った忍者が居た。 「ほう、X流の八十八ある必殺技の一つ、X・ターミネイトを会得している とは。その若さで大したものであるな」 忍者は言った。 「何か用か」 マイクは、気分は、漢になったキャラの状態のままで忍者に向かって目を合 わせずに俯きながら、横を通り過ぎながら言った。 「次に当たるのは、このアクトク国の忍者。ジャドー君であるからして、覚 悟せよ。必殺技だけで勝ち残れるとは思わぬ事だ」 ジャドー君は言った。 「X流は最強だ。忍者だろうと負けることはない」 マイクは、気分は漢になったキャラの状態のまま、忍者の横に立ち止まって 言った。 「くくくくくく、そう言って何人もの愚か者達が、このズルイヤ流忍術の前 に敗れ去った物よ。みな最後にズルイヤと言って散るまで」 ジャドー君は言った。 そして、ジャドー君は、試合場へと向かっていった。 マイクは、暫く、試合場の試合の様子を控え室の六十インチぐらい在る大画 面テレビで一回戦の試合を見ていた。だが、強さにばらつきがあるのか、強い 選手と弱い選手の差が大きくて一回戦の試合は見ていて、あまり参考にはなら なかった。それでも、X流の技の使い方を学ぶには、それなりの意味があっ た。 そして一回戦の観戦を行っているとマイクは驚いた。 あの水色の髪の少女は!紛れもなく、昨日の十二氏族のベニヤミンの聖なる 文字を持った娘だった。昨日と同じく、桜色の振り袖に、緑色の袴を着けて白 いブーツを履いていた。そして白い鞘の日本刀を持っていた。 「一回戦、第27試合、プロンディ・ホワイター選手と風流院カエデ選手 は、試合場に入って下さい」 控え室に呼び出しの放送が入った。 カエデは立ち上がりながら思った。今日の私の調子は絶好調。これならば、 このCクラス闘技場の優勝も出来るでしょう。 健気に、父上の跡を継いで憎き魔皇帝の討伐に向かおうとする乙女。 ああっ、私って、何て、健気なの。 カエデは、自分のナルシスト世界に浸っていた。 そして、いつの間にか、試合場の中まで来ていた。 カエデの一回戦の相手は、両手持ちの直剣を持った、全身鎧を着た金髪の女 剣士プロンディ・ホワイターだった。身長百五十五pのカエデよりも一回り背 が高くて、身長は、百七十pぐらい在りそうだった。 カエデは、腰に妖刀ムラマサを構えた。居合い切りの体勢を取った。 「どこの流派だ」 プロンディ・ホワイターは言った。 「ヒノポン国の風流院流剣術宗家師範、風流院カエデ」 カエデは名乗った。 「ヒノポンの女剣士か、尚武を気取りながら弱い国だ」 プロンディ・ホワイターは言った。 「そちら様の流派はどこですか」 カエデは言った。 「キトウ国の聖トンマ教会流、薔薇十字聖剣術エッパタだ」 プロンディ・ホワイターは言った。 「私は負けられません。父上の仇を討つまでは」 カエデは言った。言っている間に自分の言葉に酔ってしまいそうなカエデだ った。 嗚呼、私って健気な乙女。 「それは、こちらも同じだ」 プロンディ・ホワイターは言った。 「それでは、一回戦第27試合を開始します。ファィト!」 審判が叫んだ。 試合開始と同時にカエデは風流ツムジによって全身に気を巡らした。 それは、プロンディ・ホワイターも同じだった。 「斬る!ローゼス・クロイツ!」 プロンディ・ホワイターは叫んだ。そして剣で斬りかかってきた。カエデ は、風流院流の居合い抜刀術のイケテイル抜きでプロンディ・ホワイターの気 を使った突進切りを受け止めた。プロンディ・ホワイターは、かなりの強敵の 様だった。だが、今日のカエデは好調だった。カエデの妖刀ムラマサは、変化 して、プロンディ・ホワイターの突進切りを受け止め、風流院流の剣術の必殺 技、ナガシメ切りを放った。プロンディ・ホワイターの鎧で覆われた、身体に 当たった。プロンディ・ホワイターは、吹き飛ばされた。 勝ちましたか? 勝利を確信した、カエデだったが。吹き飛ばされた、プロンディ・ホワイタ ーは笑っていた。 「聖トンマ教会流は守りの剣術、絶対堅守を誇る。そう簡単に、必殺技の一 発や二発を食らったからと言って倒れはせぬ」 プロンディ・ホワイターは言った。 嗚呼!何て事!今日は絶好調なのに、一回戦敗退の危機が、この私に。やっ ぱり、私って、可憐で世界で一番可愛くて健気だから、幸運の女神様も嫉妬す るのですね。 そうですよね。 だから、こんな、試練を私に課すのです。 でも健気な私は、どんな試練にも、怯まず真っ直ぐ向かっていきます。 だって私って健気な乙女だから。 と、カエデは、瞬間的に脳裏で自分のナルシスト世界に入っていた。 だが、カエデはナルシスト世界に浸りながらも頭の中は冷静に、使うべき必 殺技を考えていた。地獄車は、速さの剣術であって。攻撃力は低い。だから、 その対極の極楽車を使うのが良い解決法だった。だが、カエデは、極楽車が苦 手だった。理由は単純明快。カエデが自分に持っているイメージに合わない技 だったからだ。だから恥ずかしくて練習も人目を忍んですら、しなかったの だ。何よりもナルシストのカエデの自分自身が見ているのだから。風流院流剣 術の地獄車は高速型の剣術で速さが優先され、攻撃力は低い。その対極に位置 する極楽車は、動きが遅いが、威力は絶大だった。ただ問題は、極楽車は、技 を発するときに、「ドッセイ」と気合いを掛けねばならないのだった。この 「ドッセイ」の掛け声が、カエデには恥ずかしくて出来なかった。可憐で、世 界一可愛くて、心の清らかな、乙女の剣士が「ドッセイ」と気合いを入れて、 技を発するなど、カエデには、自分のイメージと違いすぎて、どうしても出来 なかった。 極楽車だけは出来ません。 カエデが、このブドー国の闘技場に来て、今まで、極楽車を使えずに負けた 試合が幾つもあった。この半年間の敗因の殆どはソレだった。どうしても、こ の極楽車は使えなかったのだ。