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作品名:スーパーレディー スーパーで働く女達 作者:さくらん

第3回   第3話「O型渡邊の自爆退職」

渡邊 奈々子 45歳 既婚者 子供2名
2000年4月に新規スタッフの一人である彼女は45歳のわりにスッキリと長身163cmにスリムな体型である。
かなり遠い過去に焼いたと思われる色黒肌を残し「若いときはイケイケ」オーラを老いた現在でも放し続ける。
渡邊は知れば知るほど面倒な女でもある。
服装もオシャレでパンツにしてもスカートにしてもウエストが総ゴムなど絶対に着ない。渡部は自慢のスタイルを前面にアピールするようなフィトするピッタリな服を好んで着ていた。

ヒール・パンプス・ロングブーツとてもじゃないがスーパーに勤めるパートの「おばちゃん」とは言えないような服装である。
バージニアスリムと100ライターを無造作に仕事用の鞄に入れて休憩時間は一服。
さすがタバコを吸う姿もネンキが入っている。
カッコ付けでタバコ吸うような女性はオシャレな可愛いタバコケースに入れてライターも電子ライターと自分専用スタイルを作りはじめる。
渡邊は違った!タバコは渡邊!渡邊はタバコと言った空気を漂わせている。
少し焼けた長い指でタバコをガッチリと挟み思いっきり肺まで吸って鼻から煙を出す姿は見事。

しかも社員だけが集まるバックヤードに混じり渡邊は男連中と一緒に一服している。
もはや彼女は社員と同化していた。
そんな渡邊は見た目同様にサバサバとした性格だった。
というよりもサバサバとした性格を演じていると言った方が合っている。
「私はO型だから おおざっぱなの。
細かいコトとか大嫌い」
口癖は「O型だから・・・」O型に誇りに思い思いO型であることを愛する渡邊。
細かいコトは気にしない!と言いながら給料明細に特に金関係については細かにチェックしていた。

例えば業務時間が1時間でも付け忘れていれば目尻にシワを寄せてレジチーフを飛び越え直に店長に詰め寄る。
時給に関しても勤務して半年で
「私はチェッカーの誰よりも細かい仕事もしている!他のメンバーが出来ない作業も私はできる!時給がオープン当初の900円はオカシイ!」
渡邊はキツイ性格を前面にアピールである。実際に渡邊は自分自身をパートと思ってないほど仕事に対する思い入れも強い。
自分から何でもこなして他人に自分が教えてあげることを好むタイプ。
そんな渡邊にチェッカーのメンバーも文句を言うこともない。
言ったら100の言葉が返ってくることは「サイオス」の社員全員分かっている。
もちろん同期で入社した仲間も同様である。入社して半年でギクシャクしたら何の為にオープニング入社したのか分からない。
他のメンバーは違う意味で大人である。
2000年 10月 半年渡邊はチェッカーのリーダー的(ボス)の地位を明確にする。しかし一方ではウザイ女性の存在にもなる。そんな渡邊ではスーパー常連客はチーフと勘違いするまでに固定客を作る。
営業能力は下手な社員よりも上である。
恐るべき「おばさんパワー」炸裂に店長は強くも言えず渡部の御機嫌取りをしていた。
しかし本人いわく「おばさん」とは思っていない。女を「捨ててない」そんな態度はレジ作業から感じとれるのである。

レジを打ちで商品を読み上げする姿はイロケを感じさせるように独特な音程で語尾を上げて読み上げする癖が渡部にはある。

「380えぇ〜ん!」「198えぇ〜ん!」と「えぇ〜ん!」の発音はレジメンバーでも影でマネされるくらい個性的な発音。

この変な癖そのものが「おばさん」である。こんな渡邊ではあるが業務に関しては熱いオーラでこなしていたが勤務後(プライベート)の話になると眉間にシワを寄せて不機嫌そうな顔で力強く話しだし止まらない
亭主は8歳年上の一応公務員である。

亭主とは夫婦関係も悪いらしく倦怠期状態を通り越して空気のような存在らしい。
「毎晩酒を飲み帰って来る時間は深夜だし、ホント、ロクな父親じゃないわ!子供たちも父親が大嫌いなの!たまに帰ってきても私も子供達もシカトよ!私としては離婚してもいいと思っているのよ?!でも亭主がどうしてもイヤみたいだから仕方なしに一緒に暮らしているけれどね?」
子供は小学生4年勝則と小学2年生の優子と二人である。

