20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:「誰も書かなかった中国人農業研修生の話」中国人農業研修生の話 作者:しんたろ

第6回   誰も書かなかった中国人農業研修生の話 第6話

研修生が帰国の日が近づいたある日の事である。
白永が、着物を着た写真を数枚持って教室にやってきた、時々遊びに行く、お寺の坊守さんが白永に着物を着せてくれたそうだ、綺麗な日本女性の様に写真は写っていた、時にはお茶の作法を教えてくれたという。
この街の人々は、日本中の日本人はそんなに中国人を、差別などはしない、むしろ、彼らを温かく迎え入れようと思う者が多数だと思う、いや思いたい。どう接していいのかがわからない、そのことだけが気がかりではある。

海沿いの村に住むに友人宅には、よく中国人研修生が泊まりに来る。
村の研修生は、多数が実習生として街の水産加工場で働く、小さな町で迎え入れる研修生はせいぜい10名程度、期間も長く3年間日本の地で働く、若い中国人女性が多く、村の人々とも交流を持ち、心ある人々の善意に支えられながら、海沿いの村で研修期間を過ごす、訪れた日は、明日が運動会、ムカデ競走に中国人チームとして参加すると張り切っていた。
どの町でも、研修生を温かく迎えようと努力はなされている、雇用者も温かく迎えようと思っているに違いない。中には日本人と結婚し、この北海道で生活する中国人研修生もいると聞く。
研修生が休みの日には、彼らを海まで連れての観光などなど。研修生の中には初めて海を見る者も多い、研修生の喜ぶ顔は、使う側に嬉しさをもたらすであろう。
しかし、この話では終われない現実が、作者の目の前で起ろうとは。
*研修生は1年間、実習生は3年間日本で働く。
実習生は、労働基準法などのもとで働くが研修生はこれとは異なり、低賃金で期間も1年以内で帰国する。

作品名「誰も書かなかった中国人農業研修生の話」中国人農業研修生の話
中国人農業研修生の話O研修生の帰国の話

10月になると北のこの地は収穫を終え、研修生たちも帰国する日となる。
研修生によっては、期間中取れなかった休日を、まとめてこの時期に与えられる。
パソコンの入力も少し出来るようになった彼らが、私に手紙を持参した、もちろんプリンターなどは持たない、ピンインで入力しパソコンで日本語に翻訳して、紙に漢字とひらがなを書き写してきた、帰国の前夜、張の手紙にも白永の手紙にも、「お父さん」で始まるお礼の言葉と、牡丹江へ遊びに来るようにとの内容であった。
二人の手紙が、この創作広場でのこの話を書き記す思いとなった事は言うまでもない、そして私の黒竜江省への旅心をかきたてる。

白永の姉が働く農村へ帰国の前には再び連れて行った、旭山動物園などへも車で連れだした。
私自身が、子と家族と過ごす時間が楽しいと思う事と、それはかわりなかった。
私の体験の中で、中国人は、家族のつながり、親戚とのきずなを大事にする国柄であり、昔の日本を見ている様に思う。

研修生たちは、目上の日本人たちを、「お父さん」「お母さん」と呼ぶ。
彼らに「お父さん」「お母さん」と呼ばれたこの街の人々は、彼らに愛情を持って家族として接したであろう。
私は中国語のニイハオ(こんにちは)とは、日本語の意味でニイは「あなた」ハオは「すき」と訳している。
日本人を「お父さんと呼び」挨拶が「あなた好き」
と話す国から来る研修生に「父と呼ばれるにふさわしく愛情を持って接する日本人であるべきと思っている」。

作品名「誰も書かなかった中国人農業研修生の話」中国人農業研修生の話
中国人農業研修生の話P研修生との別れの話

夜8時過ぎには彼らは帰宅する。
明朝は送らないことに決め、この場を別れとした。
自転車に乗った張も白永もまた仲間も、幾度も振り返って名残惜しんだ。
白永が一人戻ってきた、渡し忘れたといって、ミサンガを私に置いた、映画なら抱き合うシーン、「お父さん」と呼ばれるとその気が薄れる、しまった、お兄さんと呼ばせたら、抱きしめてキスくらいできたかもしれない。ドジを深く反省し、この事を教訓に美人の中国人には「お兄さんと呼ばせよう」と誓ったオヤジであった。

白永に、姉がコンピュータをほしがっていたと聞き、白永が日本を去った数日後に姉の宿舎のある村へ出かける。幸いなことに、姉が帰国するのは一週間後であった。
パソコンを四台、車に積んで村まで走った。
ちょうど白永の姉が宿舎にいた、パソコンなど売れるとは思ってはいない、彼らは給料ををすべて管理されている、逃亡の防止の意味もあって、当たり前のように給料は会社管理である。
規則にどうあろうとも、研修生を逃亡させない手立ては万全である。
姉の働いているのは出荷組合、農家の野菜を共同で選別し、市場へと出荷する。
いわゆる野菜の工場である。農家の労働と違い工場勤務の研修生としてこの工場で働く、研修では単純作業は禁止されている、大根かぼちゃなどの野菜を袋に詰める作業、単純作業以外の何者でもない。
こんな作業のどこが研修なのかと疑う、野菜の種類が季節により変わるから、単純でないといえば単純ではない、笑って気持ちを収めるしかない。
宿舎でパソコンを並べ中国人研修生パソコン教室が始まる。遠巻きに全員がパソコンの画面に見入っていた。今回はお土産に抜かりはなかった。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 7628