色の袴と桜色の振り袖を着た。水色のショートカットの少女が赤い顔をして白 い鞘の日本刀を杖のように突いて寄りかかるように出てきた。そして駅のホー ムで倒れた。いや、フミナと同じように身体が光っていた。 「おい、フミナ、いまホームに降りた子も身体から光を放っている」 マイクは言った。 「まさか、その子は、私の十二氏族の名前と同じ聖なる文字を持っている の」 フミナは弱々しい声で言った。 「確かめる必要が在るな」 マイクは言った。 そしてフミナを抱えたまま、剣を持った少女の所まで走っていった。身体が 軽快に動いて、一瞬で駅の混雑を潜り抜けて、少女の所まで辿り着いた。 「もし、そこの方、急激に熱が出ているのではありませぬか」 マイクは水色のショートカットの少女を見ていった。顔はフミナより大分日 本人っぽかったが、それでも顔立ちは日本人らしくは無かった。きっと着物を 着ているせいで、日本人っぽく見えたのだろう。水色のキラキラと輝くショー トカットのせいで、見えるうなじが、フミナと同じように熱が出ているせいな のか、赤らんでいて妙に色っぽくて、しばし、可愛い上に美人顔をマイクは見 ていた。化粧っ気は無いが、スッピンで、ここまで美人とはなかなか見られる モノではなかった。 「何、アナタはボーっとしているのよ。話しかけなさいよ」 フミナは弱々しい声で、それでも、やかましく、マイクに言った。 「しょうがないな。急激に熱が出るのならば、何か事情が在るのでは無いの ですか」 マイクはフミナに答えると少女に言った。 「構わないで下さい、これも修業なのです」 少女は言うと白い鞘の剣を杖にして立ち上がろうとした。 「もっと、ハッキリと、十二氏族の名前のアザと言いなさいよ」 フミナが弱々しいがマイクに促すように言った。マイクは覚悟を決めて言っ た。 「もしかして、身体に、十二氏族の名前がヘブライライ語で書かれて在りま せんか」 マイクは言った。 少女の顔がハッとした顔になった。 「どうして、それを。知っているのですか」 少女は立ち上がろうとして、白い鞘の剣が支える力が抜けたのかホームの床 に倒れて言った。 「実は、この、女、フミナ・キョトーにも、十二氏族の名前のアザが在るの です」 マイクは言った。 「私と同じようにベニヤミンのアザを持っていると言うの」 少女は倒れたまま言った。 「このフミナ・キョトーに在るアザは、ガドです」 マイクは言った。 「まさか、このアザは何かの力を持っているの?」 少女は倒れたまま肩を押さえて言った。 「ええ、そうです。世界崩壊を救う神なる主の力が在るのです」 マイクは言った。 「おかしな事を言わないで、世界崩壊の時空震を起こしたのは、マカイ帝国 の魔皇帝よ。テレビで言って居るから。魔皇帝ネロを討伐すれば、時空震は止 まるんだから。勇者パーティのセイバー・ソード様がきっと、魔王を討伐して くれるんだから。私も、もっと修業して剣の達人になって魔族達を倒さなけれ ば駄目なのよ。これしきの熱で倒れるなんて情けない。私は剣士失格よ」 少女は自分に言い聞かせるようにして、白い鞘の刀を杖にして立ち上がろう とした。 「ガドと、ベニヤミンの聖なる文字は揃ったが。どうもベニヤミンの聖なる 文字の持ち主は、協力的というより,自己の都合が重要のようだな」 マイクは少女を見て冷静に分析して言った。 「なに批評しているのよ。説得しなさいよ」 フミナは弱々しい声で言った。 「もし良ければ、ご同行願えませんかな。私達は、十二氏族の名前を身体に 持っている娘達を捜しているのです」 マイクは言った。 「あなたX流でしょ。道着にXって書いてあるし」 少女は言った。 「はい、そうですが」 マイクは言った。 「私は、マスターXが嫌いなの。魔王討伐の勇者パーティに居たのに、今 は、デカイ、道場を建てて高額な月謝を取っているんだから。マスターXは、 金の力に屈したのよ」 少女は言った。 「おい、フミナ。親父さんのカードでX流の月謝を支払えるか?なんか無茶 苦茶、月謝が高そうだ」 マイクは慌てて聞いた。 「月謝の話は後回しにして、説得しなさいよ」 フミナは弱々しい声で言った。 「世界救うために、神なる主の力を宿している十二氏族の名前を持っている なら、その力を有意義に使わなければ駄目です」 マイクは言った。 「断ります。この私の背中に在るベニヤミンのアザにYES教の神の力があ るとは初めて聞きましたが。私は、魔皇帝討伐こそが、世界を救う方法だと考 えます。それでは失礼」 少女は言った。 そして、白い鞘の刀を杖にして立ち上がりよたりながら階段へと歩いていっ た。 「どうするんだ」 マイクはフミナに言った。 「あの子は典型的なブドーの国民よ。魔皇帝を討伐すれば、全てが上手く行 くと考えている」 フミナは弱々しい声で言った。そして、イッチ・フォンを取りしだして、少 女の後ろ姿をカメラで写していた。 「後ろ姿だが、大丈夫か?」 マイクは言った。 「私の背中に在る聖なる文字が、ただのアザで無かったことが判ったのだか ら、父様にメールを書いて送るのよ、画像ファイルも添付してね。一応、聖な る文字を持つ娘を発見したんだから」 フミナは言った。声が大分しっかりしてきた事にマイクは気が付いた。 「どうした、顔からは熱が引いていったようだが」 マイクは言った。 「気が付いているなら、早く私を抱えていないで降ろしなさいよ」 フミナは言った。 