貴賓室にリンを訪ねると、何故か扉は開け放たれ、中から楽しそうな話し声が響いて来た。 「いいかな?」 開かれた扉をノックすると、ソファに背を向けて座っていた2人が飛び上がるように起立した。リンはそれをおかしげに眺めている。 「ファルター、この子達、ちょうだい」 「へ?」 まるで物をねだるかのようなリンの物言いに、ファルターだけでなく立ち上がった2人も驚いて一斉にリンを見た。 「だって、髪の色同じだし、見た目も私とそう変わらないじゃない?」 そう言われてよく見ると、どちらも髪を短くしているが確かに黒髪で、生別は男女と言うことは分かるが年齢は見た感じリンとそう変わらないように見える。 「護衛が欲しいって事?」 「違ーう。戦いが終わったら、この子達お持ち帰りして」 「物じゃないんだって、リン」 「分かってる。だから契約してファルター」 「契約?」 「王国軍から公爵軍に移籍」 「できるの?」 「ファルターが任せると言ってくれれば、なんとでもするわ」 「じゃあ、任せる」 リンは満面の笑顔で立ち上がった。 「ねえ、あなたたち、まずはファルター、いえ公爵に自己紹介なさって」 「はい、王国軍直轄狙撃兵・・・」 「あーそれはいいから」 自分の直属の部下である。一応 男の方は「シュンスケ」女の方は「ノリコ」と名乗った。 「でね、ファルター、この子達移民の子らしいの」 「ああ、5年前から王都周辺で農地開拓移民を受け入れているね」 「条件は私が決めちゃってもいい?」 「もちろん、お好きなように」 「ありがとうファルター、じゃあね、シュンスケ、ノリコ、フィロアの西にある高原の湖は知ってる?」 「白鳥の湖ですか?」 間髪入れずにノリコが答えた。 「そう、野鳥がたくさんの湖。あなたたちのご両親には、そこの別荘の管理と湖周辺の農地の開墾を。もちろん農地は差し上げるわ。あなたちお二人には最高の教育を、お望みならご両親がいた国への留学だって手配するわ」 シュンスケとノリコは顔を見合わせていたが 「ありがたいお申し出ですが、私達はリン様に何を差し上げたらよいのでしょうか」 シュンスケが半分警戒したような顔で訪ねるとリンはふっと笑って 「お友達になって欲しいの」 「お友達、ですか?」 「そう、対等に話せるお友達。ねぇ、ファルター、いいでしょ?」 確かに公爵令嬢から公爵夫人という今までのリンの身分を考えれば、本人がくだけた物言いをしても相手の方が身構えてしまうのが普通だ。 「リンには必要かもね。わかった。2人は今日からリンの傍についてくれ」 「はっ」 「人事参謀には僕の方からも言っておくよ」 「ありがとう、ファルター」 リンは飛びかかるように抱きついてきた。その勢いでファルターはリンを抱きしめたままくるりと1回転まわり、部屋の奥で控えていたマールと目が合った。
狙撃兵の2人とマールが退出すると、リンとファルターは肩を寄せ合うようにしてソファに腰掛けた。 「ファルター」 「うん?」 リンが顔を赤らながらも視線を合わせ 「やってみたかったの、夫に甘える妻っていうのを」 「甘えていたんだ」 「うん。ごめん」 「何を謝る?」 「疲れてるのに、疲れさせるようなことしちゃったから」 「疲れないよ。何より大切なリンのことだしね」 「ありがとぉ、ファルター・・・」 「声が眠そうだよ。リン、少しお休み」 「うん」 リンは軽く目を閉じた。 ファルターがリンの肩に手を回すと、リンは安心しきった表情でファルターの肩に凭れ掛かった。
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