門下生の前でも恥ずかしくて出来なかった極楽 車を衛星放送で全世界のテレビに流されている、ブドーの国営闘技場で大観衆 の前で出来るはずは無かった。 今回も、極楽車を使わずに、負けてしまうべきか、カエデは迷った。だが、 この惑星ジーは、マカイ国の魔皇帝の力によって滅びようとしている。 どうすれば良いのですか。 カエデは迷った。 そして妖刀ムラマサの力に頼ることにした。 妖刀ムラマサは、気の流れを刀身に注ぎ込むことによって。相手の気の流れを 切断する事ができるのだ。 自分の修業にはならないが。 カエデは極楽車を使いたくない一心で、妖刀ムラマサの力を使うことにした のだ。 「行きます!風流院流、地獄車!」 カエデは、鎧に気を通して防御の姿勢を取っている、プロンディ・ホワイタ ー目がけて、連続切りを掛けた。カエデの気を吸った妖刀ムラマサは一点に集 中して、連続切りを掛けた。そして、プロンディ・ホワイターの鉄壁の防御を 切り刻んで打ち破った。 プロンディ・ホワイターは地獄車で切り刻まれて、吹き飛んだ。 やっぱり、私って、健気。 自分の戦闘スタイルは曲げられないから、恥ずかしい極楽車だけは出来ませ ん。 「プロンディ・ホワイター選手はダウンしました!1,2,3,4,5, 6,7,8,9,10!風流院カエデ選手のKO勝利です!」 カエデは、自分のナルシスト世界に浸って、 審判の勝利の宣言を聞いていた。だが、プロンディ・ホワイターよりも、守り が堅い選手が居ることは間違いなかった。これから、妖刀ムラマサの力だけ で、勝つことが出来るのか、カエデは少々不味い事は判っており、いつも通り 迷っていた。極楽車と地獄車を両輪とする、風流院流剣術において、基本技の 極楽車を会得していないカエデは。最初から自身の風流院流剣術に限界が在る ことは薄々感づいていた。だが極楽車はカエデ自身のセルフイメージのせい で、どうしても出来なかった。勝利はしたが、些か納得出来ない勝利であった ことも事実だった。 嗚呼、可憐で健気な私には「ドッセイ」だけは出来ません。 カエデは、迷いながらも控え室へ通じる、廊下を歩いていた。 「もし、そこの方、昨日ゲダンギリ地下鉄のホームに居ましたね」 廊下で声を掛けられて、カエデは、ボーっと考えていた状態から抜け出し た。 X流の道着を着ている、少年を思いだした。確か黄緑色の髪をした眼鏡の三 つ編みの少女を抱えていた。あの時は、カエデは、急に酷い熱が出て、背中に あるヘブライライ語のアザが痛み出し、光を放っていたのだ。あんな事は今ま で一度も無かったことだった。 「何の用でしょうか。私は、今、少々ナーバスなんです。満足の出来る試合 が出来なかったら」 カエデは言った。 「オレは、十二氏族の聖なる文字の力を持つ娘達を捜しているのです」 少年は言った。 「私は剣の道に生きる者です。聖なる文字の力など関係はありません」 カエデは言った。 そうよ。やっぱり、私って、剣の道に生きる、ヲ・ト・メ。チャラチャラし た、外国の宗教とはは縁が無いのだから。 と、カエデは自分のナルシスト世界に浸ったまま言った。 「それが関係あるんだ。君が持っている、ベニヤミンの聖なる文字には、十 二氏族の力があり、世界の崩壊を止める事が出来る」 少年は言った。カエデは怪訝に思った。 「世界の崩壊は時空震です。この時空震は魔皇帝ネロが起こした物です。だ から、魔皇帝ネロを倒せば、時空震も止められます。 私は、勇者パーティ達と共に、マカイ帝国へと、進軍を開始する人類の軍勢を 選抜するブドー闘技場で私は、Cクラスからマカイ国へと進軍する軍勢に参加 できるBクラスの闘技場まで行くのです。これこそが私の生きる意味」 カエデは、言っている間に、なんて私は健気なんだろうと、ジーンとしてき た。 「この世界では、そんなに魔族と戦うことが重要なのか。オレには理解でき ない」 少年は言った。 「おかしいです、そちら様だってX流に入ったのは、魔族を討伐し、魔皇帝 ネロを滅ぼすためでしょう」 カエデは言った。 「オレが、X流に入ったのは、十二氏族の聖なる文字を持った娘達を集める ために、格闘技の力が必要だからだ」 少年は言った。 「そちら様はヘンですね。私には理解できません。この世界は人類を滅ぼそ うとする魔皇帝との戦いの為に武技が必要なのです。私は、その為に戦いま す」 カエデは言った。 「魔皇帝なんか倒さなくても、十二氏族の聖なる文字を持った娘達が集まれ ば、時空震だって収まるんだよ。だから、君も、俺達に協力してくれ」 少年は言った。 「駄目です。私は、剣に生きる者。剣の修業こそが私の使命なのです。風流 院流剣術宗家師範として」 カエデは言った。 「君は神なる主によって選ばれたんだよ」 少年は言った。 私が、えらばれし者。 なんて良いヒ・ビ・キ。 やっぱり、私って特別なのね。 カエデは、自分のナルシスト世界へと入っていった。 「でも駄目です。私は、剣の道に己を捧げました。私の背中に、ある十二氏 族の聖なる文字のアザに、どれだけの意味が在るのかは判りませんが、お引き 取り下さい」 カエデは自分のナルシスト世界に浸りながら言った。 「ここまで言っても判ったくれないのか。困ったな。多分、政府が動く事に なるかもしれない。これは、かなり大きな話になって居るんだから」 少年は言った。 「私は私の意志で剣の道に生きるだけです。失礼します」 カエデは言った。 そしてカエデは、少年の前から立ち去った。 十二氏族の聖なる文字が何だというのだろうか。カエデは、中卒のまま、風 流院流剣術の宗家師範になっているため。十二氏族の教養などには疎かった。 カエデは、宗教の話は嫌いだった。常に自分が特別だと思っていたからだ。健 気で可憐な乙女と、自分のナルシスト世界へ浸っていたのだ。
第十三章、魔族の宴!魔皇帝第二の刺客!爆走獣魔クイーン出撃!