「判ったよ」 マイクは、フミナを降ろして言った。 「どうやら、この十二氏族の聖なる文字の持ち主同士は近づくと、酷い熱が 出るようね。あの子が離れていったら、私の熱も大分引いてきた」 フミナは手で、服を叩いて、服の皺を伸ばしながら言った。 「どうやら、この、十二氏族の聖なる文字を集める、仕事は一筋縄でいかな いようだな」 マイクは言った。もっと簡単に十二人の娘達が集まるのだろうと思っていた マイクは大分ガッカリした。 「確かに近づくだけで、こんなに、酷い状態になるなんて、ヘブライライ語 の十二氏族の聖なる文字を持つ娘達が全て集まると、もっと酷いことが起きる のかもしれない」 フミナは言った。 その時、ホームの中で、ざわめきが走った。 マイクは、そっちの方を見た。 「モンスターだ!」 叫び声がした。 地下鉄の通風口から、巨大イソギンチャクの様な怪物が無数に在る触手を伸 ばしていた。 「何て不用心なの。都市の中にモンスターを入れるだなんて」 フミナは言った。 「あれがモンスターか、魔族と何処が違うんだ」 マイクは言った。 「魔族は人間と同じように考える力を持っているけれど、モンスターは動物 と同じよ」 フミナは言った。 「それでは、X流の力を見せるか。今のオレは発動法を行えば、無尽の力が 沸いてくる」 マイクは発動法を行った。 「何やっているのよ。警察の対魔隊に任せれば良いでしょ」 フミナは言った。 「X流で漢となったオレは。戦う意欲はベリバリに在るのだ」 マイクは言うと。巨大イソギンチャク目がけて、突進していった。ボクシン グのグローブとトランクスを付けた、格闘家が、ローキックを巨大イソギンチ ャクの、触手目がけて、放っていたが。足を巨大イソギンチャクに絡め取られ て、捕まった。他にも、長刀を持った、振り袖に、袴姿の女武術家も触手に絡 め取られていた。 「触手は牽制に過ぎぬと見たり!本体にダイレクト・キーック!」 マイクは叫んで、天井の巨大イソギンチャクの本体へ向かって、飛び蹴りを 放った。飛び蹴りが、巨大イソギンチャクの沢山ある目玉を潰して突き刺さっ た。巨大イソギンチャクは青い血を流して暴れ始めた。 「やはり、ここが弱点か」 マイクは言った。空中で一回転して、足を巨大イソギンチャクの目から抜き 取り別の足で回転しながら、蹴りを突き刺した。 「マイク!封印術でイソギンを封印するから離れて!」 フミナの声がした。 「判ったぞ!」 マイクは、巨大イソギンチャクから、蹴飛ばして跳んで離れた。 「封印の結界!第二百五十六!突き出す石棺!」 フミナの声がした。巨大イソギンチャク目がけて、ホームの、床が伸びて、 天井を貫いて、空調のダクトに居る、巨大イソギンチャクを封印した。捕まっ ていた、他の、格闘家達はフミナの封印術が巨大イソギンチャクを覆うとき、 触手が断ち切られて、自由になった。 「ありがとうございます」 「オッス!」 「済まないでござる」 などとフミナに感謝の言葉が集まった。 「意外とやるじゃないか」 マイクは、フミナを見て言った。 「私は、モンスター相手に実地で封印術を使うのは初めてよ。上手く行って 良かったけれど」 フミナは呆然とした顔で言った。そして、一瞬だけ笑顔を見せた。険の在る 顔ばかり見ていたため、その笑顔が可愛く見えて、マイクは不覚にもフミナ相 手にドキリとしてしまった。 「街の中でもモンスターが出るのか」 マイクは聞いた。 「本当は、街の中ではモンスターは出ないことになっているの。でも、こう して、モンスター達が入ってくることも事実なのよ。ガクモン王国でも、首都 ベンガクでモンスターが出ることは日常茶飯事よ。でも防備が高いはずの、地 下鉄のホームにまで、モンスターが出るのはおかしいけれど。これが、このブ ドーでは当たり前なのかもしれないけれど」 フミナは言った。 「それじゃ、これからゲダンギリ地下鉄に乗ればイイや」 マイクは言った。 そして駅のホームの白線の内側に立とうとしたら。 「ちょっとすいません」 怒ったような声がした。 振り返ると大きな体格の、ゲダンギリ地下鉄のマークが描かれた、制服を着 た、駅員の女性が怒った顔をしていた。横には、痩せた男性の駅員か居た。 「アナタが、魔法を使ったんですね」 フミナを見て男性の駅員が言った。 「えっ、私?」 フミナは周りをキョロキョロ見て言った。 「魔法使うと不味いんでしょうか。一応モンスター相手に戦ったのですが」 マイクはフォローしようと言った。 確かに、フミナの魔法は、ホームの一部とはいえ形を変えて、柱にして、巨 大イソギンチャクを捕まえていたのだから。器物損壊となるのか?とマイクは 考え、素早く、掛かる費用を頭の中で計算し、弁償したら幾らになるのかと考 え。どうも、かなり不味い金額になるのではないのか。と、結論に達した。 「格闘技でモンスターを倒した方が良いんですよ。魔法は被害が大きいか ら、このゲダンギリ地下鉄では、モンスター退治に魔法を使わないように決め られて居るんです」 女の駅員が言った。 「それじゃ、私、どうなるのですか」 フミナは言った。 「先ずは始末書を書かねば駄目ですね。あと警察の立ち合いの下で、現場検 証も必要かもしれません。さあ、こちらへ来て下さい」 女の駅員は言った。 マイクは不味いことにならなければ良いと思いながらフミナの後に付いてい った
第十章 勇者パーティ登場!これが世界の頂点なのか!フミナの姉!黒 炎の賢者リスカーナ登場!
