マミー・ミーラも伸びた包帯を全身に巻き付けて言った。乾涸らびていた肌 が元に戻った。 「ああ?クリスティティーナ?今来てくれる」 不死王キュラドは骸骨が付いた黒いスマホで電話をしていた。 「クリスティティーナを呼んだ。帰るぞ」 不死王キュラドは言った。 天井から、赤色のオープンカーが垂直に火を吹いて降りてきた。 スカルトン・バトラーは、ラメのタキシードの胸ポケットから帽子を出して 被って運転席に座った。 不死王キュラドはクリスティティーナに乗りながらマイク達の方を見た。 「厄災の天命星よ。この不死王キュラドは失敗したが、必ず、お前は、魔族 達に討ち取られるだろう。次の刺客が送り込まれる筈だ」 不死王キュラドは言った。 不死王キュラドと、死魔十傑の四人はクリスティティーナという幽霊カー? に乗って、天井から出ていった。
第十七章 鋼鉄の乙女の涙。人間のと機械の間の問題。それに加えて、 十二氏族の聖なる文字の問題も。
「行ったか」 スグレテ・キョトーは言った。 「伯父様凄すぎでした」 フミナは、顔を赤くして言った。 「フミナの伯父さん。助けてくれて、ありがとうございます」 マイクは倒れた車椅子に、もたれかかりながら言った。 イノール先生がフミナの伯父さんに話し始めた。詰問するように。 「助けてくれたことは感謝します。しかし、私には解せません。なぜ、それ だけの力が在るのに不死王キュラドや、その配下の死魔十傑を滅ぼさなかった のですか」 「修道女の、お嬢さん、世の中には秘密が多いんだよ」 スグレテ・キョトーは笑顔でウインクをして言った。 「納得出来ません」 イノール先生は言った。 マリリアは、ワイズマンを見ていた。以前の勇者パーティの賢者だったワイ ズマンは有名だった。そして、マスターXと同じように勇者パーティを辞めた のだ。それは、薔薇十字教会が誇る勇者ソード・マスターも同じだった。魔幻 空間で魔皇帝の城に攻め入った、6人の勇者パーティは魔皇帝を滅ぼさずに帰 ってきたのだ。そして勇者パーティは解散された。 そして現在の勇者パーティは、再建途中だった。現在は、剣の勇者セイバー ・ソードと女賢者リスカーナ・キョトー、聖人のオーガム・キュアリー、女忍 者ジャドー・ツタエの四人が集まっていた。まだ、残りの二人は選考が続いて いるのだ。 「無理に納得する必要はないよ」 ワイズマンは言った。 「はくらかさないで下さい」 マリリアはワイズマンに詰め寄った。 フミナは、ジェラシーを感じた。 何、親しげに話しているのよ。 私の伯父様よ。私の伯父様。 血が繋がって居るんだからね。 このヤブの女医は。 「邪魔よ」 フミナは、伯父のスグレテ・キョトーに詰め寄るマリリア・イノールを手で 押しのけた。 そして、男を感じている伯父の前で右手の甲を左手で握って身体をフリフ リ、目を俯き加減にして言った。 「伯父様、助けて下さってありがとう、ございます。このヤブの女医の言う ことなど気にしないで下さい。伯父様は、凄すぎです。何で、そんなに凄いの かな、とか、私思ってみたりして。同じ封印術を使っているのに、何で、こん なに差が出るのかと思って…」 その時、フミナは横から押された。 マリリアは、フミナ・キョトーを睨んだ。 「重要な事を聞いているのですよ。封印術の事など小さいことです」 マリリアは、フミナ・キョトーに言った。 「あーん、伯父様。こんな頭の固い修道女なんて、ほっぽっておいて、私に 封印術の個人レッスンをしてください」 フミナは裏声を作って言った。 「おい、フミナ、頭にハンカチが乗って居るぞ」 マイク・ラブクラウドの声がした。 ハッと気が付いた。 フミナは、亡霊忍者・ワルの、心霊手術で抜き取られたハンカチが頭の上に 乗っかっていたことに。 慌てて、頭の上に乗っている白いハンカチを白いガウンの内ポケットにしま った。 マイクは、白いハンカチを白いダボダボの服のポケットにしまう、フミナを 見ていた。 何やっているんだか。 マイクはフミナを見て思った。 「痛いです。左腕が痛い」 ナノカの声がした。 マイクは、ナノカの方を見た。 マイクの横で、ナノカは、システム・ナノカから、人間のナノカに戻ってい たようだった。 