魔幻空間に浮かぶマカイ帝国の魔都ホラーゾン。その宮殿ダビニフスでは、 6人の魔族長達が集まっていた。 翼の魔族長ルシファーは、自身の配下の魔族、空魔十傑の一人翼角鬼コーイ ップが、厄災の天命星を討ち漏らした事を玉座の間で魔皇帝ネロに報告した。 「らしくないな。翼の魔族長よ」 魔皇帝ネロは言った。 「まさか、あの飛行機に、元勇者パーティの格闘家、マスターXが乗ってい ようとは予測できませんでした」 堕天使ルシファーは言った。 「偶然なのか、それとも、YES教の神の力なのかエゴシャよ。判るか」 魔皇帝ネロは言った。 「それは判りません。ドホラー神の、お伺いを聞かねば」 年老いた魔族の女予言者エゴシャは言った。 女の笑い声が上がった。獣の魔族長、獣魔女王ガブリルだった。 「所詮、天界を裏切った堕天使風情に出来ることは、そこまでです。この獣 の魔族長ガブリルが率いる、獣の魔族の総攻撃で、矮小なブドー国ごと、滅ぼ して見せましょう」 獣魔女王ガブリルは、筋肉で覆われた、身体に、まとわりつくような銀色の 宝石をちりばめた、水着の様な鎧を着て、肩から、白い虎の毛皮のマントを羽 織っていた。そして手には、ムチを持っていた。これが獣魔女王ガブリルのイ クサ装束だった。 「ほう、戦争を仕掛ける気か獣の魔族長よ」 魔皇帝ネロは笑みを浮かべた。 「その通り!獣の魔族達は、人間達に恐怖の二文字を植え付けるのです!」 獣魔女王ガブリルは言った。 「任せる。厄災の天命星を、討ち取ってこい」 魔皇帝ネロは言った。 そして魔幻空間に浮かぶ魔帝都ホラーゾンから、獣魔女王ガブリルが率いる 獣の魔族達と獣のモンスター達が、暴走したように荒れ狂い。ブドー国の首 都、イッポンへと、殺到していった。その数、百万頭。
第十四章 闘技場のバトルは続く!頑張れマイク!漢になるために! マイクは、第二回戦へと、進んでいった。優勝するためには、あと五回戦う 必要があった。マイクは、第二回戦で、アクトク国の忍者、ジャドー君と対峙 することになった。 「アクトク国を知っているだろう」 ジャドー君は言った。 「知らぬ」 マイクは言った。 「なんと!アクトク国を知らないとは、どこの田舎者であるか!アクトク国 は、国民全てが悪人になるための義務教育をしている史上最悪の国なので在る ぞ!アライメントがカオティック以外の者は住むことも適わぬ国であるのだ! その悪人だけのアクトク国で栄える、忍術の一派、ズルイヤ流忍術!」 ジャドー君は言った。 「オレはX流だ。アクトク国など関係ない」 マイクは漢キャラになって言った。 「それでは、第2試合を開始します。ファィト!」 審判が試合開始を告げた。 マイクは発動法でソウルを全身に巡らせた。 「ズルイヤ流忍法、十分身の術!」 ジャドー君は、印を結ぶと、十人に分身した。 「ズルイヤ流卑劣手裏剣!」 そして、両手に手裏剣を幾つも持って、マイク目がけて、十人に分身したジ ャドー君は投げ着けた。一度に無数の手裏剣が殺到した。 「Xワイルド!」 マイクは、出の早いXワイルドで、飛んできた、手裏剣を全て、撃ち落とし た。 そしてジャドー君の分身目がけて走った。昨日の朝稽古と午前の稽古で学ん だ、素手での戦いで、ジャドー君の分身を次々と消していった。 そして最後の一体となり、ジャドー君は背中から忍者刀を抜いて、マイクの 正拳突きを受け止めた。 「ズルイヤ流は分身術だけでは無いので在るぞ」 ジャドー君は言った。 「オレはX流だ」 マイクは漢キャラになったまま言った。 そして前蹴りをジャドー君に放った。 ジャドー君は、とんぼ返りをして避けた。 そして空中から何かを撒いた。 「何だ、これは!」 マイクは、吸い込んでしまった。 「ふふふふふふふ、痺れ薬である。さあズルイヤと言ってギブアップせよ」 ジャドー君は言った。 マイクの身体は痺れた。 そして動きが悪くなった。 だが…マイクには、マスターX直伝の発動法が在った。 「発動法!」 マイクは、発動法を繰り返した。身体の痺れがソウルの流れの回復と共に取 れてきた。 「なんと!このソウルの流れを阻害する、格闘家用の痺れ薬をソ ウルの流れの強化で破るとは!」 ジャドー君は、マイクを見て驚いた顔をした。 「オレはX流だ!」 マイクは、漢キャラになったまま、突進していった。そして避けようとした ジャドー君目がけて、正拳突きを放った。ジャドー君は、印を結んだが。マイ クの正拳突きの方が早かった。ジャドー君は、吹き飛ばされて吹っ飛んでいっ た。だが、空中を浮いている、ジャドー君目がけて、マイクは跳んだ。 「Xワイルド!」 マイクの右腕から発せられた、Xワイルドは、ジャドー君に命中した。ジャ ドー君の身体は、闘技場の壁にまで吹き飛んでいった。そしてジャドー君の身 体は、闘技場の地面に落ちた。 「ジャドー君選手はダウンしました!1,2,3,4,5,6,7,8, 9,10!マイク・ラブクラウド選手のKO勝利です!」 審判の声がした。 マイクは、試合場から漢キャラのまま立ち去った。 また一つ、オレは強くなった。 その時、控え室へ向かう通路に、昨日、勇者會舘の中で見た、赤髪の女性が 居た。赤い髪をポニーテールにして、口から下を隠す覆面で顔を覆っていた。 そして黒いレオタードの様に、整ったメリハリの付いた身体のラインを強調す る服を着ていた。 「私は、あのジャドー君の姉のジャドー・ツタエ。X流の門下生は強いの ね。マスターXは、勇者パーティから抜け出した腰抜けだけど。指導者として の腕は良いようね」 ジャドー・ツタエは言った。 「オレはX流ですから」 マイクは、漢キャラのまま俯き加減に言った。 「フフッ、カワイイ坊やね。もしコレから、聖なる文字を持つ娘を捜すため に、アクトク国へ行くことが在ったら、コレを持っていけば良いわ。これはワ ルの勲章。アクトク国で立派な悪人として認められると貰える勲章よ。アクト ク国では悪人が国を治めているのだから」 ジャドー・ツタエは言った。 「何故、オレに渡すのですか」 マイクは訝しく思いながら漢キャラのまま聞いた。 「それは、リスカーナに頼まれたからよ。リスカーナは妹思いなのね。アク トク国では生きていけないけれど。それじゃ失礼」 ジャドー・ツタエは言った。