そして、二時間後、散々絞られたフミナであり、マイクもX流の格闘家な ら、魔法なんかの助けを借りずに、格闘技で、巨大イソギンチャク(名前はイ ソギン)を倒せば良いと言うことを警察関係者からも言われた。結局、フミナ は罰金を払うことは無かったが。こってりと絞られた。異端審問に掛けられ た、マイクとしては、フミナが、警察に捕まった方が良いかもとか思ったが。 敢えて口に出すことはなかった。 そして、再び、ゲダンギリ地下鉄に立ち、やって来た、銀色と赤の車両に乗 った。 「嗚呼!最悪ね。何で私が、魔法を使って、モンスターを倒したのに、始末 書を書かされて、警察の事情聴取に、かけられたのよ」 フミナは眼鏡を掛け直しながら言った。 「まあ、俺達がやっていることが、神なる主の言葉通りであることは間違い ないんだ。一年以内に十二人の娘を集めればいい。2人まで発見したから、後 は、十人だ。このペースで行けば、確実に一年間で十二人は集まる」 マイクは言った。 「そうね。だけど、これから、リスカーナ姉様に会えば、大分、はかどると 思うけれど。やはり、十二氏族の聖なる文字を持っている人間には力が在るは ずだと思うけれど」 フミナは言った。 「だが、あの剣を持った女の子は有名では無いのだろ」 マイクは言った。 「そうね。私は、名前も顔も知らないわよ」 フミナは言った。 「それにしても、なんで、魔法をモンスター相手に使ったのが初めてなん だ」 マイクは聞いた。 「それは、私は、理論が専門だから、実験はしたことはあっても、実地で封 印術を使うことは初めてだからよ」 フミナは弁解するように言った。 「まあ、これから、どうするかだが。そのリスカーナ姉様とやらの、知り合 いに、聖なる文字を持つ、娘が居れば良いんだが」 マイクは言った。 「私は、会いたくないんだけどね」 フミナは言った。 「一体どういうことだ。自分の姉だろう。仲が悪いのか」 マイクは言った。 「アナタに教えることはないわ。ただ会いたくないだけ」 フミナは険のある顔になって言った。 「まあ、それじゃ、リスカーナ姉様とやらに会いましょうか」 マイクは言った。 そしてゲダンギリ地下鉄は。マイク達の目的の駅、ブドー国会議事堂前に辿 り着いた。 地下鉄から降りて、外に出ると、大分時間が経っていて、マイク達は、午後の 三時に辿り着いた。 駅から見えるブドーの国会議事堂は、拳骨を象った屋根が見える奇妙な建築 物だった。 「何処に行くのだ。国会議事堂に居るのか」 マイクは聞いた。 「違うわよ。勇者パーティは。勇者会館というVIP待遇の建物の中にいる のよ、ベーグルマップによれば、勇者会館は、国会議事堂の後ろに在るのよ。 歩いて、5分ね」 フミナは、イッチ・フォンの画面を見ながら言った。そしてマイクはフミナ と一緒に、勇者会館を目指して歩いた。 勇者会館は、コンクリート製の建物のようだった。何か、竹が生えていたり してオリエンタルな感じもする近代建築だった。当然の如く、門は厳重に閉じ られていた、車が突入できないように、鋼鉄製の車止めがあり、小銃を構えて いる赤い服に黒いヘルメットとブーツ姿の警備員達が勇者会館の周り囲んでい た。そして門の周りには、手にプラカードを持った白い三角頭巾の集団が居 た。ブラカードには「世界に破滅を!」「ドホラー神の裁き!」「世界は崩壊 して救われる!」「魔皇帝ラブ!」「来たれよ時空震!」などと書かれてい た。そしてプラカードに書かれているような事を叫びながら、白い三角頭巾の 集団達は、プラカードを持って、グルグルと、勇者会館の周りを回っていた。 「何だありゃ。無茶苦茶後ろ向きの集団がいるぞ」 マイクは呆れて言った。 「アレは、ハカイ教よ。魔族の神、ドホラー神を信じる人間達よ」 フミナは言った。 そして、マイクとフミナはハカイ教徒の間をぬって、勇者会館の前の警備員 の詰め所に辿り着いた。 「私は、勇者パーティの女賢者、リスカーナ・キョトーの妹の、フミナ・キ ョトーです。面会の許可は、降りているはずですが」 フミナは、イッチ・フォンを持ったまま。鋼鉄製の門でガードされている、 勇者会館の窓口らしいところへ行って警備員に話しかけた。ポケットから、パ スポートとマイクの犯罪者護送許可証を取りだした。 「フミナ・キョトー様と犯罪者のマイク・ラブクラウドですね。面会の許可 は下りています」 警備員はライフルを持ったまま言った。 なんで、オレは、犯罪者なんだ。とマイクは思っていた。どうもガクモン王 国での法廷侮辱罪のせいで、マイクは、犯罪者になったままなのだ。これから 先も、何かある度に、犯罪者扱いされるのかと思うと、げんなりした。 そしてフミナが警備員に先導されて、中で別の警備員と代わって案内され、 マイク達は勇者会館の中へと入っていった。 厚い壁の向こう側は、芝生が在って、車寄せのスロープがある、小綺麗な近 代建築の建物だった。 「なんか、勇者が居るような場所には思えぬのだが」 マイクは言った。 「でも、ここに、世界中で最高峰の者達だけで構成される勇者パーティが居 るのよ」 フミナは言った。 警備員は歩きながら言った。 「女賢者キョトー様の妹様では、さぞかし、魔法が得意なのでしょう。時空 震さえなければ、あなたは、勇者パーティの女賢者になっていたのでしょう」 「姉の話はよして下さい」 フミナは言った。そして、自分の心の中を整理しようとした。フミナは、生 まれて物心が付いてから、常に、姉のリスカーナ・キョトーと比較されてき た。いや、他の、兄や弟、妹たちも、リスカーナ・キョトーと比較されてきた のだ。だが、フミナは、キョトー家の中で、一番、魔法の才能が無かった。様 々な魔法を勉強させられたが、辛うじて、封印術だけが、准教授として、やっ ていけられるだけの水準に達した。そして、実際の、モンスター相手に、封印 術を試すことなく、実験で安全な隔離状態のモンスター相手に、封印術を試み て来ただけだった。だから、今日の、ゲダンギリ地下鉄での、大立ち回りは、 フミナにとっては、初めてのモンスターとの戦いだった。それで少し、自信 が、フミナにもついた。だが、姉のリスカーナは、子供の頃から天才児だった と何度も言われて聞かされてきた。そして16歳で、丁度、今のフミナと同じ 歳だが。魔王討伐の勇者パーティの女賢者となったのだ。そして、それから、 六年の月日が経っていた。今のリスカーナ・キョトーは、二十二歳だった。魔 皇帝討伐の賢者としても十分な経験を積んだ事になる。どんな風に会うのか思 うとフミナの気分は大きく沈んだ。 「こちらです。今、勇者パーティは、世界崩壊の時空震を呼び寄せた、マカ イ帝国の魔皇帝ネロ討伐の為に、正義の戦いを行おうとしているのです。まさ に人類存亡をかけた戦いですぞ。いま、私は感激のあまり、涙が流れそうで す」 警備員は勝手に感動していたが。フミナは醒めていた。時空震が本当に魔皇 帝ネロが呼び寄せたモノなのか判らなかったからだ。ただの自然現象だと思い たかったことも事実だが。