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作品名:心の詩HarmonyOfHeart第二篇 作者:m.yamada

第2回   四分冊2
いた。
「コレからどうする」
 マイクは、入院に必要な、携帯端末を貰って首から下げていた。後ろには薔
薇と十字架が象られて彫られていた。
 マイクは、大分落ち着いたフミナを見ていて言った。
「私は、このヤブ病院の近くにビジネス・ホテル「オデンの園」があるか
ら、そこに泊まるわ。あのヤブの暴力女医の話では、解毒に最低でも1週間は
掛かるのでしょ」
フミナは言った。
「そうなるとは思うのだが。出来ればもう少し早く、回復したいのだが。早
くアクトク国へ行ければ良いのだが。ワルの勲章も在るのだし」
 マイクは言った。
「アクトク国へ行かなくても、十二氏族の聖なる文字を持った娘は見つかっ
たでしょ。あのヤブの暴力女医が十二氏族の聖なる文字を持っていたのは意外
だけれど。一週間後に来れば良いんでしょ」
 フミナは言った。
「まあ、そう言うことになるかな」
 マイクは言った。
フミナは、まだ、怒っている顔のままマイクと別れて、玄関の方へと歩いて
いった。暫く待っていると、浅黒い肌の男性看護士がやって来た。マイクは、
第三病棟の333号室に電動車椅子に乗ったまま。浅黒い肌の男性看護士に押
されて向かって行った。
フミナは、ビジネス・ホテル「オデンの園」の部屋に入ると、ベットに寝こ
ろんでイッチ・フォンを取り出した。
フミナは復讐のために、イッチ・フォンから「ツブヤケ」の公式アプリを起
動した。
 「ツブヤケ」には、何て書こうか、フミナは、迷った。
 だが、先ずは、マリリア・イノールの誹謗中傷から始めることが重要だっ
た。
 「キトウ国の薔薇十字教会聖トマトマ病院のマリリア・イノールは暴力女
医。エ〜ン痛いよぉ〜、今殴られたナウ」と「ツブヤケ」に書き込んだ。
フミナは、いかにも自分が被害者に見えるように、わざと子供っぽい、書き
方をした。
フミナはクスクスと笑っていた。
薔薇十字教会聖トマトマ教会付属病院に不満の在る者達が「ツブヤケ」のフ
ォロワーとして、必ず食いついてくるとフミナは、思っていた。
 フミナは「ツブヤケ」をストレス発散に使っていた。キョトー家の中で一
番、魔法学の才能が無いフミナは、己の劣等感から生じる実生活の欲求不満を
どうしても「ツブヤケ」で発散せずには居られなかったのだ。
 フミナは、家族の誹謗中傷も「ツブヤケ」でしていた。特にリスカーナに
は、沢山嫌がらせの、誹謗中傷を「ツブヤケ」でしていた。
だが、その、せいで更に劣等感が増幅している事実にフミナは気が付いていな
かった。
 魔皇帝ネロ討伐の勇者パーティーを批判するなど、この世界では禁じられた
行いだった。
 だが、それでもフミナは「ツブヤケ」でリスカーナの誹謗中傷をせずには居
られなかった。
嗚呼哀れ。
 フミナ・キョトー、超パラノイア……

  第六章 鋼鉄の乙女!機械仕掛けの少女ナノカ登場!悲しき母と娘!

マイクは、昼食を食べるために、電動車椅子に乗ったまま、食堂へと向かっ
ていった。
 この薔薇十字教会聖トマトマ教会付属病院には、患者が食べるための食堂が
在ったのだ。もっとも全ての患者が一度に食べるわけではない。食堂では、三
号棟の三階の三十三グループに属する三号室だった。とにかく、この薔薇十字
教会聖トマトマ教会付属病院は呆れるぐらいにデカイのだ。普通の郊外にある
大型の病院が、五十個ぐらい集まったような、とてつもない規模だった。
 マイクの病室は個室ではなかった。男性の患者が十人一緒の病室だった。
 マイクは男性の看護士に案内されて、食堂や、風呂場、トイレの位置は判っ
ていた。
それで、入院初日でも不慣れな病院の中を電動車椅子に乗って食堂まで移動
できたのだ。
そして、カレーライスの病院食を食べていた。
だが、マイクは辛いカレーライスが好きだったため、香辛料の刺激の少ない、
カレーライスにガッカリ気味だった。
騒ぎが起きた。
 突然、車椅子に乗った中年の女性が騒ぎ出したのだ。中年の女性は、両足が
無かった。
「お前なんか、私の娘じゃない!この機械仕掛けのバケモノめ!」
 剣呑な声がした。
「お母さん。私は、ナノカよ。あなたが産んだナノカ・ニュートロンよ。そ
んな事言わないで」
「ナノカは死んだの!あの魂を科学に売り渡した男が行った実験のせいで!
そして死んだナノカの代わりにバケモノを作った!」
「バケモノかもしれないけれど、私はナノカなのよ」
聞き捨てならぬな。
マイクは、漢キャラになった。
車椅子に座っていても、X流のマスターXから無言で教わった黙念師容の精
神は忘れていなかった。
 電動車椅子を動かして、進んでいった。
「どうしたのですか」
 事情が全然読めなかったマイクだったが、取りあえず声をかけた。
「あなたは誰ですか」
 中年の女性が言った。
中年の女性は、三十代後半から、四十代前半ぐらいだったが。ピンク色の髪
の毛をしていて気品の在る顔立ちだった。
 「いえ、失敬。私は、剣呑な言葉に我が耳を疑いまして、何故に、産んだ娘
が機械仕掛けのバケモノと呼ばれなければいけないのかと怪訝思ったのです」
 マイクは、漢キャラのまま言った。
ピンク色の髪の毛をした娘は、振り返った。
その娘は、背中まである、長いピンクのストレートヘアーをして、青いエナ
メル製のコートと黒いスラックスを履いて、青いエナメル製のハイカットのヒ
ールが付いたブーツを履いていた。
 その顔は、奇麗に整っていた。まるで人形のように見えた。気品のある顔立
ちは母親に似ている様だった。だが、その、水色の瞳は、
水晶の様に透き通ってみえた。そして、涙が流れて顔が、赤らんでいた。
 人形ではない様だった。
「それは、怪訝に思うでしょうね」
 中年の女性は溜息を言った。
 「ええ。良ければ、訳を聞かせてくれませんか」
 マイクは漢キャラのまま言った。
「このバケモノは、死んだ私の娘、ナノカ・ニュートロンに似せて作られ
た、ロボットなのです」
 中年の女性は言った。
 ロボットか?