そして失礼と言うと、つむじ風か起きてジャド ー・ツタエは消えていた。 「これが、勇者パーティの女忍者の実力か。どうやって消えたか判らなかっ たぞ」 マイクは受け取ったワルの勲章を持って見ながら言った。 第二回戦と、第三回戦、第四回戦、カエデは、自分の地獄車を中心とした技 との相性の良い対戦相手とぶつかり、順調に勝ち進んでいった。やはり、今日 のカエデは絶好調だったようだ。そして初めて進出する準決勝第二試合で、強 豪を輩出することで有名なチャイカ国の女剣士ユエ・ビンと対峙する事になっ た。 「オマエ、すぐ殺すアル。覚悟は良いか」 ユエ・ビンは両手に剣を持つ双剣術の構えで言った。 「私は負けられない。今日こそは、Cクラス、トーナメントで優勝して、B クラスの闘技場に参加する権利を得るのだから」 カエデは自分のナルシスト世界に浸りながら言った。 「オマエ、このCクラス闘技場で準決勝に進むまでに、どのぐらいの期間か けたアルか」 ユエ・ビンは言った。 「半年です。それが何か?」 カエデは言った。 「オマエ、才能無いアルね、ワタシは、今日が、このCクラストーナメント に参加する初めての日でアルよ」 ユエ・ビンは言った。 「私に才能が無い?」 ガーーーーーーーーン。と、カエデは自己否定されて、激しいショックを受 けた。 「みっともないアルね。才能が無いのに、半年間もウロウロするのは良くな いアルよ」 ユエ・ビンは言った。 「風流院カエデ、このチャイカ国の女剣士にだけは負けられません」 カエデは、ショックのあまり涙目になりながら言った。 この健気な私が、みっともない。そんなことは在りません。私は、魔皇帝討 伐の為に、マカイ帝国で討ち死にした、風流院惣一朗の娘、カエデです。どん な非難を浴びようとも、一途に、自分の思いを遂げます。父上の仇を取るため に。 「それでは、準決勝第二試合を開始します。ファィト!」 審判が試合開始を告げた。 風流ツムジでカエデは全身に気を巡らせた。 「風流院カエデ行きます!」 そして、ユエ・ビン目がけて、怒りのあまり涙を流しながら居合い切りの体勢 のまま突進した。 「シロイハ!」 カエデは、風流院流居合い抜刀術、シロイハで、下段から抜き打ちを放っ た。 だが、カエデの、気を込めた、妖刀ムラマサの抜き打ちをユエ・ビンはギリ ギリの所でかわし、シロイハの二段攻撃の水平切りキランもギリギリの所でか わされた。 強い! カエデは、シロイハから剣術に変化させた。 「地獄車!」 カエデは、妖刀ムラマサを高速回転させた。 だが、ユエ・ビンは、両手に持った双剣で地獄車の切りつけを全てを受けた。 カエデは息切れして、間合いを取るために離れた。 「このワタシの会得している、四虎流双剣術は、四方八方から攻撃されても 全て受けられる剣術アルね。所詮は一本の剣で斬りかかってきても、このワタ シの両手に持った四虎流双剣術では簡単に受けられるのでアルよ」 ユエ・ビンは言った。 「まさか、あなたは、私と同じ高速型の剣術使い」 カエデは言った。 「オマエ、カンは良いようでアルね。確かにワタシの剣術は高速型でアル よ。でもね、ただの高速では無いアル。超高速連打型でアルよ」 ユエ・ビンは言った。 私の得意とする、高速型の地獄車よりも早いと言うのですか。確かに、私 の、地獄車を両手に持った双剣で受け止める速さは、紛れもなく高速型の剣術 です。チャイカの剣術に風流院流剣術が破れては、もう二度と、ヒノポンの地 を踏めません。 「オマエ、これから、ワタシが攻撃仕掛けるよ。すぐ死ぬアル」 ユエ・ビンは言った。 そして、両手に持った双剣を右の剣は下に、左の剣は上に構えた。 「四虎強襲剣!」 ユエ・ビンは、一瞬でカエデと間合いを詰めた。そして、両手に持った剣を 高速回転させた。 カエデは地獄車の受けの技、テガハヤイで、ユエ・ビンの四虎強襲剣を受け た。だが、ユエビンの剣の速度は、カエデの地獄車を上回っていた。ユエ・ビ ンの剣が放つ気の直撃を何発も受けた。そしてカエデの手から、妖刀ムラマサ は飛んでいった。 「たわいも無いアル。中途半端な高速型の剣術だったアルね」 ユエ・ビンは言った。 その言葉がダウンした、カエデの耳に、やけに遠く響いた。 カエデは、朦朧とする意識の中で、父親と一緒に滝壺の前で稽古をしている 幼い自分を思いだしていた。父親の風流院惣一朗は、美男子だった。だから、 イケメンの父親と一緒に風流院流の稽古をすることは楽しかった。自慢の父親 だった。 そして、父親の惣一朗と、一緒に、極楽車を練習していた。 「カエデ、風流院流の極楽車は全ての、技に通じる基本技なんだよ、だか ら、しっかりと「ドッセイ」と言って、何にも負けない、強い太刀筋を作り上 げるんだ」 父親の惣一朗は言った。 「ドッセイ!」 幼いカエデは、惣一朗に言われて極楽車を練習していた。 「上手いぞカエデ。しっかりと基本の極楽車を作るんだ。他の技は地獄車も 含めて、全て基本の極楽車が出来てから、身につけて行くんだよ。ほらお父さ んが極楽車を見せよう」 「ドッセイ!」 父親の惣一朗は、極楽車から、巨大な衝撃波を作り出して、滝目がけてうち だした。滝は逆流して、滝の後ろの岸壁を大きく抉った。 私にも、あんな時 期が在ったのですね。極楽車を父上から習っていた時期が。それは、私にとっ て、かけがえのない時期。父上から託された、風流院流剣術。それを、全て受 け入れないことには、私は、父上の期待に背く事になる。私は、極楽車を使わ なければならないときが来たのですね。 カエデは自分のナルシスト世界に浸りながらも、父親の惣一朗との思いでを 思いだし、立ち上がった。 「…6,7,8,9。ああっと!風流院カエデ選手は9.5カウントで立ち 上がりました」 審判の声が聞こえた。 カエデは、石版で覆われた床に突き刺さった、自分の妖刀ムラマサを取っ た。双剣を腰の鞘に収めていたユエ・ビンがカエデが立ち上がったのを見て、 再び双剣を鞘から抜いた。 「オマエ、まだ、立つアルか。何も判っていないアル。オマエの高速型の剣 術はワタシの四虎流双剣術の速さには追いつけないアルよ」 ユエ・ビンは言った。 「私は最早、速さだけを追い求めません。