結局のところ、答えなんかないのかな・・・。 そう結論付けて、再び授業に耳を傾けようと窓から顔を背ける荒矢一月。今は水曜日の三時間目。水曜なんていう微妙な日の微妙な時間帯に集中できるわけがない。しかも科目は物理だ。意味不明。 やはり授業などどうでもいいので、すぐ前の壁にかかっているカレンダーに目をやる。10月か。微妙な月だ。最近何もかも微妙じゃないか。学校も、家も、人生も。だいたい微妙って何を基準にしてそう言うんだよ。所詮人間が勝手に定義してって・・・ああああああああああああ。 ぐるぐると廻る荒矢の思考を止めるかのようにチャイムが鳴った。次は体育か。飯の前に体を動かすなんて・・・微妙なタイミングだ!
またしてもなんとなく一日が終わってしまった。時間は午後の三時半。クラスの連中はほとんどが部活動にいそしむ。 「荒矢、また明日なー」と隣の席の西尾が言う。 「うん。また明日」荒矢がそう言い終える頃には西尾はギターケースを抱えて教室を出ようとしていた。 「荒矢、じゃあねー」そう後ろから呼びかけるのは、幸、じゃなくて相川だ。まだ下の名前から出てきてしまうのは未だに彼女のことを諦めきれていないからなのだろうか。相川は元カノだ。良いヤツだったし、好きだった。だが今は嫌いになろうと必死に努力している。 「・・・」嫌いになるためにはまず無視から、ってか。荒矢は何も返事しなかった。さあ、帰ろう。 学校にはバスで通っている。スクールバスではないが、ローカルバスがすぐ近くを通っているからだ。彼の学校の生徒のほとんどが部活動に所属している。だからこの時間帯のバスはガラガラだ。前の方から後ろを見渡すと、乗ってるのはじいさんとばあさんを合わせて5人と、荒矢と、彼の学校で英語を教えている増田という教師と、げっ、あの「被害妄想野郎」の高岡も乗ってるじゃないか・・・。あいつもこの辺に住んでるのか。なんか嫌だな。それにあの増田って教師。どうして学校の職員がこんな早い時間に帰っているんだろう。何か用事でもあるのだろうか。 20分ほどして、荒矢の自宅付近の廃工場の前のバス停に到着し、バスを下車した。するとなんと、増田と高岡まで下りてくるじゃないか!なんだか気味が悪いので急ぎ足で家に帰った。玄関を開けて入っても誰もいない。父はいつも仕事で遅いし、母は実家に帰り祖母の看病中。カバンを置いて、いつもの日課である「松田参り」のため、簡単な服装に着替えた。「松田参り」とは、最近自宅にこもって心を閉ざしている幼馴染の松田に声をかけてやるべく毎日の彼の家の前まで行っているのだ。名前からしてふざけているように思えるが、実際はかなり心配なところである。
今日も松田は姿を現さなかった。まあいつかはまた元気になってくれることを祈るしかない。帰り途は成り行きであの廃工場の前を通る。ちょうど荒矢が通りかかったその時、パン!という鋭く、乾いた銃声らしきものが聞こえた。といっても本物の銃声など聞いたこともないので、そうとは言い切れないが、驚きと恐怖以前に好奇心が勝ってしまった。気づくと彼は工場の中に入り込んでいた。
高岡は、増田の頭に45口径の弾丸を撃ち込んだ。一発でだ。ゲームだったらクリティカル・ヒットってやつか。増田の頭からは人間の色とは思えないほどの黒い血が流れ出ている。もう夕方を過ぎて辺りが暗い、ということもあるだろうが、それでも黒い。やはりこいつは「アタリ」だったようだ。逆に「ハズレ」だったら自分はただの人殺しになってしまうわけだが。 そんなくだらないことを考えてにやけていると、背後に気配を感じた。感じたというよりも、明らかに後ろに誰かがいるということが解った。振り向くと同時にコルトM1911を構える。まったく、どこのどいつだ。こんなヤバイところをわざわざ見に来る馬鹿野郎は。 銃口の先にはクラスメイトの荒矢一月がいた。その目は、というより彼の体は、まるで恐怖という塊になっていた。 「なるほどな。」高岡はそう呟いて、引き金に指をかけた。
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