心の詩 第二篇心を澄ませて心の声を聞けば 山田 夢幻
今まで粗筋。
ポテトタウンに住む、マイク・ラブクラウドは、神なる主から試練が与えら れ異世界を救うことを任される。そしてマイクは、ガクモン国で魔族と間違え られて、異端審問に掛けられる。その審議の最中に、世界が時空震よって、あ と三百六十五日で滅びることが明らかになる。そして、マイクは、十二氏族の ガドの名前を背中に持つフミナ・キョトーと共に、ブドー国を目指す。その途 中の飛行機で魔族が襲ってくるが、X流のマスターXによって魔族は撃退され る。そしてブドー国で、勇者パーティに会った後、マイクは、3日でX流を身 につけ闘技場に参加する。そして決勝の相手は、ベニヤミンの聖なる文字を持 つカエデだった。だが、魔族がブドー国に来襲し、マイクは他の聖なる文字を 持つ娘達を捜すために、ブドー国からフミナの運転するランドクルーザーで脱 出する。
第一章、深夜のハイウェイ!大陸横断高速鉄道BCGに乗れ!マイクに 異変が!
フミナは、ランド・クルーザーのハンドルを握っていた。隣の助手席でマイ ク・ラブクラウドは大人しくしていた。どうやら眠っているようだった。ラン ド・クルーザーのカーナビを使って、渋滞情報を調べてみた。どうやら、ハイ ウェイに入っても渋滞に巻き込まれないようだった。 本当にバカなのね。 マイク・ラブクラウドをチラッと見てフミナは思った。格闘技修得3日目 で、世界中から強豪が集まる、ブドーの闘技場にCクラスとはいえ出るとは。 そして、決勝まで勝ち進むとは、余りにも、異常な話だった。本当に、マイク ・ラブクラウドは神なる主に導かれているのだろうか、と、フミナは思った。 そして、それは、十二氏族のガドの聖なる文字を背中に持った自分も同じだっ た。マイク・ラブクラウドとの出会い。そして、マイク・ラブクラウドと、風 流院カエデの出会い。全ては、何等かの意味が在るのだろうか。と、フミナは 思っていた。それにしても、これから、アクトク国へ行くとは。フミナは、考 えて、ゾッとしていた。アクトク国は、悪名高い、場所だった。 そんな場所に行くとはマイク・ラブクラウドは本当に、何も知らないらし い。この世界に生まれて、アクトク国やテイカン国、ハカイ国へ自分から行く なんて、よっぽどの馬鹿者でなければ思いつかないことだった。 そして、深夜のハイウェィに出た、フミナは、道から飛び出してくるモンス ターに注意しながら、クルームを目指して運転していった。 グンカク国は、国連の常任理事国だったが。勝手に国連の決議を経ずしてブ ドーの首都イッポンに対して、空爆を開始してしまった。 これは、どうなるのか。確かに魔族の大雪崩を止めるためには、空爆が必要と は思えるのだが。だが、あの大量の爆撃機で空爆された、ブドー国の再建は難 しいことは間違いなかった。だが、あと一年で。正確には三百六十三日で、こ の世界がある時空は時空震によって崩壊してしまうのだ。そして、もうすぐ、 世界崩壊まで三百六十二日になろうとしている。 この現実は重かった。ソレなのに、このマイク・ラブクラウドは、X流の道着 を着て、助手席でぐーすかと、呑気に太平楽な感じで、いびきをかいて眠って いる。なんで、こんな男と一緒に、十二氏族の聖なる文字を持った娘達を捜し て集めなければならないの。 「ああっ、私って不幸ぉ」 フミナは、いつもの口癖を涙目になりながら言った。そして運転に邪魔にな らないように、白いハンカチで、涙を拭った。 そして、カーナビに頼りながらクルームを目指して夜のハイウェイを走って いた。そしてクルームから高速鉄道BCGに乗ることを決めていたが。空路を 取ることが安全なのか判らなかった。だが、また、魔族が、襲ってきたら不味 いことは間違いなかったのだが。今度はマスターXは居ないのだし。フミナ は、どうやってアクトク国へ行くのか迷っていた。 やはり、空路は魔族が現れた場合危険だった。 だから、高速鉄道BCGに乗って陸路で、アクトク国を目指すのが良いのか迷 っていた。 どうするべきか。 フミナは考えながらハンドルを操作していた。 「おい」 変な声が隣からした。 「何よ。今考え事しているのよ」 フミナは言った。 「身体が痛くて動けないんだよ」 マイク・ラブクラウドは弱々しい声で言った。 「一体どうしたの」 フミナは怪訝に思って聞いた。 「判らない。なんか。身体中が痛くて、どうしようも無いんだ発動法を、や っても調子が良くならないんだよ」 マイク・ラブクラウドは言った。 「私は格闘家のソウル操法には詳しくないけれど、たった3日で、ブドーの Cクラス闘技場の決勝戦まで進める方が、おかしいのよ。常識的に考えれば身 体に無理が来たんじゃないの」 フミナは冷たく言った。 「ブドーの首都イッポンを出て車に乗ってウトウトしていたら、急に体中が 痛みだして全身が筋肉痛にかかったらしいんだ」 マイク・ラブクラウドは言った。 「そりゃ、そうでしょ。急にソウル操法を身につけられる筈なんか無いの よ。どこかに無理が来て当然よ」 フミナは言った。 「このまま病院にでも行った方が良いぞ。だが、ソウルが原因で起きた病気 の手当などできるのか?」 マイク・ラブクラウドは言った。 「出来るわよ。ソウル治療科も在るんだから。そんな事を何で知らないの」 フミナは怪訝に思って聞いた。このマイク・ラブクラウドは、常識的な事を 知らない割には、パソコンやバイクの事を知っているのだ。本当に何処の人間 だか判らなかった。 「知らない物は知らないんだよ。病院にいけるのなら行くぞ。オレは、この ままでは全然動けん」 マイク・ラブクラウドは言った。 「しょうがないわね。カーナビで、病院を探すから。イッチ・フォンで緊急 搬送をしている病院を探した方が良いかな。でもクルームの近くまで、このま ま、百五十キロで飛ばして行くからね」 フミナは言った。 「頼む。身体の調子が異常に悪化している」 マイク・ラブクラウドは言った。 そしてフミナの運転するランド・クルーザーは、クルームへと向けて深夜の ハイウェイを走っていった。 第二章 クルーム到着!病院に搬送されるマイク!集中治療室へGO!
