さて、その日の夕方、蓮(以降これからはレンを漢字で表示します)と瀬那は冗談を言い合いながら早乙女家に帰宅した。ちなみに播磨美花と北条はそれぞれ自宅へ帰宅した。 蓮と瀬那が神社の階段を上りきると境内のところに辰次郎が手ぐすねをひいて待っていた。 「蓮、瀬那ちゃんも・・・ちょっと話がある。茶の間に来い・・・」 辰次郎は神妙な面持ちで蓮に呼びかけた。 「なんだよ、ジジイ・・・」 「どうしたの?おじいちゃん」 「・・・蔵の書物のことでじゃ・・・・」 蓮は普段はそういう表情をしない辰次郎を見て、不安になりつつも瀬那といっしょに家に入った。 「あら、蓮、おかえり」 瑞樹が台所から顔を出した。 「ただいま、姉さん」 「おじゃまします。」 「あら、いらっしゃい。瀬那ちゃん」 茶の間では、ラムやミィミ、美沙が蔵から出してきた書物の山をテーブルの上に並べていた。 「なんだよ、話って・・・?」 蓮はおもむろに尋ねた。 ラムが返答する 「蓮、瀬那、まず座って・・・」 蓮と瀬那は素直に腰をおろす。 瑞樹もおぼんに人数分の麦茶の入ったコップを乗せて運んでくるとそれをテーブルの上に置き、自分も蓮のそばに座った。 「よく、聞いてちょうだい、書物を調べていろいろとわかったんだけど・・・この事実はおそらく、早乙女家の家系にとって驚嘆すべきものとなるかもしれないわ」 そういうとラムはギリシャ語で書かれた書物を開いた。 「驚嘆すべきもの?」 瀬那は興味津々であった 「なんだよ、もったいぶってないで教えてくれよ。」 蓮は急かした。 「じゃあ、単刀直入に言うわ。蓮、早乙女家が代々守り継いできた竜神伝説のことだけど、この伝説に出てくるヤマタノオロチは世界中に伝わっている竜、すなわち「ドラゴン」の神話と関連性があるのよ。」 ラムは話を続ける 「ヤマタノオロチと山上の命(やまがみのみこと)の戦いは、実は北欧神話の聖典にある「神と人間の戦争」を現わしたものなのよ。」 「北欧神話・・・? 神と人間の戦争・・・」 「はっ?具体的に・・・どうなんだ?」
「その話はこうよ・・・その昔、天上界に住む神々は地上が人間たちの悪によって汚されてゆくのを黙って見過ごせなくなってきた。地上では人間の王が覇権を得るため血なまぐさい戦争に明け暮れ、高圧的な支配で弱い人々を苦しめたり、人々は腐敗した道徳で略奪や殺人、快楽の追求を繰り返し、『人としての正しき正義、尊厳』をかなぐり捨て悪の限りを尽くし、地上を腐敗させた・・・。 それを見かねた神々はこう言った。 『もう、この地上から人間を除き去ってしまおう・・・』 そう考えた神々は裁きを執行するものとして地上に8つの竜を解き放った・・・。 バハムート ティアマット ダナジン リヴァイアサン ジークフリート シェンロン アルトロン 白龍 地上の人間は7日で滅ぶはずだった・・・。 しかし、8つの竜神のうち人間に慈悲を覚え味方する者もいた それは地上にまだ存在する心正しき人間が見いだされたからである。 人間に味方した竜は、ジークフリート、ティアマット、シェンロン、白龍だった。 しかし、他の竜は人間を快く思わず神々の命令どおりすべてを処刑するつもりであった。 案の定、竜神の間で人類のことで口論となり、仲間割れが生じた。 神の命令に背いた竜神ジークフリート、ティアマット、シェンロン、白龍は天界を追放されてしまった。彼らは地上の心正しき人間に協力し自分たちが持つ強大な力を与えた。 力を受けた心正しき人間は神に抗い人類を滅ぼそうとする竜神の部隊に立ち向かった。 神と人間の戦争は泥沼化し、このままでは両者とも滅んでしまうことを恐れた最高神ゼウスは人間の要求を受け入れ、地上をその心正しき人々が治め存続させることを許した。 心正しき人間は地上で悪を行っている者のみを適正に処分し多くの人間を改心させ、悔い改めさせた。そのようにして地上は平和になり人々は栄え続けた。」
「へえ、そうなのか・・・」 「まだ、つづきはあるわ・・・。しかしながら地上が平和になり、神と人間が良好な関係を築くことを快く思わない竜神がいた。それは、ジークフリートたちと共に人類を擁護する立場にまわった「ティアマット」であった。じつは彼は人間国家を自分の支配下に置き、逆に天上界の神々を制圧しようと密かに企てていた。 そのたくらみを知ったジークフリートと白龍はティアマットと戦い、彼を「深い闇の監獄」へ投げ入れた。ティアマットは復讐を誓い、遠い将来、自分に組みする人間を用い人類を征服することを宣言した。自分を滅びの神『ウロボロス』と名を変えて」 それを聞き蓮は目を丸くした。 「それってまさか・・・!」 ラムはうなずく 「そう、それがあのウロボロスという組織・・・。この神話に基づいて、自分たちに従わない人間たちを除き去り、地上すべてを掌握しようとしているのよ!」
