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作品名:ファラボロスの虹 作者:大野原

第12回   作戦室
車列がファラボロスに近付くにつれ、霧が少しずつ濃くなり、やがて雨が降り出した。
兵達は小休止の間に雨具を着用し、前進を継続した。
路外は所々弾痕で荒れていたが、道路上は砂利などで補修されており、車列の進行に影響はなかった。
数キロごとに天幕や車両が森の中に分散して置かれ、工兵隊を示す標識が道脇に立てられている。
「間もなくファラボロスに入ります」
乗用車の運転手がそう告げるとリンはファルターに凭れていた身体を起こし、ファルターの顔をじっと見た。
「ファルター、あなたは公爵よ」
「実感はないけどね・・・」
「王の承認とか儀式とかが欲しい? そういうの必要だったら、戦いが終わったらゆっくり手配するから」
「そういうのではなくて、なにから始めればいいのかがさっぱり」
「ファルターは感じるままに、信じるままに振る舞えばいいの。私はあなたが途中で逃げ出したりする人じゃないって信じてる」
「逃げたりしない。それは君に誓うよ」
「領地の経営や細々としたことには専門の者がいるし、戦い方については参謀もいるから、その人達の意見を参考にすればいいわ」
「今更ながらだけど、君の年齢は一体いくつなんだい?」
「19よ」
「・・・14・5歳かと思ってた」
「それは、褒め言葉と受け取ってかまわないのかしら?」
「もちろん。見た目はものすごく若々しいのに、考えがしっかりしすぎているから」
リンは少し複雑そうな顔をして
「公爵が定位家族だもの、いやでもしっかりするわ。あなたは私の夫なんだし、私の年齢は元々公表されているからかまわないけど、他の女性に年齢聞いたりしちゃだめよ」
「心得ているよ。君は僕の年齢が気にならないかい?」
「学校の受付名簿に書いてあったじゃない。23歳でしょ」
「そうか、君は字が読めるんだったね」
「父の書斎から何冊か持ち出してよく読んでいたの。分からないところは父の部屋に行けばどんなに忙しいときでも丁寧に教えてくれたわ」
「いいお父君だったんだね」
「うん、優しくて強くて素敵だった。ファルターもきっとああなるわ」
「光栄だね・・・」

車列は大きなベトン製の建物の前に停まった。
使用人のトラックから降りてきたマールが傘を差し掛けながらドアを開けるとファルターは先に降りてリンの手を取って下車を手助けした。
車列は荷物を卸下するために動き出した
「リン様、お待ちいたしておりました」
高級将校の軍服を端正に着こなした長身の美男子が建物の入り口で敬礼すると
「先月の金貨に続いて今日は補給物資まで、ありがとうございます」
「今日のはデュロワ侯爵から、フィロア公爵ファルターに対する貢ぎ物ね」
リンはそう言うと掌を上にしてファルターを指した
「ファルター、こちらは参謀長のサムエル」
ファルターは軽く頷いた。何と言えばよいのか分からなかったからだが、この場ではそれが正解だったらしく、サムエルはその場に跪き
「今までお預かりしていた公の軍をお返しいたします」
感慨深そうにそう言うと
「リン様、ご結婚おめでとうございます」
「ありがとう、お祝いは領地に帰ってからゆっくりとね」
「御意。フィロア公」
「ファルターと呼んでもらえるかな?」
「はっ、ファルター様、各参謀に挨拶をさせ、その後戦況について報告いたします」
そう言うとサムエルは立って先に歩き出した。
「えっと、私どうしようか?」
「一緒に来てくれる? リン」
「うん」
リンはファルターの左手に自分の右手を重ねた。

「人事参謀のヴィルヘルムです」
ヴィルヘルムは小柄で細身、神経質そうな印象を受ける
「情報参謀のミカエルです」
ミカエルは小肥りして首が異様に短く見える
「作戦参謀のロランドとノイマンです」
「進行作戦担当のロランドです」
ロランドはあわてて眼鏡を取り出して掛けた。
「将来作戦担当のノイマンです」
髭面のノイマンは靴の踵を鳴らして見せた。
「兵站参謀のシェステンは今物資受け取りに出ています。民政参謀のホルムは後方指揮所に行っています」
「フィロア公爵ファルターです。みんなの知恵を貸してもらいたい」
指揮所にいた者が一斉に姿勢を正した。
「ファラボロスの現状について説明してもらえるかな?」
「こちらへ」
ロランドが大きな平机に展開した地図の前へ案内した。
「これをご覧下さい」
「こ、これは・・・」
地図上に展開した状況図を見てファルターは絶句した。それは、常識的にはあり得ない光景だった。


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