ナノカは、自分の左腕を見ていた。正確には、上腕部の半分辺りから無くな っている左腕を。そして人間の皮膚の下には、機械が剥き出しになっていた。 そして、ナノカの整った気品在る顔の左目の辺りの皮膚が剥がれて、 中の赤く光る機械の目を見せていた。 「痛いです。痛いです」 ナノカは、左腕を押さえて、しきりに痛がっていた。 「大丈夫か、ナノカ」 マイクは、痛がるナノカに言った。 ナノカは、マイクを見ると、ハッとした顔をした。 「みないで下さいマイクさん。機械の私を。この醜い機械仕掛けの私の身体 を」 ナノカは自分の左腕を右腕で隠してマイクに背中を向けて言った。 「すまない、ナノカ」 マイクは傷ついたナノカにかける言葉が思いつかず、やっと、そう言った。 「いいんですマイクさん。わたしは、やっぱり機械ですから。人間の心を持 っていても、やっぱり人間のフリをしている機械なんです。思い知りました」 ナノカは、ぐずつきながら言った。 「ナノカ、君は人間だ」 マイクは言った。 フミナの伯父のスグレテ・キョトーがやって来た。その後に金魚の糞のよう に付いてきたフミナが居た。フミナは、ナノカをチラッと見た。 「どう見たって。人間じゃなくてロボットなんでしょ」 フミナは冷酷に言い放った。 「何言って居るんだフミナ。ナノカは人間だ」 マイクは言った。 「フミナ。そう言う言い方は良くないな」 伯父のスグレテ・キョトーは言った。 「はいっ!伯父様が良くないと言うなら直しますぅ!」 フミナは変なハキハキした喋り方で言った。 「私達3人が集まると、ヘブライライ文字の光りが強まっていく。この事は 事実です。何が起きているのでしょうか」 イノール先生は言った。 「どうやら、お嬢さん達は、フミナがBCGで話していた十二氏族の聖なる 文字を持っている娘達のようだね」 スグレテ・キョトーは言った。 「ナノカ。身体に十二氏族の聖なる文字のアザはないか」 マイクは、聞いた。 「在ります。ですが何で知っているのですか。私の背中のシメオンと書かれ たヘブライライ語のアザを」 ナノカは背中を向けたまま言った。 「イノール先生とフミナにも身体に十二氏族の聖なる文字のアザが生まれつ き在るんだ」 マイクは言った。 「おかしいですよ。私は機械だから。お父さんがヘブライライ語のアザまで 再現していただけだから。わたしの聖なる文字は人間の身体に生まれつき在る ような、聖なる文字では在りません。作り物の人工皮膚の上に出来た物です」 ナノカは後ろを向いたまま言った。 「ナノカ君、それならば、なぜ光りを放っているのかね?」 スグレテ・キョトーは言った。 「確かに変ですね。でも、私は機械ですから。機械なのになぜ、そのような 聖なる文字が在るのか判りません」 ナノカは言った。 フミナがスグレテ・キョトーの前に回り込んだ。 「そうですよ伯父様。これは機械ですロボットです。伯父様が関わり合う必 要はありませんよ」 フミナは言った。 「そういう、言い方は良くないな、フミナ」 スグレテ・キョトーは言った。 「それならば、幾らでも直しますぅ」 フミナは言った。 そのフミナを押しのけて、イノール先生が、 スグレテ・キョトーの前に立った。 「ワイズマン。あなたは、何故、勇者パーティを辞めたのですか。いえ、他 の五人も含めてです。魔族を滅ぼすことは人類の悲願の筈です。なのに何 故?」 イノール先生は言った。 「世の中には判るようで判らない事が多いものだ。私達6人の勇者パーティ が、解散したのは、それが理由だよ」 スグレテ・キョトーは言った。 「はぐらかしています」 イノール先生は言った。 「えい!」 フミナがイノール先生を両手で突き飛ばした。 「何するんですか」 イノール先生は、よろけて言った。 「わたしの伯父様に馴れ馴れしく話しかけないで」 フミナは、何か妙に可愛い声を作って言った。マイクは、思いっきりひい た。 何を考えているんだ。 マイクはフミナを見て思った。 「確か君の名前はナノカだね」 スグレテ・キョトーはナノカに言った。 「はい。でも人間では在りません」 ナノカは背中を向けたまま言った。 