それは、加害者が腕を広げて待っているところに、飛び込んでいくようなものだ。
20戸ほどの小さな5階建てのマンション。 その4階の部屋を借りている。
歩いて2分ほどのコンビニに行こうと思ったのだ。 特に何か足りない、買うものがあるというわけではなかったが、テレビを眺めているのもくたびれた。 だから財布と鍵だけを持って、サンダルをつっかけて、部屋を出た。
部屋はエレベーターホールの真ん前に位置する。 玄関の外に出てエレベーターの「↓」を押すと、今帰ってきた誰かが上がってきている途中なのか、「2↑」という表示になっていた。
エレベーターが4階に到着するまでの間、自身の部屋の鍵をかける。
エレベーターに向き直ると、乗っていたのは5階の住人だったのか、エレベーターの表示は「5↓」となっている。
鍵をスウェットのポケットにつっこみながら、エレベーターが下りてくるのを待つ。
エレベーターの両開き式のドアはガラスの窓が嵌めてあって、誰かが乗っていればわかるようになっている。
白熱灯の照らすエレベーター内に、赤い色がさすのを、挙げた目の視界が捉えた。
静かに開いたエレベーターの中に、白塗りの顔のなかで笑う赤い唇を認めたときには、 そのピエロが私の半乾きの髪の毛を鷲掴みにしていた。
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