マイクは、フミナの運転する、ランド・クルーザーに乗って身体が動かない まま、クルームの聖ルカロカ病院の敷地内に入っていった。救急車が止まるは ずの、非常口から看護士達が出てきて、マイクは、車輪の付いた金属製のスト レッチャーにくくりつけられて。集中治療室の中に入っていった。 マイクは、点滴を打たれて、黒い肌のターバンを着けた、白衣の男性の医者 に針を打たれた。 「君は、急激にコアを使ったね。ソウルの流れが、おかしくなっているのは コアに異常が起きているからだ」 医者は針を打つと。ソウル操法をやって、マイクにソウルを送り始めた。 マイクの身体が少し、落ち着いてきた。だが全身の痛みは引かなかった。 「全身が、筋肉痛になっているようですが。オレ、どうしたんでしょうか」 マイクは全身が痛くて言った。 「それは、ソウルを急に通して動かすと、そうなる。筋肉がソウルと同化し きっていない状態は危険だ。君は、急にソウル操法を習ったのかね。何ヶ月ぐ らい掛けたのかね」 医者は言った。 「3日前に」 マイクは言った。 「3日で?ウソを言ってはダメだよ。ソウル操法で、この様な反応が出るの は、最低でも一ヶ月ぐらいの鍛錬が必要だ。確かに君のソウルの流れは良いク オリティを持っているが。今はコアの状態が悪化している」 医者は言った。 「病名は何でしょうか」 マイクは、取りあえず、自分の病気が、どんな病気か知りたくて聞いた。 「後天性コア機能梗塞だな」 医者は言った。 「よく判らないんですけれど。これから、どうすれば良いのでしょうか」 マイクは聞いた。 「それは、コアの機能梗塞を回復させていくしかない」 医者は言った。 「オレ、大分深刻な重要な用事があるんですけれど直ぐに回復は出来ないの でしょうか」 マイクは言った。 「私がソウルをコアに針を通して注入したから、介助付きで歩くぐらいに は、明日までには回復するだろう。だが、全身の力が抜けてしまうため、まと もに動くことは当分の間できないぞ。無理をしないで、リハビリに努めるん だ」 医者は言った。 「オレ、これから重要な用事があるんですよ。出来るだけ早く回復したいん です」 マイクは自分の手を動かしながら言った。 やはり、どうも勝手が違う感じだった。 「キトウ国の薔薇十字教会の聖トマトマ教会付属病院に行けば、ソウル治療 の専門であるソウル科の高度な治療が本格的に受けられる。このクルームに止 まる高速鉄道BCGに乗ればキトウ国へ行けるんだ。車でも行けるが、ハイウ ェイはモンスター対策で、時々、閉鎖することにもなる」 医者は言った。 「それでは、オレは、キトウ国へ行けば良いんですか。オレはアクトク国へ 行く予定なんですが」 マイクは言った。 「アクトク国?そんな国に、コアの機能梗塞の状態で行くことは無謀だ。完 全に治ってから行きなさい」 医者は言った。 「それでも出来るだけ早く行った方が良いと思うんですよ」 マイクは言った。 「付き添いの方に相談しましょう」 医者は言った。 フミナは、ターバンを巻いた医者が集中治療室から出てきたのを見た。 「あなたが、あの少年の連れですね。X流の道着を着ているところを見る と、格闘家ですか」 医者は言った。 「アレはタダの犯罪者です」 フミナは冷たく言った。 「彼の様態は、当初危険でしたが。コアの機能梗塞を緩和するソウルの注入 で病状は安定しています。ただ、身体の方が、ソウルと一体化していないた め。日常生活は何とか出来ても、車椅子の生活になります」 医者は言った。 フミナは、マイク・ラブクラウドが載っかった車椅子を押すのが嫌だったか ら。電動車椅子を買うことを考えた。 「電動車椅子は買えますか。明日クルーム駅から高速鉄道BCGに乗りたい のです」 フミナは言った。 「今夜中でもインターネットなら、配送の手配が出来るでしょう。看護士に 任せましょう。君、頼むよ」 医者は、フミナに言いながら、後ろにいた、女性の看護士に言った。 「判りました」 女性の看護士は言った。 「ですが、あの少年には、BCGが通過するキトウ国のソウル治療専門の病 院、薔薇十字教会聖トマトマ教会付属病院での治療を薦めています。アクトク 国へ向かうなら、聖トマトマ教会付属病院の治療を受けるべきです。私が紹介 状を書きましょう」 医者は言った。 「それでは、そうして下さい」 フミナは言った。 そして、女性の看護士に、マイク・ラブクラウドと同じ部屋に泊まりたくな いことを伝えた。そして、マイク・ラブクラウドが運び込まれた、病室とは別 の、喫煙室が併設された、ベッドが置いてある付き添いの人間が仮眠を取るた めの部屋でフミナは横になって眠った。もう深夜だった。寝る前に腕時計を見 てみたら十一時五十五分だった。病院の朝は早いだろうから、あまり睡眠はと れないようだった。そう言えば、夕食を摂っていないことを思いだしたが。明 日何かを食べようと思い、空腹を我慢して眠ることにした。 第三章、武装列車の旅!レイル・ウェィにフミナはキョトー家一族の重 い影を見る!賢者ワイズマン現る!