 マイクは、バケモノと呼ばれた娘が、ロボットには見えなかった。
 「本当にロボットなのですか。私には人間にしか見えませんが」
 マイクは漢キャラのまま言った。
 「わたしは人間です。わたしはナノカ・ニュートロンです」
 ロボットと呼ばれたナノカは流れる涙を拭きながら言った。
 「仮に、お前が人間だとしても、もう私の娘ではありません。あの科学に魂
を売り渡した男。マッサイ・ニュートロンとは離婚をしたのですから」
ナノカの母は言った。
 「それでも、あなたは、わたしの母です。見捨てないで下さい、お母さん。
わたしはナノカ・ニュートロンです」
 ナノカは言った。
「私は、機械を娘と呼ぶような,おぞましい事は出来ません。お前は私の死
んだ娘、ナノカの記憶を全て移植したのかもしれませんが、バケモノはバケモ
ノです」
 ナノカ母は言った。
「私は人間の時の記憶を全て持っているのです。だから私は、人間です。人
間だと思いたいの」
ナノカは言った。
「ナノカ。何で生きているの」
 突然、驚いた声がした。若い女性の声だった。
 「誰ですか」
 マイクは聞いた。
 「マイクラ姉さんと妹のピコリです」
 ナノカはボソリと言った。
マイクが首を振り向くと背後にはグレーのタイトスカートのスーツを着た。
若い二十代前半ぐらいの女性が居た。ピンク色の髪の毛を引っ詰めて後ろで纏
めていた。
 そして背後にはピンクの髪の毛を肩の高さで切りそろえた十歳前後の茶色い
ブレザーを着た少女が居た。そして花束を持っていた。
 「マイクラ、これは、あの男が作った、ナノカの記憶を移植したロボットで
す」
ナノカ母は言った。
「まさか、あの父親が、ナノカそっくりのロボットを作り出したというの…
…。はははははははははは!そうよ、あの家族を省みないで、機械を作ること
だけを考えている男なら、そんなこと、当たり前の様にやるでしょうね。ナノ
カは、あの男の研究の手伝いをしていたのだから。手伝いって言っても、使い
っ走りよ。可哀想なナノカ。それでも父親が構ってくれると思いたかったナノ
カ。でも死んじゃった」
マイクラと呼ばれた、二十代の女性はひきつった笑いと共に吐き出すように
言った。
「マイクラお姉ちゃん、このナノカお姉ちゃんはロボットなの。ニセモノな
の」
ナノカの妹らしい少女が言った。
「そうよピコリ。このナノカはニセモノなのよ。あの父親が作ったニセモノ
なのよ。ナノカの真似をする機械なのよ」
マイクラはピコリに言った。
 「ピコリ、このロボットは、ナノカの記憶があるから、自分をナノカだと思
っているのです。そして私を母親だと呼んでいるのです。だがナノカは死ん
だ。あの男の実験のせいで」
ナノカの母は言った。
「お前なんか、ナノカお姉ちゃんじゃない!」
ピコリはナノカを蹴飛ばした。
「痛いわピコリ。蹴らないで」
 ナノカは蹴られた足を押さえて言った。
「こら、子供、人を蹴っぽるな」
 マイクは、ピコリに言った。
 「判らないの、ピコリはね、ナノカお姉ちゃんを亡くしたのよ。血塗れにな
って死んだナノカお姉ちゃんを、この目で見たのよ。こんなロボットが、ナノ
カお姉ちゃんの代わりになんかならないんだから」
 ピコリは、涙を流しながら言った。
「私はピコリが誕生日の時にくれた貝殻のネックレスを覚えているのよ。ピ
コリは……」
ナノカは言った。
 「ロボットなのに、なんで、そんなことまで知っているの!嫌っ!嫌っ!嫌
っ!」
ピコリは頭を押さえて全身を振るって叫んだ。
「わたしはロボットかもしれないけれど、人間の心があるの。だから苦しい
のよピコリ」
ナノカは言った。
「なんで、そんなに、死んだナノカお姉ちゃんに似ているの!お前は、ただ
の機械仕掛けのロボットなのに!」
ピコリは、頭を押さえて、泣きながら言った。マイクラは、泣きじゃくるピ
コリを抱きかかえてナノカを見て言った。
 「こんな、ロボットを作るなんて、あの、男は何を考えているの。ナノカが
死んだのに、これ以上、私達を苦しめると言うの」
病院の男女の看護士達が集まってきた。
「あの、どうしたのですか」
 中年の女性の看護士が言った。
「ロボットが私の娘だと言っているのです。病院から追い出して下さい。不
愉快です」
 ナノカの母親は言った。
「あなたはロボットなのですか」
 中年の女性看護士が言った。
「はい、そうです。私の身体は機械で出来ています」
 ナノカは泣きながら言った。
 「ロボットが病院に入ってきても困ります。ロボットは、ロボット・ガイド
ラインに基づいて、人間の言うことには従うはずです。それなのに何故涙が流
れたり、当病院の患者に付きまとうのですか」
 中年の女性看護士は言った。
「それは、私が、人間の心を持っているから」
 ナノカは泣きながら言った。
 「あなたは、どうやら、欠陥品のロボットのようですね。この病院の敷地か
ら、出ていってもらいます」
 中年の女性看護士は言った。
 「判りました。私はロボットだから」
 ナノカは、上を向いて涙を啜りながら言った。
 ナノカは、フラつきながら、廊下を歩いていった。
マイクは、泣きじゃくるナノカの後を電動車椅子を操って付いていった。
「大丈夫か?」
 マイクは聞いた。
「あなたは、ロボットの私が嫌じゃないの」
 ナノカは歩きながら言った。
 「俺には、君が人間にしか見えないんだ」
 マイクは、ナノカを見ながら言った。
 ピンク色の髪をしているが、顔立ちも動きも、人間そのものだった。
「私は自分がロボットなのか、人間なのか判らないの」
ナノカは涙を流しながら言った。
「自分が人間だか判らないと悩むなら、それは人間じゃないのか」
 マイクは、再放送で見たアニメのセリフを思い出しながら漢キャラのまま言
った。
「ありがとう。でも、わたしの身体は、やっぱり機械で出来ているの。わた
しは記憶が抜け落ちているの、お父さんの実験の手伝いをしていて、そして次
の瞬間、お父さんの研究室で目が覚めたの。立ち上がって鏡を見たときゾッと
した。わたしの身体は、機械で出来ているのよ。今は、お父さんが私の身体
を、高分子ナノマシンの人造細胞でコーティングして人間の身体を持っている
時と全く同じ姿になったけれど。やっぱり私は機械の身体を持っている。あの
鏡に映った醜い機械の自分を忘れることは出来ない」
ナノカは言った。
 「身体は機械でも心は人間じゃないのか」
 マイクは大分気の毒に思って漢キャラのまま言った。
「そうだと良いのに。本当にそうならいいのに」
ナノカは涙を流しながら言った。
 そして薔薇十字教会聖トマトマ病院の第三病棟の中から、ナノカとマイク
は、出ていって、広大な庭の中を歩いた。
 庭は、噴水が在り、花壇が在って、患者達が、太陽光線の降り注ぐ昼間の陽
の光の中でベンチに座ったり、花壇の花を見ていたり、噴水の周りで語り合っ
たりしていた。
「私はキカイ帝国の出身よ。父親のマッサイ・ニュートロンは、キカイ帝国
の国家超一級科学技術者なの。天才って呼ばれているの。お父さんは私の誇り
よ。あなたは、どこの国の人なの」
ナノカは涙を拭ってマイクを見て言った。
 「俺、アメリカ人ですから」
 マイクは漢キャラのまま言った。
「アメリカって、どこに、ある国なの?私は聞いたことが無い」
ナノカは言った。
「大分、遠いところにある国ですよ」
 マイクは漢キャラのまま言った。
本当にロボットなのか?
