「あの事件はおそらく、結希、お前がやったんだよ」 祖父が静かな声で言った。 「やっぱり」 もう想像はついていたが、それでも私には衝撃だ。 今まで、ずっと否定してきた事件の犯人が私だった。
私は普通の人間ではなかった。
あれ?ある意味、今世間を騒がせている化け物と同じ?
私は落胆した。その表情を読みとったのか、真が口を挟んだ。
「結希ちゃんの力は悲しむ事なんかじゃない。ある意味、素晴らしい能力なんだよ」
私はそんな力は要らなかった。そんな風に言われても、私には何のフォローにもならない。 思わず私は真を睨みつけてしまっていた。 私は気を取り直した。今一番大事なのはこの力が何なのかである。
「この力は何なの?」 「遺伝子操作だよ」 「遺伝子操作?誰かが私にしたって事?」 「全てを語ろう。 お前の遺伝子を操作したのは、私の息子だよ。 私は全てが終わってから、あいつに呼び出され、その話を聞いた」 「叔父さん?どうして、そんな事を」
私は子供の頃、優しくしてくれていた叔父が、どうしてこんなひどい事をしたのかと、裏切られた気分だ。
「全てはお前のためだよ」 「私の?どうして、こんな事が私のためなの?」 「あの日、つまりあいつが研究所を燃やした日だ。あいつは命を絶つ気だった。だとすると、お前に残された肉親は私だけだ。 私はそれなりの年だ。いつ亡くなるか分からない。そうなると、お前は一人っきりになる。そうなった時に、非力なお前の将来の力になればと思ったんだそうだ」
そんな。私は一人でも、こんな力は無い方がよかった。
「それと、もう一つ。お前はずっと小さい頃から、両親を奪った奴らを許さないと言っていただろう。 その言葉が、お前に災いをもたらすやもしれんし、逆にお前が仇討ちをする場合にも役立つ。 そう考えたんだよ。最後にあいつは」
両親の仇を討つ。 それは少し私の心を揺らしたが、あの事件もあまりにも昔のことだ。 そこまで強い意思は、今の私には無い。
「でも、私はそんな力は要らない。お父さんやお母さんを奪った政府は憎いけど、そんな仇討ちなんて考えた事も無い」 「あいつは元々医学の発展のために、生きたまま人間の遺伝子を組み換える技術を開発した。 そして、組みかえる遺伝子を変えることで、色々な病気の治療に活かそうとしていたんだ」 「病気の治療?」
私はその言葉に一つ仮説が思い浮かんだ。 寝たきりだった真。 それが、今では人もうらやむ頭脳、運動神経を持っている。 私はそう言う事かと言う顔で真を見た。 私が見た意味を悟った真は、静かにうなずいて、口を開いた。
「そう。僕もそうなんだ」 「どう言う事?」 「あの頃、僕は脳や脊椎にも損傷を受け、寝たきりだった。そんな僕でも、両親も失った結希ちゃんにとって、大事な友達だったんだろう。 じっちゃんに結希ちゃんは僕を治すよう、何度も頼んでくれていたんだ。でも、一度損傷を受けた脳や神経がそう簡単に治る訳は無い。 じっちゃんは、叔父さんに相談してくれたんだ。 叔父さんは結希ちゃんの大事な友達と言う事で、僕にその治療を特別に施してくれたんだ」 「それで、元気になったってこと?」 私に真はうなずいてみせた。 私の中にあったこの力に対するイメージが、少し良くなったが、それが自分を普通ではない人間にしている事は嫌だった。
「あの時、叔父さんは僕にこう言ったんだ。 君には特別な治療を施す。 すでに、病院の先生から聞いていると思うが、これはまだ発表していない技術なんだ。 それだけに、この事は誰にも話してはいけないだけでなく、もしかすると悪い影響が出るかも知れない。 それでも、いいんだね。 と。 そして、僕は3つの遺伝子を同時に組みかえる治療を受けたんだ。 それは脳を高度に活性化する遺伝子、 神経活動を早める遺伝子、 治癒/再生能力を極限まで早くする遺伝子だったんだ。 それらが僕の体内で、細胞を作り変え、やがて一人で動けるようになったんだ」
私は少し納得した。真の異常なまでの能力の理由。それは作られたものだったんだ。
「じゃあ、私は何なの?」 「お前には全てが組み込まれている」 「全て?」
祖父はうなずいた。そして、真も知っていたのか、同じようにうなずいていた。
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