ナノカ・ニュートロン…超悩める乙女。 「ナノカ君、君にはヘブライライ語で書かれた十二氏族の聖なる文字が在る んだね」 スグレテ・キョトーは言った。 「はい、ヘブライライ語でシメオンと読めるアザです。でも、ロボットの身 体を覆う人工皮膚のコーティングに付けられたものです。お父さんは、完璧主 義者ですから…」 ナノカは言った。 「ナノカ君、それは、違うよ。その聖なる文字は特別の力を持っているよう だ。君達三人が集まると、今まで見たことのない光を発している」 スグレテ・キョトーは言った。 「機械の私に、なぜ、そんな光りをだす聖なる文字があるのですか」 背中を向けていた、ナノカは、顔を少し向けた。 「君は機械かもしれないが、やらなければならない事が在るんじゃないの か」 スグレテ・キョトーは言った。 「私は、ただの機械ですよ。何も、する事なんてありません。ただ死んだナ ノカ・ニュートロンの真似をして動いているだけなんです」 ナノカは言った。 マイクはナノカを見た。 「ナノカ、君は機械じゃないよ。俺は知っている」 マイクは、言った。 「マイクさん優しいことを言わないで下さい。私の、この醜い機械の身体を 見たのなら、私が機械仕掛けのロボットだって判ったはずです」 ナノカは背中を向けて言った。 「何で、こんなロボットに、十二氏族の聖なる文字があるのよ。マイク・ラ ブクラウド。説明しなさいよね」 フミナは言った。 「フミナ、ナノカは、人間だ。だから十二氏族の聖なる文字が在っても、お かしくはない」 マイクは言った。マイクはナノカをロボットや機械仕掛けとは思いたくなか った。 「何言っているのよ。見た感じからして、ロボットじゃない」 フミナは言った。 そのフミナをイノール先生が押しのけた。 「私達三人が集まると、異常な光りが発することは判りました。これが古い 契約の力とは信じられませんが。何等かの力が在るようですね。きっとYES 教の神なる主の御業でしょう」 イノール先生は言った。 フミナは、ムッとした顔をした。 「フミナは、十二氏族の聖なる文字を持った娘達を十二人集まるまで捜すの か」 スグレテ・キョトーは言った。 フミナはイノール先生を押しのけた。 「え、そういう事になります。お父様の命令ですから。でも、伯父様が、さ らって花嫁にするのなら、一生付いていきます」 フミナは妙な事を言いだした。マイクは怪訝に思った。 「フミナ。私は結婚して居るんだよ」 スグレテ・キョトーは言った。 「え?結婚している!そんな話し聞いたことは在りません!勇者パーティの 賢者ワイズマンは独身男性だと思っていました!」 フミナはショックを受けた顔をしていた。 「確かに親父様にもヤッパーリにも言っていなかったから、知らなくても仕 方がないが。私は既婚男性だ」 スグレテ・キョトーは言った。 「伯父様の愛人にして下さい」 フミナは言った。 「このYES教の修道女マリリア・イノールの前で、そのような、ふしだら な話が、よく出来ますね」 イノール先生はフミナの左耳を引っ張った。 「痛い!痛い!何するのよ!」 そして、マイク達は、エレベーターに乗って八階から死んだゾンビ達の死体 が転がるドラマチック・タウンの一階まで降りてきた。 ゾンビ達は皆緑色の肌から、人間の肌の色に戻っていた。そして床に倒れて 動かぬ死体となっていた。 「こんなに沢山の、人達が、不死王キュラドの気まぐれで殺されたのです か。断じて許せません」 イノール先生は言った。 そして鏡が置いてある一階のフロアーで、ナノカは自分の顔を見た。 「嫌っ!」 ナノカは機械の眼が剥き出しになった、左眼の周辺を右手で押さえた。 「こんな酷い顔を、みなさんは見ていたんですね」 ナノカは左目を隠して言った。 そして右目から涙が流れていた。 「しょうがないですね」 イノール先生はナノカの肩を両手で抱えた。 「何をするのですか」 ナノカは言った。 「私は医者ですよ。専門はソウル治療ですが、包帯ぐらいは巻けます。あな たの傷ついた部分を隠すぐらいのことは私でも出来ます」 イノール先生は言った。 「私は壊れた機械です包帯なんか要りません」 ナノカは言った。 「いいえ。私には、大怪我を負った病人ですよ。ナノカさん」 イノール先生は優しい声で言った。 「イノール先生。たしか、「ドラマチック・タウン」の敷地内にドラッグ・ ストアが在ったような気がするのだが。そこに包帯は置いてあるんじゃないの か」 マイクは言った。 「そこでいいでしょう。クレジットカードで私が払います」 イノール先生は言った。 「私は、人の心を持った機械だから。機械なのに人の心を持っているから、 こんなにも苦しいのだから」 ナノカは右目から涙を流しながら言った。 ナノカ・ニュートロン…超悩める乙女。
