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作品名:たとえ死刑だとしても 作者:東森 九厘

第2回   高校時代
高校に入学し、まず空手を辞めた。辞めた理由はただなんとなく。高校でも友達など自分には出来ないのだろうと思っていたが、意外とすぐ出来た。背も高く、顔立ちも比較的いいせいか女子からも注目されていた。初めての彼女も出来た。三ヶ月で別れたが。高校生になり今までのツンとしていた少年、西田 祐介は消えていた。
アルバイトは父親が1人で営んでいる小さい居酒屋の手伝いをしていた。父親は小料理屋だと言っていたが、カウンター席が8席あるだけのボロい大衆居酒屋だった。時給は700円と少なかったが、祐介はこの父親の店が大好きだった。小学生の頃は友達も兄弟も母親もいない祐介にとって唯一の居場所がこの店だった。気のいい酔っぱらいの常連さんたちが唯一の遊び相手だった。
「よーっ!祐介!本当でっかくなったなー!昔はこーんなに小さくてよぅ。一杯やるか?」と既に酔っぱらって来店する常連さん。
「それ毎日言ってるよ。吉井さん」
と笑いながらビールをグラスに注ぐ祐介。
美味そうにビールを飲む酔っぱらい。この瞬間が堪らなかった。
高校二年生にあがりクラス替えがあった。
その中で一年生の時からいじめられている、
優等生がいた。川本 秀人。勉強はピカイチだが、運動はからっきし。人と話をしたりコミ
ュニケーションがあまりできない少年だった。祐介が一年生の時は川本と違うクラスだっ
たため詳しくは知らないが、相当いじめを受
けてきたらしかった。
ある日、朝、教室に入ると川本が1人で泣いていた。川本は毎朝、ホームルーム前1番に登校しいつも小難しい本を読んでいた。なんだかは忘れたが法律の本だった気がする。その日は、本は読んでいなかった。ただ、机にうつ伏せになって泣いていた。周りのクラスメイトは笑いながらそれを見ていた。
「おい、どうしたんだよ川本?」
祐介が川本の机の方に駆け寄りながら聞いた。答えは返って来なかったが、泣いている理由はすぐに理解できた。机にガリ勉、オタク、キモい、シネなどカッターで刻まれていた。それを見た瞬間祐介は川本の机を持ち上げた。川本はそれで殴られるのだと思い、身をすくめた。
「おい!川本!ついて来い!」
と祐介は叫んだ。川本は完全に祐介を怖がっていたが、半強制的に川本を教室から連れ出した。向かった先は技術室だった。
「こんなバカをやって笑っているクラスメイトのために泣くな!もったいない。俺が直してやる。お前は俺の10倍は勉強机使うもんな」
と笑いながら祐介は川本の机にヤスリをかけ続けた。
「これでニスを塗れば元どおりだ」
と祐介は優しく言った。川本はさらに泣き始めた。
「西田君。本当にあ、ありがとおー」
そう言いながら泣きじゃくっている川本を見ながら、以前の自分を思い出し、祐介もまた泣いた。


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