問題は、このマイク・ラブクラウドが言うところ の、YES教の十二氏族の聖なる文字が本当に、何等かの力を持っていること が明らかになったからだ。ゲダンギリ地下鉄のホームで会った、剣士の少女 も、フミナと同じように身体に、十二氏族のベニヤミンの聖なる文字を持って いると言っていた。後ろ姿だが、一応、フミナはイッチ・フォンのカメラで、 ベニヤミンの文字を持った少女を写していた。あの様な変わった服装なら、父 親のヤッパーリ・キョトーの力を使えば、きっと身元が判別するだろう。そし て、他の十二氏族の聖なる文字を持った娘達も判るはずだった。 扉が開いた。フミナは、覚悟して、姉のリスカーナ・キョトーの居る部屋へ と入っていった。 通された部屋は、パルシャ絨毯が敷き詰められた部屋だった。そして、暖炉 があって、 くつろげるような椅子やテーブルが置いてあった。 そこの部屋の中には、様々な格好をした者達が居た。 フミナも顔は知っていた。この惑星ジーの人間なら誰でも知っている有名な 勇者パーティだった。 聖なる鎧を纏った、水色の髪をした青年勇者、セイバー・ソード。 キトウ国の茶色い髪の青年司祭、オーガム・キュアリー。 アクトク国出身の赤い髪の女忍者、ジャドー・ツタエ。 そして、黄緑色の髪をした、女賢者、リスカーナ・キョトー。 フミナは、姉のリスカーナと六年ぶりに会った。姉は美しくなっていた。リ スカーナは才色兼備なのだ。フミナが道端の雑草の花だとしたらリスカーナの 美しさは、大輪の薔薇だった。容姿の点でも、フミナは、姉のリスカーナに全 然適わないのだ。二十二歳という年齢のせいもあって、年頃の女としての色気 を整った美しい容姿に加えて醸し出していた。 会った瞬間、フミナは、ここに来たことを後悔した。 「リスカーナ姉様。お久しぶりです」 フミナは言った。よそよそしい言葉に思えたが、これがフミナとリスカーナ の距離として妥当に思えた。 「ヤッパーリ父様から、話はメールで聞いています。時空震を止める事が出 来る、ヘブライライ語で書かれた十二氏族の聖なる文字の話ですね」 リスカーナは笑顔で言った。この世界が後三百六十四日で滅亡するというの に。リスカーナは、何でもないように言った。 「可能性の話です。本当に、YES教の力が時空震を止める事が出来るのか 判りません」 フミナは言った。 「いや、オレは、神なる主に頼まれたんだ」 マイク・ラブクラウドが、また、その話をし始めた。 「誰だ」 水色の髪の、勇者セイバー・ソードが短く言った。勇者セイバー・ソードは 美しい女性的な顔をしていた。 「法廷侮辱罪で、懲役一年を言い渡された執行猶予一年の犯罪人です」 フミナは言うのも嫌だったが言った。 「ソウルは良いソウルをしている。X流の門下生だな」 水色の髪の勇者セイバー・ソードは言った。 「ヤッパーリ父様がメールで書いていた。YES教の神なる主に呼ばれて異 世界から来たと言っている少年、マイク・ラブクラウドがあなたですね」 リスカーナは言った。 「いやあ、全部本当なんですけれど。誰も信じてくれないんですよ」 マイク・ラブクラウドはヘラヘラと右手を頭の後ろに当てて言った。 「黙りなさい」 フミナはデレデレとリスカーナと話すマイクに言った。 「何だよ。誰も信じてくれないんだよ」 マイク・ラブクラウドは言った。 「私は信じてもよろしくてよ。マイク・ラブクラウド君」 リスカーナは言った。 「いやあ、お姉さんの方が話が早い」 マイク・ラブクラウドは言った。 「だから、黙りなさいってば」 フミナは、マイク・ラブクラウドに怒りを込めて言った。 「マイク・ラブクラウド君はフミナと仲がいいのね」 リスカーナは口もとを押さえて笑いながら言った。 「相性最悪ですよ」 マイク・ラブクラウドは言った。 「それは、こっちのセリフ。リスカーナ姉様。私が、ここに来た理由は、た だ一つ。勇者パーティならば十二氏族の聖なる文字を持っている娘達に心当た りが在ると、父様が考えたからよ」 フミナはマイク・ラブクラウドを睨んでから言った。 女忍者ジャドー・ツタエが言った。 「身体に入れ墨を入れる人間なら沢山知っている。だが、どれが、十二氏族 の聖なる文字なのかは判らないな」 「確かに、インターネットのジー・チューブの投稿サイトならば、十二氏族 の聖なる文字を象った入れ墨の動画も在るでしょう」 美青年の司祭、オーガム・キュアリーは言った。 「問題はフミナと同じように、光を放つ本物の聖なる文字が必要なのね」 リスカーナは言った。 「もう知っているのですか。これから、話そうと思ったのに」 フミナは驚いて言った。 「フミナが駅のホームで、同じ十二支氏族の聖なる文字を持った娘と出会っ たことは、父様が私にメールではなく電話で報せてきました」 リスカーナは言った。 「だが、この時空震は異常だぞリスカーナ、魔皇帝ネロが呼び寄せた事は間 違いないだろう。聖なる文字の力ぐらいで、防げるモノでは在るまい」 勇者セイバー・ソードは言った。 「セイバー、魔皇帝ネロが呼び寄せた時空震ならば、同じように、その時空 震を防ぐことも出来るかもしれませんよ」 リスカーナは言った。 「いやあ、オレ、神なる主に会って、頼まれたんですけれど」 マイク・ラブクラウドは懲りずに繰り返して言った。 「そうか、私達は役に立てないようだな。私達はマカイ帝国の魔皇帝ネロを 討伐するために作られたパーティだ。ヘブライライ語はオーガムも詳しくは無 いだろう」 勇者セイバー・ソードは言った。 「その通りです、私の信じる神は、神なる主と救世主を信じるYES教のみ です。神なる主に会ったなどと言う話は信用できません」 司祭オーガム・キュアリーは言った。 「フミナ。残念だけれど、私達は、あなた達の力にはなれないわ。あなた達 は、あなた達で十二氏族の聖なる文字を持つ娘達を捜せば良いと思います。私 達は、一年以内に、魔皇帝ネロを討伐すればいい」 リスカーナは言った。 「わかりましたリスカーナ姉様。他の勇者パーティの方々とも、お会いでき て光栄です」 フミナは、リスカーナ達勇者パーティに頭を下げて言った。 だが、マイク・ラブクラウドはヘラヘラしてリスカーナを見ていた。 「アナタも挨拶するのよ」 フミナは、マイクの耳を引っ張って言った。 そして、マイク・ラブクラウドも頭を下げて、勇者パーティ達と分かれた。 そして、勇者会館から出た。 「どうやら、勇者パーティとは関係が無かった様だな」 マイク・ラブクラウドは言った。 「リスカーナ姉様なら何か知っているかもって思ったけれど、結局、知らな かったのね。結局、世界の指導者達は、この世界に訪れる時空震を魔皇帝ネロ のせいにしている」 フミナは言った。リスカーナでも判らなければ、どうすれば良いのか判らな かった。フミナにとって、リスカーナの存在は、それだけ大きいモノだった。 そして、ひとまず、X流の道場へ帰ることになった。コレからどうするか、ま だ決めていなかったからだ。あの聖なる文字を持った少女剣士と再び会えれば 良いとフミナは思ったが。何かの偶然でもなければ会えそうに無かった。
第十一章、会得せよ!X流の必殺技!X・ターミネイト相伝!
