するのですか」
 背の高い妻はニコニコしながら言った。
「当然よ」
 眼鏡を掛けた妻は言った。
 「困りました。どうすれば良いのでしょうか」
 背の高い妻はニコニコしながら言った。
 「あなたは、とりあえず私に付いてきなさい」
 眼鏡を掛けた妻は背の高い妻に言った。
 「はい、判りました」
 背の高い妻はニコニコしながら言った。
湯夫人達四人の妻は奮起した。

第三十三章 結末へ

永宗の携帯端末に?捜査官から電話が掛かった。
「トレーラーの汽車司機を撃った容疑者の一人の警察官は自殺をしたわ。家
族が見つけて通報した」
 ?捜査官は言った。
「そうか、最悪の事態だな。情報を、あの世に持って行かれた」
永宗は言った。
「だけど私達は、残された証拠から情報を集めるしか無い」
 ?捜査官は言った。
 「そうだな」
永宗は言った。
「自殺をした警察官は、多額の借銭(借金)をしていた」
?捜査官は言った。
「どこから借銭を」
 永宗は言った。
「ライフログの企業共同体が運営する銀行の取引を調べると不自然な取引が
混ざっている。それは金仙機団からよ」
 ?捜査官は言った。
 「やはり金仙機団が出てきたのか」
 永宗は言った。
 「そう。張・礼殺害事件とトレーラーの汽車司機殺害事件は確実に繋がって
いる」
?捜査官は言った。
「自殺した警察官は何の為に借銭をしたんだ」
永宗は言った。
 「支払先は、「撲克娘」という、酒店よ」
?捜査官は言った。
 「いくら酒飲みでも、酒で多額の借銭をするとは考えられない」
永宗は言った。
 「この酒店は、以前に違法賭博で摘発されている」
?捜査官は言った。
 「つまり自殺した警察官は企業共同体が禁止している違法な賭博を「撲克
娘」で行っていた可能性が高いわけだな」
永宗は言った。
 「そうなるわね」
 ?捜査官は言った。
「借銭で、首が回らなくなって、金仙機団の犯罪に手を貸したのか」
 永宗は言った。
 「今の捜査段階では、そう考えるべきね」
 ?捜査官は言った。
 「違法な賭博なんかをするからだ」
永宗は言った。
「画像ファィルを送るから見てくれる」
 ?捜査官は言った。
永宗は携帯端末に送られた画像ファイルを見た。今では使われていない、金
属製の貨幣の写真が写っていた
「これは、犯罪者達が使う違法通貨インゴットだ」
永宗は言った。
「このインゴットは、北京の、どの犯罪者のグループ達も使っていないわ
よ。猫眼が調べてくれた」
?捜査官は言った。
「どこで使われているインゴットだ」
 永宗は怪訝に思って言った。
 「このインゴットは、以前に「撲克娘」が摘発されたときに使われていたイ
ンゴットよ。つまり犯罪者のグループの違法賭博場とは別の違法賭博場ね」
?捜査官は言った。
「この「撲克娘」は金仙機団と関係があるのか」
 永宗は聞いた。
「企業共同体の通貨を使って取引があるわ」
 ?捜査官は言った。
「この「撲克娘」は金仙機団の資金源の一つか」
永宗は言った。
 「そうなるわね」
?捜査官は言った。
そして続けた。
 「殺されたトレーラーの汽車司機は、この「撲克娘」と、企業共同体のライ
フ・ログ上で、金銭の取引があるわ。つまり、違法賭博を「撲克娘」でしてい
た。ここで、金仙機団との繋がりが出てくる。反射薬の前薬の投与と暗示も、
金仙機団との金銭的な、やり取りのネットワークで行われた可能性が高くな
る。つまり「撲克娘」で前薬の投与と暗示を掛けられた可能性が高くなる」
 ?捜査官は言った。
「大分、詰めに入っているが、まだ判らないか」
永宗は言った。
 「そうね。自殺した警察官がトレーラーの汽車司機を殺した犯人かは、まだ
捜査を続けなければ判らない。他の二人の容疑者の、どちらかを庇って死んだ
可能性もあるから」
?捜査官は言った。
 ?捜査官は電話を切った。
永宗は金仙機団の繋がりを調べるために碧髪と、警察署のデータ室に向かっ
た。
 「趙捜査官、いいところに来た」
 データ室には他の捜査官達とアンドロイド達の中に、丁捜査官が、アンドロ
イドの銀陣と居た。
「趙捜査官、見てくれ。トレーラーの汽車司機が最後に立ち寄ったサービス
・エリアの駐車場に駐車していた汽車達だ。時間の変化で、駐車していた汽車
達が移動をしたり駐車したりしている。今は早送りしている」
