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作品名:心の詩HarmonyOfHeart第一篇 作者:m.yamada

第1回   四分冊1

心の詩HarmonyOfHeart第一篇見つめて下さい、あなたの
心を    
  山田 夢幻
















序章 心の音

心を澄ませれば見える世界。
 心の音を聞こえれば判る世界。
 心の声を聞けば行ける世界。
 この世界とは異なる別の世界が在ります。
 その世界は、私たちが住む宇宙と天地を創造した神なる主が生み出した別の
世界でした。
ですが、永遠の命を持たない命あるモノは全て滅びていくのが真理です。そ
の世界の宇宙も、いま滅びようとしていました。
 ですが、命あるモノは命を次の世代へと紡ぐ事が出来るはずです。
 ですが、その世界は滅びの力によって、虚無へと向かって進んでいくので
す。
神なる主は、私たちの世界から、一人の少年を選び出しました。
 少年の名前はマイク・ラブクラウド。
滅び行く、その世界を救う為の旅が始まります。

  第一章 運命の少年、マイク・ラブクラウド

マイク・ラブクラウドはポテト・シティ・ハイスクールの生徒だった。
夏休み、スーパー・ショッパーでのアルバイトが休みの日に、本を借りる事
にして、セントラル・ポテト・ストリートに在る、ハーモニー図書館へと、2
50ccの中古のバイクに乗ってやって来たのだ。ハーモニー図書館の中は冷
房が効いていて外の夏の炎天下から人心地が付いた感じだった。そして、借り
る本を捜すために、図書館の検索用のパソコンの前に座った。そして、コンピ
ュータの本を探すために、キーワードを入力した。そしてC♯のテキストを捜
し出した。
そして本の番号をスマート・フォンのカメラに写して、捜しに行った。夏休
みのせいだけあって、ハーモニー図書館は、不真面目なマイクとは違って読書
が好きなグレード・スクールやジュニア・ハイスクール、ハイスクールの生徒
達が沢山居るようだった。
 だが、マイクが辿り着いたコンピュータの本の所には、丁度、人が居なかっ
たから、ノンビリと、パソコンの本の背表紙に貼られた番号を捜していた。そ
してC♯のテキストを捜し出した。マイクは、大学に進むのか迷っていた。テ
レビゲームを作る仕事に就く事が将来の目標だったからだ。自分用の新型のパ
ソコンを買うためにバイトをしているのだ。問題は中古のバイクの方を先に買
ってしまったのだが。そして、C♯のテキストの中身を見るために、本を開い
てパラパラとめくった。
 その中に、羊皮紙の様な、普通の紙とは違う奇妙な紙が挟まっていた。名前
のような文字が書かれていた。そのとき、おかしな事が起こり始めた。
 文字ので作られた円がグルグルと回りだしたのだ。まるで、3D映像のよう
に飛び出て、それは、広がっていった。そして、マイクの回りを浮かび上がっ
た十二の文字が回転していた。
 マイクは、12の文字に囲まれている事に気が付いたが、だが、助けを呼ぼ
うにもパソコンの本を置いてある場所は、人が居なく、そして、マイクの回り
の光景が、変わりつつあった。図書館の本棚が溶けてしまうようで、ただグル
グルと回転する、十二の文字だけが、ハッキリと見えた。オレはどうしたん
だ。マイクは、思いながら、ただ立ちつくしていた。
 そして次の瞬間、マイクは、十二の文字と共に宇宙に居た。確かに宇宙だっ
た、星星の光の間に浮かんでいたのだ。
「ここは、一体どうなったんだ」
 マイクは宇宙に浮かぶ自分を見て、驚くだけだった。
突如、宇宙全体を震わせるように声が鳴り響いた。
「ここは、私が作った、君が住む宇宙とは別の宇宙」
「世界を作った?まさか」
 マイクは自分が話している相手が誰であるか判って、慌てふためいた。
まさか!
 不味いぞ!
マイクは、アメリカ人の多くが子供の頃から読む本に出て来る、一番重要な
存在を思いだした。
そして、選ばれた者達が常に、とてつもない、辛く厳しい試練に出会うこと
を思いだした。そして青ざめた。
 まさか!
 不味いぞ!
マイクは自分の身に何が、これから起きるのか判らずに、慌てふためいてい
た。
「慌てふためくのも判る」
声は語った。
まさか!
 不味いぞ!
 「やっぱり、まさか。本当に、あなたなのですか」
マイクは、できるだけ、自分の身に災いが起きないように懇願するように言
った。
「そうだ。マイク・ラブクラウド」
声は宇宙を震わせるように語った。
まずいぞ!
 「一体これから何が起きるのでしょうか」
マイクは懇願しながら言った。
 出来るだけ軽い試練が良かった。
「これから君はジーと呼ばれる惑星がある世界を救わなければならない」
声は宇宙を震わせて語った。
 「そんなの無理ですよ。ただのハイスクールの生徒にどうやって一つの世界
を救えと言うのですか」
マイクは内容の大きさに恐れをなして言った。マイクの愛するテレビゲーム
の中なら問題は無かったが、現実では、ちょっと不味かった。
 「私が力を与えよう。強いときに弱く、弱いときには強くなる力を」
声は宇宙を震わせて語った。
 そういえば、特典が貰える登場人物達も居たことを思いだした。
 「それは一体、どのような力でしょうか」
マイクは特典は付いてきても、意味が判らずに、恐れながら尋ねた。
 「それは、君が自らの意志で捜さなければならない」
 声は宇宙を震わせながら言った。
「逃げることは出来ないのでしょうか」
 マイクは、この期に及んで逃げようとズルイ事を考えていた。
 「君は、逃げることはできない」
 声は宇宙を震わせて言った。
やっぱりそうか。
 マイクは、絶望感に包まれた。
「絶望することはない。世界を救うためには、私が力を与えた12人の娘達
を集めれば良い」
声は宇宙を震わせて言った。
「十二人の娘?」
マイクは怪訝に思って言った。
「そうだ。君は、十二氏族の名前を身体に持つ娘達を集めなければならな
い。十二人の娘達と助け合い、そして、惑星ジーを救わなければならない。さ
あ君の旅の始まりだ」
声は宇宙を震わせて言った。
そしてマイクは、大きくなった青い星へと
向かって飛んでいった。