マイクは、フミナと一緒にゲダンギリ地下鉄に乗ってX流の道場X武藝會 舘の最寄り駅、コンジョウ駅まで、たどり着いた。 「これから、どうするつもりなの」 フミナは険の在る声で言った。 「3日で漢になるため、X流の指導をマスターXから受けるのだ」 マイクは言った。 「十二氏族の聖なる文字を持つ娘達を捜すことが、あなたの使命じゃない の」 フミナは言った。 「それが違うんだな。まずは、漢にならなければ、説得力が無いと言うこと だ。今日はモンスター、イソギンと戦ったが。やはり、この世界では、強くな ければ、話が通らないように思うのだが」 マイクは、思っていることをフミナに伝えた。 「私の封印術が、頼りにならないって言うの」 フミナは険の在る声で言った。 「そうは、言っていないが。やはり、必殺技の一つも覚えなければ駄目だろ う」 マイクは言った。 「剣士や格闘家が、必殺技を身に付けるためには、普通は十年ぐらいの歳月 を費やすのよ」 フミナは言った。 「どうも、オレは、この世界では、ソウルの流れが良いらしく。簡単に発動 法が会得できたのだ、だから必殺技も簡単に会得できるだろう」 マイクは、自分が思っている甘い見込みをフミナに語った。 「それは、あまりにも、オプティミスト的な考え方よ。なんで、あなたは、 普通は簡単に会得できない、ソウル操法を飛行機に乗っている十分間で会得で きたの」 フミナは言った。 「それは、才能って奴かな、オレには、どうも、X流が向いているようなの だ。だから、3日で漢になるのだが」 マイクは言った。 「3日と言ったら明日までだからね。明日の夜には、ブドーを出て、他の国 で、十二氏族の聖なる文字を持った娘達を捜す必要があるのよ」 フミナは言った。 「あのベニヤミンの名前を持った娘を捜した方が良くないか」 マイクは言った。 「お父様にイッチ・フォンで撮った画像ファィルを送ったから、ブドー政府 の力で捜し出すことになるわ。そして身柄を確保して貰えれば問題無しよ。だ から、ブドーを出ても良いのよ」 フミナは言った。 「ふむ、あの女の子も一緒に聖なる文字を持った娘達を捜す旅に同行させた ら良いのではないか」 マイクは言った。 「駄目よ。あの子と、一緒に私は居られない事ぐらい判るでしょ。お互いに 熱が出てきて、立っている事も出来ないぐらいのフラフラの状態で何が出来る というのよ」 フミナは言った。 「そうか、確かに、それは問題だよな」 マイクも、フミナと、あの少女が近づくと、聖なる文字の力が反応すること は理解していた。どうも、マイクが想像しているよりも、フミナと、あの少女 は近づくと苦しい状態になるらしかった。 そして、暫く歩くと、X武藝會舘に辿り着いた。 X武藝會舘からは、気合いを入れる掛け声がしていた。 「おおっ、夜でも稽古をしているようだ。寝て食って、X流の稽古だけをす る、極めてシンプル且つ、ムチャ漢の生き方だ」 マイクは感動して言った。 「単純に三つに分類しないで、お風呂に入ったり歯を磨いたり身繕いする時 間だって在るでしょ」 フミナは言った。 「いやあ、魔法使いにはワカランよ。漢の生き様が。人生超シンプル且つ簡 単に生きることは漢らしい生き方だ」 マイクは、なんか頷いて言った。 マイクは玄関に入った。 受付の道場生が手招きしていた。 マイクは、自分の顔を指で指して、オレ?と尋ねた。 受付の道場生が頷いた。 「マスターXが館長室で待っています」 受付の道場生が言った。 「館長室は、どこに在るのでしょうか」 マイクは聞いた。 「最上階に在ります。突き当たって正面のエレベーターに乗れば直ぐに着き ます」 受付の道場生は言った。 「本当に、最上階に居るなんて、まるで、悪の親玉ね。早く行きましょ」 フミナは言った。 「キョトーさんは、行かないように指示が来ています」 受付の道場生は言った。 「何で私が行ってはいけないのですか」 フミナは険の在る顔で、受付の道場生を見て言った。 「それは、キョトーさんが部外者でX流の者ではないからです」 受付の道場生は言った。 「全く、格闘家の世界はややこしいのね」 フミナは言った。 「それじゃ、オレは、行って来るぞ」 マイクは言った。 「私は、女子寮に行くわ」 フミナは言った。 マイクは、エレベーターに乗って、最上階の館長室と大きな字で書かれた部 屋の前に来た。 扉の前にマイクは立った。 「マイク・ラブクラウド参りました」 マイクは大声を張り上げて叫んだ。 「入りたまえ」 マスターXの声がして、両開きの思い鋼鉄製の扉は自動なのか、開いた。 マイクは部屋の中に入っていった。東京ドームのグランドぐらいの広さが在 る部屋の中央にマスターXは居た。 「マイク・ラブクラウド君。君は、発動法に成功して、今日の朝稽古で、黒 帯を手に入れた。実に早い修得だ。私が見込んだ通り、君のソウルの流れは非 常に良い。だから、明日、君は、このブドーの首都イッポンで毎日行われてい る、格闘家や剣術家達が参加する闘技場の試合に出て貰う」 マスターXは言った。 「え、いきなりですか」 マイクは驚いて言った。 「ああ、いきなりだが。他流派と戦うことで、君のX流の技は磨かれていく ことになるだろう。君は確か用事があって、あまり長くはブドーに居られない のだろう」 マスターXは言った。 「ええ、そうです。手っ取り早く強くならなければ駄目なんです」 マイクは言った。 「それならばこそ、君はブドーの闘技場のトーナメントに参加しなければな らない。闘技ランクは初段から三段までの実力の者がCクラス闘技場にエント リーすることになる」 マスターXは言った。 「実は、今日、地下鉄のホームで、イソギンというモンスターと戦ったんで すけれど、どうも蹴りを打ち込んでも、イマイチ効果が無かったんです」 マイクは、今日の戦いを思いだして言った。 「それは、君が、まだX流に伝わる88の必殺技を会得していないから、モ ンスターのように大きい敵を相手にする時に遅れを取るのだ」 マスターXは言った。 「八十八の必殺技。そんなに在るのですか」 マイクは、思わず愕然とした。 「無論全てを身につけることは、難しいだろう。だから、モンスターにも人 間や魔族にも通じる、便利な必殺技、Xワイルドと、その発展技X・ターミネ イトを会得するのだ」 マスターXは言った。 