第十八章 魔皇帝ネロ。水の魔族長水魔女王ノターウ出陣。
魔幻空間に浮かぶマカイ帝国の魔都ホラーゾン。その宮殿ダビニフスでは、 6人の魔族長達が集まっていた。そして帰ってきた死の魔族長不死王キュラド は、うなだれていた。 「どうした策は上手く行ったのか?死の魔族長キュラドよ」 魔皇帝ネロは言った。 「少しばかり遊び過ぎました。謎の光りを 発する、三人の娘達に光りの謎を問いただしていると、ワイズマンが現れまし た。そして失敗しました」 不死王キュラドは言った。 「愚かなり、死の魔族長キュラドよ。策に溺れて、厄災の天命星を討ち漏ら すとは。まずは、謎の光などに気を止めずに、厄災の天命星を討ち滅ぼすこと に傾注すべきではないのか」 魔皇帝ネロは言った。 「面目ありません」 不死王キュラドは言った。 「三人の魔族長達は失敗した。次の者は、同じ様な失敗をしてくれるなよ」 魔皇帝ネロは秀麗な眉目を曇らせて言った。 「それでは、次は、この水魔女王ノターウが、水の魔族とモンスター達を率 いて厄災の天命星が、水の在るところに出たときに、一気に抹殺しましょう」 繊細な顔立ちの儚げな水色の髪をした、水の魔族長ノターウは言った。 「それでは、水の魔族長ノターウに任せる。 厄災の天命星を滅ぼせ。そして世界は、時空震によって人間達共々滅びる。そ れが我等魔族の神、ドホラー神の願いに叶うことだ」 魔皇帝ネロは言った。 「それでは出陣をいたします」 そう言うと水魔女王ノターウは消えた。
第十九章 水の魔族長ノターウVS獣の魔族長ガブリル。ここでも女の 格を巡る戦いが…女王様同士だし…。そして謎の醒めた魔族の娘登場。
魔幻空間に浮かぶ魔皇帝の宮殿ダビニフスの水晶で作られた廊下「水晶回 廊」を水魔女王ノターウは五メートルある水色の髪を床に引きずって扇子を持 って意気揚々と歩いてた。 そして独り言を喋っていた。 「裏切り者の堕天使ルシファーは失敗し。 獣魔女王ガブリルはマスターXに敗れ去り、不死王キュラドは策が高じてワイ ズマンの前から逃げ去った」 水魔女王ノターウは言った。 「その通りで、ございます」 水魔十傑の一人半魚人のマーマン・ハンギョが後を着けてきて言った。水色 の燕尾服の首から先はウロコの生えた魚の頭をしていた。そして水掻きの付い た素足は歩くたびに、びちゃびちゃと水が滴った。 だがマーマン・ハンギョの事を水魔女王ノターウは無視して、自分の世界に 浸り込んでいた。 「くくくくくく。私の時代よ。これからは、私の時代なのよ!。この世界で 一番美しい、この私の時代。私が厄災の天命星を討ち滅ぼしてみせるのよ」 水魔女王ノターウは言った。 水晶の回廊の柱の影から、筋骨逞しい女性が現れた。 「フッ、年増の人魚風情が何を言う」 獣魔女王ガブリルは言った。 「泳ぎの出来ない、ケダモノの獣魔女王に年増だなんて言われたくは無いで すわ」 険の在る声で、水魔女王ノターウは獣魔女王ガブリルに言った。 「厚化粧で、小皺を隠している、その、態度が、いぎたないと言うんだよ」 獣魔女王ガブリルは言った。 「この完璧な美貌の何処に小皺が在るというのです。醜い筋肉を無駄に付け ている、獣魔女王なんか、話しになりませんわ」 水魔女王ノターウは自分の顔を扇子を持っていない左手で撫で回して言っ た。 「バカだね。今の時代は、ただ痩せて髪が五メートルあって、か弱そうに見 せている、嘘臭い年増女よりも、筋肉の付いた逞しい女の方にセックス・アピ ールが在るんだよ」 獣魔女王ガブリルは言った。 