   第二章 不幸な娘、フミナ・キョトーの場合

「ああっ、私って不幸ぉ」
父母、祖父母、兄弟、姉妹、親戚、従兄弟に至るまで、全て、学者の家に産
まれた娘フミナ・キョトー。フミナの父方の祖父が学長を務めるガクモン王立
大学院まで超飛び級によって、16歳で、准教授にまで昇進してしまった。
はたから見ると、エリート学者一家の、御令嬢のような感じの、フミナだっ
たが。実態は、一族のコネで准教授にまで昇進してしまったのが真相だった。
確かにまるっきりフミナの頭が悪いわけではない。だが、自分の実力よりも上
の人間を演じることがプレッシャーLでフミナには辛かったのだ。
一族の者達もフミナが天才では無いことは判っていた。フミナの一族キョト
ー家は、天才学者一族の体裁を保つために、フミナを天才児に仕立て上げて、
16歳で、准教授まで昇進させてしまったのだ。だが、フミナにも才能がある
分野があった。それが、専門の、封印術だった。だから、フミナは、封印術の
天才と言うことで、ガクモン王立大学院の准教授になったのだ。それで、フミ
ナは、今も一生懸命封印術を勉強していた。だがモンスターを封印する事が封
印術という学問の一派の存在意義なのに、フミナは実地で、モンスター相手
に、封印術を使ったことがなかった。全て耳学問と読書で、体裁を取り繕って
自分より年上の学生達相手に講義を行う日々に、フミナが自分に対して幻滅し
ていたのも当然かもしれない。
 それで、いつもの口癖の「ああっ、私って不幸ぉ」が一人になると出て来る
のだった。
マイクは青い星へと飛んでいって、地面にぶつかったと思ったら、木々の間
にある花壇に落ちた。確かにあのスピードで地面に落ちたら即死だったが。ス
ピードは減少して着地した。軟着陸とは行かなかったのか、腰をしたたかに打
ち付けていた。
 「イテテテテ、何だよ。ここは何処だよ」
 マイクは腰を押さえて辺りをキョロキョロと見回した。
 花壇には赤と黄色の花々が咲いていた。そして、花壇の先には、噴水が在っ
た。水瓶を持った女性の像の水瓶から水が噴き出している噴水だった。その回
りには、金属製の鋳物の様な格子で模様を描くような椅子が在った。
 どうやら、椅子が在る以上人間がいることは間違いは無さそうだった。炎天
下の砂漠の、ど真ん中や、ブリザードが吹き荒れる雪山とか、高度一万メート
ルの空とか言う、超デンジェラスな場所に、いきなり居るよりは、遥かにマシ
では在ったのだが。
 どうやら試練が始まってしまったようだった。
だが、選ばれた者は、どんな酷い試練でも
耐えなければならない。マイクは、まだ逃げ出したかったが、どうやら試練は
始まってしまったようだった。
 大体、ここは何処だよ。
噴水が在るから公園で在ることは間違いは無かったのだが。マイクは腰が少
し痛いが立ち上がって、ここが何処だか、調べることにした。花壇から起きあ
がって、噴水の近くまで行ってみることにした。
 噴水は水瓶を持った薄い服を着た少女を象った様だった。もっとも、金属製
のため、服の厚さは判らなかったが。それでも肌にまとわりつくような質感が
噴水の像には在った。
 「ああっ、私って不幸ぉ」
噴水に近づくと変な涙声が聞こえた。
 「なんだい?」
 マイクは、不思議に思って、噴水の反対側の方へ歩いていった。
 すると、噴水の彫刻の影に隠れていた、椅子が見えて、白い服を着て本を手
にした、少女が居た。眼鏡を掛けていて、黄緑色の髪を三つ編みにしていて
た。見た感じ可愛い顔立ちとは思うのだが、何か、変な涙声で。ぐずっている
ようだった。
「ああっ、私って不幸ぉ」
 黄緑色の髪の少女は、ぐずりながら、そう言った。
「つかぬ事を聞くが、ここは何処だ」
 マイクは言葉が通じることを確認して、少女に聞いた。
少女は、マイクの方を見た。
 「ハッ!見てしまったのね。私が泣いている所を!ここは誰も来ない、私の
シークレットスポットなのに…」
眼鏡がキランと光を反射して輝いた。ただならぬ雰囲気を感じて、マイク
は、狼狽えた。
「そ、それがどうしたんだよ。ただ、ここが何処だか聞いただけだよ」
 マイクは言った。
 「私は、この大学の准教授なのよ。泣いている所を見られて良いはずが無い
でしょ。このガクモン大学には権威と格式が在るのよ」
 少女は涙声で言った。マイクは少女を見た。全然外見は、准教授には見えな
かった。ただの可愛い女の子でしか無かったのだが。はあ?准教授?この歳で
か?マイクは少女を再び見て思った。やっぱり、ただの可愛い女の子だった。
「そりゃ確かに、間が悪いとは思うが、オレは、ここが何処だか知らないん
だ。ただ場所を聞いただけだよ」
マイクは何で弁解しているか判らなかったが、とにかく、押されて、そう言
った。
「部外者なのね。私が泣いていた秘密を外部に漏らすわけにはいかない。キ
ョトー家の名誉にかけて」
 少女は立ち上がって、本をベンチに置いて言った。
「そんなこと、オレには関係ないよ。あんたが泣いていたことなんか、外部
に漏らす必要なんかオレには何処にも無いんだよ」
 マイクは、短い時間だが、この少女が大分偏執的な性格で在ることが判って
きた。
「信用できないわ」
 少女は指をマイクに突き付けて言った。
 「何だよオマエは。オレが、ちゃんと、言っているのに、少しは、オレの誠
意を認めろよ。人間関係は善意が基本だろ」
 マイクは言った。
だが少女は、マイクの言う言葉を聞かないで、両手を組んで、怪しげな印を
結び始めた。
「封印の結界!第551!地縛手!」
 少女が言うと、マイクは足に何かが絡んでくるのが判った。足下を見ると、
色とりどりのレンガで舗装された地面からレンガが吹き飛んで、土で出来た手
が生えてきて、マイクの足を掴んでいた。
「何捕まえて居るんだよ!何だよ!この手は!」
マイクは、少女に向かって叫んだ。
 「これは地縛手。大地の力で、足を封じる封印術の一つ。私は、この封印術
の准教授なのよ。人間相手に試すのは初めてだけど」
 少女は言った。