「X・ターミネイトは、飛行機の中で見ました。ですか、Xワイルドとは一 体、どんな技なんですか」 マイクは、良く判らなくて聞いた。 「それでは、着いてくるのだ。ここでは、道場を破壊してしまう。この道場 の建設費はバカにならぬ金額なのだ。一々壊していると費用が嵩んで困る。外 の、シドウ河の河川敷で稽古をしよう。発動法を行い、行くぞ」 マスターXは言うと、X武藝會舘の館長室の窓へ向かって走っていった。 「待って下さい」 マイクも発動法を行い、マスターXの後に着いていった。窓から飛び降り た、マスターXは、隣りのビルの屋上に着地した。マイクは、一瞬臆したが、 度胸を決めて、飛んだ。身体は、まるでゴム鞠の様にピョン、ピョンと跳ねて 自在に動いて。となりのビルの屋上まで飛んでいった。 こんなにも身体が自在に動くのか?これがX流! マイクは、マスターXの後を追ってビルの谷間を走って跳んでいった。 そしてシドウ河の河川敷に到着した。 あれだけの距離をジャンプして走ったのにマイクの息は上がっていなかっ た。 オレの身体は一体どうなったんだ。 「どうやら発動法が身に付いたようだな。それならば、X・ターミネイトを 会得することは早い」 マスターXは言った。 「師匠どうやれば、良いんですか」 マイクは言った。 「先ずは、Xワイルドを会得するのだ。Xワイルドは、身体のソウルを片手 に集めて、放出する技だ。この技を会得すれば、手刀を武器にして、剣のよう に切りつける攻撃が出来る。Xワイルドは、攻撃範囲は狭いが、出が早く、威 力は絶大だ。そして、X・ターミネイトは遠くへ放出する技だ。私が、飛行機 の翼で見せた、X・ターミネイトは出るまで時間が掛かっているが。向こうの 魔族が距離を取ったため。放出するまでの時間を稼げた。この二つの、短所と 長所を持った技を会得すれば、明日のCクラス、トーナメントで優勝すること は簡単だろう」 マスターXは言った。 「師匠判りました。御指導を、お願いします!」 マイクは頭を下げた。 「よし、発動法でコアから発するソウルを右腕に集めるのだ」 マスターXは言った。 「判りました師匠ぉ!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!」 マイクは、ソウルを右腕に集めようとして力んだ。 「マイク・ラブクラウド力むと逆効果だ。自然に右腕のソウルを膨らませる のだ」 マスターXは言った。 「そうですか!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!やっぱりソウルが充満してく ると力が右腕に漲ってきます!」 マイクは右腕に、力が集まってきた。 「よし、それだ!それは力まないソウル流の力だ!」 マスターXはマイクを見て言った。 「それでは、どうするんですか師匠ぉ!」 マイクは集まってきたソウルを持て余して言った。 「右腕に集まったソウル流を、Xワイルドと叫びながらシドウ河の水面へと 放つのだ!」 マスターXは言った。 「Xワイルド!」 マイクは、叫んでXワイルドを放った。 シドウ河の湖面が斜めに切れた。 「マイク・ラブクラウド。これがXワイルドだ。訓練によって発っするまで の時間を短くすることで、実戦では一瞬で出せるようになる。朝までかけて、 Xワイルドと、X・ターミネイトを撃てるように特訓するぞ!」 マスターXは言った。 「判りました師匠!オレ特訓モードに入ります!」 マイクは叫んだ。 フミナは、リスカーナと会ったことをX流の女子寮の二段ベットの中で思い だしていた。 相変わらず、リスカーナは、誰にでも優しく、 人付き合いが良い性格のようだった。やっぱり会うんじゃなかった、とフミナ は思った。 背中に刻まれた十二氏族のガドのアザ、それが一体どんな力を持っているの か。バカらしかった。こんな、変な聖なる文字を持って生まれただけでも十分 不幸なのに。更に、この聖なる文字にはロクでもない力が宿っているなんて。 悪夢以外の何物でもなかった。そして、道着を着て町中をウロウロするような マイク・ラブクラウドと一緒に、旅をして、同じ十二氏族の聖なる文字を持つ 娘達を捜さなければならないなんて。 「ああっ、私って不幸ぉ」 フミナは、いつもの口癖で涙目になって言った。
第十二章、腕試し!マイクよブドー闘技場で漢になれ!そして、あの少 女が参戦!
「おい、これからブドー闘技場のトーナメントに参加するぞ」 ブドー闘技場へ行くとマイク・ラブクラウドは言った。フミナは朝の四時に X流道場の女子寮のベッドで周りの寮生達が朝稽古の為に起きたので。目が冴 えてしまったフミナは、服を着て起きて受付に行って、マイク・ラブクラウド を呼び出すように頼もうとした。だが、マイク・ラブクラウドは、丁度、玄関 から帰ってきて。さっきの言葉を言った。フミナは聞いて驚いた。マイク・ラ ブクラウドは、ブドーで毎日行われている、ブドー国営闘技場でのトーナメン ト形式の試合に出るというのだ。まさか、世界中の猛者達が集まってくるブド ー国営闘技場での試合に出場するなど、X流を習って3日目のマイク・ラブク ラウドには無理に決まっていた。 「正気なの」 フミナは言った。 「午前八時から、トーナメントは開始されるらしい。だから、インターネッ トでCクラスの闘技場、獅子鷲の門にエントリーしたから、そこに行けば良い んだ」 マイク・ラブクラウドは言った。 「あなたは携帯電話やスマホを持っていないでしょ」 フミナは怪訝に思って言った。 「マスターXがスマホから、エントリーしたんだ」 マイク・ラブクラウドは言った。 「そうなの。でも、なんで、闘技場なんかに行くのよ」 フミナは言った。 「それは、漢になるためだ。やはり、マスターXも言っていたが。ブドーの Cクラス闘技場、獅子鷲の門で優勝した方が、良いという事だが。それで、晴 れて3日で、オレは漢になることができるのだ」 マイク・ラブクラウドは言った。 「ソウル操法だけで大丈夫なの」 フミナは言った。 「昨晩徹夜の特訓で、X流の八十八在る必殺技の内、二つの必殺技を会得し たんだ」 マイク・ラブクラウドは、目の下にクマが出来ていたが言った。 「なんで徹夜で、必殺技が二つも会得できるのよ。おかしいわよ。