翌朝フミナは、七時三十分にイッチ・フォンのアプリの目覚まし時計で起き ると、女看護士に呼び出されて、電動車椅子が届いている事が判った。フミナ はピカピカの電動車椅子を見た。なんで、マイク・ラブクラウドの為に、父親 のカードを使って、支払いをしなければならないのか、フミナはプスプスと怒 り心頭だったが。一階に在る会計で父親のカードを使って入院や緊急医療費を 支払った。 午前八時に電動車椅子を押してマイク・ラブクラウドの病室に入って行っ た。 丁度マイク・ラブクラウドは、食事をしていた。 何とか震える手で、パンにチューブに入ったマーガリンを付けて食べてい た。昨日、この病院に担ぎ込まれるまでよりは、大分、マイク・ラブクラウド も回復したようだった。フミナは、まだ、食事を取っていないことに気が付い たが、不思議と食欲は無かった。 「これから、キトウ国に行くんでしょ」 フミナは言った。 「それがイイ。どうやら、この病気の治療のためには、キトウ国のソウル治 療専門の病院、薔薇十字教会聖トマトマ教会付属病院に行く必要が在るらし い」 マイク・ラブクラウドは弱々しく言った。 「ソウル操法が、たった3日で身に付く方がおかしいのよ」 フミナは言った。 「だが、師匠の、おかげでオレはブドーの闘技場で、決勝まで進めたんだ。 オレは猛烈に感謝して居るんだ」 マイク・ラブクラウドは言った。 「その結果がコレでしょう。マスターXも信用は出来ないのよ。いい加減な ソウル操法を教えたのよ」 フミナは言った。 「師匠の悪口は言わないでくれ。オレは、既にX流の格闘家なんだ」 マイク・ラブクラウドは言った。 「何なりきっているのよ。4日前までは格闘技なんか出来なかったんでし ょ」 フミナは言った。 「オレはX流なんだ」 マイク・ラブクラウドは言った。 「バカみたい。格闘技なんか、世界が崩壊する今では何の役にも立たないの に。あと三百六十二日で世界は崩壊するのよ」 フミナは言った。 「後、十人、十二氏族の聖なる文字を持つ娘達を捜し出せば良いんだ。そう すれば、この世界は救われる。そんな難しい話じゃ無いんだ」 マイク・ラブクラウドは言った。 「電動車椅子に乗りなさいよ。これから、大陸横断高速鉄道BCGに乗るん だからね」 フミナは言った。 「ランド・クルーザーには車椅子を乗せられないだろう」 マイク・ラブクラウドは言った。 「大丈夫よ、この聖ルカロカ病院は、クルーム駅まで歩いて二百メートルの 距離にあるから電動車椅子で十分移動できるわ」 フミナは言った。 「ブドー国の首都イッポンは、魔族が襲撃した上に空爆されたんだろ。どう なっているんだ。師匠やX武藝會舘の人達は、どうなったか気になるんだ。そ れに、ベニヤミンの聖なる文字を持った娘も」 マイク・ラブクラウドは言った。 「それじゃテレビでも見てみる?」 フミナはマイク・ラブクラウドが女々しく言っている様に思えた。 「そっちだって、姉のリスカーナさんが心配じゃないのか」 マイク・ラブクラウドが嫌な事を言いだした。内心、フミナは、リスカーナ が、空爆で死んで居れば良いと考えていたからだった。 「関係ないでしょ」 フミナはテレビのリモコンの電源ボタンを押した。 茶色い髪にピンクのスーツを着たレポーターがヘルメットを被ってヘリコプ ターに乗っている所が映し出された。ブドー国のテレビは初めて見るから、こ のチャンネルが、どのような物かは判らなかった。 「昨日の魔族の大雪崩から一夜明けた、ブドー国の首都イッポンです。グン カク国の強制軍事介入によって、空爆されたイッポンは、激しい爆撃によっ て、惨憺たる有様です」 テレビの画面には、ヘリコプターからイッポンが映し出された。爆撃で、滅 茶苦茶になった、イッポンの街が映し出されたのだ。街の中には、モンスター が爆撃で死んでいたりした。だが人間の焼け焦げた死体もカメラは一瞬写し た。 「これが、空爆の跡なのか」 マイク・ラブクラウドは言った。 「そうね。私達は、ランド・クルーザーに乗ってイッポンを離れた後に空爆 が起きたから無事だったけれど。これじゃ魔族やモンスターよりも人間が死ん だ数の方が多いんじゃないの」 フミナは言った。 「…、それでは、X流道場の前に中継が繋がっています」 テレビの中では、どこか見慣れた光景に繋がった。X流の道場は無事だった ことにフミナは、呆れていた。 「それでは、X流のマスターXにインタビューをします」 赤と白のジャージを着たレポーターが、腕を組んでいるマスターXにマイク を向けた。 「マスターX。今回の魔族の大雪崩についてどう考えていますか?獣魔女王 ガブリルは魔族テレビで人類抹殺宣言を宣告していましたが」 レポーターは言った。 「私は、勇者パーティを引退しているから、大きくは言えませんが。現在の 勇者パーティのメンバー達の活躍が大きいと思います」 マスターXは言った。 「良かった師匠もX流の仲間達もみんな生きていた…」 マイク・ラブクラウドは、恥ずかしげもなく、涙を流していた。 フミナは、嫌になった。嫌いな格闘家のマスターXがフミナの姉のリスカー ナを迂遠ながらも誉めているからだ。フミナは、リスカーナと、いつも比べら れて、いつもリスカーナの何百万分の一ぐらいしか誉められなかったからだ。 「呆れた悪運ね。コレだけ街が壊れた、空爆の中を生き延びて居るんだか ら。それとも、爆撃をソウル操法で防いだとでも言うの」 フミナは言った。 「それじゃ、オレは心おきなく、ブドーを離れて、キトウ国の聖トマトマ教 会付属病院に行ける。ところで、X武芸會舘のランド・クルーザーはどうする んだ」 マイクは言った。 「レッカー車で、運んで貰えば良いでしょ。もう会計も済ませたから早く大 陸横断高速鉄道BCGに乗るわよ」 フミナは言った。 そしてマイクはX流の道着を着たまま電動車椅子に乗って、聖ルカロカ病院 を出た。確かに、フミナの言うとおり、クルーム駅は、病院から直ぐの所に在 った。クルーム駅に着いた、マイクは電動車椅子に乗ったまま、駅員に誘導さ れて車椅子用の通路を通って大陸横断高速鉄道BCGのホームに行った。 フミナは、BCGのホームで、白と赤に塗り分けられた大陸横断高速鉄道B CGが武装列車を連結している所を見た。魔族やモンスター達が現れた場合、 武装列車の武装で殲滅するためだった。魔族の大雪崩が、ブドー国の首都イッ ポンであったため。当然の処置だと言えた。どうやら、ブドーの首都イッポン までBCGは走っていないようだった。 フミナは、BCGの指定席に乗った。マイク・ラブクラウドが乗った車椅子 が、二つの座席を回転させて四つの座席を占領するため、フミナは通路を挟ん で隣の席に座っていた。 