私がキッチンを出て、食器を並べ始めた時、TVが伝えている事件が私の想像とは全く違うものである事に気付いた。 映像に映し出された人々を襲っている者は治安部隊なんかではなく、何かの着ぐるみを着ているのか、それともムキムキマッチョが行きすぎた者か何かのようで、人間のようには見えなかった。 「何?それ?」 私は素直に声に出した。 私のその声にTVを見ていた二人が振り返った。 「あ?結希。ちょっと、私の書斎まで、来てくれるかな?」 振り向いた祖父は私の問いに答えず、脈絡もなくそんな事を言った。 「今?」 「今」 祖父がそう言うのと同時に真がうなずいていた。全く意味不明である。 私は何を考えているのか、これからご飯だろうと怒りたかったが、そこを抑えて話す事にした。 「おじいちゃん、今から御飯よ。クリームシチューが冷めちゃうでしょ」 「あ、そうか。それはすまなかった。食事の後でいいよ」 「はいはい」 私は少し面倒くさそうに、そう言いながら、食卓に夕食を並べて行った。
テーブルの上に並べられたクリームシチュー、生ハムのサラダ、フランスパンを囲み、三人は席に着いた。 「いただきます」 そして、三人は手を合わせて、そう言うと食事を始めた。 普段、三人での会話は多くない。 同じ年とは言え、真は男子である。私にとって、そう食事の時にぺちゃくちゃと話す相手ではない。 祖父にだって、真の前で学校生活の話を私はしたくない。 私は黙って、目の前のパンを手に取り口に運んだ。 「ところで、結希ちゃん」 真が私に言った。真は学校では名字で私を呼ぶが、家では下の名前で呼んでいた。 私は口にパンが入っていたので、返事をせずに真を見た。 真の顔は少しにやついている。 「何?」 パンを飲み込むと、たずねた。 「白石の事。どう思ってるの?」 「はあ?」 私はなぜ、そんな事を聞く!冷やかしか?と怒鳴りたかった。 「何の事だ?」 祖父が口を挟んでくる。 「じっちゃん。今日さ」 真はなぜか、私の祖父をそう呼んでいる。 実の祖父でもないくせに。 呼ばれている祖父自身が何も言わないので、私がとやかく言う問題ではないのだが。 「結希ちゃんが、クラスメートに告られたんだよ」 「おお。そうか、そうか。 そりゃあ、私のかわいい孫娘なんだから、当然かも知れんが。 で、どうなんだ?結希」 祖父まで、話に乗って来た。 白石の気持ちがよく分からなかったので、私はこの話はしたくなかった。 そこで、この話は無視して、話題を変える事にした。 「そんな事より、さっきのあれは何なの?」 二人はお互い、顔を見合わせた後、話題を切り替えられた事に残念そうな表情で、話をしてくれた。 「何でも、銃弾も効かない怪人らしい。力も馬鹿みたいに強いって事以外、詳しい事は分かっていないようだ。 そんな怪人があちこちに現れて、警察署やら治安部隊の人やらを襲ったらしい」 私にとって、治安部隊と言うのはある意味仇であり、それがやられると言うのはうれしい事だが、その襲っている相手がこの化け物では複雑な心境にならざるを得ない。 「ふーん。治安部隊なんて、無くなってもいいけど、そんな事が本当にあるの?」 「あるから、起きてるんだろう。事実に目を向けなよ」 真の言葉が何だか冷たく感じた。こいつはよくその言葉を私に向かって言うのである。 私は少し真のそんな態度にいらついたので、むっとした表情で口に運んでいたクリームシチューをすくったスプーンを止めた。 「いつも事実に目を向けているわよ。 あれはそう言う装甲を着た暴徒よ。 パワードスーツ?そう言うものよ」 「残念だが、あれは装甲なんかじゃない」 祖父が落ち着いた声で、私に諭すように言った。 真の言葉とは違い、私には重みがある。 「じゃあ、何なの?」 「化け物にされてしまった人間だ」 「は?」 私には全く理解できない答えだった。 どう言う発想で出てきたのか? 祖父は大丈夫かとさえ思ってしまった。 「ねえ、人間だとして、どうして、銃が効かないの?」 私は少し冗談はやめてよねって、口調で言った。 「きっと、筋肉や骨が鋼鉄並みの強度なんだろう。」 今度は真が言った。そして、祖父もその言葉にうなずいている。 祖父に疑いを向ける訳にはいかず、真に言う事にした。 「真、まじで言ってんの?そんな事ある訳ないじゃん」 私は全く信じていなかった。絶対私の推測の方が正しい。そう思っていた。 「結希ちゃんは、信じたくないんだろうけど、事実に目を向けないと」 また、それだ。 この言葉はどうも、好きになれない。 「だからぁ、私はいつも事実に目を向けているわよ」 私はむすっとした表情で、パンを手に取った。
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