「それは、ただの流行ですわ。一年先には時代遅れとなる、ありきたりの使 い捨ての流行です。わたくしは永遠不滅の定番ですのよ。え・い・え・ん」 水魔女王ノターウは言った。 「時代が変わったことを受け入れられない、年増人魚の妄執さ」 獣魔女王ガブリルはバカにして溜息をついて言った。 「どこが妄執ですの。大体わたくしの何処が年増だと言うのですの」 その時、突然声がした。 「オバサン同士で喧嘩してバカみたい」 突然醒めた声が、「水晶の回廊」に響いたのだ。 「ムッ」 獣魔女王ガブリルは睨んだ。 「キィッ!失礼な!」 水魔女王ノターウは金切り声を出して睨んだ。 獣魔女王と水魔女王の視線の先にはペロペロと、赤と黒のペロペロキャンデ ィーを舐めている。赤紫色の髪の毛をポニーテールにした少女が居た。全身を ピッチリとしたレオタードの様な紫色の服を着て、そして腰と胸に水着のよう な飾りの付いた鎧を着て腰にスカートの様な帯を巻いて黒いブーツを履いてい た。 魔皇帝ネロの娘、魔皇女キラナだった。 「お前は魔皇帝様の娘、キラナ」 獣魔女王ガブリルは言った。 「この、わたくしに「オバサン」とは随分じゃなくって。魔皇帝様の娘だか らと言って許せる事と許せない事が在るのよ」 水魔女王ノターウは髪の毛をかき上げて言った。 「だって二人ともオバサンじゃない。喧嘩してバカまるだし」 キラナは飴を舐めながら醒めた言った。 「お子様ランチが似合う、子供は引っ込んでなさい。わたくし、これから、 厄災の天命星を滅ぼすために戦にでるのですよ。大人の女にしか出来ない仕事 ですわ」 水魔女王ノターウは言った。 「大人の女ってオバサンだと思う」 キラナは飴を舐めながら醒めた声で言った。 「構うな。子供の、たわごとだ、お前に厄災の天命星が仕留められるのなら 仕留めてこい水の魔族長ノターウよ」 獣魔女王ガブリルは言った。 「そのぐらい判ってますわ!お子様ランチは、後で折檻して差し上げますわ よ!」 水魔女王ノターウはプリプリと肩を怒らせながら歩いていった。
第二十章 再びBCGに乗る!世界最大の二百キロの長い海上橋「タマ ゲータ」! 目指せキカイ帝国!
マイク達は、次の日、1日を、セント・マッシュの警察署で過ごした。 「ドラマチック・タウン」の一件では、近隣からキトウ国の警察が大挙して やって来た。 そして、マイク達は、警察署で事情を説明することになった。 不死王キュラドが、なぜ、「ドラマチック・タウン」に現れたのか。そし て、なぜ、買い物客達が、ゾンビになって、しまったのか。 そして、マイク達は、夕方に、薔薇十字教会聖トマトマ教会付属病院に戻っ てきた。 そしてマイクは病室に戻った。 翌日、旅立つことが決まった。 フミナの伯父、スグレテ・キョトーも付いてくることになった。 「出来れば、この薔薇十字教会聖トマトマ教会付属病院で、治療に専念する ため、入院していて欲しいのですが」 イノール先生は言った。イノール先生は黒い修道服の上からエプロンを付け ていた。 マイクは電動車椅子の上で言った。 「何処にいても魔族は来るんです。どうやら、俺は厄災の天命星と呼ばれ て、魔族達に狙われている事も判りました。この薬を毎日食後に三回飲んでい れば、俺のアンチ・コアベノムは、解毒されるんですね」 マイクは渡された錠剤の入った紙袋を見て言った。 「そうです。ソウル治療は、ソウル操法で代用が出来るでしょう。毎日少し ずつ。ソウル操法が使えるようになるはずです。今日も含めて、あと5日で完 全に回復します。大体明日から電動車椅子が必要なくなります」 イノール先生は言った。 「あと5日で、俺は、X流を使って戦えるようになるのですか」 マイクは、自分の拳を見て言った。 「はい、そうです」 イノール先生は言った。 「ヤブは放って置いて、伯父様。早く行きましょう」 フミナは、スグレテ・キョトーに言った。 「あなたの嫉妬が原因で、私は、懲罰の一環として院内環境美化ボランティ ア活動に参加しているのですよ。私は治さなければならない患者が沢山いるの にです」 イノール先生はフミナに言った。 「フミナの嫉妬とは何ですか」 マイクはイノール先生に聞いた。 