そして、フミナがBCGの席に座ると、隣りに居た、灰色の格子模様のスー ツを着た初老の男性が声を掛けた。 「ほお、奇遇だ。フミナか。大きくなったな」 フミナは見て驚いた。行方不明になっていた、父の兄だった。 「あなたは、もしや元勇者パーティのメンバーだった、私の父の兄、スグレ テ・キョトーですか」 フミナは驚いて言った。 「その名前で呼ばれるのは久しぶりだ。人は皆、私の事をワイズマンと呼 ぶ」 スグレテ・キョトーは言った。 「どうして、伯父様は、このBCGに乗っているのですか」 フミナは、まだ驚いていた。 「私は、ノンビリと列車の旅をしたかったからだ。一昨日前に、旧友のマス ターXを訪ねていたのだが。そして昨日はクルームの観光をしていた。だが、 昨日は魔族の大雪崩と、グンカク国の空襲が在って、今日、BCGに乗ること になった」 スグレテ・キョトーは言った。 「それでBCGに乗ったのですか」 フミナは言った。 「フミナはガクモン王立大学の魔法学部の准教授か専門は封印術だったな」 スグレテ・キョトーは言った。 「良く知っていますね。私は封印術以外に才能がないんです」 フミナは言った。 「そうかな。魔法は、本来もう少し、融通の利く物ではないのか」 スグレテ・キョトーは言った。 「私にはリスカーナ姉様の様な才能はありません。そしてワイズマンと呼ば れている、伯父様の様な才能は」 フミナは、自分の服を握りしめて、絞り出すように言った。 「そうか、フミナは、魔法が才能だけで、決まると思っているのかね」 スグレテ・キョトーは言った。 「違いますか。才能がある一握りの者だけが、評価される世界が、魔法と言 う学問の世界だと思います」 フミナは言った。 「そう考えるのは、考え物だな。もう少し、自信を持って生きれば良い」 スグレテ・キョトーは言った。 「無理です。私は、キョトー家の恥さらしです」 フミナは自分に言い聞かせるように言った。 「そうか。フミナは。魔法が 嫌いなのか」 スグレテ・キョトーは言った。 「嫌いですが。私には、封印術しか取り柄が在りませんから。嫌でも、封印 術を専門とする准教授を演じ続ける事しか出来ないのです」 フミナは自嘲気味に言った。 その時、通路側の席に座ったフミナの所に、マイク・ラブクラウドが、電動 車椅子を操作して、やって来た。 「おーい。弁当の車内販売、やっているから、買ってくれよ」 深刻な話をしているのに話の腰を折られた形になったフミナだった。 「今は、そんな車内販売の話なんかしている状況じゃないの」 フミナは言った。 「何だよ。病院の朝食が少ないから、弁当でも買わないと腹が保たないんだ よ」 マイク・ラブクラウドは言った。 そう言えば、フミナは昨日の夕食と、朝食を抜いている事を思いだした。 突然、フミナの腹が、「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅっ」と、鳴った。 スグレテ・キョトーは笑い出した。 「フミナも年頃だから、ダイエットでもしているのか」 スグレテ・キョトーはフミナに言った。 フミナは顔を赤くした。 「いいえ、違います。昨日は魔族の大雪崩と、このマイク・ラブクラウド が、後天性コア機能梗塞に掛かったから忙しくて食事をする暇が無かったんで す」 弁解するように言った。 「腹減っているなら弁当買って食えば良いだろ。オレの、分も買ってくれ よ」 マイク・ラブクラウドは言った。 車内販売のカートがマイク・ラブクラウドが塞いでいる、通路の所に来た。 「お客様。通路を塞がないで下さい」 車内販売の女性が言った。 「あ、弁当欲しいです。何が在りますか」 マイク・ラブクラウドは言った。 「勝利のカツサンドに、闘技場弁当、無敵寿司、ブドー釜飯、マスターXと コラボしたX流弁当…」 「ソレ、全部一個ずつ下さい」 マイク・ラブクラウドは言った。 「何で、そんなに食べるのよ!」 フミナは言った。 「オレだって、昨日は夕食抜いて居るんだぞ。それに、お前だって食うだろ う」 マイク・ラブクラウドは言った。 「お前なんて気安く呼ばないで、ミス・キョトーと呼びなさいよ」 フミナは言った。 そして、フミナは、カードを出して車内販売の女性に渡して大量の弁当を買 った。ついでに、お茶も買った。伯父のスグレテ・キョトーもX流弁当を買っ た。 そして、マイク・ラブクラウドは、四つの客席を向かい合う形にした所に入 っていき。そこで大量の弁当を食べ始めていた。 フミナはブドー釜飯を食べることにした。フミナのいつも食べる分量よりは 多いが。昨日の夕食と昼食を抜いているため、食欲は在った。なにせ、お腹が 盛大に鳴るぐらいに空腹であることは間違いないのだが。フミナは、 ブドー釜飯の包装を解いて、蓋を開けた。中には蟹が入っていたりして、豪勢 な釜飯だった。フミナは付属の割り箸を取りだして食べることにした。 「フミナは、なぜ、この列車に乗ったんだ」 スグレテ・キョトーは言った。X流弁当の蓋を開けた。中には、マスターX のキャラ弁のような弁当が入っていた。 「私の背中に在る、十二氏族の聖なる文字のアザに、YES教の神の力が宿 っているそうです、ですから乗りました」 フミナは言った。 「YES教の神の力?どういうことだか私には判らないな。十二氏族は古代 ヘブライライ人の氏族だ。それが何か意味を持つのか」 スグレテ・キョトーは言った。 「世界崩壊の時空震を止める力があるという話です」 フミナは言った。 「それは、俄には信じがたい話だな。この時空震は科学的な現象だ。科学的 に、この世界は崩壊していくだけの話だ」 スグレテ・キョトーは言った。 「魔族が原因なのでしょうか。テレビでは、そう言っていますが」 フミナは言った。 「そう簡単に決めつけることは良くないな。時空震を魔族の仕業と決めつけ る事は、良くない」 スグレテ・キョトーは言った。 「伯父様は、ワイズマンと呼ばれて、勇者パーティに居たのでしょ。なぜ魔 族を庇うようなことを言うのですか」 フミナは言った。 「別に私は魔族を庇っては居ないよ。ただ、安易にテレビ報道に惑わされる ことは良くないと言うことだ」 スグレテ・キョトーは言った。 「ですが、魔族は、魔族の大雪崩を起こして、モンスター達で、ブドー国の 首都、イッポンを滅茶苦茶にしました。やはり魔族は人類の敵です」 フミナは言った。 「ところで、フミナ、あの車椅子の少年は、誰だ。フミナの恋人か」 スグレテ・キョトーは聞いた。 は?とフミナは思った。もしかして、端から見ると、あのマイク・ラブクラ ウドと、私は、恋人に見えるの?