私の家のルールでは、食事の当番の人が後片付けの当番でもあった。 私が食器を食卓から、片付けている間、あの二人はTVのチャンネルを変えながら、ソファに座っていた。そして、よほどそのニュースが気になったのか、そのニュースを探しては見ている。 私はキッチンで、一人仲間はずれ気分で、食器を軽くゆすいで、食洗機に入れていった。 洗剤を入れ、食洗機のスタートボタンを押した。後は、機械任せである。 「終わったわよ」 私は少しうんざり気味な声で言った。 「では、書斎へ来てくれんか?」 待ってましたと言わんばかりの口調で祖父が言う。 「そのつもりです」 私は何度か祖父に呼ばれて、祖父の書斎に行ったことがある。 そこはそう広くはない部屋に、壁に沿って据え付けられた本棚があり、そこに医学やら遺伝子やらの本がずらりと並んでいる。 そして、大きな机があり、その上に大きなLCDディスプレイが置かれている。 その部屋に不似合いな私がそこに行って何をさせられるかは分かっている。 ただ、それに何の意味があるのかはいまだに分かっていないのだが。
祖父の後について、二階の祖父の書斎に向かって行った。ただ、今日はいつもとは違う所があった。真が一緒なのだ。 「何で、あんたも一緒に来るのよ」 「あ?じっちゃんは、そのつもりのはずだけど」 「おじいちゃん、真が言っている事は本当なの?」 「ああ。今日は真も一緒にじゃ」 「じゃあ、こいつもあそこに指を置くの?」 その返事に私は少し期待した。 いつも、そこでは私はパソコンにつながった何かの装置に指を置かされるのだが、その位置からでは祖父がパソコンで何をしているのか見えないのだ。 今回、真が指を置くのなら、私は祖父が何をしているのか、見る事ができると思ったのだ。 「残念だが、真はそんな事はしない」 「じゃ、何で一緒に来る必要があるのよ」 「私と一緒に、ちょっとパソコンで確かめてもらいたい事があってな」 「ええっ。それじゃ、私だけ仲間はずれじゃない。一体、いつもパソコンで何しているのよ」 「まあ、気にするな」 「気にするわよ!」 私は不機嫌だった。 何をさせられているのか分からないと言う事だけでも、いい気はしないのに、真まで祖父側となれば感じ悪っ!てのが、正直な感想である。 そんな不機嫌になった頃、祖父の書斎に着いた。 「結希。いつものように、そこに座って人差し指を置いてくれ」 「パソコンはもう立ち上がっているの? 手回しがいい事。分かりました」 私は指を何かの装置の上に置いた。 パソコンを挟んだ反対側では、祖父がキーやらマウスやらを操作して、何かをしている。 「やはり不完全体だ」 「同じですね」 真が目を見開いて言う。 「何が?」 私は本当に知りたかった。 「いや、何でもない」 完全に私は仲間外れである。 しばらく、二人でパソコンを触っていた。 「結希。ありがとう。もういいよ」 「よくない。二人で、何をしていたのよ」 「あ?パソコンを見ていたんだよ」 「そんな事、分かってます!パソコンで何をしていたのかって、聞いてるんでしょ?」 「まあ、いずれな」 教える気は全く無さそうだ。 私はむっとしたので、書斎のドアを大きな音がするくらい、思いっきり閉めて出て行った。
「では、やはり山本が生きていた?」 「おそらくな」 「だとしたら、もしチップの存在に気付いたら」 「気付いている可能性は十分ある」 「あの時のことですか?本当にそうなんですか?」 「ああ。あれはきっとチップを探したに違いない」 「なら、チップの在り処が分かったら」 「これだけの事を平気でやるような奴だ。手に入れるためなら、手段を選ばないだろうな。 最も安全な場所にあるとは言え、その場所を掴ませんことが大事だろうな」 「奴らが来た場合の準備はあれだけで大丈夫でしょうか?」 「足りんだろうが、これ以上は無理だ」 「あっ。データはセーブしておかないのですか?」 「ああ。危険だから、パソコンには落とさない事にしている」
私の耳には二人のやり取りが聞こえてきたが、山本と言う人物が何者なのか、チップとは何なのか、セーブしておくと危険なデータとは何なのかは全く分からなかった。 そして、自分の右手の人差し指をじっと見つめた。
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