「離せよ!」
マイクは言った。
 「フッ」
 と、馬鹿にしたような声を出して鼻で笑うと少女は続けた。
 「とにかく、捕まえなければ駄目なのよ。あなた部外者でしょ。このガクモ
ン大学は、教授陣と生徒と関係者以外は立入禁止なのよ」
少女は言った。
 「オレは、空から降ってきたんだよ。好きで、こんな所来たんじゃないんだ
よ」
マイクは言った。
「なんで、空から降ってくるのよ。飛行機から落ちたの?」
少女は言った。
 どうやら飛行機が在ることは判った。
「言って良いモノか判らぬが、オレは、神の力によって、この世界へ来たん
だ」
マイクは言った。
「神?この世界を作った伝説の神?どうして神に会ったなんて嘘を付くの。
新興宗教のハカイ教団にでも入っているの」
少女は言った。
 「実はオレは、神に、この世界の崩壊を止めるように頼まれのだが」
マイクは、正直に言った。
「嘘でしょ」
 少女は短く言った。
 「嘘ではないのだが。この世界は崩壊し掛かっているのだろう」
 マイクは、少女が疑心暗鬼な上に偏執的な性格で大分嫌になっていた。
 「確かに、この世界は、今、滅び掛かっている事は事実よ。この青い惑星ジ
ーには、今、崩壊の足音が差し迫っている。それは、異空間から来る破壊の波
であって、極めて科学的なモノよ。時空震レーダーによって観測しているモノ
なのだから。そして一万分の一の確率でしか来ない事が判って居るんだから」
 少女は言った。
どうやら、マイクに試練を与えた神は、この世界では世界を作ったのに知ら
れていないのかもしれなかった。多分会ったことが在る人間もいないのか、い
ても少ないようだった。
 なんか、すんなりと、十二人の身体に聖なる文字を持った女の子達に出会え
ると思っていたマイクは、現実のハードさに大分こたえていた。やっぱり簡単
に進まぬ話しだったんだよな…。と、今更ながらに試練のハードさを理解し始
めていた。
「それでオレはどうなるんだよ」
 マイクは言った。
「これから、魔族かどうか、調べることになるわね。空から落ちてきたなん
て普通の人間じゃないから」
少女は言った。そして再び印を素早く結んでいった。
「今度は何するつもりだよ!」
 マイクは慌てたが、足は土の手によって封じられて、逃げようが無かった。
「封印の結界!第96!鋼の球檻!」
少女は印を結び終わると言った。
 すると…。マイクの背後から何かが近づいてきた。肩に触れる感触を見る
と、公園に在る鉄製のベンチが変形していて、それが、マイクの回りを囲み始
めた!そして…円い球の様な檻が出来て、その真ん中に、手足を鋼鉄で縛られ
たマイクが居た。
 「オマエ!コノ野郎!何しやがる!いい加減に離せ!」
 マイクは言った。
 「私が泣いている所を見たのよ、それに、あなたは不審者だから捕まえて当
然でしょ」
 少女は言った。
「オレをどうするんだよ」
マイクは言った。
 「このガクモン王立大学では、生体実験も行われているのよ。あらゆる知識
が集まっているんだから。魔族だったら、確実に、生体実験にかけるんだけれ
ど」
少女は言った。
「いい加減にしろ!勝手に生体実験にかけるんじゃねぇ!この性悪女!」
マイクは叫んだ。
「私に逆らう気?自分の立場が判って居ないようね。お仕置き大回転!」
 少女が言うと、マイクが捕まっている鋼の球体がグルグル回りゴロゴロと、
転がっていった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 マイクは、頭が上になったり、下になったりして吐きそうな酷い気分になっ
た。
「このまま、転がして、行くから」
 少女は言った。
 「止めろォ!」
 マイクは叫んだが少女は白いダボダボの服から薄い黄緑色のハンカチを取り
出した。そして素早く再び印を結び始めた。
「ついでに、そのやかましい口も封印!封印の結界!第468!口封じの
布!」
 少女が持ったハンカチが飛んでいき、マイクの口に貼り付いた、マイクは、
口が動かなくなった。
 何しやがる!マイクは叫んだが,モゴモゴとしか音が出なかった。結局、少
女に聞き入れられず、ゴロゴロと球体の鉄の檻の中で、転がりながら(比較的
ゆっくり転がったのだから、あまり酷い気分にならずに済んだのだが。それで
も頭が上になったり下になったり左や右に回転していって…)公園や森が在る
ガクモン王立大学の広大な敷地内を転がっていったのだ。途中では、臙脂色の
制服とマントを纏った学生らしい二十台ぐらいの連中達が、転がっていく、マ
イクを見ていた。あまりにも馬鹿らしい己の姿に、マイクは、大分嫌になって
いた。途中で少女は、スマート・フォンらしき携帯電話を出してかけた。そう
したら、手に機関銃のような物を持った、紺色のガードマンの様な制服を着た
人間達が頭が三つあるケルベロスの様な犬を連れてやって来て、マイクは鉄の
檻から解放されたが、捕まってしまった。マイクは、機関銃を持った連中達に
捕まったのだ。
そして、マイクは、口が封印されている為何も喋れずに、紺色の制服を着
た、魔法使い達に手錠をかけられて連行されることになった。
フミナ・キョトーは、泣いている所を見られたのは初めてだった。このガク
モン王立大学は広大な敷地を持っており、あの、噴水がある場所は、場所柄が
悪くて、人が寄りつかない場所だった。あの噴水に呪いがかけられていると言
うのだ。その上、フミナは泣いているときは、封印術を使って、誰も寄りつけ
ないようにしているのだ。だから、あの少年は、明らかに、おかしかった。封
印術で作った結界の中にどうやって入ったのか?余程の高度なスキル(魔法の
様な術系の技術のことをスキルと呼ぶ)を持っているか、魔族でなければ入れ
ない筈だった。魔族は生まれつき魔法の様なスキルを使えるのだ。人間では、
スキルの能力を使える人間は限られているのに。一応警備隊に身柄を引き渡し
たが。これから、魔族か異端審問にかけられることになるのだが。そうすれば
結果は判明するだろう。