そんなの嫌ぁ! フミナは頭の中で超高速で考えた。 「全然違います。あの車椅子のマイク・ラブクラウドは、YES教の神に会 って、この世界の時空震を止めるには、十二氏族の名前を綴った聖なる文字を 身体に持った娘達を集める事が必要だと主張して、父様が、それを認めて、現 在、十二氏族の聖なる文字を持つ娘達を捜しているのです」 フミナは超高速で言った。 「そうか、それで、十二氏族の名前を綴った聖なる文字を持った娘は見つか ったのか」 スグレテ・キョトーは言った。 「私も含めて、ベニヤミンの聖なる文字を持つ娘の2人です」 フミナは言った。 「ヤッパーリも、酔狂な事を考えているな。時空震は科学的な現象でしかな いのだが。避けたくても避けられるモノでは無いのだ」 スグレテ・キョトーは言った。 「でも父様は、古代ヘブライライの専門家マンシュリー教授の説を参考にし て結論を出しました。十二氏族の聖なる文字を持った娘達を捜し出すことには 価値があると」 フミナは言った。 「その聖なる文字には何か特別な力が在るのかな」 スグレテ・キョトーは言った。 「私と、ベニヤミンの聖なる文字を持った娘が、近づくと、聖なる文字が光 り出し、高熱が出るんです」 フミナは言った。 「なるほど。ただのアザのようなモノでは無いと言うことか」 スグレテ・キョトーは言った。 「そのようですが。私には、この世界を時空震から救う力が在るとは思えま せん」 フミナは言った。 「あの少年が、YES教の神に会ったと言うのか。興味がある」 スグレテ・キョトーは、勝利のカツサンド を電動車椅子に座ったまま食べている、マイク・ラブクラウドを見て言った。 マイクは、フミナのカードで買った、弁当を食べていた。身体は動かない が、不思議と食欲は沢山あった。それで、弁当を沢山食べていたのだ。そし て、勝利のカツサンドを食べていると、フミナの伯父らしい(話を聞く限りで は)、初老の男性がやって来た。 「あのうフミナの伯父さんですよね。オレに何か用ですか」 マイクは言った。 「君は、YES教の神に会ったのかね」 フミナの伯父さんは言った。 「そうです。オレは、神なる主に会ってから、この世界に来たんですよ」 マイクは言った。 「君は異世界人か?初めて見るが」 フミナの伯父さんは言った。 「そうなんです。異端審問でも、信用されていないし。オレは、この世界に 来て日が浅いのに、かなり難儀な目に遭って居るんですよ」 マイクは言った。 「そうか、君は神を見たのか」 フミナの伯父さんは考え込む様な声で言った。 そうして、フミナの座っている席の隣りに戻っていった。 そして考え事をしていた。 マイクは車窓から見える、風景を見ながら、 ブドー幕の内弁当を食べていた。鮭の切り身がシブミのある味を出していた。 ああ、オレ、かなり遠くまで来ちまった。ステイツって、どっちの方角に在る んだろう。車椅子に乗っているし。病人だし。どうしたんだろ。
第四章 魔皇帝ネロ。死の魔族長不死王キュラドの策略。
魔幻空間に浮かぶマカイ帝国の魔都ホラーゾン。その宮殿ダビニフスでは、 6人の魔族長達が集まっていた。そして帰ってきた獣の魔族長獣魔女王ガブリ ルに魔皇帝ネロは口を開いた。 「不様だな獣の魔族長ガブリルよ。百万頭のモンスターを使って戦争を仕掛 け、おめおめと、マスターXに破れて帰ってくるとは」 魔皇帝ネロは美しく整った顔に不機嫌さを隠そうともせず膝を付いている獣 の魔族長ガブリルに言った。 「マスターXの強さは異常です。とても人間とは思えません。この獣魔女王 ガブリルと直接戦えるなど、人間とは到底思えない強さです」 獣魔女王ガブリルは頭を下げたまま言った。 「弁解だな」 魔皇帝ネロは言った。 「私も無惨な敗北を喫した以上、弁解はしません。ただ、ありのままを言っ ているだけです。この獣魔女王ガブリルよりもマスターXは強いと」 獣魔女王ガブリルは言った。 「それは、私の父、魔皇帝ソドムを殺した。薔薇十字教会の勇者、ソード・ マスターとて同じだ。たかが人間だが。人間は時として、魔族以上に強い怪物 となることも在ると言うことだ。だが何故、厄災の天命星を討ち漏らした」 魔皇帝ネロは言った。 「それは、憎き人間共を殺すことに夢中になってしまい。厄災の天命星を討 つことよりも、人間共を殺す事に夢中になってしまいました」 獣魔女王ガブリルは言った。 「愚かなり、獣魔女王ガブリルよ。まず第一に行うべきは、人間共を殺すこ とではなく、厄災の天命星を討つべきではなかったのか」 魔皇帝ネロは言った。 「だが人間共は憎き仇敵です。この獣魔女王の父も母も祖父も皆、人間に殺 されたのですから」 獣魔女王ガブリルは言った。 魔皇帝ネロは答えた。 「私は、この世界が時空震で滅びれば良いと思っている。その崩壊を食い止 めようとする、YES教の神の力を持った厄災の天命星は討ち滅ぼさなければ ならない。顕眼のハッカイよ。今、厄災の天命星は何処に居る?」 痩せた眼鏡を掛けた白い服の男、顕眼のハッカイが出てきた。 「任せて下さい、この顕眼のハッカイの目は全てを映し出します。占う場所 はペポジア国。そして、このハッカイの目は、列車に乗っている事を捉えてお ります。私の目を映し出しましょう」 顕眼のハッカイは言うと、額に在る第三の目を開いた。そこから光が伸びて いき、魔皇帝の居城ダビニフスの玉座の間の空中に球状の物体が浮かび上がっ た。 「これは、人間達が作った鉄道か。それでは、翼の魔族長と、獣の魔族長が 征伐に失敗した厄災の天命星を討つ者は誰か」 魔皇帝ネロは言った。 「それでは、私が行きましょう。この不死王キュラドが不死の力をもって、 厄災の天命星を討ちます。私に策が在ります」 死の魔族長不死王キュラドは黒く長い巻き毛の十歳程度の美少年の外見をし ていた。 「ほう、キュラドよ翼の魔族長や、獣の魔族長のような失態をして私を失望 させるな。その策とはいかなるモノか述べよ」 魔皇帝ネロは言った。 「見たところ、厄災の天命星は、飛行機に乗っているときも、列車に乗って いるときも、同じ、娘と一緒に行動しているようです。この娘を人質にして、 厄災の天命星を誘き出して、討ち取れば良いでしょう」 不死王キュラドは言った。 「任せるぞキュラド。そして厄災の天命星を討ち取ってこい」 魔皇帝ネロは言った。 「それでは、死の魔族達を率いて策(はかりごと)を実施します」 不死王キュラドは笑みを浮かべて、そう言うと身体が無数のコウモリとなっ て、飛んでいった。
第五章 キトウ国到着!薔薇十字教会聖トマトマ病院、女医マリリア・イ ノール登場。女の対決!准教授フミナVS女医マリリア!