 マイクはナノカを見ていて判らなかった。
マイクには、ナノカが人間に思えた。
 とても機械で出来ているとは思えなかったのだ。
外見だけではなく、ロボットではなく人間と話しているように思えた。
ナノカ・ニュートロン、超悩める乙女……。

   第七章 フミナVSマリリア。リターン・マッチの予感。女の争いが再
びぃ!なんか、ほのぼのとしている、マイクとナノカ!

その頃……薔薇十字教会聖トマトマ教会付属病院、院内風紀管理委員会室に
マリリアは呼び出されていた。
パイプ・オルガンが昼の礼拝のミサ曲を奏でる音が響いてきていた。
 この院内風紀管理委員会室には、外の太陽光がステンドグラス越しに入って
くる以外は、何も無かった。
マリリアの師である七十五歳の教導長シスター・エリザスは口を開いた。
「シスター・マリリア。なぜ、患者の付き添い人に手を上げたのですか。こ
のような愚かな暴力事件を起こすとは、あなたらしくありません」
 シスター・エリザスは言った。
 「それは、神なる主と、救世主の再臨を口汚く罵られたからです。邪教の中
の邪教であるハカイ教と一緒にされるとは、私には耐えられる事では在りませ
ん」
 マリリアは苦々しくも思いながら先程の一件を思いだして言った。
「今の時代は、世界が滅びるまで一年を切っているのです。確固たる信仰が
無い一般の人間では、心に生じる迷いや恐怖から、神なる主と救世主を罵る事
も不思議では在りません」
シスター・エリザスは言った。
「ですが、私は神なる主と救世主の再臨を罵られたことは耐えられません。
よりにもよって、魔族達が崇めるハカイ教と一緒にされるような暴言は私には
耐えられません」
マリリアは、自分の苦々しく思っているところを、はっきりと述べた。
 先程の一件は、余りにも不躾で、恥知らずに思えた。久しく忘れていた、苛
立ちという俗世界の感情が、さざ波を立ててマリリアの心を支配していた。
 「あなたの信仰心は、まだ固いのですよ。あなたには、神なる主の恩寵があ
り、その若さで医者になりましたが。神なる主の慈愛を人に与えることは、ま
だまだ出来ないようですね」
シスター・エリザスは言った。
「私は、医者としては、完璧な知識を持っています。多くの人達に、神なる
主の恩寵によって与えられた、医者としての能力で神の慈愛を与えています。
そして何人もの患者達を治してきました」
 マリリアは言った。
「困りましたね、あなたは謙虚さが必要なYES教のシスターでありなが
ら、傲慢さに心が支配されています。それは良くありませんシスター・マリリ
ア。それでは、あなたが、手を上げた、患者マイク・ラブクラウドの付添人フ
ミナ・キョトーを呼び出します」
 シスター・エリザスは言った。
「私は、自分の信仰を守ったと考えます」
 マリリアは、自分の考えを述べた。
「シスター・マリリア。あなたは、それだけの才能が神なる主から与えられ
ているのです。もう少し謙虚になりなさい」
 シスター・エリザスは言った。
しばし時間は過ぎ。午後の一時二十三分。
ビジネス・ホテル「オデンの園」にて。
「ああっ、私って不幸ぉ」
フミナは、「ツブヤケ」のフォロワー達の中には、必ず、聖トマトマ教会付
属病院に不満が在る人間達が少なからず居ると思っていた。だが、現実は逆だ
った。聖トマトマ教会付属病院の評判は、すこぶる良く。フミナに対して、批
判的な言葉が続いていた。
 なんで、インターネットの世界でも、私を認めてくれないの。
 世界なんか、潰れちゃえば良いのに。
のにー。
 のにー……。
 と思ったフミナだった。
ベットの上でゴロゴロ転がっていた。
 だが、世界は本当に、あと三百六十二日で崩壊してしまうのだ。
 フミナは、その時、ハッとして急に気が付いた、世界が崩壊すると、自分も
死んでしまうことに。
 マイク・ラブクラウドと別れて、一人になると、急に、後、三百六十二日で
世界が時空震によって滅びて死ぬことが、恐ろしくなってきた。
フミナは右手で背中のガドの聖なる文字を触った、だが、この、ただのアザ
のような聖なる文字に時空震によって滅び行く、この惑星ジーと宇宙を救う力
が在るとは思えなかった。
 なんで、アイツは、あんなに楽天的なのよ。
 フミナは、怒りが沸いてきた。
 マイク・ラブクラウドは本当に、フミナや風流院カエデ、マリリア・イノー
ル達が持っている十二氏族の聖なる文字に力があると何で信じ切ることが出来
るのだろうか。
 きっとバカだから。
 フミナはそう結論付けた。
 だが、そのバカのせいで、三百六十二日後に世界が滅びるのに、酔狂な、聖
なる文字を持つ娘探しの旅を続けなければならない。
厳しいだけで、見限られている父親の命令のせいで。
 「ああっ、私って不幸ぉ」
フミナは自らの境遇を嘆き、いつもの言葉を涙を流しながら言った。
そしたら、イッチ・フォンに電話が掛かってきた。
「はい、フミナ・キョトーです」
 フミナはビジネス・ホテル「オデンの園」のベッドに寝そべったままイッチ
・フォンを操作して、電話アプリを起動して電話に出た。
「当方は薔薇十字教会聖トマトマ教会付属病院、院内風紀管理委員会です。
当院において、暴力事件が発生した事で、当事者のフミナ・キョトーさんとの
面会を望みます」
電話の内容は意外だった。
「何で判ったのですか」
 フミナは怪訝に思って尋ねた。
 「「ツブヤケ」の投稿を見て当院の医師マリリア・イノールに問い合わせた
ところ。暴力事件を認めました。それで、患者マイク・ラブクラウドの付添人
が、会計の記録から、あなたであることが判明しました」
電話の向こうの声は極めて事務的だった。
 なんだ「ツブヤケ」も結構役に立つじゃない。
 フミナは、世界崩壊の事を忘れて急に元気が出てきた。
 横になったベッドから身体を起こした。
あのマリリア・イノールは、フミナは、何から何まで気に入らなかった。
どうしてもフミナは気に入らなかったのだ。
まず第一に!無神論者のキョトー家に生まれている、フミナにとっては、宗
教は世迷い言であること。それを信じ切っている、マリリア・イノールの人生
が、フミナには考えられないこと。
 次に!顔でフミナは負けていることが判っていた。フミナは自分が、それ
程、マズイ顔でないことは判っていたが。リスカーナと並べられると、どうし
ても大輪の薔薇と道端のペンペン草程度の差に引け目を感じることと。そし
て、マリリア・イノールが、何となく、リスカーナに容貌が似ているように思
えること。
続いて!同じぐらいの年格好で、学歴が拮抗していること。確かにガクモン
国の王立ガクモン大学は魔法では、世界の最高峰であるけれど、医療分野で
は、キトウ国のキトウ医科大学が最高峰であること。どうもマリリア・イノー
ルは、キトウ医科大学を卒業しているように思えること。
 更に!肌のハリとツヤで負けている事。
しこうして!