子供には学習塾と優子にはピアノを習わせて勝則には英語を習わせていた。
渡邊のプライベートは子供の為に情熱を注いで忙しい。
渡邊本人もママさんバレーをしていた。
「うちは別に私が働かなくても、お金には余裕あるけど?公務員だから?
私は家にいるってことが疲れちゃうタイプでしょう?動いている方がスキなのよ。
少しでも動いていたいじゃない?」と高笑いをしていた。
口癖その2は公務員である。
メンバーの1人が20代でマンションを購入した噂を聞くと渡邊は鼻で笑うように
「マンション?広さは?
2LDK?ちょっと狭いわねぇ!
3LDKはないと困るわよ?
まぁ一般サラリーマンだと3000万程度が1番いいのかもね?
まぁ ウチみたいな公務員になると家を購入できるけれどね?
でも社宅だと住み心地良くてイマイチ今は購入する気にならないのよぉ。」
と 高笑いをしながら 築年数30年の砂壁な2LDKの社宅に家族4人で住んでいる。どこまでもプライド高い女性である。
「別に働かなくてもいい・・」
と言う女性はスーパーに必ず数人いるが働かなくていいのなら何もスーパーに好んで働かないだろう。

働かなきゃいけない状態だから週5日も5時間で働いているのではないか?
渡邊は「ユニクロ」や「100均一」など リーズナブルな店舗を素直に好きと認めない。
亭主からプレゼントされたと言うブランドバックを通勤にOLのように使っている。
渡邊が働かなきゃいけない理由は 
そんな見栄のために使用した借金にある。
そのようなプライド高き女性が妻なら亭主も毎晩飲みにも行きたくなるだろう。
地球は自分の為に回っている精神の渡邊は日に日に欲を出して壊れて行った。
あのヒトラー石川が消えてイマイチ気の弱い石川とは逆なタイプである新チーフ大田が渡邊に頼り渡邊を喜ばせる言葉を何気なく掛けてしまう行動が渡邊を悪化させてしまった。休憩室の渡邊は
「新しく入ってきたチーフねぇ・・まだ22歳でしょう?
少し世間知らずな部分があるのよねぇ?
そんな感じだから私を頼ってくるのよねぇ?もうパート終わっても職場のことが最近では気になって最近疲れも1日じゃとれないわ。どっちがチーフか分からないじゃない?」
とパート達を前に集めてタバコを吹かしながら豪語し高笑いをする渡邊。
「これじゃ時給を上げてもらわないと割りに合わないわよ?」
以前にも店長に時給のことで「上げろ」と噛みついた渡邊は20円ではあるがアップしてもらっている。
この上 まだ上げてもらうつもりでいる。「でも・・さすがにもう無理じゃない?」パート仲間であるデリカの山村が言った。
その一言が渡邊の無駄な向上心とプライドに薄謝をかけてしまった。
「冗談じゃないわよ。
時給上げないなら私は店を辞めてもいいわ。それだけの仕事をこなしているのに今の時給じゃ納得はできないわ。
ここだけの話だけど、
パン屋だけど友達から声が掛かっているの
そこの条件が良ければ働こうか迷っているの」
高飛車に笑いながらも顔は引きつっていた
翌日、渡邊は店長に案の定、
時給を上げてもらうように詰め寄った。