「ううむ・・、そういうことだったのか・・・。」 辰次郎はいぶかしげに考え込んでいる。 「でも、どうしてこの神話が早乙女家に正確に伝わらなかったの?」 瀬那が尋ねる それに対しラムは答えた。 「おそらく、この聖典の事実は公にされることを望まなかった書記官や筆者が暗号のようにして後代へ伝えようとしたのか、それとも悪意の下、真実を脚色したのかどうかね・・・」 「ああ、よくあるよな、歴史ってさ、不都合や失敗を隠すため脚色したり自分たちの歴史が繁栄したことしか残さなかったりさ・・・。」 「蓮、そういうことなのよ。人間は本当にあった不都合な事象を隠す傾向があるから、昔の歴史の書記官も失敗談はさておき、繁栄の歴史しか書き留めなかった。いえ、書き留めることを王たちに許されなかったのよ。」 「じゃあ、早乙女家の『竜神伝説』も悪意の下、脚色されちゃったとか・・・?」 「いいえ、あたしはそうは思わないわ。・・・おそらく真実の聖典を神話や言い伝えに置き換えて、来るべき時にそれが紐解かれ真実が明らかになる必要があったんじゃないかしら・・・。『竜神伝説』に関する日本語の書物にはこうあるわ・・・。 『古(いにしえ)の語りぐさを紐解き真実を見定める者。いにしえの伝承をけっしてうのみせずその内奥の真実を悟るべし・・・。地に邪悪はびこりし日、神々は人を切り絶つが為、8つの竜を地に放つ。されど内4つは人を愛せし者となりて清らかなる人に抗う力を付与する。天暉(あまてらす)の外界より伝わりし竜の神、人に力賜りし、成りて神と人の間に和平を招き人々を繁栄させし。・・・だが、竜神の中に身を翻せしもの現れそれは神と人間に仇なし己が欲望を遂げるべく来るべき時に備え力を蓄えしもの・・・その竜神は滅びの神、破滅の神。人の住む地に苦痛と嘆きを与えん』」 ミィミが口を開く 「つまり、蓮お兄ちゃんの家系に伝わる『竜神伝説』は8つの天の竜神を『ヤマタノオロチ』、山上の命は『地上にまだいた心正しき人間』を現わしていたのかな?」 「そうなるのかもね。」 ラムはミィミの頭をなでた。 瑞樹が推論してみる。 「すると、山上の命(地上にいた心正しき人)は4つの竜神より力をうけて、神に立ち向かうことになり、『ヤマタノオロチ』を倒すこと、実際は泥沼化した戦争に神が打開策を打つことによって人類は滅ぼされないで今日(こんにち)に至るまで繁栄してきたってことなのかしら・・・」 「おおむね、そういう解釈で正解だと思うわ」 ラムは大きくうなずいた。 「じゃあ、山上の命さま「おひとり」で、神様に戦いを挑んだのですか?」 美沙がラムに尋ねた。 それに対しラムは丁寧に美沙に説明した 「神話の表現ではたまに、ひとりの人物が複数を表す「レギオン(軍団)」として表現されることがあるの。何人いたかは分からないけれども『山上の命』も地上にいた心正しき人「たち」だったのかも知れないわね・・・」 「ふ〜ん・・・」 美沙はなんとなく理解した。 辰次郎も預言の意味を悟ったのか推察してみる 「人間に味方をした4つの竜のうち、裏切りを働いた竜神ティアマット、すなわちそれがウロボロス。奴の野望を阻止することが我々の成すべきことということじゃな・・・むむむ、じゃから蔵には古い書物が大事に保管されておったのか・・・危うく捨ててしまうところじゃった・・・」
蓮はあくびをしながら背筋を伸ばし、寝っ転がった。 「あ〜あ!だったら最初っからそういう風に早乙女家に伝わってりゃあいいのに!!めんどくせ〜!」 その蓮のあっけらかんとした態度をみてラムはクスッと笑った 「そうよね。でも、真実を隠さなければならない事情があったんでしょ?そのことについてはこれから全力で調べていくつもりよ」 「・・・だな。俺は頭悪いから頼むわ。」 「そうだね、蓮クン頭悪そうだしね〜」 「うるせ〜・・・。ルイードのことも知りたいし・・・って、ルイードのことなんか解ったか?」 蓮ははっと思いだし、起き上がりラムに尋ねる 「ごめんなさい。ルイードについてはまだ、詳細は解らないの・・・。蔵から出てきた北欧神話の書物で「ジークフリート」に関するものが見つかったのよ・・・。ただ、書物の破損がひどくてほとんど読めない状態なの・・・。」 「そうなのか・・・」 蓮はちょっと残念に思い肩をおとした。 「あっ、でもまだ調査はできるわ。北欧神話を扱った歴史書や文献は公立図書館や歴史を専攻する大学で手に入るはずだから、手当たり次第あたってみるわ。」 瑞樹も口を開いた 「私が高校の時、北欧神話に詳しい先生がいたわ。私もその先生に連絡を取ってみます」 「ありがとう、瑞樹ちゃん。お願いするわ」 ラムは瑞樹に礼を言った。 蓮は頭をかきながら申し訳なさそうに答える 「・・・なんだかわりぃな。俺の見た夢がもとでばたばたさせちまってさ・・・」 それに対し辰次郎は首を横に振った。 「なにをいっとるんじゃ、これは早乙女家がウロボロスに立ち向かうための必要なものになるじゃろうて。蓮の見た夢にはきっと深い意味があるはずじゃ。気に病むことはない!」 「あたしもこれくらいのことしかできないから・・・。まだまだ解らないこともあるわ。でも、研究意欲が湧いてきたわ!!この件はぜひあたしに任せてちょうだい!」 「これでなんとなくだけど、わかったぜ・・・。俺たちのやってることは全世界に影響するんだってことがさ・・・。なんかすごいことになってきたな・・・。」 「そうね、ぐずぐずはしていられないわ。こうしている間もウロボロスは計画を進めているはずよ。」 「ああ、そうだな。とにかく早く五人目の『竜の印に導かれし者』を探さなきゃな!」 ラムが説明を終える頃には日が沈み、月明かりが地上を照らしていた。
第17話 END
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