と、
ドンドンと気に入らないところは、フミナの中で自己増殖を続けていた。
「はい、そうなんです。いきなり殴られたんです。今でも殴られたところが
ズキズキ、グサグサ、ドシドシと痛むんです…」
 フミナは、出来るだけ、被害者を装いながら暗い笑みを浮かべながら言っ
た。
 マリリア・イノールを困らせてやれ。
 と、フミナは、内心クスクスと笑いながら電話で話していた。
フミナ・キョトー。超パラノイア……

   第八章 さらわれたイノール先生と、ついでのフミナ!救出せよ!マイ
クよ今こそ漢になる時だ!でもフミナ助けなくてもいいかもな…

マイクはナノカと一緒に病院の庭を歩いていた。
「私は、お母さんと一緒に、マイクラ姉さんとピコリもキカイ帝国に帰って
欲しかったの。そして、また、お父さんも一緒で、家族全員で過ごしたかった
の。だから、三人を連れ戻すために、お母さんが入院した、このキトウ国の、
薔薇十字教会聖トマトマ病院に来たの。だけど、私は機械だから、人間じゃな
いから、ナノカ・ニュートロンじゃないから。お母さんもマイクラ姉さんもピ
コリも、私を機械のバケモノだって。でも、私は、ナノカ・ニュートロンが人
間の時の記憶を全て持っているのよ」
ナノカは思い詰めた声で言った。
「君は人間だよ、ナノカ」
 マイクは漢キャラのまま言った。
 「ありがとうマイクさん。きっと、あなたは誰にでも優しいのね。こんなロ
ボットの私に優しくしてくれるんだから」
 ナノカは伏し目がちに言った。
「そうでもないさ。相手にもよる」
 フミナは絶対駄目だ。と、マイクは内心、思っていた。ナノカはロボットか
もしれないが、極めて話しやすく。
 人柄の良さが出ていた。
性格が悪いフミナとは大違いだった。
「ありがとう慰めてくれて。私はロボットとして目が覚めてから。人間とし
て扱われていないの。私のキカイ帝国の女友達達も、私が死んだことを知って
いるから。みんな、ロボットだと判っているから。お父さんだけが、いつもと
変わりがないの」
ナノカは憂いを含んだ瞳に涙を浮かべた。
綺麗じゃないか。
 ナノカの横顔を見ながらマイクは思った。
ナノカの、どこがロボットなんだ。
 マイクは、ナノカの母親と姉妹達に怒りを覚えていた。
「俺は、君が人間だと、知っているよ」
 マイクは漢キャラのまま言った。
「でも私はロボットだから。機械で出来ているから」
 ナノカは涙を流しながら言った。
「ナノカ。君には泣き顔を似合わない。君には笑顔こそが相応しい」
 マイクは、漢キャラのまま言った。
 ナノカは笑い出した。
 「マイクさん、ちょっと格好つけ過ぎよ」
 ナノカは、涙を拭いながら、笑顔で言った。
 「そうかな。でもナノカ。君の笑顔は、ステキだよ」
 マイクは漢キャラのまま言った。
 「ありがとうマイクさん」
 ナノカは、笑顔のまま軽く頭を下げて言った。
無茶苦茶可愛いぞ!
その笑顔の可愛らしさにマイクは思わず、ときめいてしまった。
その頃…
 「さあ、シスター・マリリア。自分の不始末は自分の信仰の力で解決するの
です。あなたなら出来ますよ。神なる主の加護が在ります」
 教導長シスター・エリザスは、そう言うと、
部屋から出ていった。
 入れ替わるようにフミナ・キョトーが入ってきた。
マリリアは、フミナ・キョトーが院内風紀管理委員会室入ってきたのを見
て、心に、さざ波が立った。
 苛立ちの感情がマリリアの心の平穏を掻き乱していた。
フミナの方は余裕綽々だった。
 マリリア・イノールは、きっと、聖トマトマ教会付属薔薇十字教会付属病院
の偉い人間達に、こってりと油を絞られたに違いない。
 その結果。
 マリリア・イノールはフミナに下手に出てこざるを得なくなる。
そうなれば、フミナは徹底的に強気に出るつもりだった。
マリリア・イノールはフミナが近づいてくると話し始めた。
「フミナ・キョトーさん。当院の医者として、患者の付添人の、あなたに暴
力を振るったことを謝罪します」
 案の定、マリリア・イノールは、下手に出てきた。
ほらほら、やっぱり「ツブヤケ」も役に立つじゃない。
 「そんなんで、済むと思うの?私は、思いっきり殴られたのよ。あなたの怪
力で殴られて、顎がガクガクと、歯の根がフラフラと頼りなくて、総入れ歯に
しなくちゃ不味いような状態なのよ」
 フミナは、大分誇張して、マリリア・イノールに言った。
「なんで顎がガクガクの状態で喋られるのですか」
 マリリア・イノールは医者らしく。フミナの仮病を素早く見抜いて言った。
その頭脳プレーは、フミナのカンに障った。
 なんてムカツク女のわけ?