   第三章 捕まったマイク。大丈夫か?

口が封じられた、マイクは、手錠をかけられて、警備員らしい二人組に連れ
られて3本頭の犬に追い立てられて歩いていた。
 なんで、かなり難儀な試練を与えるのだと思っていた。もっと簡単に、十二
の聖なる文字を持った娘達に会わしてくれないのか。と、思いながら、マイク
は、歩いていった。今は季節が少し涼しいのか、冬が近いような感じではあ
り、夏休み中とはいえ、冷房の効いたスーパー・ショッパーでバイトをしてい
た、マイクは長袖を着ていたことを感謝した。
そして、護送車の様な車が在って、マイクは、中に放り込まれた。
 マイクは抗議したが、どうも口が塞がれていては、言葉が通じないのであ
り、仕方無しに、護送車の中で、これからどうなるのか考えた。自分が魔族と
言うことは無いだろうが、これから、異端審問とやらにかけられることは判っ
た。どうも不味いことは間違いないのだが。何も悪いことはしていないのだ
が、それでも捕まっているのだし、話が悪い方向へと流れるような感じはヒシ
ヒシと感じていた。封印術の口封じの布は、暫く経つと外れた。黄緑色のハン
カチは、あの黄緑色の髪の少女と似ていた。一応、ハンカチをポケットに、ね
じ込んでおいた。
フミナは自分の研究室に戻ると、携帯電話をかけた。父親のヤッパーリ・キ
ョトーだった。父親は学問王立大学の魔法学部の学部長だった。
「フミナ。私は忙しい。携帯電話は、よっぽどの事がない限りかけない約束
だ」
 父親は機嫌が悪そうな声で言った。フミナと話すとき、父親は機嫌が悪いの
だ。多分、才能が無い、フミナに対して、一族の恥とでも思っていることは容
易に想像が出来た。
「お父さん。大学の敷地内で、変な少年を見つけたの」
 フミナは、慌てて、父親が携帯電話を切る前に言葉を続けた。
 「変な少年?どこがどう変なんだ」
父親も怪訝に思ったのか言った。
 「私が封印術で作った結界の中に入ってきたの」
フミナは言った。
「魔族か?」
 父親は、嫌悪するような声で言った。
「判らない、でも神の話をしていたし、ハカイ教の信徒かもしれない」
フミナも、結局、あの少年が何者か、判らずに父親に合わせるように言っ
た。
 「ハカイ教の信者は禁固刑だ。そして魔族ならば駆除しなければならない」
父親は言った。
 「なぜ私の封印術で作った結界を破れたのかしら」
フミナは言った。
「まだ、フミナの封印術も完全では無いと言うことだ。魔法を若くして極め
られるのは、オマエの姉のリスカーナぐらいの天才でなければ無理だ」
 父親は言った。
「お父さんリスカーナ姉さまの話はやめて。あんな天才が同じ血を分けた姉
だなんて、考えたくない。自分が惨めになるだけだから」
フミナは言った。
「お前にもリスカーナと同じぐらいの才能が在れば良いのにな」
 父親は言った。
 「それじゃ切るから」
 フミナは言った。そして電話を切ろうとした。
「そうだ、フミナ。異端審問には、お前も出ることになるぞ。証人として、
出廷する必要がある。このガクモン国は、野蛮なグンカク国のように簡単に人
の命を死刑にかけることはない」
 父親は言った。
 「判ったわ」
 フミナは言った。
 そして携帯電話は切れた。
 たまに何のために自分が生きているのか見失いかけているフミナだった。
 親のため?一族のため?全ては押しつけであり、お仕着せだった。
「ああっ、私って不幸ぉ」
 いつもの口癖で、フミナは、ぐずりそうになりながらも涙を流さずに言っ
た。

第四章、異端審問開始!そして衝撃の知らせが!