キトウ国の首都、聖トマトマの聖トマトマ駅に大陸横断高速鉄道BCGで到 着したマイクとフミナは、駅の中を歩いていた。フミナの伯父さんも着いてき た。何でも暇が在るらしかった。 「かなり広いな」 マイクは電動車椅子に乗ったまま、周囲を見回していた。 「嫌な国よね。キトウ国って。救世主教YES教が盛んな宗教国家なのよ」 フミナは言った。 「オレは、早く、キトウ国の薔薇十字教会聖トマトマ教会付属病院で治療を 受けたいんだ」 マイクは言った。 「確かに、キトウ国の聖トマトマ教会付属病院はソウル治療で有名な所だ」 フミナの伯父さんは言った。 「それじゃ、イッチ・フォンで聖トマトマ教会付属病院のホーム・ページを 調べるから」 フミナは言うと。イッチ・フォンを操作し始めた。 そして、検索してホーム・ページを、つきとめると聖トマトマ教会付属病院 は、聖トマトマ駅から無料の送迎バスが出ているらしかった。 マイクとフミナは、観光をするらしい、フミナの伯父さんと別れて、薔薇十 字教会聖トマトマ教会付属病院行きの送迎バスに乗った。電動車椅子に乗った まま、マイクもリフトで送迎バスに乗れて、結構イイ感じだった。そして、マ イクとフミナを載せた送迎バスはキトウ国の中を走っていきゴシック様式の教 会の様なデザインの巨大な病院の敷地に入っていった。街の中にある病院らし かったが。正面玄関に止まって、マイクは、電動車椅子のままリフトで降り た。フミナも降りて、受付で聖ルカロカ病院で書いて貰った、紹介状を見せ て、受診をする事に決まった。その手続きの間。フミナは、イッチ・フォン で、この聖トマトマ教会付属病院の近くのホテルや旅館を探しているらしかっ た。そして患者や病院のスタッフが行き来する、廊下を通って、「ソウル診療 科」を目指して、案内を見ながら電動車椅子に乗ったマイクはフミナと一緒に 行った。「ソウル診療科」と書かれた待合室に入っていくと、急にフミナの様 子がおかしくなった。全身から光を放ち始めた。 「どうした」 マイクは電動車椅子を動かして周り込みながら言った。 「背中の聖なる文字が痛むの。また身体が熱を持っている。だけど、あの風 流院カエデと会ったとき程酷くは無いけれど」 フミナは背中から、光を発しながら言った。 「よし!それなら、この病院の「ソウル治療科」に十二氏族の聖なる文字を 持った娘が居るに違いない!よし!」 マイクは車椅子に座ったまま気合いを入れて。グルグルと電動車椅子で捜し 回った。だが、光を発している人達は居ても、フミナと同じ様な光を発してい る娘の姿は待合室には無かった。 「でも、この病院の何処を捜すのよ。コレだけ広いのよ」 フミナは言った。 「十二氏族の聖なる文字を持った者同士が近づくと光を放つから、それで捜 せば良いんだ」 マイクは言った。 「だけど、周りでソウルの異常で、変な光を発している人達が沢山いるじゃ ない」 フミナは言った。 「うーむ、困った。だが、十二氏族の聖なる文字を持っているのは娘だか ら。若い娘だけを捜せばいいんだよ」 マイクは言った。 「成る程ね」 フミナも不満そうな顔で認めた。 その頃…「ソウル診療科第3診療室」にて。 「神よ。これは試練なのですね。いきなり私の背中にガンが出来るなんて。 まだ十六歳なのに。でも何かが違います。何故、私の身体から見たことの無い 光が出ているのでしょうか」 マリリア・イノールは、神に祈りながら言った。十六歳で医者になってい る、天才少女にして、薔薇十字教会聖トマトマ教会付属修道院のシスター、マ リリア・イノール。 超信仰心篤い。 フミナは、電動車椅子を操るマイク・ラブクラウドの後に着いて第3診察室 に入っていった。身体が熱を持って背中の聖なる文字が痛んだが、風流院カエ デと会ったときほど酷くはなかった。フミナは医者の顔を見た。 若い。 なぜ、こんなに若いの。白衣を着た女医は藍色の真っ直ぐの髪の毛を背中ま で伸ばしていた。健康的な褐色の肌はツヤツヤと柔らかそうで独特の輝くよう な光沢を放っていた。顔は、卵形で、目鼻立ちの位置は完璧に近かった。つま り典型的な美人顔だった。そして白衣の内側には、黒い尼僧服を着ていて。胸 にはYES教のロザリオが在った。 「ああっ、迷える子羊よ。よくぞ、この薔薇十字教会聖トマトマ教会付属病 院に来ました。このマリリア・イノールは神の僕の医師として、精一杯全力で ソウル治療を行います」 マリリア・イノールは言った。 「げっ、何で、こんなに医者の年齢が低いのよ」 フミナはマリリア・イノールを見て言った。 医者が、こんなに年齢が低いのは変だった。 異常だった。 おかしかった。 妙だった。 もっと言うと、フミナのカンに障っていた。フミナは十六歳で、ガクモン国 のガクモン王立大学の准教授という地位にいることが人生の全てだった。この マリリア・イノールは、フミナと同じぐらいの年齢で、医者になっているの だ。これでカンに障らなければおかしかった。フミナは人生の全てを准教授の 地位を得るために捧げてきたのだから。 「失礼な。この私マリリア・イノールは神の恩寵によって、人より勉学が出 来、神の恩寵によって五歳で医学の勉強を志し。15歳で医師になり、一年間 無事に多くの患者達を神の恩寵で回復させてきました」 マリリア・イノールは言った。 「所詮、キトウ国の医学部でしょ。ガクモン国の王立ガクモン大学に比べれ ば格下よ」 フミナは言った。 「失礼ですが。どこの国出身ですか」 マリリア・イノールは言った。 「ガクモン国です」 フミナは言った。 「ふっ」 マリリア・イノールは鼻で笑った。 「なによ、その「ふっ」は」 フミナはマリリア・イノールの「ふっ」に、かなりカンが障って言った。 「神の恩寵が無い、ガクモン国などは、話になりません。神の恩寵こそが、 重要なのです」 マリリア・イノールは言った。 「バカみたい。神の恩寵が何の役に立つのよ」 フミナは言った。 「それは、神の恩寵によって多くの迷える子羊たちを救うことが出来るから です。あなたは、人を救ったことがありますか」 マリリア・イノールはフミナに言った。 「そ、それは、ちょっと、無いけれど」 フミナは口ごもって言った。