「それは、それよ。とにかく私は被害者なのよ。そこの所判っているの。あ
なた、全然判っていないでしょ。わたしは、病人の付き添いで来たのに、あな
たは医者として最低のことをやったのよ。大体、人を治す医者が何で暴力振る
うわけ?」
フミナは強気で行った。
「それは、神なる主と救世主の復活を信じるYES教を邪悪な魔族達が崇め
るハカイ教
と一緒にされたからです。私には耐えられる事では在りません。だから思わず
手が出てしまいました」
 マリリア・イノールは渋々認めるように言った。
「そこの所が変じゃないの?YES教の修道女は、もっと謙虚なんじゃない
の。あなたは、YES教の修道女としては、かなりレベルが低いんじゃない
の」
 フミナはネチネチと、マリリアに言った。
 「私は、自分の出来る範囲で、YES教の修道女として誠実に生きていま
す」
マリリア・イノールは言った。
 「口だけでは駄目なのよ。あなたは、私を殴ったのよ。そこの所、判ってい
るの」
フミナは強気で言った。
マリリアはフミナ・キョトーと話していて、イライラが募ってきた。
なぜ、こんなに執拗に文句を言ってくるのか理解が出来なかった。
 マリリアは、ちゃんと謝罪したのに。
 「なぜ、私に、そうも突っかかるのでしょうか」
マリリアはフミナ・キョトーに言った。
 「突っかかっている?どこが?私は、ただ、あなたが暴力を振るったことが
悪いと言っているのよ。そして、あなたは、私に心のこもった謝罪をしていな
いから」
 フミナ・キョトーは言った。
 マリリアはフト気が付いた。
 「そういえば、診療室で私に、自分の事を認めなさいと言っていましたね。
それが原因ですか」
 マリリアは言った。
 「そんなこと言ってないわよ」
 フミナ・キョトーは狼狽えた声で言った。
マリリアは、やはり、そうかと思った。
 「そうですか。どうやら、あなたは、自分のコンプレックスを私にぶつけて
いるのですね」
 マリリアは気が付いて言った。
 フミナ・キョトーの顔から血の気が引いていって真っ青になった。
 「どうして、私が、コンプレックスを持っているのよ。私は、16歳でガク
モン王立大学の魔法科の封印術の准教授なのよ。どうして、こんな恵まれてい
る私がコンプレックスを持っているのよ」
 フミナ・キョトーは、青ざめた顔のまま言った。
 「そういえば、ガクモン国、出身の勇者パーティーの女賢者リスカーナ・キ
ョトーと同じ姓ですね。もしかして、親類なのですか」
マリリア・イノールは言った。
 フミナ・キョトーの口は、わなないていた。
「それがどうしたのよ!」
フミナ・キョトーは怒鳴るように言った。
「優秀な女賢者リスカーナ・キョトーの親族であることにコンプレックスが
在るのでは」
 マリリアは、推理して言った。
 フミナは、マリリア・イノールに図星を突かれた。
余裕綽々だったフミナの精神的な優位は脆くも瓦解した。
「それが、どうしたのよ!そんなことなんか、どうでもいいでしょ!大体な
んで、あなたに、私の家庭の事情をとやかく言われなければならないのよ!」
 フミナは叫んだ。
 「女賢者リスカーナ・キョトーが家族なのですか。つまり年齢からすると、
あなたは、リスカーナ・キョトーの妹」
 マリリア・イノールは、フミナの言葉から、的確に、フミナとリスカーナの
繋がりを推理した。
 「それが、どうしたのよ!」
 フミナは生まれて初めて猛烈な怒りが込み上げてきて、押さえが効かなかっ
た。
 「つまり、あなたは、姉のリスカーナ・キョトーにコンプレックスを持って
いる」
 マリリア・イノールは言ってはイケナイ事をフミナに言ってしまった。
 その言葉が耳に入って理解した瞬間。フミナは、怒りが臨界点を突破した。
 「よくも言ったわね!」
 そして考えている風なマリリア・イノールに向かって、ビンタを放った。
パチン!
 と音がして、フミナ右手は、マリリア・イノールの左頬をはたいた。
 マリリア・イノールは、気が付いたようにフミナを見た。
 それも険しい目で。
 「たかが、姉への嫉妬心という邪な感情に口を任せて、YES教の神なる主
と救世主をハカイ教と一緒にするような暴言を言ったのですか」
 マリリア・イノールは険しい目でフミナを見て言った。
 「YES教なんかどうでも良いでしょ。ただの人間が作った宗教なんだか
ら!」
 フミナは睨み付けるマリリアに向かって叫んだ。
 「言語道断です」
 マリリア・イノールはフミナにビンタを張った。
 「よくも、ぶったわね!1日に二度も!」
 フミナは、マリリア・イノールの頬をビンタで殴ろうとした。だが、マリリ
ア・イノールはフミナのビンタを受け止めた。
 「今度は、あなたが先に手を出したのですよ。姉に対する嫉妬心を私に見破
られて」
マリリア・イノールはキツイ顔で言った。
 「何度も言うなんて!」
 フミナは、涙目になってマリリア・イノールに飛びかかっていった。
 マリリアはフミナ・キョトーにタックルされて倒れた。
 「何するんですか!」
 マリリアは、フミナに叫んだ。
 「許せない!許せない!私の一番の秘密を知ったなんて!許せないモノは許
せないんだから!」
 そしてマリリアにグーパンチを何度も打ち込んできた。
「そんな下らない事の何処が秘密なんですか!」
 マリリアは、フミナ・キョトーのグーパンチを掴んで引っ張った。
 フミナ・キョトーはマリリアに馬乗りになった姿勢から、あっけなく、ひっ
くり返った。 今度はマリリアが、フミナの上に馬乗りになった。
 「姉への嫉妬など下らない事です。もっと前向きに生きなさい」
