「おはようございます。ファルター様」 ベッドから上体を起こしたファルターに涼やかな声で 「お目覚めはいかがですか?」 「おはよう、マール」 マールはサイドテーブルにカップを置くと、銀のポットを傾けてコーヒーを注いだ。 「侯爵閣下御愛用のコーヒー豆を分けていただきました」 「すごいな、マールはコーヒーを淹れられるんだ」 「伯爵家の使用人ですから。もと、ですけれど」 ふわっと笑うマールの表情は朝の光を浴びて柔らかく見えた。 「美味しい」 香りの高いコーヒーは苦みと酸味にほのかな甘みが加わった味だった。
「ファルター」 コーヒーの香りを楽しんでいる所へリンが入ってきた。 薄紅色のゆったりとした室内着を着ている。 部屋の隅へ下がろうとしたマールを手で制して、リン自らはファルターの隣へ腰掛けた。 「ファルターは拳銃持ってる?」 「いや、昨日のサーベルだってこの部屋にあったのを借用したくらいだよ」 「よかった」 リンは後ろ手に隠すように持っていたホルスターをファルターに渡した。 「これあげる」 手に乗せられたホルスターを開くと、中にはスライドやグリップ部分に金銀宝石で細工された拳銃が納められていた。 「あげるって、これは・・・」 「心配しないで、盗品とか遺品とかじゃないから」 「そうじゃなくて、君の大切な護身用の銃じゃないのか?」 「私のはここにあるよ」 リンはファルターの手を取って、スカートの上から右脚の外側に触らせた、 マールはそれを見て顔を赤くしている。 「その拳銃はけっこう繊細だから、よくお手入れしてね。弾丸は普通の9mm弾で大丈夫だけど」 「しかし、これをもらっても君に返せる物がないよ」 「そんなつもりで渡したんじゃないわ」 リンはぷいっと部屋を出た。 「怒らせた、のか?」 マールは肩を竦めて見せた。
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