フミナは子供の頃から、ガクモン王立大学の魔 法科の准教授になるために超ハイスピードの早期教育を受けていたからだっ た。自分の境遇を嘆くことは在っても、競争で蹴落としてきた周囲の人間達に 目を向けたことは一度も無かった。 つまり、フミナは人助けなどはした記憶は一切無く。自分が准教授になるため に他人を蹴落とす努力しかしていなかったのだ。 「それこそ、あなたは、無意味な権威を身に纏い、神の教えに逆らって。隣 人愛を忘れた犬畜生の如き、貧相な人生を送っているのです。豊かな人生と は、神の恩寵による幸福な人間関係が在ってはじめて成立するモノなのです」 マリリア・イノールは言った。 「はっ、何が神よ。時空震が来ても救えないでしょ、物言わぬ神よ」 フミナは言った。 「いいえ、私の神は、物言わぬ神では在りません。きっと時空震も、神の恩 寵によって救われます。まだ、救世主の復活が起きてないのですから。世界の 終末の時ではありません」 マリリア・イノールは言った 「嗚呼ぁぁぁぁっ! 嫌っ! この女は! コレだから宗教かぶれは嫌なのよぉ!」 フミナは、嫌悪感が全身から吹き出しているようなマリリア・イノールを見 て叫んだ。 フミナは非科学的な宗教が大嫌いだった。 「私は宗教に、かぶれているのでは在りません。確固たる信仰心を心の内に 持っているのです」 マリリア・イノールは自分の胸を右手で押さえて笑顔で言った。 Yes教の修道女マリリア・イノール。超敬虔。 マイクは、フミナとマリリア・イノールが近づくと、光を放っている事が判 った。カエデが、フミナが近づいたときと同じだった。 だが、あの時とは様子が違っていた。フミナとマリリア・イノールは、お互い に激しく、いがみ合っていた。 「あのう、オレの診察は、どうなるのでしょうか」 マイクは、いがみ合う、フミナとマリリア・イノールの間に入る事は、少々 勇気が必要だったが言った。 「それでは、この付き添いの人を連れだして下さい」 マリリア・イノールは言った。 筋肉質の、逆三角形の体格をした女看護士がやって来てフミナは怪力で頭上 に持ち上げられた。 「チヨットは離しなさいよ!なんで、ここは闘技場なのよ!病院でしょ!」 フミナは文句を言っていたが、女看護士に捕まってタワーブリッジを掛けら れて連れ出されていった。 「それでは、診察を開始します」 イノール先生は笑顔で言った(先生と急に呼び名が変わるような心の変化を 促す笑顔だった)。ここ数日間、薄情なフミナや、女剣士風流院カエデや女忍 者ジャドー・ツタエなどと話しをしていたため。まるで天使のように優美なイ ノール先生の笑顔で、マイクは救われた。女の中には良い女と悪い女が居て、 良い女が、イノール先生で、悪い女が、フミナや、風流院カエデや、女忍者ジ ャドー・ツタエのようだった。 ああっ、オレ、生きていて幸せです。と、マイクは心の中で涙を流してい た。 「上着を脱いで診察台に横になって下さい。ソウルの流れを調べます。車椅 子から立ち上がれますか」 イノール先生は言った。 「ええ、何とか」 マイクはX流の道着の上を脱いで、フラつきながら立ち上がって、フミナを 連れていった筋肉質の女看護士に助けられて診察台に横になった。そしてマリ リア先生は褐色の柔らかそうな手でマイクの身体にソウルを送り込んだ。 マリリア先生は、困ったような顔をした。 「おかしいですね。これは、コア機能梗塞に似ていますが別の病気のようで す」 「聖ルカロカ病院の誤診ですか」 マイクは、急に、あのターバンの医師が怪しく思えて言った。 「症状は確かにコア機能梗塞です。ですが、ソウルを送り込んだときの回復 過程が違います。コアが私のソウルを受け付けません。通常の症例とは少し違 うようです。血液検査をします」 イノール先生は、そういうと、屈めて居た腰を伸ばした。そしてマイクは筋 肉質の女看護士に、電動車椅子に乗せられた。 そして書類を貰うと、診察室から出ていった。 「どうだった。直ぐに治るの?」 待合室の青い椅子に座っていたフミナは言った。 「血液検査が必要らしい」 マイクは言った。 「ソウルの病気に血液検査が必要なの?」 フミナは怪訝そうな顔で言った。 「判らぬが、イノール先生の言うことなら、信頼出来そうだ」 マイクは言った。 「呆れた、あんな色黒女の、どこが良いのよ」 フミナは不機嫌そうな顔で言った。 「フミナ。お前に無い物がイノール先生には在る」 マイクは、イノール先生の笑顔を思いだして言った。やっぱり女は笑顔だよ な。と、マイクは思った。ここ数日で会った、フミナ、リスカーナ(リスカー ナとは会話らしい会話はしていないが)、ジャドー・ツタエ、風流院カエデの 中には無い優しい笑顔がイノール先生には在った。 「何、呼び捨てにしているのよ。ミス・キョトーと呼びなさいと言っている でしょ」 フミナは言った。 そして血液検査を受けてから、三十分程待たされて再び、呼び出されて、 マイクは電動車椅子を操作して診察室の中に入って行った。フミナは筋肉質の 女看護士に睨まれて黙っていた。 イノール先生は、紙を見ながらマイクに言った。 「これは、コアの活動を阻害する毒薬を身体に受けていますね。血液検査で 出ました。身に覚えは在りませんか」 イノール先生は言った。 「昨日、闘技場で、毒を受けた事は在ったんですけれど。その時は、X流の ソウル操法発動法で毒を打ち消した筈なんです」 マイクは言った。 「ズバリ、それです。これはアクトク国で作られるコア封印の毒薬、アンチ ・コア・ベノムです。コレを使われると体内に残るため、一時的にソウル操法 でコアを開いても、ソウル操法で、開いたコアが、睡眠などの休息時にコアの 働きが弱くなると、身体の中にアンチ・コア・ベノムが残っている限りコア は、塞がってしまうのです」 イノール先生は言った。 「これがズルイヤ流忍術なのか。ズルイヤ。あ、言っちゃった」 マイクは、思わず、忍者ジャドー君の術中にハマってしまった。アクトク国 の忍者ジャドー君。恐るべき相手だった。あまり強くはなかったが卑怯さでは 闘技場の中で最強の敵だった。 「それでは。アンチ・コア・ベノムの解毒を行う薬の投薬治療を開始しまし ょう。この毒薬の解毒は、ソウル治療をするだけではダメです。