薬指に光るダイヤを見つめながら、女はため息をついた。 人生で一番楽しい時期などと、誰が言ったのだろう。 自分を想う男がいて、生涯を共にしようと誓いの品を渡される。 少女時代にあれほど夢に見たことが、今現実になろうとしている。 それなのに、どうして自分は今、こんなに惨めな気持ちでいるんだろう。 うきうきと結婚情報誌をめくったり、指輪を見せて歩きたい気持ちにはどうしてもなれない。深夜二時、明日も仕事だというのに、こんな時間までベッドの中で悶々としているものそれをあらわしていた。 「単なる、マリッジブルーよ。これから生活ががらりと変わるから、不安に感じるだけよ。大丈夫、それも勉強。二人で暮らし始めて、子どもでもできたら、忙しすぎてそんなこと考える暇もないから」 母親の言葉を思い出す。マリッジブルー?そんな言葉で片付けてもいい感情なのだろうか。周りに祝福される自分を、もう一人の自分が、遠くから冷ややかに眺めているような居心地の悪さ。生涯を共にする・・・そんなフレーズに、ぞっとしさえする。これが誰しもが通る道だというのか。 薄明るいベッドスタンドの光に照らされ、石はきらきらと輝いている。女の細身の指には、十分すぎる輝き・・・給料の三か月分とは言わずとも、あの男にとっては安からぬ買い物だろう。ただ今は、うれしいと言うより、後ろめたい、罪悪感のようなものが、女の心を重く満たしている。 お父さんは、なんて言うかしら? 女は考える。プロポーズされたことを両親に伝えた時、母は相手のことや、式はいつにするのかなど詳しく聞きたがったが、そういえば父の口から、結婚についてはっきりとした 感想を聞いたことはまだなかった。 そうだ、お父さんに話してみよう。 女親とはまた違う意見が聞けるかもしれない。そう考えると女はようやくまどろみかけ、眠りに入ることができた。
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