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作品名:ファラボロスの虹 作者:大野原

第11回   出立
黒い乗用車が3台、トラックが5台
シェリーが準備した「侯爵家の」車両で車列を組んだ。
先頭は道案内を兼ねた護衛の乗用車でオープンカー
2両目はリンとファルターの乗る屋根付きの乗用車
3両目は予備車で護衛の乗った乗用車でオープンカー
4両目はドリタ軍曹が引率する30名を乗せたトラック
5両目は侯爵家の使用人6名と様々な道具類を乗せたトラック
6両目は食料を満載したトラック
7両目は弾薬を満載したトラック
8両目はドラム缶を積んだトラック
もちろん物資は侯爵家から提供された物である。
「選りすぐりの狙撃兵を連れてきたから期待してね」
略帽をかぶったドリタ軍曹はそう言うと楽しそうにトラックの助手席に乗り込んだ。
 リンは青のリボンで髪を束ね、白いブラウスに赤いタイ、貴婦人らしからぬ膝丈という短く青いスカートがリンを更に若く見せている。
「僕らだけだったら、まるでピクニックにでも行くかのようだね」
「そんな時が訪れたら、シェリーも、ね」
「ええ、ぜひ」
シェリーは長いスカートで軽く膝を曲げて見せた。
リンとファルターが乗用車に乗り込むと、車列はゆっくりと前進を始めた。

「ところでリン」
「なぁに」
窓から乗り出してシェリーに手を振っていたリンは座席に戻ると、ファルターを見た。
「ファラボロスでは公爵として振る舞えって言ったよね」
「言ったわ」
「ごめん、やっぱりよく分からない。わかりやすく言ってもらえると助かる」
「そう・・・」
リンは暫く考えていたが
「ファルター、あなたが少尉として動かせるのは後ろのトラックの30人だけ。ファルター個人としてなら動かせるのは私だけかな。でも公爵としてならファラボロスそのものを動かせるのよ」
「ファラボロスそのもの?」
わからないかなー?という顔をしたリンはちょっとおどけた仕草で
「なぜ、私達はファラボロスに行くのでしょうか?」
「なぜって、僕は命令だから。君は・・・」
「そうじゃないの。なぜファルターがファラボロスに行かなくてはならなくなったか」
「風雲急って言ってた・・・ってことは、敵に奪われた?」
「ファラボロスが要衝だってことは子供だって知っている事よ。要衝が敵に奪われたならどうなるでしょう?」
「敵は王都へ雪崩をうって攻めてくるだろうね」
「攻めてきてる?」
郊外へ通じる道も、王都を囲む山々も、ファラボロス方向に見える雲を纏った山にも戦闘の存在を示す煙や火、爆発音などは感じられなかった。
「いや、そうは見えないね」
「ここからファラボロスまで5時間、退却する兵の姿はある?」
「少なくともここからは見えない」
「でしょう。敵は攻めて来たくても来られない事情があるのよ」
「事情?」
「あと5時間もすれば分かるわ」
「ヒントくらいくれないかな?」
「うん、じゃあね、父の死後ファラボロスの防衛にあたっているのは王国軍の将官って話よ」
「うん、それで?」
「ファラボロスに王国軍がどれだけいるかは知らないけど、少なくとも王国軍からフィロアの兵に物資が届いたという話は聞かないわ」
「補給がないって事?」
「部隊を置いておくって事はものすごくお金がかかることなの。私を含めて、あ、ごめんなさい。今はあなたを含めてね、諸侯は自分の軍は自分で面倒見なければいけないのよ」
「そうなんだ」
「何となくわかってきた?」
「いや、もう少し」
リンはくすっと笑うと、頭をファルターの肩に凭れ掛けさせた。


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