薬を投薬して 体の中から徐々に、アンチ・コア・ベノムを減らしていきます」 イノール先生は言った。 「完治するまで、どのぐらいの時間が掛かるんですか」 マイクは言った。 「ちゃんと薬を飲み続けても、少なくとも約1週間は掛かるでしょう」 イノール先生は言った。 「すいません、失礼ですが。イノール先生は、身体にヘブライライ文字で書 かれた十二氏族の名前が在りませんか」 マイクは不躾に思えたが。イノール先生に聞いた。 「それは、在りますけれど、なぜ知っているのですか」 イノール先生は怪訝そうな顔で言った。 「あの、さっき、連れ出された、フミナ・キョトーにも、ガド族聖なる文字 が在るのです」 マイクは言った。 「私の背中にあるのは、ヨセフの文字です。神に仕える私に、なぜ、このよ うな異教のアザが在るのか、判りかねますが。私は、敬虔なYES教のシスタ ーなのです。これも、きっと、偉大なる神なる主の計り知れない、お心の為せ る技なのだと考えています」 イノール先生は言った。 「もしかして、古代ヘブライライの話は知りませんか」 どうもYES教が、古代ヘブライライの聖なる文字とは関係が無さそうで、 マイクは困りながら聞いた。 「異教です。そう言う宗教が在ることは知っています。ですが、私は、神な る主に使える身です。新しい契約を信じる、私とは縁が在りません」 イノール先生はキッパリと言った。これは、かなりの堅物のようだった。 「その、神なる主が、世界を救う力を十二氏族の名前に封じてあると言った ら怒りますか」 マイクは言った。 「怒ります。私は、敬虔なるYES教のシスターなのですから。そのような 異教の古い力が身体に在るなど考えるだけでも嫌です」 イノール先生は優しそうな顔を曇らせて言った。 ああ、イノール先生そんな顔をしないでくれ。マイクは思った。 フミナは顔を曇らせるイノール先生に言った。 「科学的でない、宗教なんかは全部邪教よ。YES教も、ハカイ教と同じ邪 教よ」 イノール先生は、驚いた顔でフミナを見た。 次の瞬間、イノール先生の右手はフミナの頬を平手ではたいた。 「痛い。何するのよ」 フミナは狼狽えた顔で頬を押さえて言った。 「神なる主と救世主を冒涜することは許されません」 イノール先生は右手を振り抜いた姿勢のままフミナに言った。 「よくも、ぶったわね、生まれてから、一度もぶたれた事なんかないのに」 フミナは言った。 一度も、ぶたれずに生きてくるとは、一体全体、どういう人生を送ってきた んだ。と、マイクは怪訝に思った。 一度も、ぶたれずに生きてくるとは、よっぽどの善人か、よっぽどの悪人だ った。どうも、マイクは、フミナは、悪人の部類に入るとは思っていた。 「当然です。私は医者である前にYES教の信仰を守る聖トマトマ教会の修 道女です」 イノール先生は、フミナをじっと見て言った。 「当然じゃないわよ!私がぶたれること何ておかしいじゃない!何か間違っ たことを言ったっていうの!YES教だって、ただの宗教でしょ!ヒトが作っ た物よ!間違った答えを言っていないのに何故ぶたれなくちゃいけないの!私 は正解を言ったのよ!私は正しいのよ!」 フミナは言った。 「哀れな人ですね」 イノール先生は悲しそうな顔をして言った。 「何が哀れよ!私は十六歳で全世界で一番の難関校、ガクモン王立大学の准 教授なのよ!全然哀れじゃない!皆、私を羨望の目で見なければ駄目なのよ! 私には地位が在るのよ!肩書きが在るのよ!」 フミナは言った。 マイクはフミナの言葉を聞いて、やっぱり性格が悪いだけの事はあると、し みじみと思った。 イノール先生にフミナがビンタ食らっても同情はしなかった。 マイクは人には言っては不味いことが在るのだろうと思っていた。 イノール先生にとっては、フミナの、さっき言った言葉は不味かったのだ。 どうもフミナは、そう言うことが判らないと、いうことを薄々勘づいていた。 「何で判らないの!私を認めなさいよ!」 フミナは、まだ、キレたまま、まくし立てていた。だが、イノール先生は、 マイクの方を見た。 「それでは、診療の続きを行います」 イノール先生は言った。 「何、診察なんかしているのよ!私の言葉を聞きなさいって言っているでし ょ!」 フミナは、懲りずにイノール先生に叫んでいた。イノール先生は取り合わな かった。 「マイクさん、最低でも1週間は入院した方が良いと思います。アンチ・コ ア・ベノムに対する投薬治療は、急に効果が出るわけではありません。それで も、ソウルの流れは、少しずつ改善に向かうでしょう」 イノール先生は言った。 「1週間も掛かるのですか」 マイクは、狼狽えた。 「何、この暴力女医と話しているのよ!ヤブよ!ヤブ!」 フミナは、こんどは、マイクに食ってかかった。 だが、マイクは取り合わず。大人の漢の対応をした。 「だまれフミナ」 マイクは漢キャラになって言った。 「何!呼び捨てにしているのよ!ミス・キョトーと呼びなさいって言ってい るでしょ!何で、あなたは、そんなに学習能力が無いの!」 フミナは叫んでいた。 「それでは開いている病室を調べます」 イノール先生は、診察室のテーブルに置いてあるノート・パソコンを操作し た。 「病室なんか調べて居るんじゃ無いわよ!私の話を聞きなさいよ!」 フミナは叫んでいた。 「丁度、第三病棟の三階333号室が開いています。入院の手続きをしま す。昼食の時にアンチ・コア・ベノムの緩和剤を出します毎食後、一日三回飲 んで下さい。そして予後の経過を見ることにします」 イノール先生はマイクに言った。 「ちょっと私の話を聞きなさいよ!」 フミナは叫んでいた。 「それでは診察を終わります」 イノール先生は言った。 「全然終わって居ないわよ!」 フミナはキレたまま叫んでいた。 「付き添いの人を連れ出してください」 フミナは、また、筋肉質の逆三角形の体格をした、女看護士に捕まって、タ ワーブリリッジを掛けられながら、マイクと一緒に待合室へと出ていった。 暫くの間、悪い目つきで 診察室を睨んで、肩で荒い息をしている、フミナ を見ていてマイクは、フミナの本性を見たような気がして
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