 丁捜査官は言った。
データ室の大型ディスプレイ上で、殺されたトレーラーの汽車司機の建機を
積んだトレーラーや他の汽車達がポリゴンで再現されていた。
 そして、その周りの汽車もトラフィック・セイフティ・システムのGPSの
移動履歴から、ポリゴンで再現されていた。
殺されたトレーラーの汽車司機が運転していた、トレーラーの周りを汽車達
が移動したり、止まったりしていた。
「そして、これがサービス・エリア内の汽車司機達の移動履歴」
丁捜査官は続けて喋った。
「全てを一度に表示すると、ゴチャゴチャした図になるが、検索条件をトレ
ーラーの汽車司機達がサービス・エリアの中を移動した、時間帯に限定すると
こうなる」
丁捜査官は端末を操作して画面を停止させた。
「そして目撃証言を得るために、トレーラーの汽車司機が駐車した建機を積
んだトレーラーの周りを通過した人間達のGPSの移動履歴を調べると、こう
なる」
丁捜査官は続けて喋りながら端末を操作した。
「建機を積んだトレーラーの汽車司機は、比較的、サービス・エリアの建物
に近いところに建機を積んだトレーラーを置いている、通行量は多い。だから
目撃証言も取れる」
丁捜査官は言った。
「証言は取れたのか」
永宗は言った。
丁捜査官は頷いた。
 「トレーラーを置いた場所が良かった。人目が多い場所だった。そして汽車
の通りも多いだから目撃証言が取れた」
丁捜査官は言った。
 そして端末を操作した。
 四十台ぐらいの汽車司機二人の映像が映し出された。
 丁捜査官は続けた。
 「注射器を持っている男が事故を起こした建機を積んだトレーラーの運転席
で何かやっている事を、この二人の汽車司機達が目撃している。二人の目撃者
達は、注射器を見て毒物を使うのは良くないと言ったらしい」
丁捜査官は言った。
 「だが、男は、何も答えず、建機を積んだトレーラーのドアを閉めて立ち去
った」
 丁捜査官は言った。
「二人の目撃者達は警察に通報はしなかった」
永宗は言った。
「ああ、そうだ。トラックやトレーラーの汽車司機達の間では、毒物の使用
は珍しくないらしい。だから二人の目撃者達も、注意はしても通報はしなかっ
た」
 丁捜査官は言った。
「目撃者達は、毒物と反射薬を取り替えた男の容姿を覚えていますか」
永宗は聞いた。
 「夜で、サービスエリアの中には灯りが点いているが、光線の加減で顔はハ
ッキリとは判らなかったらしい。だが、スーツを着ていたことは間違いないと
証言している。スーツを着た男が、建機を積んだトレーラーの運転席に居たか
ら、目撃者達は奇妙に思ったと証言している」
 丁捜査官は言った。
「十分な証言だ、その二人が目撃者として裁判で証言してくれれば有利にな
る」
 永宗は言った。
 丁捜査官は頷いた。
 「丁度、目撃者の汽車司機達二人が、事故を起こした建機を積んだトレーラ
ーの前を通り過ぎた時間帯にサービス・エリアの中で動いていないGPSの移
動履歴を調べると、こうなる」
丁捜査官は言った。
データ室の大型ディスプレイに映し出された。
 丁捜査官は続けて喋った。
「そして、更に、男性に絞ると、こうなる」
データ室のディスプレイに男性達の顔写真が並べられて映し出された
「そして、不自然な位置にある、GPSを捜す」
丁捜査官は端末を操作した。
反射薬と毒物を取り換えた時間帯のサービスエリア内の建物の中が映し出さ
れた。
「GPS同士が重なっている」
 永宗は言った。
 「そうだ。サービスエリアの建物の中は、テーブルを囲むように椅子が四つ
ある。その一つの椅子にGPSが重なっている。荷物か服の上着に入れて椅子
の上に置いた可能性が高い。この重なっている携帯端末のGPSの移動履歴の
持ち主は、二人だ」
丁捜査官は端末を操作した。
 画面に男女の顔写真が映し出された。
 その一方の顔に見覚えがあった。
 「これは、張・峰が、巻き込まれ掛けた一星期前の交通事故を起こした女
だ」
永宗は繋がりが判った。
 丁捜査官は言った。
 「どうやら張・峰が巻き込まれた建機を積んだトレーラーの交通事故の犯人
は、この二


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