 マリリアは、フミナ・キョトーに説教した。
そして人差し指でフミナ・キョトーの眉間を何度突いた。
 「よくも偉そうな口を利いて!自分だけ綺麗な場所に!高いところに居よう
として!」
 フミナ・キョトーは、マリリアが馬乗りになった姿勢の下から、両手を伸ば
して、マリリアの、首を絞めようとした。
 「何するんですか」
マリリアは驚いて両手でフミナ・キョトーの手を押さえた。
「殺してやる!私の秘密を知った人間は生かして、おけないんだから!」
フミナ・キョトーは、マリリアの首を絞めようとしながら言った。
 「私は、神なる主に、この身を捧げているのです!あなたなんか殺される訳
には行きません!まだ、救うべき、沢山の患者達が私には居るのです!」 
マリリアは言った。
 「殺してやる!」
 フミナ・キョトーはマリリアの首を絞めようとしながら言った。
 その時、突然壁が崩れる音がした。
 何なの?フミナは、物凄い音に驚いて、壁の方を見た。
 マリリア・イノールの動きも止まって壁の方を見た。
 「何者ですか」
 マリリアは、壁を破壊した怪力を見て言った。
 フミナもマリリアの首を絞めようとしていた手を引っ込めた。
 何か異様な感じだった。
 突然壁が崩れるなど、怪事にも程が在った。
「私は不死王キュラド様の配下、死魔十傑マミー・ミーラ」
全身に白い包帯を巻いた上から黒とピンクの革のミニスカートとビスチェの
服を着たミイラ女が言った。
 ミイラの割には、胸が乾涸らびていなくて、妙に大きいことが、フミナには
不自然に思えた。だが、所々、包帯から出ている肌は乾涸らびていなくて、全
体的には、全身に包帯巻いている、髪を金色に赤いメッシュで染めた水商売の
女性のような感じだった。
そして凄くケバケバしい化粧をした顔が包帯から出ていた。左目は包帯で覆
われていた。
 ただ金色のハイヒールのヒールが高くて、フミナには到底履いて歩けないよ
うな十p以上在るようなヒールだった。
 「病院の中に不死属のモンスターが?この病院は、高度な魔よけの力が働い
ているはず。魔族や、モンスターは入れないはずです。いえ、入ってきたら判
るはずです」
マリリアはフミナを押しのけて立ち上がって言った。
マミー・ミーラは、笑いを上げた。
「魔族が入れないなら、人間が入ればいいのさ、ハカイ教の信者なら、簡単
に、この薔薇十字教会聖トマトマ病院に入って、魔族封じの結界を破壊できる
んだよ。頭を使いな」
マミー・ミーラは自分のソバージュが、かかった髪の毛を指で指して言っ
た。
「人間を騙して居るのですね」
 マリリアは言った。
 「騙しているわけじゃないさ。ただ、ハカイ教の信者の人間達は、自分から
勝手に、魔族と共に人類抹殺に心血を注いでいるのさ。人類抹殺の最後には、
自分達も殺されることに気がつかずにだがね。頭を使いな」
マミー・ミーラは言った。
「なんと邪悪な。哀れな人間達を利用して、騙して道具にしようとは。断じ
て許せません」
 マリリアは言った。そして首に鎖で掛けた、YES教の十字架を取り外し
た。
「ほう、何をするつもりだい」
マミー・ミーラは言った。
 「不浄なる不死族の魔族よ!偉大なる神なる主と救世主の名によって命じ
る!土に還れ!不死者還元陣(ターン・アンデット)!」
 マリリアはマミー・ミーラに向かって不死者還元陣(ターン・アンデット)
をかけた。
マミー・ミーラは、腕を組んだまま見ていた。
 何も起きなかった。
 「何よ!何もおきないじゃない!」
 フミナ・キョトーは叫んだ。
マリリア動揺していた。
まさか、この私の不死者還元陣(ターン・アンデット)が破られた!
 神なる主の恩寵が人一倍ある、この私が!
「効かないね。お前程度の信仰心では、このマミー・ミーラに不死者還元陣
(ターン・アンデット)を仕掛けても、意味はないよ」
 マミー・ミーラは首筋を掻きながら言った。
「私の絶対信仰心が敗れた…神なる主の恩寵が人一倍ある私が…」
 マリリアは、十字架を持ったまま呆然としていた。
「やっぱりヤブだから!私がやってやる」
 フミナは立ち上がると封印術の印を結び始めた。
「封印の結界!第89!石柱の組み箱!」
 フミナは、封印術を使って、マミー・ミーラを捕まえようとした。
 素材の石畳が格子状の箱へと変化して、マミー・ミーラを覆った。
 いける?
 フミナは、半信半疑で、封印術が、成功したか自信が持てなかった。
床の石が変形して、組み箱となり、マミー・ミーラの全身を覆っていた。普
通なら、ここでフミナの封印術は成功している筈だった。だが、ドスン、ドス
ンと音がしていた。
 何が起きているの。
 石柱の組み箱にヒビが入り始めた。
 そして、ひび割れはドンドンと大きくなり、
石柱の組み箱は、崩壊した。
 「どうやって、私の封印術を破ったの。術は成功したはずなのに」
 フミナは、崩れ落ちた、石柱の中に、たたずむ、マミー・ミーラを見ながら
言った。
「難しい事じゃない。殴って、破壊したのさ。頭を使いな」
 マミー・ミーラは言った。
殴って、石柱の組み箱を破壊したマミー・ミーラに、頭を使えと言われるの
は心外だった。
だが、原理的には、フミナが行った封印術の石柱の組み箱は、材料の石がフ
ミナの封印術の力で強化されており、そう簡単に、壊れる筈はなかったのだ。
 恐るべき怪力。
 これが魔族の力なの。
 フミナは、生唾を飲み込んだ。
人類が太古から戦ってきた魔族。その強さをフミナは目の当たりにした。
そしてフミナの足は小刻みに震え始めた。
怖い!