渡邊自身も以前に店長に詰め寄った時の弱気にハイハイと頷くしかできない店長の態度が頭に残っていたこともあり余裕で一つ返事で時給アップを認めるとたかをくくっていた。しかし、今回は渡邊の予想を覆す対応。
店長自身も売上のことなどで少々機嫌があまり宜しくない状況だったこともあり、
今回は渡邊のワガママに付き合っていられる余裕もなく素っ気無い対応を返された。
「渡邊さんの時給は他の人より多いのにこれ以上は そんなにすぐ上がらないよ」
言葉を告げると渡邊の前から席を離れて売り場にそそくさと戻っていた。
独り残された渡邊のプライドは一気に加速して急上昇である。
「冗談じゃないわよ!
私が店を辞めないと思っているのでしょうけれど、本気で店を辞めたらどうなるか思いしらせてやらないと!!」
O型は意見おおらかに見えるが一度怒らすと一気にカッーと熱くなる体質である。
まさしく渡邊は典型的なO型女である。
この日、パートを終了してから渡邊は知人から聞いた募集しているパン屋に電話を掛けて面接予定を翌日にとりつけた。
「知人の紹介」ではなく、たまたま知人が買い物途中に見つけたパン屋の募集を渡邊に教えただけである。
そこをプライド高き渡邊は、わんきょくにデリカの仲間へ自慢げに話したのである。
翌日に気合十分の渡邊はパン屋で面接をして土日関係なくフリーで働ける状況から簡単に採用となった。
「してやったり!」の渡邊である。
面接をしたパン屋の店長から勤務日を聞かれると渡邊は女優顔負けの表現力で答えた。
「はい、私としては今すぐにでも働きたいのですが、現在の仕事の引継ぎをしなくてはならなく来月から勤務ではマズイでしょうか?」
遠回しに自分はサブチーフのような口ぶりで困ったように答えた。
「そうですか。待ちますので大丈夫ですよ」パン屋の店長はすっかり渡邊マジックに騙されるように笑顔で信用して答えた。

時給交渉をして2日で行動を起こす渡邊は、3日後にはレジチーフへ退職を告げた。
若き気弱なレジチーフは少し困ったような顔つきで驚いている。
その姿を見て渡邊は自分自身の存在を再確認するのである。
「ふふっ 私が辞めたら絶対困ることは最初から百も承知だもの。
チーフは店長に伝えて店長は私を絶対に止めるに間違いないわそして辞めないように時給を上げる。」
渡邊は心中の中、呟き鼻でクスッと笑う。
どうしてそんなにも自信過剰になれるのか不思議である。
涼しい顔の渡邊は今や遅しと店長の困った顔を待ち続けているが数日が過ぎても店長が渡邊に言葉をかけることもない。
むしろ、以前より店長は明るい顔でくだらない日常的な話題で終わる。
「チーフから聞いてないのかしら?」
渡邊はレジチーフに何気なく訪ねた。
「私が退職すること店長は知っている?」
レジチーフは少し動揺したように答えた。
「あっ、はい、伝えておきましたので」
「そ、そう・・」
渡邊は気が抜けたように返事を返した。
レジチーフは渡邊が退職を告げた日に困ったように、すぐ店長に報告をするチーフ。
「実は渡邊さんが今月で退職したいと言われたのですが・・・」
しかし店長は大きな溜息をこぼして疲れたようにチーフに伝えた。
「本人が退職したいと伝えているなら退職してもらった方がいいよ。
もう渡邊さんの態度にも手を焼いていたし、実際問題、
他にも渡邊さんの代わりはいるだろう?
飯田さんもカウンターの仕事をしたいみたいだし・・」
渡邊はトラブルメーカーとなりつつある。
レジチーフは店長の気持ちを汲み取るように微笑みながら返事を返した。
「はい。そうですね。
飯田さんにカウンターの仕事は頼みます。」
店長とチーフのやりとりを知る良しもない渡邊は自分を偉大なる存在と思い込む。
スーパーで勤務すると誰もが勘違いしてしまいがちな落とし穴である。
《自分がいなくなったら絶対に困る》
そんなことは絶対にない。
《自分がいなくても店はまわる》
《自分の代わりは誰でもできる》
世の中はそんなものなのだ。


調子に乗って言いたい事を言っていれば煙たい存在になりお払い箱である。
もはや店に渡邊を惜しむ人間はいない。

むしろ心なしか渡邊の退職を聞いてレジスタッフ達は笑顔が増えたように明るい。
実は自分が煙たい存在と言う状況を最後まで知らないまま退職した渡邊は新しいバイト先を勢いで探し今も勤務中である。

若すぎる年齢層の中で浮いている渡邊は自分自信の地の姿も出せないまま働いている。
やはり戻りたい渡邊は何度となくサイオスに買い物に訪れては様子を伺うようにチーフに声を掛けてみるが期待の言葉はない。
以前の渡邊のポジションは飯田が満面の笑顔でカウンターを仕切っている。
もう完璧に渡邊の影は店に残っていない。

2001年3月「O型渡邊の自爆退職」より



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