「何で、オレは、こんな所に居るんだ!」
 マイクは叫んだ。護送車の後、鉄格子の付いた電流が通った檻に入れられて
数日経った後、黒と白の縞模様の囚人服を着せられて軍事裁判の様な場所に立
たされたマイクだった。いきなりオレはアルカイダに捕まったアメリカ人か?
アメリカ人だからって!とか思いながら、叫んでいたのだ。
 だが、裁判長らしい髭ぼうぼうの老人が槌で叩いた。
「静粛に。これから、異端審問を開始する。被告人、マイク・ラブクラウド
が、魔族か、ハカイ教の信徒であるかを調べることが、この、審問会の目的で
ある」
裁判長は言った。
 異端審問の裁判官らしい者達は皆紫のガウンに四角い帽子を被っていた。
「いい加減にしろ!オレは人間だ!」
マイクは手錠を揺すって叫んだ。
 「マイク・ラブクラウド。オマエは何者だ、何処で生まれた」
裁判長は言った。
 「オレはステイツのポテト・タウンで生まれたんだ!」
 マイクはヤケクソになって叫んだ。
眼鏡をかけた金髪の痩せた男が、立ち上がって言った。
「そんな国は知りません。ステイツという国は、この惑星には存在しませ
ん。何処かの地方ですか」
 眼鏡の金髪男は言った。
 「だから、オレは、この世界とは違う世界から来たんだよ。この世界の惑星
ジーが崩壊すると言うから、神様から、身体に聖なる文字を持つ十二人の娘達
を捜し出すようにって言われて」
マイクは言った。
「神?なぜ異世界から来たのに、そのようなYES教で語られる神の名前を
知っているのだ。矛盾では無いかね。君は、この世界の人間だろう」
裁判長は言った。
 「だから、その神に会って、世界の崩壊を止めるように言われたから、来た
んだ」
マイクは言った。
 「下らないな、科学的ではないよ。この世界を救う?馬鹿らしい。時空震
は、科学的な現象だ。この世界の存在する時空は、時空レーダーによって観測
される時空震によって、崩壊しつつあるが、このジーにまで、崩壊が到達する
確率は、たったの0.0001%だ。この世界が崩壊する事は、まず無いだろ
う」
金髪眼鏡男が言った。
 「だが、オレは、この世界に来たんだ。崩壊する世界ジーを救うために」
マイクは言った。
 「大体、君一人で、世界を救うことなど出来るのかね。時空震を受け止める
ことが出来ると?それは無理だ」
金髪眼鏡男は言った。すると法廷の中に笑いが起こった。オレは何で、こん
な奴等を助けるために、異世界に来たんだ。マイクは、嫌になっていた。
「それでは、魔族であるか、遺伝子検査が行われた。その結果を報告する。
遺伝子検査の結果はシロ、この者マイク・ラブクラウドは人間であって、魔族
ではない」
 マイクは、口の中にプラスチックの棒を入れられた事を思いだした。CSI
の録画を見ていて、DNA鑑定の、やり方は、大体判っていたが、なんか、こ
の異世界は、そう言うところまで似ているのでマイクは驚いていた。どうや
ら、完全な異文化の異世界と言うよりは、マイクが居た世界のパラレル・ワー
ルドなのかもしれなかった。
 取りあえず魔族疑惑は無くなり、死刑にされることは無かったようだが。だ
が、ハカイ教の信者疑惑がかけられているのだ。マイクは、ハカイ教は一切知
らないが、どうやら、そのハカイ教の信者にさせられそうな感じだった。
 「当然だ!オレは人間だぁ!」
 マイク・ラブクラウドは叫んだ。
魔族じゃない?フミナは、あの少年、マイク・ラブクラウドが、人間だった
ことに驚いていた。
人間が、フミナが使う封印術を破るには、特殊なスキル(様々な魔法のような
技術の総称)を持っている事が必須だった。それか、剣や格闘技を極めた者達
が発するアビリティ(様々な流派の必殺技の総称)を持っていなければ無理だ
った。だが、おかしな事に、スキルとアビリティの、どちらを使うにしても、
封印術で作った結界が破られれば術者のフミナは気が付く筈だった。それなの
にフミナは気が付かなかった。
何故?
 フミナは、マイク・ラブクラウドを見て思った。
突如、扉が開いた。若い魔法使いが(それでも二十代だが)血相を変えて入
ってきた。
「審理中にスミマセン!大変です!時空震の波が、この時空に方向を変えま
した!後、三百六十五日で、この惑星ジーは宇宙ごと崩壊します!」
 え?フミナは若い魔法使いの言葉が信じられなかった。まさか、この時空に
向かって、時空震が来るなど、予想は出来なかった。
嘘でしょ。フミナは狼狽した。
 「どうしたというのだ。この世界が崩壊すると言うのか。時空震が来る確率
は、僅か0.0001%だったはずだ」
裁判長は驚いた顔で言った。
「間違いありません!ヨクミエ時空観測所の時空レーダーが感知しました!
百%の確率で時空震は、やって来ます!これは避けられない事実です!」 
 魔法使いは叫んだ。
「時空震が起きて、あと一年丁度で、この世界は、崩壊してしまうのか。嫌
だ、私は死にたくないぞ!」
 裁判長は引きつった声で言った。
 「キィィイイイイイイイイイイ!」
 突然女の悲鳴が上がった。
 「嫌だ!嫌だよう!聞いてないよ!想定の範囲内じゃないよぉ!」
 男の叫び声が上がった。
「嘘だ」
 フミナの横で父親のヤッパーリ・キョトーが力無く、両手で顔を押さえて、
うなだれていた。いつもの自信家の父親らしくなかった。
フミナも、自分が後三百六十五日後に死ぬことが判って、「ああっ、私って
不幸ぉ」と、思ったが、どうも不幸なのは、この星に住む人達全員が同じよう
であり、いつもと違って妙な連帯感があった。そして、みんな不幸でちょっ
と、いい気味かも、とかフミナは思って、父親の横に座っていた、検事の四十
台の女性魔法使いが、涙を拭って泣いていた。不思議と、フミナは、涙が出て
こなかった。いつもとは違って、あまりにもショッキングな出来事だったた
め、ショックの度合いが大きすぎてフミナはどうも、怒りや憤り、哀しみ、苦
しみなどの感情が湧かなかったようだ。ただボーっとしていただけだった。
その時笑い声が上がった。
 は?フミナは、驚いて笑い声のヌシを見た。マイク・ラブクラウドだった。
「フハハハハハハハハハ!この愚か者共め!だから、オレが言っていただろ
う!この世界は崩壊するって!オレは、あの神なる主に言われたんだからな!
間違いは無い!」
マイク・ラブクラウドは言った。余りにも空気を読まない発言だった。
「静粛に…」
 異端審問の裁判長が槌で打った。
 裁判長も双眸から涙を流していた。
 「お前はバカ者だ!」
 そう傍聴席からヤジが飛んだ。
 「オレはバカ者ではない!正しい事を言っている正直者だ!ホネスト・マイ
クと呼べ!」
 マイク・ラブクラウドは言った。
 「被告人マイク・ラブクラウド。君は世界が滅びることを素直に受け入れら
れるのかね」
 裁判長は言った。
 「フハハハハハハハハハハ!ダイジョーブ!神なる主は、こう言ったのだ!
神の力を宿した十二人の娘達と力を合わせることで、この世界は救われるのだ
と!」
マイク・ラブクラウドは言った。
「神の力で、この世界が救われると言うのか?馬鹿らしい。君は、ハカイ教
では無いのだろうが、オブテミスト教だな。今、時空震により、この世界は三
百六十五日後に崩壊すると言うのだぞ」
 裁判長は流れる、涙を拭って言った。
 「とにかく、オレを無罪放免で解放してくれ、オレは、コレから、神なる主
の力を宿した十二人の娘達を捜しに行くのだから。大体、オレは、この世界の
人間じゃないから、ハカイ教なんか知らないんだよ」
 マイク・ラブクラウドは言った。
「確かに、ハカイ教では無いようだが、神の力で何が出来るというのかね。
そもそも、その十二人の娘達が何処に居るのか判っているのか?」
 裁判長は言った。
 「ワカラン!」
 マイク・ラブクラウドはハッキリと言った。
がくっと、フミナはなった。
「それでは、どうやって女神の力を持っているという、娘達を捜すのだ」
 裁判長は言った。
 「それは、神なる主の話では、十二人の娘達は十二氏族の名前を身体に持っ
ているから、そこら辺から、捜していけば良いのだ」
マイク・ラブクラウドは言った。
え?
 フミナは思った。
 「おい、フミナ、お前は…」
 父親は涙を流しながら言った。
 「私?私が生まれつき持っているアザの事?」
フミナは父親が考えている事を汲み取って言った。
 「そうだ、フミナ。お前は、生まれたときから、背中に、ヘブライライ語の
聖なる文字を持っている」
 父親は言った。
 「父さんは、まさか、私が、YES教の神の力を持っていると考えている
の。あんな事はデタラメか妄想よ。だって私は無神論者よ」
 フミナは言った。
 「だが、フミナ。他に何を信じろと言うのだ。この世界は、あと三百六十五
日後に滅びると言うのに」
 父親は言った。
「そんなの、おかしい。私より、YES教の神の力を持っているのは、リス
カーナ姉さまの方が相応しいわ。二十三歳で黒炎の賢者の称号を持っているの
よ」
フミナは自分の背中に在る醜い、入れ墨のような、ヘブライライ語のガドと
書かれた文字が嫌いだった。だから背中を出すような服は一切着たことが無か
った。
 「だが、お前はガドの聖なる文字を持っている」
 父親は言った。
「…とにかく、オレを解放してくれ、できれは、十二氏族の名前を持った娘
達を捜す手伝いもしてくれないか」
 マイク・ラブクラウドは言った。
 「随分と図々しい話だな」
裁判長は涙を流しながら苦々しげに言った。
そして続けた。
 「判決は、この法廷で虚偽の証言をした罪で、マイク・ラブクラウドを一年
間の懲役刑とする」
 裁判長は言った。
 「バカヤロウ!一年間、オレが何もしなかったら、この世界は崩壊するんだ
ぞ!」
 マイク・ラブクラウドは言った。
 「非科学的な嘘を言うからだ。時空震は科学的な現象であって、YES教の
神の力によって防げるような非科学的なモノではない」
 裁判長は言った。
 「分からず屋!」
 マイク・ラブクラウドは言った。
 その時、父親が立ち上がった。
 「裁判長、その判決に執行猶予を、いただけませんか」
 父親は言った。
 「あなたは、異端審問の訴訟を起こした、フミナ・キョトーの保護者であ
る、ヤッパーリ・キョトーではありませんか。このような世迷い事を言う輩
は、留置場の中で、世界の崩壊を待っているのが、お似合いです」
 裁判長は言った。 
 「私が、マイク・ラブクラウドの身柄を預かりたい。私は、世界が崩壊する
と言うのなら、僅かな希望でも、気休めでも良いから、その言葉を信じたいの
だ」
 父親は言った。
「おー、アンタ話判るじゃないか」
 マイク・ラブクラウドは笑顔で言った。
「それでは、良いのですかな」
 裁判長は言った。
 「このキョトー家のヤッパーリ・キョトーが保証しよう」
 父親は言った。
 フミナは、父親が、本気で、マイク・ラブクラウドの戯言を信じているのか
と疑った。もし信じているのなら、それは、気休めだとフミナは思った。ガク
モン王立大学魔法学部の学部長である父親が、こんな弱気を見せるとは、フミ
ナは信じられなかった。
 