私は極楽車の一撃に全てを賭けま す」 カエデは、自分のナルシスト世界から、抜け出して決然とした。 「高速型の剣術でカウンターを狙っても無理アルよ。四虎流双剣術は、一方 の剣を封じられても、もう1つの剣を使うね」 ユエ・ビンは言った。 「私は、それでも、一太刀に全てを賭けるのです」 カエデは妖刀ムラマサを上段に構えた。そして、風流ツムジで全身に気を張 り巡らせた。 カエデは、今まで子供の頃から、極楽車の練習は恥ずかしがってしていなかっ たが。更に幼い頃に、父親の風流院惣一朗から学んだ。極楽車の型は身体が覚 えていた。三つ子の魂百までである。 「四虎無尽剣!」 ユエ・ビンは、先程とは違う、太刀筋で、カエデ目がけて切り込んできた。 だが、カエデは、最初の数撃は、気で強化した身体で耐えた。だが、それで も、ユエ・ビンの気の力が強いため、桜色の振り袖が切れて腕に傷が出来た。 ユエ・ビンは極楽車の間合いに入った。 「ドッセイ!」 カエデは叫んで極楽車を突進してくるユエ・ビン目がけて放った。 ユエ・ビンは、余裕の顔で双剣を交差させて、カエデの、極楽車を受けた。 だが、極楽車の太刀筋は、ユエ・ビンの双剣を砕いて、ユエ・ビンに殺到し た。 ユエ・ビンは、吹き飛んだ。 そしてダウンした。 「ユエ・ビン選手はダウンしました!1,2,3,4,5,6,7,8, 9,10!風流院カエデ選手のKO勝利です!」 審判は叫んだ。 「カエデは、死んだ父上と会うことが出来ました。カエデは、もう極楽車を 恥ずかしがる事はありません。イケメンの父上も「ドッセイ」と言っていたの です。それならば何を恥ずかしがる事が在りましょうか」 カエデは亡き父、風流院惣一朗を思い出しながら言った。 「ありがとうございます。チャイカの剣士ユエ・ビン。私は、あなたの、お かけで、父上と会うことが出来ました」 カエデは、担架で運ばれていく。ユエ・ビンに頭を下げた。 マイクは、順調に三回戦、四回戦、準決勝をXワイルドとX・ターミネイト を使って、勝ち上がってきた。マスターXが、この二つの必殺技をマイクに教 えたのは、よく考えての事だったようだった。遠距離ではX・ターミネイト。 近距離ではXワイルド。どちらも、使い勝手の良い必殺技だった。この二つの 必殺技に共通していることは、どちらも、攻撃力が高いことだった。相手がソ ウルを高めてガードしても直撃さえすれば、吹き飛ばす威力が在った。 準決勝第二試合を見て、水色の髪の少女剣士、風流院カエデが勝利を収めた 事は判った。 まさか十二氏族の聖なる文字を持った娘が決勝戦の相手だとはマイクは驚いて いた。勝つべきか、負けるべきなのか、どちらにしろ、どうすれば良いのか迷 っていた。あのベニヤミンの聖なる文字を持つ少女風流院カエデは、この、C クラス・トーナメントを制覇するために参加している。それは判っている。だ から、勝たせて華を持たせるべきか。 どうするんだ。 そしてマイクは、フト、自分の着ている道着を見た。X流のX印が左胸にぬ われていた。 そうだ。この戦いはX流のマスターXが、オレを漢にするために戦っている のだ。 オレは漢の栄冠を手に入れる為に勝ちに行かねばならない。精一杯戦わなけ れば、あの風流院カエデも納得しないだろう。勝負に、邪心を持ち込んではい けないのだ。また一つオレも漢になったな。と、マイクは思った。 フミナ は、イッチ・フォンでブドー国営闘技場の放送を見ていて、マイク・ラブクラ ウドがCクラス闘技場で、決勝戦まで進んだことを確認した。 ホントにバカなのね。 フミナは、呆れていた。僅か3日前に飛行機の中でマスターXから指導を受 けただけで、全世界から必殺技が使えるソウル操者達が集まる闘技場で、決勝 戦まで進むとは呆れた話だった。 やっぱりバカなのよ。 フミナは、そう思った。 そして、そのバカと、昨日ゲダンギリ地下鉄で会った、ベニヤミンの聖なる 文字を持つ娘、風流院カエデ(フミナは、試合を見ていて名前を知った)が決 勝で戦うことになって。フミナは、これが神なる主の力なのかと思った。 「これより決勝戦を開始します。マイク・ラブクラウド選手と風流院カエデ 選手は、試合場に入って下さい」 控え室にアナウンスが入った。 決勝まで残った為、控え室には、マイク一人だけが居た。もう1つのブロッ クの控え室には、風流寺カエデが居るはずだった。 マイクは、決心して、立ち上がり。 控え室を出て廊下を歩いていき。試合場へと出ていった。 マイクが、闘技場の試合場へ出ていくと、風流院カエデも歩いてきた。 そして、試合場の中央で、マイクと、風流院カエデは対峙した。 「そちら様が。決勝戦の相手ですか。よくよく縁が在るようですね。です が、私は、マスターXが嫌いです。勇者パーティを抜け出ることは人類に対す る裏切り行為です」 風流院カエデはマイクに言った。 「君はベニヤミンの聖なる文字を持っている。オレは君とは戦うべきか迷っ ていたが。今、オレは、X流の門下生として、師匠のマスターXの名誉を守ら なくてはならない。だから全力で戦う」 マイクは言った。 「当然です。そちら様に情けを掛けられる程、この風流院カエデはヤワでは 在りません。魔皇帝を倒す、その日まで、この風流院カエデは戦い続けます」 風流院カエデは言った。 「それでは、本日の決勝戦を開始します!ファィト!」 審判の声がした。 「発動法!」 マイクは、発動法を行い、全身にソウルを循環させた。 風流院カエデも、全身にソウルを発した。 そして剣を高々と上段に構えた。先程の準決勝第二試合を見ていたマイクは、 風流院カエデが近接攻撃で、攻撃力の高い技を使える事を見ていた。それで開 始線の位置から、攻撃することにした。 「X・ターミネイト!」 マイクは両腕を交差させて、X字型の、衝撃波を飛ばした。 「ドッセイ!」 風流院カエデは、気合いを放つと、上段から、衝撃波を出した。 X・ターミネイトが相殺された! マイクは慌てた。この決勝に至るまで、マイクの使う、X・ターミネイト は、相殺されることはなかったからだ。 小柄で、美人の外見に騙されてはいけなかった。 風流院カエデは強い! マイクは、剣を構える風流院カエデを見て脳裏に思考が走った。 