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作品名:蝉の死骸 作者:なゆた

最終回   1
季節の終わり。

からっぽのその身体は短い時間の使命を終え、ばらばらと分解されて土に還る。

一枚の羽が風に煽られ肩をかすめた。

何よりもその身体の要だったはずのそれも、今は誰も求めはしない。
まわりの誰も、それ自身も。

感じられる僅かな時間の中で、からっぽの蟲は何を感じ、何を伝え、
何を求めていたのだろう。

煩い程鳴り響いていた存在を主張する音も、
耳の奥から消え去り過去のものとなる。

儚さの、象徴。


自分のように無駄を感じ生き続けるよりも、君のように。
許された季節だけを精のいっぱい過ごした方が、
幸せを感じる事が、出来るのかも知れないね。

今は誰も求めなくても。
君自身が動いていた時に、何よりも君自身がその全てを強く求めていた事、
僕は知っているから。


君の声で始まりを知り、君の骸で終わりを感じる。


…声が途切れ、またひとつその使命を終えた身体が地に落ちた。

アスファルトでは、痛いだろう…

その小さな身体をそっと拾いあげ、掌で包む。

廻りを見渡し、少ない土の場へゆっくりと降ろす。


…お帰り。

土の優しい言葉を君は聞いて。
土の優しさに包まれ、眠る。


君のように、なりたい…

小さな存在に憧れを抱きながら、
新しい季節の始まりを感じた。


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