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作品名:あなたのとなりに 作者:三郎

第2回   2
 ある晴れた日の午後。
 狭いけれど、角部屋で日光に恵まれたアパートの借家。一週間溜めこんでいた、細々とした洗濯物―――靴下や、ハンカチや、下着―――を一つずつ広げ、一人暮らし用の小さい洗濯物干しに下げていたときだ。

 空気が澄んでいた。昼下がりの太陽の光が赤みを帯びている、そんな秋の始まりのとある週末だった。
 
 ふと。
 そう、それは何かはっきりとしたきっかけがあったわけではなく。本当に何の気なしに、廊下の先に見える玄関を振り向いたのだ。

 何の変哲もない玄関のドア。
 外のまぶしい光を逆光にして薄暗い玄関の、ただそこにある、鉄のドア。
 そこに、薄気味悪い違和感を覚えた。

 受け口のない、さらけだしの郵便差し出し口。ばねのついているはずのその蓋が、ぽっかりと口を開け、外の光を漏らしている。

 目と。
 差し出し口から覗く二つの目と、
 私の目が、
 はっきりと、
 交わった。

 


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