 第五章 神話学者マンシュリー教授。
そして十二氏族の聖なる文字の謎!

マイクは、囚人服から、この世界に来たときに着ていた、長袖の服を着てい
た。そして、
黒塗りの豪華な紫色の内装をしたリムジンに乗っていた。運転手は帽子を被っ
た金色のロボットだった。中には、例の少女と、その父親のヤッパーリ・キョ
トーが居た。
 リムジンに乗ると、ヤッパーリ・キョトーは話し始めた。
「何から話そうか。この世界に時空震が到達することからか、それとも、私
の娘、フミナ・キョトーに十二氏族のガドの文字が背中に在ることを話すべき
か」
 ヤッパーリ・キョトーは言った。
 マイクは、呆気にとられた。
 「まさか、この女が、神なる主が言っていた聖なる文字を持った娘なのか」
 まさか、自分を裁判にかけた少女が、聖なる文字を持った娘だったとは思い
もよらなかった。
「そうよ。私の身体には生まれつき、醜い痣が在るの。だからといって、そ
れがYES教の神が語る、聖なる文字だなんて、あまりにも話が飛躍し過ぎ
よ」
 少女は険のある顔でマイクを見て言った。
 「なんだ。お前が、聖なる文字を持った娘だったのか」
マイクは少女を見て言った。どうやら神なる主も、まるっきり考え無しでマ
イクを、この惑星ジーへ送り込んだ訳ではないようだった。最初から、聖なる
文字を持った娘は居たわけだった。
 「気安く考えないでよ。私は、こんな醜い痣を生まれつき持っているから、
子供の頃から、背中が開いた服を着られないのよ」
 少女は言った。
 「フミナは、背中に生まれつき持っているヘブライライ語のアザが嫌いらし
い」
 ヤッパーリ・キョトーは言った。
 「お前はフミナと言うのか」
 マイクは、少女の名前を初めて知った。
 何か外国人の名前のようだが、髪の毛は、黄緑だし、眼鏡は、ともかくとし
て、どこの人種だか判らない顔立ちだった。
「そうよ」
 フミナは、マイクを見て嫌そうな声で言った。
「何だよ、その言い方は、感じが悪いな」
 マイクは、険のあるフミナの声が嫌だった。
やはり、最初に会ったときに感じていた、偏執的な性格は間違いなさそうだっ
た。
ヤッパーリ・キョトーが険悪なマイクとフミナの間に入るように話を続け
た。
 「だが、フミナの背中に在るヘブライライ語の文字がYES教の神なる主の
文字なら、それは、如何なる力を持つのか。これからガクモン王立大学へ行っ
て、専門の教授に話しを伺おう。この大学には、宗教学が専門の、それも、Y
ES教の神話発祥の地古代ヘブライライの研究を専門とする教授が居る」
マイクも大体納得した。
 「その人に会えば神なる主が言っていた、十二氏族の名前の力が判るのか」
 マイクは聞いた。
「あなたね。私の父様はガクモン王立大学の魔法学部の学部長なのよ。そん
な風に気安く話しかけては駄目なの」
 フミナは、相変わらず険のある声で言った。
 「何だよ、何か言うたびにケチ付けているな」
 マイクは言った。
「フミナ。マイク・ラブクラウド君は、学内の関係者ではないし、このガク
モン国の国民でもないようだ、だから、魔法学部長の私の地位も部外者故に不
問だよ。それに、あと一年で、この世界は崩壊するのだから、私の地位など最
早、意味は無いのかもしれない」
 ヤッパーリ・キョトーは言った。
「そんな、父様、そんな弱気になるなんて」
 フミナは言った。
「そうだな。家族の前だとはいえ、私は、弱気になりすぎているかもしれな
い。だから、こそ、私は、マイク・ラブクラウド君が語る、YES教の神の話
に賭けるしかないのだ」
 ヤッパーリ・キョトーは言った。
 そして車は進んでいった。そして、マイクが、捕まった、ガクモン王立大学
にやって来た。護送車に連れ込まれたから、マイクは、ガクモン王立大学が、
どのような門で作られているのか知らなかったが。ヨーロッパ風の建物の校門
だった。車が中に入っていっても結構かかるのであって、その間中、マイクは
フミナと口で言い合いを続けていた。
「…大体ね。アンタね。本当に、何処の国の生まれなのよ」
フミナは言った。
 「ステイツは、ステイツで、オレはヤンキーだ。そしてポテト・シティ生ま
れのポテト・シティ育ちであるから、つまり生粋のアメリカ人だ」
 マイクは言った。
 「どうせ、頭悪いんでしょ。勉強なんか出来ないで、グンカク国の頭の悪い
軍人達や、ブドー国の頭の悪いマッチョ達の仲間なんでしょ」
フミナは言った。
 「そんなことは無いぞ。コンピュータの勉強をしているのだ」
マイクは言った。正確には始める前段階だったのだが、マイクは見栄を張っ
た。
 「なんで異世界にコンピュータが在るのよ」
フミナは言った。
 「そりゃ、在るモノは在るんだよ。オレはこっちの世界にコンピュータが在
る方が不思議だ…」
マイクはフミナと言い合いを続けて、研究棟と呼ばれる、宮殿のような建物
に入っていった。その間、ヤッパーリ・キョトーはスマート・フォンをかけて
いた。そして、ヤッパーリ・キョトー、フミナと一緒に研究棟に入っていき、
エレベーターに乗っていった。丁度16階で止まりヤッパーリ・キョトーは降
りていき。フミナとマイクも続いて降りた。
 「ここの四階に私の研究室が在るのよ」
 フミナは言った。
 「なんだよ。お前は、まだ十代だろ、なんで、こんな所に、研究室があるん
だよ」
 マイクは言った。
 「それは私が、このガクモン国の最高峰の大学ガクモン王立大学の准教授だ
からよ」
 フミナは言った。
「はあ?」
 年齢のせいで、そんなにフミナが偉そうに見えなかったが。どうやら、一応
は立派な学者らしい。本当か?
 「本当かよ?フカシこいているんだろ」
 マイクは言った。
 「本当よ」
 フミナは言った。
 ヤッパーリ・キョトーは止まった。
