暗い、暗い、何もない空間に彼はいた。
また夢を見ているのか。
彼は冷静に頭の中で分析した。
ここ最近、同じような夢をよく見る。
真っ暗な世界にたった一人だけ、ぽつんと存在する自分。
そしてそんな自分を見下ろしているもう一人の自分。
どっちも自分で、同時に別々の事を考えているくせに、頭はまったく混乱しない。
暗がりの中で必死に闇から解放されようと考えを巡らせている自分を見下ろしながら、彼はいよいよだと大きく深呼吸をする。
『我を求めよ』
2人の自分の脳裏に、確かにそう響いた。
きた!
冷静な方の彼は声に集中するように目を閉じた。
もう1人の彼は声の主を探そうとキョロキョロと辺りを伺いだす。
『我を求めよ…我、汝の力なり』
視界が揺らぎ始める。
現実の自分が夢から覚めようとしているのだ。
まだ待ってくれ!これの正体だけでも見せてくれ!!
叫んでいるのかいないのか。そもそもどちらの声なのか。
揺らいだ視界に同調するように、意識や感覚までもがぐにゃぐにゃと混ざりだす。
ふと、目の前に2つの光を見た。
目だ!
彼はすぐにそう確信した。
待って!いるんだ!すぐ目の前にいるんだ!!
白い煙のように霞んで見えにくい目の前の「それ」は、鋭い眼光をじっと彼に向けている。
『我を求めよ』
「待てって!!」
勢いよく彼は飛び起きた。
ハァハァと息を整えながら、辺りをキョロキョロと見渡してみる。
見慣れた自分の部屋。
枕元に置かれた目覚まし時計に手を伸ばして見てみると、設定してあった時間より10分も早く起きていた。
(あれ。なんか夢見てたような…)
「ま、いっか。」
目覚まし時計のスイッチをオフにしてから枕元に置きなおして、彼はベットから降りた。
今日もまた、いつも通りの毎日をおくるために。
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