格闘技 や、剣術の必殺技の修得には、普通は、数年単位の長い時間が掛かるのよ」 フミナは言った。呆れた話だった。X流のソウル操法を十分間ぐらいで会得 できたのだし。マイク・ラブクラウドは何か異常だった。 「イッチ・フォンのアプリを使って獅子鷲門への最短ルートを調べてくれ。 そしてツウカを使って、闘技場へと向かうんだ」 マイク・ラブクラウドは図々しく言った。 「なんで、アナタの為に、私の父様のカードで買ったツウカを使うのよ。早 く、他の国に行って十二氏族の聖なる文字を持った娘達を捜しに行けばいいで しょ。修業して必殺技も二つ会得したんだから」 フミナは言った。 「漢には栄冠が必要だと、マスターXは言った。つまり判っているのだ。3 日で漢になると言うことは、漢の栄冠である、闘技場のCクラス・トーナメン ト制覇の栄冠を手に入れること!まずは、そこから始めろと言うことだ。オレ は漢になるために、師匠の言葉に従って、トーナメント制覇者の栄冠を得るの だ!」 マイク・ラブクラウドは言った。 「早く、ブドーから出ていきましょう」 フミナは言った。 「いや、オレは闘技場へ行く!戦いがオレを待っている!」 マイク・ラブクラウドは言った。 「ツウカは貸さないわよ」 フミナは言った。 「それなら、発動法で身体の能力を上げて、走っていくさ!受付で地図を手 に入れてGOだ!」 マイク・ラブクラウドは言った。 「体力バカね。走っていくなんて」 フミナは呆れて言った。 「必殺技を習うついでに、師匠の後を着いていって、壁走りも会得している し、問題無しだ。この3日でオレは漢になった。その総仕上げが、闘技場での 栄冠」 マイク・ラブクラウドは言った。 「今日の夜には、このブドーを出て行くんだからね。私は、闘技場なんか行 かないから」 フミナは言った。 「構わぬさ。次に、何処の国に行くのか考えていてくれ。上手い具合に、ま た、聖なる文字が引き合う十二氏族の聖なる文字を持った娘と出会えるかもし れぬ」 マイク・ラブクラウドは言った。重大な事なのに、アッサリと言った。確か に、これから何処に行くかフミナは、大分迷っていた。リスカーナ達、勇者パ ーティの知り合いもアテにならないとなるとコレから、どの国に行けば、よい のか皆目見当がつかなかった。 「相変わらず、オプティミストね。どこから、その、いい加減な適当さが出 て来るの」 フミナは言った。 「それは、神なる主から与えられた試練だからだ。それじゃ、オレは、漢の 栄冠を手に入れるために闘技場へ向かうのだ!」 ぴょーんと一足で、ジャンプすると、マイク・ラブクラウドは、道場の受付 の前に着地した。あまりにも、身体の変化が異常だった。その時、フト気がつ いた。マイク・ラブクラウドがX流に入ったことを父親にメールで報せていな かった事を。フミナは、イッチ・フォンを取りだした。そして、チラッと受付 に居るマイク・ラブクラウドを見た。 マイク・ラブクラウドは手にプリント・アウトされた地図を持って、X流の 道場を走って出て行った。それも凄い速さで。 「本当にバカなのね。後、三百六十三日で、この時空は時空震によって消滅 するのに。私みたいな才能の無い人間が、世界を救うためにYES教の神なる 主に選ばれるなんて、そんな事在るわけないでしょ」 フミナは呟いた。 そして惨めな自分が悲しくなった。 「ああっ、私って不幸ぉ」 フミナは、いつもの口癖が出た。 マイクは、発動法を行って走った。道路を車と同じぐらいのスピードで走っ ていき。地図を見て、幹線道路の標識を頼りに、X武藝會舘から約十八キロ離 れた、ブドー国首都イッポンの国営闘技場、獅子鷲門に辿り付いた。見た感じ は、ローマのコロシアムのよう作りだった。ただ金属とコンクリートで作られ ていて、大分雰囲気は違った。まだ、トーナメントは開始されていないようだ った。コロシアムの前まで来て、全然息が上がっていない、自分に驚いてい た。コレがX流か! 無茶苦茶気分がイイ感じだ! そして、ぐるりと一周すると観戦席が在り 、そして賭を行っている事が判った。試合ごとに賭が行われる仕組みだった。 マイクは自分の優勝に金を賭けたかったが、フミナが金を渡さなかったので、 仕方なく諦めて、出場者の受付口を捜した。闘技場の後ろに在った。 マイクは、受付に行った。 「オレは、エントリーした、X流の、マイク・ラブクラウドだ。通してく れ」 マイクは言った。 「この闘技場に出場することは初めてですか」 受付は言った。 「ああ、そうだ」 マイクは言った。 「それでは、まず、このブドー国営闘技場獅子鷲の門の説明をします。ここ で行う闘技は、Cクラス。つまり、ソウル操法を会得して必殺技が使えるよう になった格闘家や剣術家が参加します。このCクラスの闘技場で行われるトー ナメントで優勝しなければ、次のBクラスの飛竜の門の闘技に参加することは 出来ません」 受付は説明した。マイクは成る程、と、思った。だからマスターXは、Bク ラスの飛竜の門ではなく、Cクラスの獅子鷲の門にエントリーしたのだと判っ た。 「それでは、闘技場のルールを説明します。 試合形式は時間無制限KO制です。持ち込むことが出来る武器は、格闘技のグ ローブから、剣術家の剣や刀、短剣、ナイフなどの武器、それに、長刀のよう な長い武器、飛び道具は、弓矢、手裏剣、投げ槍など、火器や光線銃、爆薬な どを使用しない限り認められます」 受付は、どうも物騒な事を言い始めた。 「まさか、本物の抜き身の剣で戦うのか」 マイクは不味いことを知った。 「ソウル操法が出来れば、身体を鉄のように固く出来ますから、攻撃は、跳 ね返せます。X流なのに知らないのですか」 受付は怪訝そうな顔をして言った。 「ああ、そうなのか。初めて聞いた。それなら安心だ」 マイクは頷いた。 「トーナメントの各試合に勝つごとに、賭が行われて賞金が出る仕組みにな っています」 受付は言った。 「よし!これで金が手に入ればフミナの財布から、お別れだ!」 マイクは気合いが入った。 「それでは、選手控え室に行って下さい。これが、マイク・ラブクラウド選 手の受付番号です」 受付は3と書かれたバッチをマイクに渡した。 「よし!コロシアムで優勝するぞ!」 マイクはX流の白い道着にバッチを付けて腕を振り上げて気合いを入れた。 