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作品名:地下鉄 作者:なゆた

最終回   1
ごとり、ごとりと揺れる地下鉄の中。
人の数は少ない土曜の午後の昼。
先程少し歩いた外は晴れてはいたが、この中にいれば当然の如くそんな事は何の意味も持たない。
機械的な車内アナウンスが乾いた音で響きわたり、私の頭痛は更に酷くなる。
今日は無駄に仕事だった。
少しだけ体調の悪さを感じてはいたが、それはただの寝不足の所為で。
家から一時間以上かかる道のりを越え、朝早くから職場に赴いた。
勿論、やる気などは全く出なかった。
早く…早く帰りたい、その一心で。
気付けば、声が出なくなっていた。
まるで風邪で喉をやられてしまったようなかすれ声しか出ない。
周りに心配され、今こうして私はまんまと早く帰ることに成功した。
正直、風邪なんか引いてはいない。
自分の身体の事は自分自身が一番よく解っている。
これは私の癖の一つで、気力がないと声が出せなくなるのだ。
そうすれば、煩わしい会話をする必要もなく。
誰とも関わらなくて済むようになるから。

ごとり、ごとり。
私はいつも、殆んど端から端まで、30分以上もこの地下鉄の中で過ごしている。
往復で一時間と少し。
大概は目を閉じ、ただぼんやりととりとめの無い思想を浮かべ、時にはすっかり眠ってしまう事もあるが…
そうして目的の駅に着くまでの時間を持て余している。
今の私にその時間を有効に利用する方法など浮かべる事なんて出来なかった。

少しずつ人数が多くなる。
お婆さん達が乗り込んできたが、私は席を立つこともなく、ただ黙って目を閉じたまま。
前に座っていた少年が親切に席を明け渡した。
そんな偽善に何の意味があるのか。
薄目でちらりとそちらを見遣って、私はまた固く目を閉じた。


ごとり、ごとり。
電車に併せて、頚が揺れる。
レールと車輪の相性が悪いのか、今日はいつにも増してよく揺れる。
揺れる度、偏頭痛が酷くなる。
吐きそうになる。
身体は元気なのに、首から上が疲れの色を隠せない。
まるで体の上に異物を乗せられているかのような感覚。
噛み合わない。

ごとり。
揺れたはずみで横の壁に頭があたった。
ごとり、ごとり。
ぶつかった事への痛みは無い。
変わらず内側からの偏頭痛。

きっとこの頭は私の頭じゃない。

ごとり、ごとり、
がたん。
ごとり。

一際激しく列車が揺れ、それに併せて私の頭も激しく揺れる。

頼り無げにがくがくと、場所を間違えた頭は不規則なリズムで揺れ続ける。

ごとり、と…

この痛みしか感じない偽物の頚から上は、外れて落ちてしまえ…

そんな憧れを空想し、少しばかり笑んでみる。

私は家に帰ったらまず眠ろう、と布団に思いを馳せ、

流されるままごとりごとりと揺れ続ける。


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