カエデは、父親との、修業を思い出すことによって、極楽車の封印が解け た、自分の風流院流剣術が格段に進歩したことが判った。極楽車が在っての地 獄車であり。風流院流剣術の技の基礎は全て極楽車から始まることを。 そして応用技は全て、極楽車を元にしていることが判った。だから、極楽車を 鍛えれば、これからカエデの剣術は確実に伸びていくことが判った。 父上。判りました。カエデはもう迷いません。今まで、極楽車を拒否してき たのは、健気に生きようとする、私の可憐な心が、かえって逆に働いていたの ですね。私は、先祖代々、風流院家が伝えてきた、風流院流剣術に好き嫌いな ど考えません。しばしの間、自分のナルシスト世界へ浸っていたカエデは、試 合場に戻ってきた。 そして極楽車の構えを取った。そして気を集め、マイク・ラブクラウド目が けて地獄車をかけた。 「Xワイルド!」 マイク・ラブクラウドは、光り輝く右腕で、カエデの地獄車の初太刀を受け た。その瞬間、カエデは、弾き飛ばされた。だが。気の流れがいつになく良か った。地獄車が破れたが、ほぼ相殺が出来たようだった。だが、ダメージは来 ていた。カエデは口から血を吐いた。X流の必殺技の威力は、高速技の、地獄 車では、防ぎきれない事がよく判った。 マイクは、X・ターミネイトが相殺され、Xワイルドで風流院カエデの剣を 受けて右肩に刀傷が出来ていた。 やはり今朝修得したばかりの、Xワイルドは、まだ完全に使いこなせないよ うであり、高速型の剣を使う、風流院カエデの剣に技を出すタイミングを見誤 ったようだった。 そのタイミングのズレが、刀傷の原因となったようだった。 その時。サイレンが鳴った。 闘技場内の観客席から悲鳴が起きた。 「本日の試合は中止します!このブドー国の首都イッポンに魔族が襲来しま した!観客の皆様は、係員の誘導に従って、シェルターまで避難して下さ!」 審判が告げる場内放送が、慌ただしい声で始まった。 マイクはベニヤミンの聖なる文字の少女、風流院カエデを見た。 「試合は中止だそうだ。魔族が来襲したらしい」 マイクは言った。 「仕方がないですね、魔族と戦うのは、剣術家の宿命です」 風流院カエデは言った、そして白い鞘に剣を収めた。そして懐から紙を出 し、口の周りに付いた血を拭った。 「君はXワイルドを食らって。やはり、怪我をしたのかい」 マイクは言った。Xワイルドの威力はやはり、こんな小柄な少女相手には、 大きすぎるようだった。 「闘技場に出る以上、試合で傷を負うのは当たり前です。妙な気を回さない で下さい」 風流院カエデは言った。 そして、試合場から風流院カエデは出ていった。 マイクも、試合場から出て行った。
第十五章、魔族の来襲!ブドーに獣の魔族長ガブリル現る!
この日の夕方午後四時三十一分、ブドーの大地が揺れた。魔族達の来襲が始 まったのだ。 獣の魔族長、獣魔女王ガブリルが引きいる、百万頭の獣のモンスター達と、 一万人の獣の魔族達。それら、全てがブドー国の首都イッポンへと来襲したの だ。中でも、全長、百二十メートルの巨大モンスター、ベヒーモス軍団の突撃 によって起きる破壊力は凄まじかった。コンクリート製のビルを次々と、なぎ 倒し。ベヒーモス軍団は進んでいった。そして巨大な、体躯を誇る獣のモンス ター達が、地を駆け人間達を次々と、貪り食った。ベヒーモス軍団の突撃を止 めるために、ブドーの軍隊の戦車が出て、砲撃を行ったが、ベヒーモス軍団の 侵攻を止める事は出来なかった。 「進め!我が獣の軍勢よ!人間共に恐怖の二文字を植え付けよ!」 獣魔女王ガブリルは金色の角を生やしたベヒーモス・キングの背中に設えた 玉座に乗って念波による指示を出した。 獣魔女王ガブリルの念波は、獣の魔族達が受け止め、そして、指示通りに、 獣のモンスター達を操り、次々と、人間達を殺していった。自動車に乗って逃 げようとする者達は、次々と、二十メートルの体躯を誇る、巨大な、マンモL サイズによって、自動車ごと潰されていった。何が起きているのか、判らず。 親から離れて右往左往する子供も、ジャッカル・ファングによって、頭から食 べられ死んでいった。 ブドー王国の首都、イッポンは魔族との戦争状態に陥っていた。 獣のモンスター達が、町中で暴れている中、マイクは、X武藝會舘目指し て、発動法を使って走っていた。取りあえず、次々と出て来る、モンスター達 をXワイルドと、X・ターミネイトを使って、倒していった。この時、マイク は、X流が人間よりもモンスター相手に戦うときの方が威力が出しやすいこと に気が付いていた。マスターXは、やはり、使いやすい技をマイクに教えてい たようだった。 「コレがX流か」 マイクは漢キャラのまま、走りながら、街の中で暴れているモンスター達を 次々と倒していった。そしてX武芸會舘へと辿り着いた。X武芸會舘の前で は、ニューモン達X流の門下生達が、指揮を取り、暴れて迫り来るモンスター 達を倒していた。 マイクは、モンスターの背中を伝って、X武芸會舘前の階段まで辿り着い た。 「ニューモンさん。これは、一体!」 マイクは言った。 「ラブクラウド君か、これは魔族の大雪崩だ。魔族は、ある時、一斉に総攻 撃を人間達目がけてかけるときがある、それが魔族の大雪崩だ」 ニューモンは言った。 「そういえば、忘れていたが、あの、オレの連れの女知りませんか」 マイクは言った。 「そこまでは判らないよ」 ニューモンは言った。 「それじゃ、ちょっと見てきます」 マイクは言うと、受付に行った。 すると受付の前に、フミナは居た。 「よお、生きていたか」 マイクは言った。 フミナは険の在る顔でマイクを見ながら言った。 「運が良かったわね。もし私が、このX流の道場の女子寮とは別のホテルか 旅館に泊まっていたら、今頃は、魔族の大雪崩で殺されていたわ」 「これも神なる主の力じゃないか」 マイクは思っている事を言った。 「それは、あまりにもオプティミストすぎる考え方よ。それより、決勝戦を 見たわよ。あの、ベニヤミンの聖なる文字を持つ子は、私達の旅の目的を理解 してくれた?」 フミナは言った。 「いや、なんか、魔皇帝討伐に入れ込んでいるらしくて、魔皇帝を倒すまで 剣を振り続けるとか言って居るんだ」 マイクは風流院カエデの言葉を思い出しながら言った。 