 「ここが、マンシュリー教授の研究室だ。連絡は取っているから居るはず
だ」
 ヤッパーリ・キョトーは、豪華な金細工の装飾が施された木製の重厚な作り
のドアの横に在る呼び出し用のインターホンのボタンを押した。どうやら、マ
イクの居た日本とは、似ている所も在るようだし違うところも在るようだっ
た。
 「ぐすっ…キョトー先生、入って下さい。マンシュリー教授は面会を受けま
す」
 涙ぐむ女性の声がした。
マイクがヤッパーリ・キョトーと、フミナの後に付いて入っていくと、机が
在って、そこで黒いスーツを着た四十代ぐらいの女性が涙ぐんでいた。
 「キョトー先生、この世界が、時空震で、崩壊するってニュースが入って。
それでも、学長のエライノ・キョトー先生は、時空震で世界が崩壊するまで、
ガクモン王立大学では授業を続けるって宣言して。でも、そんな風に、平常心
で居られるなんて、私には出来なくて…」
黒いスーツを着た女性は言った。
「さすが親父さんは頑固者だな。マンシュリー教授は、どうなんだ。時空震
の話で打ちひしがれているのか。ミス・ヒッショー」
ヤッパーリ・キョトーは言った。
「今までマンシュリー教授に慰めて貰っていたんです」
 ミス・ヒッショーは言った。
そして扉が開いた。
中から、カウボーイの様な格好をした六十近い白い髪に白い顎髭の老人が現
れた。腰に二丁拳銃まで付けている。
 「よくぞ来た。このホール・マンシュリーに、古代ヘブライライの説明をさ
せるのだな。専門のワシに任せるがよい」
マンシュリー教授は言った。
 本当に、これが教授か?と、マイクは思った。
 そして部屋に入ると乱雑に書類が積まれて、様々な、遺跡の断片の様な石や
飾りなどが置いてあった。そして、中に応接セットらしい椅子が置いてあっ
た。そこにマイクは、ヤッパーリ・キョトーと、フミナと共に座った。
 「事情は、携帯電話で大体聞いている。マイク・ラブクラウド君。君は、神
なる主に会ったと言うのだな」
金属製のキャスター付きの椅子に座った、マンシュリー教授が、パイプにマ
ッチで火を着けて、吸い始めた。
 「そうだよ」
 マイクは言った。
 「それでは何から始めるかな。マイク・ラブクラウド君、君は古代ヘブライ
ライを知っているかい」
マンシュリー教授は言った。
「いやあ、サッパリ知らない。子供の頃に聖書を読んでいて、神なる主に、
いきなり惑星ジーが属する世界の崩壊を止める試練が与えられた。そして3日
前に、この世界へ来て、捕まって異端審問にかけられたんだ」
 マイクは言った。
「異世界転送術、異世界召喚術は、現在魔法学部の研究課題の一つだが。異
世界から人間を呼び出すことなど現在のスキル(魔法の様な技術)では出来な
い事になる」
 ヤッパーリ・キョトーは言った。
 マンシュリー教授は頷いてマイク達に話し始めた。
「私は、古代ヘブライライ文明の専門家です。この者マイク・ラブクラウド
は、研究者の間でも問題視されている、古代ヘブライライの神ヤハウェーイの
問題を突いています。世界を作った創造神としての役割が重要ですが、古代の
何処の神話から古代ヘブライライ人達が、持ち込んだのか幾つもの学説があり
ます。ただ、問題は、このヤハウェーイが試練を与えることです。何故試練を
与えるのか。それは、この説が、正しいのか、未だに検証過程なのですが」
「神なる主が何処の神話から持ち込まれたと言う話が理解出来ないが」
 マイクは怪訝に思って言った。
マンシュリー教授はパイプをくゆらした。
 「この世界にも様々な宗教はあるが、古代ヘブライライの神ヤハウェーイ
が、この世界を作ったという言い伝えは確たる証拠としては在りませんが研究
資料の文献の中からは、出てきているのです」
 「オレは十二氏族の名前を持つ娘達を集めるように言われたんだが。その文
献って旧約聖書の事だろ」
マイクは言った。
 「そうです、ヘブライライの神ヤハウェーイの指示で古代ヘブライライ人の
十二氏族が作られたのです。ここに秘密が在るのかもしれません」
マンシュリー教授は頷いた。
「マイク・ラブクラウド君が言う十二氏族の名前には、そのような力が在る
のか。フミナ。お前は、何か変わった力を感じたことは在るのか」
 ヤッパーリ・キョトーはフミナを見て言った。
「そんなの無いです。ただ、私は、封印術だけに才能が在っただけで。他の
魔法は上手くないし」
 フミナは言った。
 「だが、フミナの背中には、生まれつきヘブライライ語で書かれたガドのア
ザが在る。これから、全世界へ向けて、ヘブライライ語の十二氏族のアザを身
体に宿す娘達を捜すように手配しよう。このガクモン王立大学に協力してくれ
る機関は多い」
ヤッパーリ・キョトーは言った。
「それじゃ、オレは、どこに行くんだ。オレも探し回った方が良いとは思う
のだが。フミナみたいに偶然で出会えるかもしれないからな。ところで、どん
なアザなんだ」
 マイクは言った。
「フミナ。一度、ヘブライライ語で書かれた背中のアザを見せた方がいい。
他の十二氏族の文字を捜すときに参考になる」
 ヤッパーリ・キョトーは言った。
 「うっ!嫌よ父様。恥ずかしいから」
フミナは顔を赤らめ首を振った。
 険のあるフミナばかり見ていたため、マイクは、以外と女らしい所もあるの
かと思った。
フミナは父親も含めて、男3人に、自分の背中の入れ墨の様な醜いアザを見
せることが嫌だった。
 大体、背中を見せるということは、下着も脱がなければならなかったから
だ。
 それに、このマンシュリー教授はセクハラで有名だった。マイク・ラブクラ
ウドは、バカそうなだけあって、スケベそうだった。大体、異端審問に掛けら
れている最中に笑い出して、法廷侮辱を平然と行う神経が理解できなかった。
かなりのバカである事は間違いなかった。
 「フミナ、この時空が崩壊するんだ。背中を見せるぐらい恥ずかしがる事で