カエデは、ブドー国営Cクラス闘技場獅子鷲の門の控え室で、風流院流剣術 の超速回転切り、通称地獄車をやった。身体の周りで抜き身の刀を高速で振り 回す技だった。飛んでいる蠅六匹をカエデの地獄車は切った。剣に迷いは無か った。 私はいつもの私。 剣の道に生きる乙女。 はあ、なんて私って健気なのかしら。 とカエデは思った。 カエデは、いつも、健気に、亡き父親の仇である、魔皇帝討伐に参加するた めに、剣の腕を磨いていた。カエデは、そういう自分が大好きだった。何て私 って父親思いなのと、自分の事を考えると、胸が熱くなってジーンと全身に浸 るような感動が走った。 やっぱり私って、とっても奇麗な心の乙女。 カエデは、抜き身の剣を持ったまま、ブンブンと振り回して、身体を揺すって ニヤニヤと笑っていた。 フト、ここが闘技場の控え室だと気がついた。周囲がカエデを見ていること に気がついて。 慌てて、カエデは、没入していた自分のナルシスト世界から、現実に戻って きて、剣を白い鞘に収めた。 「風流院カエデ参ります。父上、魔皇帝討伐を成し遂げるためにカエデは、 この闘技場で強くなります」 カエデは、控え室のベンチに置いた、父親の遺影に、マッチで火を着けた線 香を捧げて、数珠を取りだして、お祈りをした。 そしてカエデは白い鞘に収められた、風流院流剣術の前宗家の総師範である 父親、風流院惣一朗が魔皇帝討伐軍の一員として従軍し戦死して遺品として家 に残していた剣、妖刀ムラマサを鞘から出して見た。妖刀ムラマサは、独特の 妖気を放っていた。魔族の力とは違う、あやかしの力。魔族を狩るためには、 これ程相応しい剣が在ろうか。 カエデは、父親の風流院流剣術の跡継ぎとして、魔皇帝を討伐するために、 毎日、Cクラスの闘技場、獅子鷲門にエントリーしていたが。なかなか、優勝 することが出来ずに、今まで来ていた。既に半年間、カエデは、ブドー国に滞 在して、勇者パーティへの登竜門である、ブドー闘技場の試合に参加してい た。だが、なかなか勝てないのだ。どうやら、カエデには、父親の風流院惣一 朗の様な剣の才能が無かったのかと、普通は考える。風流院流の門下生達も 皆、そう考えた。だが、カエデは筋金入りのナルシストだった。自分に剣の才 能が無いなどと考えることは一切無かった。どんな苦労や障害も、全ては健気 な自分の為。と、考えていた。 それでもカエデは、風流院流のソウル操法である、風流ツムジを若干16歳 で会得していた。だから、剣の才能はあったのだ。ただ、全世界から、腕に覚 えのある猛者達が集まる、ブドー国営闘技場のレベルが高すぎただけだった。 そして、カエデは、今日は調子が良い感じがした。昨日、背中のアザから謎の 熱が出て以降、身体の調子が少し良くなっていることを実感していた。カエデ が地獄車で、切れる蠅の数は昨日までは通常4匹が上限だったが。今日は六匹 切れた。これは今までの最高記録とタイだった。これなら、今日は、Cクラス 闘技場のトーナメントに優勝できるかもしれない。そうすれば、念願のBクラ ス闘技場、飛竜の門に入ることが出来るのだ。 マイクは、集まってきた、格闘家や、剣術家などを見ていた。コイツラを全 てトーナメントで倒して、オレは漢になる! そして、マイクは一回戦の開始を待った。 呼び出しが入った。 「第一回戦第二試合、マイク・ラブクラウド選手とブン・ナグール選手は、 試合場に入って下さい」 第一回戦は、トレビアン流金棒術のブン・ナグールだった。身長が二メート ル五十pぐらい在り、そして全身は筋肉の塊だった。そして手には、身長と同 じぐらいの長さの巨大な鋲が打ち込まれた金棒が握られていた。こんな怪物の ようにデカイ奴と戦うのか。 「オイ、ガキ。X流だろうが、このトレビアン流金棒術の敵じゃないんだ ぞ」 マイクは、一瞬ビビリが入りそうだったが。 マスターXとの徹夜の修業を思いだした。 「黙れ、デカブツ!X流のXは変数のX!強さは無限大!テメェ秒殺!ゼッ テー一分以内にKOしてやる!」 マイクは、極めて漢らしく、口汚く罵った。 「ほざくなよガキ。トレビアン流の恐ろしさを見せてやる」 ブン・ナグールは言った。 「それでは、第二試合を開始します。ファィト!」 アナウンスが入った。 「発動法!」 マイクは発動法を行って一瞬で、ソウルを全身に巡らせた。 「肉!肉!爆肉!」 ブン・ナグールも、ソウル操法を行って、全身にソウルを巡らせた。全身の 筋肉が更に膨れ上がった。 「トレビアン流!肉肉波!」 ブン・ナグールは、金棒を闘技場の地面に打ち当てた、闘技場の床に敷き詰 めてある、石の板が砕けて、マイク目がけて衝撃波が殺到した。 マイクは、発動法で強化された身体を使って、飛び退いた。ブン・ナグール の肉肉波は、スカった。 「あぶねぇ、直撃は不味いだろ」 マイクは、肉肉波の威力を見て思った。 「X流は逃げ方を最近は教えているのか。最強の格闘技がX流だったはずで はないのか」 ブン・ナグールはバカにした口調で言った。 「黙れ!攻撃してやるよ!テメェ救急車で病院送り必至!」 マイクは叫んだ。 「お前、X流でも弱い奴だな。トレビアン流回転ダリツ!」 ブン・ナグールは、そう言うと、グルグルと金棒を振り回して、コマのよう に回転して、 マイク目がけて空中を飛んできた。 空中を飛んだ! 距離があるときはX・ターミネイトだ。 脳裏にマスターXの言葉が閃いた。 そして、空中に浮かんで竜巻を起こした魔族コーイップをマスターXが仕留 めたX・ターミネイト! 「X・ターミネイト!」 マイクは、叫んで、両手を交差させて、Xの形を作り、両手から、X・ター ミネイトを飛ばした。 X・ターミネイトは、ブン・ナグールの金棒の回転目がけて飛んでいった。 そして空中に浮かぶブン・ナグールに直撃した。 ブン・ナグールは金棒がバラバラ千切れて、全身を、おかしな角度に、ヒネ って吹き飛んで倒れた。 「ブン・ナグール選手はダウンしました!1,2,3,4,5,6,7, 8,9,10!マイク・ラブクラウド選手のKO勝利です!」 審判がマイクの勝利を叫んだ。 そしてマイクは控え室目指して歩いていった。 その廊下に全身を迷彩色の忍者スーツで覆
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