 フミナは、恐怖を感じた。
 「バンデージ・バイン!」
マミー・ミーラの全身から、包帯が波を打って、四方八方へと弾けるように
飛び出した。そしてフミナは呆然としているマリリア・イノールと共に捕まっ
た。
そして人間がやって来て、フミナとマリリア・イノールをデジカメで写し
た。
口に包帯で猿ぐつわが掛かって、マミー・ミーラが呼び出した人間達が運ん
できた棺の中に入れられた。
真っ暗な中で、フミナは、恐怖に駆られていたが。身動きは出来なかった。
その頃……。
マイクはナノカと、病院の中庭で、話していた。
 ナノカの人柄の良さが話せば話すほど、明らかになってきた。
マイクとナノカは、料理の話をしていた。
ナノカは、子供の頃、料理が下手で、一生懸命努力して、フライパン返し
や、魚の三枚下ろしが出来るようになった事を話していた。
「……私は、子供の頃、テレビの料理ショーで、今は終わったんですけれ
ど、「ミスター・フフーのチャイカ料理教室」という番組を観れば、チャイカ
料理が出来るようになると思っていたんですけれど。チャイカ料理は難しいん
ですよ」
その時、風船を持ったピエロが、パントマイムをしながらマイクと、ナノカ
に近づいてきた。
 「何か用ですか」
マイクは、病院が患者のリハビリで呼んだピエロかと思った。
「はい、そうです。用があります」
 ピエロは、風船を持った、腕の脇に挟んだ、小包を、パントマイムをしてい
た右腕で取り出して。マイクに向かって近づいてきた。
そしてパントマイムをしながら、マイクとナリカに近づいてきた。
 そして化粧をした顔をプルプルと振って言った。
「ここまで来い。と、言うわけです」
ピエロはパント・マイムをしながら小包ををマイクに渡した。
マイクは、小包を見た。
奇怪な紋章が描かれていた。
 「マイクさん。これは、不死属の紋章です。このピエロの方は、もしや…」
 ナノカは言った。
マイクは、小包を開けた。
 中には十インチぐらいのタブレット型の端末が入っていた。そして、そこに
は、イノール先生とフミナが包帯で縛られている画像が写っていた。
フミナは、いつも着ている白いダボダボした服の上から縛られて、そして眼
鏡が左の方に、ずり下がっていた。
イノール先生も黒い修道服の上から包帯でぐるぐると縛られていた。
 「マイクさん、これは、一体」
ナノカは言った。
 「イノール先生は、俺の病気の先生だ。フミナは、オマケだ」
マイクは言った。
「この二人は現在捕まっています」
 ピエロは言った。 
「お前は一体何者だ」
マイクは言った。
 「ただのゾンビですよ」
 ピエロは言った。
 首が、ぐるりと一回転して。もげて落ちた。そして、風船を持った手が外れ
て、風船が飛んでいった。
 そして地面に落ちた首はニヤニヤと笑っていた。
 「その、画像ファィルには続きがある。この二人は、キトウ国の首都、聖ト
マトマの郊外、セント・マッシュの郊外ショッピング・モール、「ドラマチッ
ク・タウン」に居る。そこまでの地図が記されている」
 マイクは、タブレット型の端末を操作した。セント・マッシュの地図が現れ
た。マイクは二本指で「ドラマチック・タウン」を拡大した。
そこに一際巨大な建物があり、オサイフ・マートと書かれていた。
「オサイフ・マートにイノール先生とフミナが居るんだな」
マイクは言った。
 「その通り。そこまで一人で来い、誰にも言うなよ、言うとコノ二人の命の
保証はしないからな。ケ・ケ・ケ・ケ・ケ……」
 そしてピエロの身体は、崩れ落ちた。
 そして骨に変わり。
 骨は急速に朽ち果てて砂へと変わっていった。
「これは、不死属の魔族です」
 ナノカは言った。
 「これが魔族か。今まで見たことがないタイプだ」
 マイクは言った。
「マイクさん、車椅子が必要な重い病気なのに。魔族と戦うのですか」
 ナノカは心配そうな顔をして言った。
 「ああ」
マイクは漢キャラのまま言った。
X流の発動法で一時的に動けるかもしれないから、それに賭けることにして
いた。イノール先生が処方した薬は効いているようだった。
「わたし着いていきます」
 ナノカは意を決したように言った。
「魔族は俺一人で来いと言った。君が来たら、イノール先生とフミナの命が
危険にさらされてしまう。何よりも君が危ないよナノカ」
マイクは漢キャラのまま言った。
 「マイクさん。でも、わたしはロボットだから、もう既に死んでいるから」
 ナノカは両手の震える握り拳を胸に当てながら言った。
「君は人間だよナノカ。だから、自分を大切にするんだ」
 マイクは漢キャラのまま言った。
「わたしは、ロボットの、わたしを人間として扱ってくれるマイクさんを魔
族に殺されたくないのです。だから、着いて行かせて下さい」
 ナノカは、マイクに言った。
「ナノカ…」
マイクはホロリと来て、ナノカを見た。
「マイクさん。わたしは、止められても着いていきますよ」
 ナノカは笑顔で言った。
「ナノカ、それならば、セント・マッシュの郊外にある、ショッピング・モ
ール、「ドラマチック・タウン」の入口まで、俺の車椅子での移動を手伝って
くれ。そこから先は俺一人で行く。そうしなければ、二人の命が危ない」
マイクは漢キャラのまま言った。
 「判りました」
 ナノカは頷いた。
 なぜ魔族が、イノール先生とフミナをさらったのかマイクは判らなかった。

   第九章 不死王キュラドの策略。

マリリアとフミナ・キョトーは、暫くの間棺の中に居ると、外に連れ出され
た。どうやら車、それもトラックから降りたようだった。
 マミー・ミーラは、マリリアとフミナ・キョトーを包帯で縛っていた。そし
てマリリアと、フミナ・キョトーは、倉庫の中のような場所をマミー・ミーラ
に引きずられるようにして歩いていた。段ボール箱や、台車が沢山あって、様
々な商品が置いてあった。
 だが、働いている筈の、従業員達は、皆動きを止めて立っていた。
 そして階段を昇って店長室と書かれた。場所にやって来た。
 マミー・ミーラはノックして言った。
「連れてきました」
 「入れ」
 男の子供の声がした。
マミー・ミーラに引きずられて中に入るとLEDの照明が灯っていた。
 そして、黒いマントを羽織った小柄な黒髪の人物が背中を向けて居た。
 マリリアの口を押さえていた、マミー・ミーラの包帯が、ほどけた。
「あなたは一体何者ですか。偽りの命を持った、神に仇為す不死属のモンス
ターを操るとは」
マリリア・イノールは言った。
後ろを向いていた、黒いマントの子供は、前を向いた。
 「私の名前は、不死王キュラド」
十歳ぐらいの美少年は病的に赤い唇に酷薄そうな笑みを浮かべて言った。
不死王キュラドは魔皇帝ネロの六魔王の一人だった。
そう言えば。指名手配として、警察の、賞金首リストで見た記憶があった。
その金額は、なんと二十兆ゼニール(一千億ドル)!