はない」
 父親は言った。
 「でもぉ」
 フミナは抗議するように言った。
「フミナ、私の言うことが聞けないのかね。これはキョトー一族の父親とし
ての命令だ」
父親はキョトー一族の父親と言った。これには、フミナは逆らえなかった。
 「それじゃ、背中だけ見せれば良いんですね父様」
 フミナは言った。
 「ああ、そうだ。それでいい」
 父親は言った。
 「それでは、応接室で、服を脱ぎます」
フミナは言うと、マンシュリー教授の研究室の前の秘書が居る、部屋へ出て
いった。 
そして扉が開いた。
マイクは、フミナが胸を着ていた青い服を抱いて隠して入ってきたとき。フ
ミナのプロポーションが結構、イイ感じであることが判った。フミナの肌は色
が白くて、腰から下はスカートを履いているから見えないが上半身だけでも、
白い肌に、ほのかな赤味があって、
華奢な感じの肩や鎖骨周りなどがイイ感じだった。
「いやあ、よく発育しとるのぉ」
 マンシュリー教授が言った。
「嫌らしい目で見ないで下さい」
フミナは両手で胸に抱えた服を持ったまま顔を下に向けて言った。
 「フミナ。背中を見せなさい」
 ヤッパーリ・キョトーは言った。
 「はい、父様」
 フミナは言うと、背中を向けた。
 フミナの白い背中には確かに、肩胛骨の間から腰に掛けて十二氏族の一つガ
ド族を示す文字が在った。これは、間違いなく、ただのアザには見えなかっ
た。まるで入れ墨のように精緻なアザだった。
 「これが、マイク・ラブクラウド君が言う、ヘブライライ語の文字なのだろ
うか。だが。この私の娘フミナには、特に目立った能力は無い」
ヤッパーリ・キョトーは言った。
 「多分、十二人の娘達を集める必要が在るんだよ。そうすれば、何か起きる
のかもしれない」
マイクは、思ったことを言った。大体、集めるのが先に思えたのだが。
マンシュリー教授も頷いた。
 「確かに、そうかもしれぬ。古代ヘブライライの神ヤハウェーイが、十二氏
族に分けられた力が一つになったときに初めて能力が顕在化するのかもしれな
い」
マンシュリー教授は言った。
ヤッパーリ・キョトーはマンシュリー教授を見た。
 「これから、私は、ガクモン王立大学の人脈で、聖なる文字を身体に持った
娘達を捜すように、この惑星ジー中に働きかけるつもりだ。フミナ。お前は、
マイク・ラブクラウド君と一緒に、このジーにいる国々を巡って、十二氏族の
名前を持った娘達を捜すんだ」
 ヤッパーリ・キョトーは言った。
 「嫌です。こんな、見ず知らずの少年と一緒に探索をするなんて」
 フミナは見返りながらマイク・ラブクラウドを見て言った。
 「ミス・キョトー。私が付いていこうか」
 マンシュリー教授が言った。好色そうなニヤけた顔をしている。
「断ります」
 フミナは、嫌悪感を感じて言った。
父親はフミナを険しい顔で見た。
「フミナ、ワガママばかり言うモノではない。コレは重要な事だ。まずは、
フミナの背中の十二氏族の名前を資料として、デジカメで写しておくのが良い
だろう。そしてインターネットで資料を配布する」
 父親は言った。
 「え、嫌ですよ。父様。私の裸がインターネットに載るなんて」
 フミナは抗議した。
 「心配するな。十二氏族の名前だけを拡大してインターネットに載せる。背
中の文字が写るだけで、顔は写らない」
 父親は言った。それでもフミナは、自分の背中の醜いアザが、インターネッ
トに載るのは嫌だった。
「それでは私の四眼レフのデジカメを使えば良いだろうか」
 マンシュリー教授は立ち上がって、ゴチャゴチャした研究室の中から、デジ
カメを捜し出してきた。
 「父様、本当に写すんですか」
 フミナは懇願して言った。
 「ああ、そうだ。お前の十二氏族の名前が世界の崩壊を食い止める役に立つ
のなら、お前の十二氏族の名前をインターネットで参考資料として配付する必
要がある」
 父親は言った。
 「ソレでは写すぞ三つ編みが背中に掛かっておる、退けなければ、ヘブライ
ライ語の文字がフレームに入らぬ」
 マンシュリー教授はデジカメを構えて言った。
 「でもお」
 フミナは、父親に懇願した。
 だが父親は冷酷に言った。
 「フミナ。三つ編みを退けてヘブライライ語の文字を写せるようにしなさ
い。これは学術的な研究と同じだ。恥ずかしがる事は無い」
 ああっ、私って不幸ぉ。何で、こんな恥ずかしい目に遭うのとフミナは思っ
たが。仕方が無く、背中を向けて、左手で、服を持って胸を隠して、右手で、
黄緑色の、おさげにした。二本の三つ編みを前に出した。
 そしてフラッシュが光り、フミナの背中のアザは写された。フミナの屈辱だ
った。
 そして服を応接室のミス・ヒッショーが居る場所で着た。そして、マンシュ
リー教授の研究室へ入っていった。
父親はフミナが入ってくると言った。
 「フミナ。これから、十二氏族の名前を持っている娘達を捜すことになる。
マイク・ラブクラウド君と一緒に、まずは、ブドー国を捜してみるべきだ」
「私にリスカーナ姉様に会えと言うのですか」
 フミナは言った。
 フミナはリスカーナが嫌いだった。向こうもフミナの鈍才ぶりを嫌っていた
し。フミナとリスカーナは、よそよそしい姉妹であった。
「そうだ。リスカーナには、私から連絡を入れておく。だから心配せずに、
ブドー国へ、これから今すぐ飛べ。時間が惜しい。僅か、三百六十五日しか時
間が無いのだ。必要なモノは、ブドー国へ着いてから買いそろえれば良い。私
のクレジット・カードを渡しておこう暗証番号31415」
 父親は言った。そしてザンス・カードを高級ブランド・バンバンの財布から
出した。そして、フミナは受け取った。


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