「名前は判ったし。あとは、父様が、ブドーの政府を通して身柄を確保する と思うけれど」 フミナは言った。 「オレは、漢になる為に、ブドーの闘技場に出たんだ。なのに決勝戦の最中 に魔族が襲来してきた。あの子に勝てば、オレは漢の栄冠が手に入ったのに」 マイクは言った。 「女の子相手に殴りつけるの?あの子血を吐いていたわよ」 フミナは言った。 「これは、格闘技や剣術に身を捧げる者の宿命なのだ。ただ性別など考えず に、正々堂々と純粋な勝負をする事に、相手を尊重する価値があるのだ」 マイクは達観したように言った。 「なんか、マスターXに毒されているようね。3日前は、格闘技なんか出来 なかったんでしょ」 フミナは言った。 「その通り。だが、マスターXに漢の生きる道を教わったのだ」 マイクは言った。 「それより、コレからどうするの。今日中にブドー国から出る予定よ」 フミナは言った。 「そういや、次に行く国を決めたか?」 マイクは言った。 「それが、全然、思い浮かばないのよ。この惑星ジーには、百五十一の国が 在るのよ。その中から、どうやって、十二氏族の聖なる文字を身体に持った娘 を捜し出すと言うの」 フミナは言った。 「実は、試合の途中で勇者パーティの女忍者ジャドー・ツタエと会った」 マイクは言った。 「何で、ジャドー・ツタエが、あなたに会うの」 フミナは怪訝そうな顔をして言った。 「それが、リスカーナさんが妹がアクトク国へ行って困らないようにと、ワ ルの勲章をジャドー・ツタエに渡すように頼んでいたんだ」 マイクは、ワルの勲章を道着の内側から取りだした。 「これは、アクトク国という悪人だけしか住んでいない国の中でも最低の悪 人として認められた人間が貰える勲章よ」 フミナはワルの勲章を見て言った。 「それじゃ、次は、アクトク国へ行ってみるか」 マイクは言った。 「ちょっと待ちなさいよ。アクトク国がどんな国だか知っているの?テイカ ン国やバブラー国、ハカイ国と並ぶような最低の国よ」 フミナは言った。 「じゃあ、他に何処に行くんだ」 マイクは言った。 「それは、そうだけど」 フミナは困ったような顔を見せて言った。 「まずは、どうやって、このブドー国から出るかが問題だな。魔族とモンス ター達が来襲している今は出ていくのが難しいだろう」 マイクは言った。 「確かに、そうね、イッチ・フォンで調べてみたけれど、イッポン国際空港 は巨大モンスター・ベヒーモスによって飛行機達が全滅したそうよ」 フミナは言った。 受付の近くに黒いX流の道着を着た、マスターXがやって来た。 「君達。魔族の大雪崩に巻き込まれるとは、コレから、ブドーを出るには最 悪の状況だな」 マスターXは言った。 「師匠。決勝の最中に魔族が来襲してオレ、漢になれませんでした。オレは 悔しい」 マイクは言った。 「気にすることはない。また、闘技場に参加する機会もあるだろう。それよ りも君達は今日中にブドーを出なければならないのだろう」 マスターXは言った。 「でも魔族の大雪崩で街はモンスターで溢れかえっています」 マイクは言った。 「空港は駄目です」 フミナは言った。 「これからどの国に行くんだ」 マスターXはマイク達に尋ねた。 「アクトク国です」 マイクは言った。ジャドー・ツタエからワルの勲章を貰ったから、何とな く、マイクはアクトク国に縁があるように感じたのだ。 「だからアクトク国は止めなさいって言っているでしょ」 フミナが険のある顔でマイクを見て言った。 「そうか、アクトク国か。このブドーの首都イッポンからは、高速鉄道BC Gが出ている。それに乗れればいけるだろう。だが、BCGの発着駅があるイ ッポン駅は使えないだろう。このイッポンから隣国の、ペポジア国に近いクル ームまで行けば乗れるだろう」 マスターXは言った。 「クルームまでの地図は、受付で貰ってきます」 マイクは言った。 「そんな物、私がイッチ・フォンのアプリで、調べるわよ」 フミナは言った。 「それでは、私は、用事があるので、失礼するよ」 マスターXは言った。そして、X武藝會舘の正門から走って出ていった。 「それじゃ、俺達も、クルームまで師匠の様に、ひとっ走りするか」 マイクは言った。 「ちょっと、待ちなさいよ、私は、あなたのようにソウル操法で、身体を強 化して、速く走れないんだからね」 フミナは言った。 「そうか、困ったな。何か上手い方法は無いか。そうだ。オレが、お前を抱 えるか負んぶして走っていけば良いだろう」 フミナは顔を真っ赤にして叫んだ。 「絶対お断りよ!昨日は、あの風流院カエデと言う子のせいで物凄い高熱が 出たから仕方なく、あなたに抱えられたのよ!」 「それでは、どうするんだ」 マイクは言った。 「私は車の免許を持っているから、車借りれば良いでしょ」 フミナは顔を赤くしたまま言った。 「そうか、オレはバイクの免許を持っているのだが。二人乗りすればバイク の方が小回りが利くだろう」 マイクは言った。 「私は、あなたと身体がベタベタと、くっ付くのが嫌なの。だから、車を借 りるから」 フミナは言った。 「それじゃニューモンさんに聞くか。だが、道路が滅茶苦茶になって居るん だがな。でも4WDのランドクルーザーだったし大丈夫か」 マイクは言った。 そしてマイクとフミナは、車を借りに行った。 ブドー国の首都イッポンでは、戦いが続いていた。獣の魔族長、獣魔女王ガ ブリルは、 マカイ帝国TV局の違法電波で、ブドー国中の地上波をジャックして、人間達 の滅亡を宣言していた。 獣魔女王ガブリルは、マカイ帝国の酒、 ラムジンを飲んで悦に入っていた。 総攻撃を開始してから、既に二時間が経っていた。今は太陽が落ち夜の六時 四十分だった。 「獣の魔族長、獣魔女王ガブリル覚悟せよ!」 四人の人間達が、獣魔女王ガブリルが乗る、ベヒーモス・キングの背中に乗 った。ラムジンを獣魔女王ガブリルの杯に注いでいた獣の魔族の執事の首が斬 られた。 「このベヒーモス・キングの背中にまで辿り着けるとは。ただの人間じゃな いね」 獣魔女王ガブリルは言った。 「私達は勇者パーティだ。剣の勇者セイバー・ソード!」 水色の髪の青年が言った。 「癒しの聖者、オーガム・キュアリー!」 