フミナの顔から超高速で血の気が引いていった。
 「御免なさい許して」
 フミナは、恐怖の、あまり頭を下げて命乞いを開始した。
 「何、魔族に頭を下げているのですか。しっかり気を持ちなさい」
 マリリア・イノールは、怒った顔でフミナを叱咤した。その気丈さがフミナ
には信じられなかった。
「魔族の中でも最高クラスの不死王じゃないのぉ。少しでも機嫌を損ねたら
殺されるじゃないのぉ」
 フミナは弱音を吐き、泣き言を言った。
 「魔族と戦うことは、人類の使命です!その魔族に屈してどうするのです
か!」
 マリリア・イノールは言った。
「だって、1秒後に直ぐに殺されるのと、十分後に殺されるなら、十分後の
方が長生きできて良いじゃない。なんで、あなたは、そんな簡単な事に気が付
かないのよ」
 フミナはマリリアに言った。
「それは、下らない計算です。打算です。無意味で、姑息で卑怯な狡賢い、
身勝手な保身行為です」
マリリアはフミナに冷たく言った。
 「そこまで言う必要ないじゃないの。そう言うのをボロクソに言うって言う
のよ」
 フミナは言った。
「幾らでも言います。人類が魔族に屈してはいけないのです」
 マリリアは言った。
「こんな事言っている。ついていけないよ。話しが噛み合わないよぉ。ああ
っ、私って不幸ぉ」
 フミナは涙目になりながら、目がキラキラと輝いているマリリアの使命感に
満ちた瞳から目を逸らして言った。
マリリアは、フミナ・キョトーを腹立たしく思った。この、フミナ・キョト
ーと一緒にいると、今までのYES教の修道女生活で培ってきた。心の静穏さ
が激しく掻き乱された。
こんな利己的で自分勝手な人間が世の中に居るとはマリリアには信じられなか
った。
 「なぜ、私達を、さらったのですか」
マリリアは言った。
「ふふふふふふ。聞きたいか」
 不死王キュラドは言った。
 「当然です。私達には、理由を聞く権利が在ります」
 マリリアは胸を張って毅然として、不死王キュラドの邪気に逆らうように言
った。
 「じゃ教えない」
 不死王キュラドは言った。
マリリアはガクッと来た。
「何ですか、そのバカにしたような態度は」
マリリアは久しく忘れていた怒りの感情が心の奥底で火を吹いていた。
 確かに、人間を皆殺しにすることが使命の魔族達なら、マリリア達を、どの
ように扱ってもおかしくはなかった。だが、フミナ・キョトーのせいで、かき
回されて、心の静穏さが乱れている状態のマリリアは怒りの感情が火を吹き始
めていた。
「お前達をバカにしているから、バカにしたのだ。この不死王キュラドが、
たかが人間風情相手に、まともに応対する必要が在るとは思うのか」
 不死王キュラドは言った。
「それは、そうですよね。不死王キュラド様ともあろう御方が、たかが人間
風情など相手にしませんよね」
 フミナ・キョトーは、媚びを売り始めた。
その、あまりの姑息さにマリリアは言葉を失った。
「お前達には、原則的に何の価値もない」
 不死王キュラドは言った。
 「それなら、お願いだから、命を助けて下さい。何でもしますから」
 フミナ・キョトーは涙声で言った。
 そのフミナ・キョトーをバカにした顔で見ながら不死王キュラドは続けた。
「だが応用的には価値がある。厄災の天命星を、誘き寄せる、釣り餌になる
のだ」
不死王キュラドは言った。
「厄災の天命星とは一体、何ですか」
 マリリアは、聞き慣れない言葉を聞いて、不死王キュラドに質問した。
 「お前達は釣り餌だから、余計な事は知る必要はない」
不死王キュラドは言った。
「釣り餌の役割が済んだら、黙って解放してくれるんですよね?不死王キュ
ラド様?。ただの釣り餌ですから。何の価値もないから、そのまま放っておい
てくれるんですよね」
 フミナは言った。
 全身から、命だけは助けてと心の中で言っている気配をマリリアはフミナ・
キョトーから感じだ。
「お前達に、話す事は面倒だが。いま。気が変わった。だから教えてやろ
う」
不死王キュラドは言った。
 そして、指をパチンと鳴らすと、床から骨で作られた、フレームの八十イン
チぐらいある薄型テレビが現れた。髑髏が一番上についていて、二本の角のよ
うな形をしたアンテナが髑髏の頭から生えていた。
 そして、テレビは、ひとりでに映った。パソコンかもしれなかった。
「これが、厄災の天命星だ」
不死王キュラドは言った。
 「うげっ」
 フミナはテレビに映し出された、電動車椅子に乗ったマイク・ラブクラウド
を見た。
「私の患者です」
 マリリア・イノールは言った。
 よく見ると、車椅子姿のマイク・ラブクラウドの横には、青い服を着たピン
ク色の髪の少女が居た。容姿端麗で、フミナの敵愾心を逆撫でた。
 誰なの?
 フミナは、不思議に思った。
 マイク・ラブクラウドの主張では、ごく最近、この世界に来たらしいのだか
ら、知り合いが居るのがおかしかった。そもそも何で、キトウ国に知り合いが
居るのか判らなかった。
 嘘をついていた?
 なぜ、世界の崩壊を救えるなどと言う嘘をつくのか、フミナは判らなかっ
た。 
「これが厄災の天命星だ」
不死王キュラドは言った。
「この人は、ただの病人です」
 マリリアは言った。
 「ただの病人かもしれないが、厄災の天命星であることも事実だ」
 不死王キュラドは言った。
なんで、マイク・ラブクラウドのせいで、よりにもよって、六魔王の一人、
不死王キュラドにさらわれるのよ!
 フミナは恐怖に打ち震えながらも、怒りが込み上げてきていた。

第十章 疑惑の「ドラマチック・タウン」

 セント・マッシュの郊外にある、ショッピング・モール、「ドラマチック・
タウン」にマイクとナノカはセント・マッシュ鉄道に乗ってやって来た。運賃
はナノカが払ってくれた。
 もう夕方の四時だった。大型のバスがウラウラ駅から「ドラマチック・タウ
ン」へと出ていた。有料のバスには車椅子用のリフトが付いていた。
 マイクは、ナノカと一緒に送迎バスに乗った。
そして賑やかな買い物客達が一緒だった。
 「こうしていると、時空震が来るまで、あと、三百六十二日だとは思えない
な」
 マイクは呟くように言った。
 「大丈夫です。偉大なる神なる主が、時空震を食い止めてくれます」
 突然、白髪の男性が言った。
「そうです皆さん、神なる主を讃える賛美歌を歌いましょう」
突然、子供を連れた若い母親が言った。
 そしてバスの中で合唱が始まった。
「やっぱり、キトウ国は、YES教の信者が多いのですね」
 ナノカは言った。
 「そうか、YES教は、このキトウ国では盛んなのか」
マイクは言った。
 「そうです。キトウ国は、YES教の薔薇十字教会の国ですから。そして世
界で一番有名な病院が薔薇十字教会の聖トマトマ教会付属病院ですよ」
ナノカは不思議そう顔をしてマイクに言った。
 「あなた達は、YES教の信者では無いのですか」
 隣りに座っていた。白髪の男性が言った。
「違います」
 マイクは言った。マイクは自分の宗教とYES教が同じであるか自信が持て
なかった。
 「私も違います」


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