二日後、体育の授業。私は今日も見学である。 私はやはり木陰の涼しげなベンチに向かい、腰をかけた。 なぜか、今日も白石は見学している。そして、さすがに私が座っているベンチに座ってはいなかったが、私の後をついて来て、私と同じ木陰の中で立っている。 なんだ?こいつ。私は心の中で思っていた。 「ねえ。早川さん。今日も、僕は見学なんだ」 白石は授業が始まってすぐに話しかけて来た。 「どうして?元気そうだけど」 私は白石を見ず、グラウンドに目を向けたまま冷たく言った。 「そりゃあ、早川さんと話をしたいからだよ」 「前にも、言ったよね。私は一人が好きだって。 話されると邪魔だって」 やはり私は正面を向いたまま、さっきより冷たい口調で、そう言った。 目も合わさずの会話の拒否である。これで、撃退した!私はそう思っていた。 「そうそう。言ってた。 でも、僕も言ったよね。早川さんの事が大好きなんだって」 動揺して思わず私は白石を見てしまった。目が合った白石は真剣な表情だった。 「それ、本気なの?」 そう言った私の声は上ずっていた。 「もちろんだよ。でなきゃ、みんなの前で、あんな事言わないよ。 僕の気持ちは真剣なんだ」 白石の顔は確かに真剣さが漂っている。 私はこんな事を言われたのは初めてで、どうしたらいいのか分からないばかりではなく、鼓動が高鳴り、頬が赤らんでいるのか、熱を感じた。 「私は」 好き?そんなはずはない。 何だか好きと言われた事で、少し揺れ動いているような気もするが、それはそう言われた事で錯覚しているだけで、好きになる理由も無い気がする。 答えが見つからない。 「早川さんは?」 白石は私の事を見つめて、私の答えを待っていた。 「そんな事、急に言われたって。 分からないわよ」 私は力を込めて、言った。 白石はがっかりするのかと思っていたら、意外とそんな事はないようで、少しほっとしたかのような表情を一度浮かべてから、話し始めた。 「じゃあ、嫌いって事じゃないって事だね」 変な奴と思いはしたが、嫌う理由は無い。 私は小さくうなずいた。 「いつか、好きにさせるよ」 こいつは一体何を考えているのだろう?みんなの前で、あんな事を言ったり、今も信じられない事を言った。 この自信は何なんだろう。 私の想定する人間と言うものから、こいつは逸脱していた。私は返す言葉も見いだせず、しばらく目を合わせていたが、視線をそらし、グランドの方に目を向けた。そして、最初の言葉を言うことにした。 「もう一度言うけど、私は一人が好きなの。私の事が好きだって言うのなら、一人にしておいてくれない」 「分かった。邪魔しない程度にしておくよ。その内、僕がいないと寂しいと思ってくれるようになるまでは」 この白石と言う男子生徒は、私の理解を超えた奴だった。
そんなやり取りは体育の授業を受けているクラスメート達には、聞こえてはいないだろうが、何かを話している事だけは分かっただろう。授業が終わると、由依が私の所にやって来て、その話を始めた。 「ねぇ。白石君と何を話していたの?」 「えっ?何って、何て事ないけど」 「白石君の事、どう思っているの?」 「何とも」 「じゃあさ、河原君は?」 「は?何で、あいつなの?」 「だって、一緒の家にいるじゃない」 「しっ!」 由依は昔からの友達だから、その事を知っているが、これは秘密なのだ。 はっきり言って、真は女子に人気がある。頭が良くて、運動神経がいい。女子に好かれない訳は無い。そんな真と一緒の家で暮らしているなんて、ばれたらどんな非難や嫌がらせが起きるか分からない。私は由依といるか、そうでなければ一人でいるようなタイプで交友関係が広くなく、その上悪いあの噂があるのだから、なおさらである。 もちろん、真もその事は隠している。それに真から言えば、他人の家だからか、昔から友達を連れて来た事もないので、昔からの真の友人も真の家を知らない。 「あ、ごめん」 由依は手を合わせて、謝った。私は周りに聞かれなかったかと、辺りを見たが、誰も聞いていた人はいないようだったので、私は安心した。 「あいつの事なんか、何とも想っていないわよ」 「本当に?」 「当り前でしょ」 「ねっ。じゃあ、久しぶりに結希んち行っていいかな?」 「いいけど。それは誰が目的?私?あいつ?」 「えへっ。両方にしておいていいかな」 「あいつか」 由依とは付き合いが長いから、私は知っている。由依は真に好意を抱いている。私は本当に真に好意は抱いていない。小さい時からいつもと言っていいほど、そばにいたので、そう言う感覚より、家族に近い感覚なのだ。きっと、あいつもそうだろう。
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