「何、余計な事聞いているのよ、ミス・キョトーと呼びなさいって言ってい るでしょ!このヤブ、言ったら許さないからね!封印術で、口を封印して…」 フミナは慌ててマイクとイノール先生を交互に見ながら言った。 「リ!」 イノール先生は冷たい目でフミナを見ながら一文字を鋭く言った。 「リ?リとは一体なんのリ?」 マイクは尋ねた。 「封印の結界!第468…」 フミナは、ハンカチを取り出して封印術を使おうとした。 そのハンカチをスグレテ・キョトーは取り上げた。 「フミナ。魔法は人間相手に使う物じゃないんだよ」 スグレテ・キョトーは首を横に振って言った。 「ミス・キョトーさん。YES教の神なる主は慈悲深いのです。私は個人的 には、かなり腹立たしいのですが。神なる主に仕える身として、あなたの 「リ」の事は水に流しましょう」 イノール先生は言った。 Yes教の修道女マリリア・イノール。超敬虔。 「まずはナノカをキカイ帝国に送り届けなければだめだろう」 マイクは言った。 ナノカは、左目に眼帯を付けて、左腕にはギブスを付けて三角巾で吊ってい た。 「いいんです。私は、ロボットですから」 ナノカは言った。 「ナノカさん。あなたは、身体は機械かもしれませんが、人間として生きる べきです。 神なる主も、きっと、あなたに生きる意味を与えて下さるはずです」 イノール先生は言った。 「イノール先生…」 ナノカは涙ぐんだ。 「大丈夫ですナノカさん」 イノール先生は言った。 そこにフミナが割って入った。 「ちょっと、十二氏族の聖なる文字を持った娘達を集める仕事はどうするの よ」 フミナはイノール先生を押しのけて言った。 「イノール先生とナノカに会ったのも全ては偶然だ。他の十二氏族の聖なる 文字を持った娘達も、偶然出会うのなら、アクトク国へ行くことを後回しにし て、キカイ帝国に行っても、偶然、出会うかもしれない」 マイクは言った。 「何よ、その、いい加減な考えは。そんなことで上手く行くと思うの?世界 が時空震で滅びるまで、今日で、あと、たった三百六十日なのよ。明日で、三 百五十日台に突入するんだからね」 フミナは言った。 スグレテ・キョトーは、まくし立てるフミナを手のジェスチャーで静止し た。フミナは黙った。 「キトウ国からキカイ帝国へ行くには、BCGを一旦トラフィック・ジャン クション・シティで降りて別の高速鉄道ビンチーリンに乗り換えて向かうこと になる。それで良いかな?」 スグレテ・キョトーは言った。 そしてマイク達はBCGに乗って、トラフィック・ジャンクション・シティ でビンチーリンに乗り換えた。 海の上に出来た長い橋を高速鉄道ビンチーリンは通っていった。 「これが、タマゲータ。なんて長い橋なんだ」 マイクは、車窓の外を見ていた。 右も左の車窓も外は一面に広がる海だった。 「キカイ帝国へは、ビンチーリンに乗って行くんです」 ナノカは言った。 「なぜ、私の封印術では、マミー・ミーラを封印できなかったのですか」 フミナは、伯父のスグレテ・キョトーに聞いた。 個人レッスン。 プライベートな、伯父様独り占めの時間…。 そして、濃厚で濃密で、濃度の高い時間。 そして二人は急接近。 フミナの中で、怪しげな、妄想が動き始めていた…。 「フミナは、封印術を使いこなしていないと言うことだ。封印術は、材料に した、素材を強化する事に意味がある。素材の硬度にだけ留意すると、素材の 元々の硬度以上は出せなくなる」 伯父のスグレテ・キョトーは言った。 「おかしいですぅ。私はぁ、封印術はぁ、素材の選択と硬度でぇ、間違いは ないと勉強していますぅ」 フミナは声を作って伯父のスグレテ・キョトーに言った。 「たしかに、そうだが、素材の硬度を超えた強化が出来なければ、封印術を 使って魔族と実際に戦うことは出来ない。とくに、死魔十傑の一人のマミー・ ミーラ、クラスの魔族には通用はしないことになる」 伯父のスグレテ・キョトーは言った。 「でもぉ、封印術を勉強していてぇ、素材の強化の話はぁ、硬度以外はぁ、 出てきませぇん」 フミナは声を作って言った。 「それは、封印術だけではなく、他の魔法の使い方を知ることが重要だ」 伯父のスグレテ・キョトーは言った。 