茶色い髪の青年が言った。 「叡知の賢者、リスカーナ・キョトー!」 黄緑色の髪の女性は言った。 「殺戮の忍者マスター、ジャドー・ツタエ!」 赤い髪の女性は言った。 獣魔女王ガブリルは獣の笑いを浮かべた。 「そうかい現在の勇者パーティが、お前達か。ザコ達が揃いも揃って勇者パ ーティを名乗ったものだね。丁度良い。遊んでやるよ。獣闘気!」 獣魔女王ガブリルは毛皮のマントを脱ぎ捨てると叫んだ。 全身に、強力な気が張り巡らせられた。これが獣の魔族達が使う獣闘気。 その頃、マイクとフミナは、Xと書かれたランドクルーザーに乗ってモンス ターがウロウロとする筈の街の中を走っていた。 「なんだよ。フミナ。遅いじゃないか、もっと上手く運転できないのかよ。 コレじゃ歩いた方が速いぞ」 マイクは、助手席で言った。 「しょうがないでしょ、道がデコボコになって居るんだから。私は本当は、 車を走らせるのが上手いのよ。こんなデコボコ道じゃなければね。でも、結 構、ここら辺は、モンスター達の出没が減ったと思うけれど」 フミナはハンドルを握ったまま言った。 「確かに、そうだな」 マイクも辺りを見ながら言った。モンスターが出て、いざというときは、マ イクはX流を使うつもりだったが。幸運にもモンスターと、かち合う事は無か った。 圧倒的な強さを獣魔女王ガブリルは見せた。勇者パーティは、全滅の危機に 瀕していた。 「もう終わりかい。準備運動にもならないね」 獣魔女王ガブリルは言った。 「まさか、これが、6魔族長の一角の強さだというのか。レベルが違いすぎ る」 セイバー・ソードは片膝を付き言った。 「私の魔法が全て、あの強力な闘気で破られるなんて」 リスカーナ・キョトーは、倒れたまま。オーガム・キュアリーから回復魔法 をかけて貰っていた。 「予想していたよりも強いです。今の我々では、この獣魔女王ガブリルには 勝てない」 オーガム・キュアリーは言った。 「バケモノめ!」 ジャドー・ツタエは、消えて、獣魔女王ガブリルの首を忍者刀で切りつけ た。 だが、消えた筈のジャドー・ツタエは逆に背後を取られた。そして獣魔女王 ガブリルは無造作に腕を振るった。ジャドー・ツタエは吹き飛ばされて倒れ た。 「勇者パーティとは言っても結成されてから時間が経っていないようだね。 レベルが低いんだよ。お前達じゃ勇者パーティだなんて名乗るのも烏滸がまし い。ここで殺してやるよ」 獣魔女王ガブリルは拳をポキポキと鳴らしながら言った。 そのとき、ベヒーモス・キングの背中に新たな人影が現れた。 サングラスを掛け、ヒゲを生やし、袖を破いた黒い道着に鉄下駄。 「マスターX見参!勇者パーティに助太刀しよう!」 マスターXは言った。 「お前はマカイ帝国の魔都ホラーゾンまで攻め上った勇者パーティの格闘 家、マスターX!」 獣魔女王ガブリルは言った。 「どうやら、獣の魔族長も、変わったようだな!現在の魔族長は、お前 か!」 マスターXは言った。 「その通りさ。爺様を殺した、お前を殺して供物にしてやる」 獣魔女王ガブリルは言った 「行くぞ!Xサイクロン!」 マスターXは、高速回転しながら、蹴りを放った。 獣魔女王ガブリルはマスターXの連続回転蹴りに押された。 「本当に人間なのかい。これじゃ爺様が殺されるのも無理は無いね。だが、 こちらは獣の魔族長の看板背負って居るんだよ!獣闘気!」 獣魔女王ガブリルは叫んだ。 カエデは、妖刀ムラマサを振るい、モンスター達を倒していた。カエデは、 モンスター達を操る魔族を倒そうとしたが。なかなか見つけることが出来なか った。風流院流剣術の極楽車に開眼したカエデの剣には迷いがなかった。だ が、モンスター達の数は多すぎた。剣を振るっても、次から次へと、人間達を 貪り食らうモンスター達を止めることは出来なかった。剣を振るうカエデの前 で次々と、モンスター達が、人間達を食らっていった。 何と言うことを!カエデは、健気に、剣を振るい戦います!カエデは、半分 自分のナルシスト世界に浸りながら、周囲の残虐な光景を切り払うように妖刀 ムラマサを振るい続けた。 獣魔女王ガブリルは、膝を付いた。 「相手が悪かったね。これが、X流のマスターXか。今日の所は引き分けに しておいてやるよ。者共引くよ!この戦は大将の負けだ!マカイ帝国に帰る よ!」 そして、獣魔女王ガブリルは、ベヒーモス・キングから瞬間移動して消え た。 ランド・クルーザーは夜道を走っていた。 「なんだアレは?」 マイクは、フミナが運転する、ランド・クルーザーの助手席で超低空から侵 入してくる何機もの巨大な銀色の腹を見せる飛行機を見た。ブドー国の首都イ ッポンから出て、フミナがイッチ・フォンで捜した抜け道を走っていた。 「あれは、グンカク国の爆撃機よ!」 フミナは言った。 「どういうことだ」 マイクは怪訝に思って言った。 「不味いわよ。グンカク国は、軍事力でマカイ帝国を倒すことを目標にして いるのよ。だから、無差別爆撃をコレから開始するのよ」 フミナは言った。 「無差別爆撃?」 マイクは怪訝に思った。 「そうよ。魔族の大雪崩が発生したら、その国を爆撃するのよ。魔族達を殺 す方を優先するんだから」 フミナは言った。 「人間がいるだろう」 マイクは言った。 「一般人が居てもグンカク国は、無差別爆撃を行うのよ。それがグンカク国 にとっての正義だから」 フミナは前を見ながら言った。 「それが、この世界なのか」 マイクは釈然としないものを感じて言った。 「そうよ。本当に余所の世界から来たって、まだ言うつもりなの」 フミナは言った。 「ああ、そうだよ」 マイクは言った。 マイクは、マスターXや、X武芸會舘の人達、そしてベニヤミンの聖なる文 字を持つ娘風流院カエデが死なないように祈った。 そして、夜の道をフミナが運転するランド・クルーザーは走っていった。ア クトク国へ通じる高速鉄道BCGに乗るためクルームを目指して。
「心の詩 第一篇見つめて下さい、あなたの心を」了 オマケ。次回予告!美しくも凛々しき清楚な黒き薔薇、薔薇十字教会の修道 女マリリア・イノール登場!超敬虔!
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