20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:きょうだい 作者:なゆた

最終回   1
比べられるのには慣れていた。
寧ろ比べられない事の方がおかしかった。
負けたくない、その気持ちだけで自分は優れた人間になるべく努力をした。
だからこそ自分は今この位置にいる。


血を分け合った、自分に良く似た人間に、負けないように。
それだけの思いだった。
そんな努力の甲斐あって、自分は常に自分と年も背格好も寸分違わぬ人間に、
自分の方が優れている所を見せ付けてきた。


誇りだった。
勝っている事の快感。
しかし自分は少しも驕る態度は見せず、「素晴らしい人間」を演じていた。
そんな自分に、酔い痴れていた。
学生時代も、就職してからも。
ずっと、自分の方が上だった。



…それなのに。



恋人ができた。
自分ではなく、自分に似たあの人間に。
自分よりも劣った人間に。


結婚すると言い出した。
自分より先に。
何故自分ではなく、自分より劣ったあいつに?
何故あいつが、自分よりも先に、自分よりも幸せになるんだ?
…そんな事が許される訳が無い。
そうさ。
自分はあいつよりも優れているんだ。
自分の方が上なんだ。
自分の方が幸せになる権利がある、そうだろう?
それは当然の事だ。


…許してはいけない。


自分の方が優秀な事、今までの人生の中で
あいつは身に染みて解っているはずだろう?


…その幸せに溢れた笑顔は、自分がするべき笑顔だ。


そうだろう?




…非難の声が聞こえる…




―もういい年齢なのに、まだ一人身?―


―いくら優秀でも、人付き合いが悪くちゃねえ―




…自分が、あいつよりも下だって?
そんな筈は無い。
そんな訳が無い。
自分は何もかもあいつより優れているんだ…!



解らせてあげるよ、…今すぐにだ。


どうすれば良いかなんて悩む必要は無い。
優れた自分には何より優れた方法がすぐに見つけられる。


結論は簡単。


あいつの何もかもを終わらせれば良い、それだけだ。



実行するのも簡単だった。
自分の計画が完璧だった所以だろう。
自分はこの手で、自分が優れていると言う事を、
あいつ自身に身を持って見せ付ける事ができた…


さあ、比べてみろ。
自分とこいつを比べてみろ。
非難の声はもうしない。


当然だ。

どう考えたって、まだ生きている自分の方が優れているに決まっているだろう?



…充実感と爽快感…


血の匂いに包まれたこの夜を、自分は一生忘れる事は無いだろう。

自分の何より素晴らしき日として。



人生の勝者は、自分だ。










                ―犯行が行われた当日と思われる本人の手記より


■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 284