フミナはハッとなった。 フミナは、封印術以外の魔法はガクモン王立大学に入る試験に出る物以外は 使えないからだ。 「そんなの無理ですよ。私の才能では…封印術だって、何とか使っているん です」 フミナは声を作ることも忘れて言った。 封印術を専門とする、ガクモン王立大学の准教授フミナ・キョトー。 学者一家キョトー家の人間。 だが、世間に聞こえの良い肩書きばかりは持っていても、魔法という学問に おいて、フミナは、自分に才能が無いことを子供の頃から嫌と言うほど天才の 姉、リスカーナを見てきて判っていた。 「そうか、全ての魔法は連携することが必要だが。連携することで、無限の 可能性が生まれてくる」 伯父のスグレテ・キョトーは言った。 「それは、伯父様やリスカーナ姉様の様な天才だけができる事です」 フミナは辛くなった。 所詮フミナとは学者としてのレベルが違いすぎるのだ。賢者の中の賢者、ワ イズマンと呼ばれている伯父のスグレテ・キョトーとは。 そして姉のリスカーナ・キョトーとも違うことも…。 「どうした、フミナ?大分辛そうな顔をしている。気分でも悪いのか?」 伯父のスグレテ・キョトーは言った。 常に紳士的な伯父のスグレテ・キョトーの親切さが、今のフミナには辛かっ た。 フミナは、何も考えられずに自分の心の中の惨めさと戦っていた。だが、そ の惨めさの方が強くてフミナの心を押しつぶそうとしていた。
第二十一章 水魔女王ノターウ襲来。 荒れ狂うシーホンシー海。
「行け!リバイアサン軍団!人間が作った、矮小な橋「タマゲータ」をボロ ボロにして、おやりなさい!ヲほほほほほほほほほほ!そして、水のモンスタ ー総勢百万頭の総攻撃ですわ!海が裂け!波濤がうねり!全てを飲み込むので すわよ!ヲほほほほほほほほほ!完璧!パーフェクトですわ!厄災の天命星も ろとも瞬殺して差し上げますわ!数よ、数の力なのよ!これが水魔女王ノター ウの本気!本気の力!ヲホホホホホホホホホホホホホ!」 水魔女王ノターウはリバイアサン・キングの上に作られた玉座の上で哄笑を 上げながら扇子を振りかざして叫んだ。 百メートル近くの巨大な水のモンスター、リバイアサンが次々と「タマゲー タ」に向かって泳いでいった。その間を水の魔族達が、次々と水しぶきを上げ て泳いでいった。 クラーケン、キラー・ホエール、スキュラ、ラミア、半魚人…ありとあらゆ る、水棲のモンスター達が、「タマゲータ」目がけて殺到していった。 その数は百万頭。 シーホンシー海は、水の魔族と、水のモンスター達で埋め尽くされた。 ナノカが編み物の話をしていると、突然サイレンがビンチーリンの中に鳴り 響いた。マイクは、電動車椅子に乗ったまま驚いた。 「モンスター警報が発令しました!これは、魔族の大雪崩です!」 車掌の声は絶叫に近かった。 高速鉄道ビンチーリンの中では乗客達はざわめいていた。 車窓からは、数え切れないほど海全体の端から端までを覆うモンスター達が 殺到しようとしている様子が見えるからだった。 スグレテ・キョトーは立ち上がった。 「さあ、行きなさい!ここは、私が、何とかする!」 スグレテ・キョトーは右手を天井に向けて穴を開けながら言った。 「これだけの数のモンスターを、一体どうやって!」 マイクは突進してくる数え切れないぐらい大量の水のモンスター達を見て言 った。 「私はワイズマンと呼ばれているのだよ。君達の様な若者達は、未来へと進 みなさい。その為には、私達のような古い大人が道を造らなければならない。 それが私に出来ることだ」 スグレテ・キョトーは天井に開いた穴に向けて空中を飛んだ。 「伯父様!一人で何をするつもりですか!」 フミナは叫んだ。 「フミナ、封印術だけに囚われないで、他の魔法も勉強しなさい。そうすれ ば、封印術も、もっと上手くなれる。そして魔法という学問が楽しくなる」 スグレテ・キョトーは言った。 そして姿が消えた。 「伯父様!無謀です!魔族の大雪崩に一人で立ち向かうなんて!」 フミナは叫んだ。 だが、スグレテ・キョトーの姿は消えていた。 