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作品名:ファラボロスの虹 作者:大野原

第1回   1
 水は透き通っていた。
水の匂いにつられて森の小径から外れて谷に下りたファルターを、太陽は容赦なく照らし出した。
「暑いな」
言ってどうなる話でもなかったが、ファルターは思わず呟いて目を眇めた。
目的地の王都まで、まだ6時間以上の行程がある。
手袋を外し、小川に手を差し入れた。
心地よい。
水を掬って口に運ぼうとした刹那
「だめ!!」
背後から声がした。
思わず立ち上がって振り向いた。
掬った水で膝を濡らしてしまったが、それはこの際どうでもいい事だ。

「その水を飲んではだめ」
声の主は草をかき分けながら姿を現した。
長い髪の・・・少女だ
ただ、草と大してかわらない背丈といい、甘ったるい声といい、10代前半といったところか。
別に水を飲むなと注意するだけならば近付く必要もないのだが、何故かよろよろと下りてくる。
こんな森の中をうろつくには不似合いな、茶色く薄汚れたワンピースを着ている。
「この川の水は、毒なの」
少女はファルターの横まで来ると、力が抜けたように座り込んだ。
一体どこを彷徨ってきたのか、手足には無数の擦り傷がついている。
「君は?」
「リン。あなたは?」
「ファルター。王都に行く途中だけど、のどが渇いてね」
「王都に?」
「軍学校に入学するんだ」
「そうなんだ。御貴族様なんだね」
「いやいや、従者もない貴族なんていないっしょ」
ファルターはリンの顔をじっと見た。
リンは物怖じせず目を見返してくる。
「リンはどうしてここへ?」
「一昨日村が爆撃されたの」
リンは事もなげにそう言うと
「ずっと生きてる人探してたけど、会えてよかった」
ほっとした表情になってファルターを見た。
家族は?と聞こうとしたファルターは息をのんだ。
リンのすがりつくような目は、その質問が意味を成さない事を物語っていた。
「一緒に来るか?」
リンは頷いた。
「その前に、のどの渇きを何とか出来ないかな」
「来て」
リンはファルターの指を握るとすぐ近くの草むらへ導いた。
その中でもとりわけ背の高い草を手折ると、皮をむいてファルターに差し出した。
「かじって。しばらくは何とかなると思うから」
ファルターは言われたとおり囓り、顔をしかめた。
確かに何とかなりそうだ、
その草はとても酸っぱかった。


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