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作品名:スイートシンディ 作者:フィサリア

第1回   ナイトメア
竜也は迷路の中、何人もの男に追われて逃げていた。
どこにいっても周りは黒い壁で逃げ場はなく、ほどなく袋小路に追い詰められた。
-----  もうダメだ・・・・
がっくりと膝をついたとき、床に取っ手があるのが目に入り、無意識に引っ張った。
黒く重い床が割れて、そこからオレンジの光があふれ出す。

そこで目を覚ました。
身体が変な汗で濡れていて、胸が大きくあえいでいる。
夢だった。

目をつぶって息を整える。
ここのところ毎晩のように見る夢だが、今日は少し違っていた。
いつもは追い詰められ、うずくまったところで目が覚めるのだが、さっきは出口らしいものがあった。
-----  でもあれは、追い詰められた奴が最後に選ぶ天国なのかもしれない
最悪の終わりを想像して、身震いしてしまう。

頭が痛くて身体が泥のように重い。
昨夜も飲みすぎてしまったようだ。
竜也は暗い気分で目を開けてしばらくそのままでいたが、なにか違和感を感じ、隣を見てぎょっとした。

女が寝ていたのだ。

タイムスリップで過去から抜け出てきたかのような、恐ろしく古風なペティコートがまず目に入り、次に抜けるように白い肌と太陽のようなオレンジの髪が見えた。

テキーラの酔いが残る頭で、さてそんないい事をしたっけ、と考える。
昨夜は見知らぬバーで閉店までねばったあと、まっすぐにここに戻ったはずだ。
誰とも会っていないし、話もしていない。
だいたい、竜也は昨日の格好のままで寝ていた。

ということは、酔った勢いで拾ってきた女ではないということだ。
それに、住んでいた街を捨てて逃げてきたので、この街に知り合いなどいない。
ここに来たのはまったくの思いつきで、むかし仕事で使ったことのある倉庫の合鍵を持っていた、理由はそれだけだ。
竜也のねぐらは、この今は使われていない倉庫の二階にある事務所跡の部屋だった。

そこに置き捨てられたベッドの上で、身体を起こした。
隣へとまた目を向ける。

----- あれ・・・・・・ 外国人!?
そう気づいたとき、女がパチリと目を開いた。
コバルトブルーの瞳。 その瞳が微笑んだ。
「あんただれ?」
女は答えず笑っている。

ちょっとおかしいか電波な外人さんかもしれない、そう考えていると、女のまぶたが再び閉じた。
規則正しい寝息が聞こえ始める。

「ちょっと、起きてくれよ、おい!」
乱暴に身体を揺するが、目を覚ます気配がない。
何かひどく面倒な事に巻き込まれてしまった、そんな嫌な予感がした。

竜也自身、仕事に失敗して、逃げてこの知らない街にいるのだ。
だからこれ以上、妙なことに関わりたくなかったし、逃げる前のわずらわしい毎日から開放された今を、独りでゆっくりと過ごしたかった。
どうせこの日々もあと少しで終わるのだ。

埃の厚く積もった床に投げ出してあったブルゾンを拾うと、竜也はポケットから金を取り出してながめた。

最後に目的もなくかき集めた百万円。
これが盗られていないということは、金目当てとかでもないらしい。

金をポケットに戻してブルゾンを羽織ると、竜也はさび付いたスティールドアを押し開けて部屋を出た。
朽ちて崩れ落ちそうな階段を降り、置き捨てられた廃材が積まれた、だだっ広い倉庫の中を横切ると外へ出た。

そろそろ夏の気配がする。
午後の日差しがまぶしくて、竜也は舌打ちして目をしかめた。
そして、行くあても目的もないまま、歩き出した。




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