ノターウは、100.5ある、視力で、シーホンシー海に架けられ橋、タマ ゲータを走る人間が作った高速鉄道から一人の人間が空を飛んで一瞬消えて線 路に降り立つ所を見た。 何者? ノターウは、その人間が何を考えているのか判らなかった。 紡錘型の突撃陣形の、水の魔族とモンスター達は、タマゲータを次々と破壊 していった。 だが、高速鉄道が走り去ると、辺りの様子が変わり始めた。 シーホンシー海が突如、異変に見舞われはじめたのだ。 輝きの固まりが、シーホンシー海を覆う魔族とモンスター達の頭上で出来上 がりはじめた。 そして光は、次第に太陽に様に眩く、そして太陽よりも眩しく輝きはじめ た。 シーホンシー海の波が停まった。 そして、異変は、起きた。 輝きが眩く弾け、一気に、シーホンシー海を埋め尽くす、水魔女王ノターウ 配下の魔族とモンスター達を射殺すように降り注いだ。 ノターウは、ただ、驚愕の天変地異の様な光景を見ているだけだった。 水魔女王の力を発揮する間も無かった。 ただ、輝きがシーホンシー海を覆い尽くす光景を眩しさの中で、見ているだ けだった。 そして、輝きは去った。 全ての光景が変わっていた。 シーホンシー海を埋め尽くしていた水の魔族とモンスター達は、皆、海面に 浮かび、倒れていた。 ノターウはハッとした。 そして自分が乗っているリバイアサン・キングを見た。 他の魔族やモンスター達と同じように水面に浮かんでいた。 ノターウの水魔女王の玉座の前に輝きが起きた。 そして、一人の男性が現れた。中年の男性だが、容姿は整っていた。 「何者です!この水魔女王ノターウの前に、突然現れるとは!無礼な!」 ノターウは、動揺しながらも叫んだ。 「失礼、私は、魔族達にもワイズマンと呼ばれている人間だ」 中年の男性は言った。 「マカイ帝国を崩壊寸前まで追い込んだ、 勇者パーティの賢者ワイズマンだというのですか」 ノターウは狼狽えた。まさか、これ程の力を持っているとは想像を超えてい た。 「お嬢さん、君が、今の水の魔族長かな」 ワイズマンは言った。 ノターウは生唾を飲み込んだ。 たった一人の、人間が、シーホンシー海を埋め尽くした、魔族と、モンスタ ー達を壊滅に追い込んだのだ。その場所に今、ノターウは居たのだ。 「この百万の水の魔族と、モンスター達を …桁外れの魔法の力。一体何をしたと言うの。 このシーホンシー海を覆っていた我が水魔の軍団を一人の人間が滅ぼすなん て」 ノターウは気を張って言った。 「お嬢さん。殺してはいない。ただ気絶させただけだ」 ワイズマンは言った。 「百万頭の水の魔族とモンスター達を気絶させるとは何をしたと言うのです か」 お嬢さんと呼ばれている事に気が付いたノターウは、恐怖の感情に包まれた 状態から、 少し気分が良くなった。 やっぱり、まだ私って若いのですわね。 と、ノターウは思っていた。 「私も、これだけの魔法を使えば大分疲れるのでね。今日は、この辺で、お 暇させて貰うよ。お嬢さん」 ワイズマンは言った。 そして輝きと共に消えた。 「これが、マカイ帝国を崩壊寸前まで追いつめた、勇者パーティの、賢者ワ イズマンの力というですか。ちょっとステキな殿方かも」 ノターウは顔を赤らめて頬を押さえて言った。 マイク達の乗った、高速鉄道ビンチーリンは、走り続けていた。 「あの光は何の光でしょうか」 ナノカは、車窓から入ってくる光を見て言った。 その光は、優しく、シーホンシー海を覆うようだった。 「伯父様ぁ!」 フミナは涙を流しながら言った。 「俺の師匠も生きていたんだ。フミナの伯父さんも生きているよ」 マイクは言った。 「あなたなんかに慰められたくないわよ」 フミナは涙を拭きながら言った。 ビンチーリンは、走る。シーホンシー海の タマゲータを。
心の詩第二篇 心を澄ませて心の声を聞けば(了)
オマケ。次回予告!グンカク国の軍隊娘!煌めくサバイバル・ナイフ!可変 型軍用ロボットTSD(タクティカル・システム・デバイス)がモンスター相 手に火を吹くのか!ボンバー!で、ロベレッタ・トリガーズ登場! 超危険!
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