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作品名:Pandora 作者:あすか

第25回   普通ではなかった私...
 次の日の朝一番、私は最終的な診断の結果を聞くため、先生と向き合っていた。
 私達の横には白いライトで映しだされた私の脳のMRI画像が並べられている。先生はその画像には特に興味も示さず、私の方だけを見て、淡々と話し始めた。

 「外傷もありませんし、昨日撮りました脳のMRIにも何の問題もありません。
 今日、これから清算手続きをされて、退院してください」

 先生の話は細々とありはしたものの、結論は最後のこの言葉であり、私にはどこにも異常が無いと言う事だった。
 襲われたあの時、確かに私は殴られそうになったが、どうやら殴られていなかったのだろう。

 私は祖父たちがやって来るまで、卓也の様子を見に行った。
 退院はうれしい話であるはずだが、卓也と離れ離れになってしまう事を考えると、寂しい気分だ。せめて、今日一日くらい、このまま卓也の横にいようかとも思ったが、私は祖父たちと共の退院し、帰宅する事に決めていた。私には何よりも先に終わらせたい事があった。

 それは私の過去の話だ。

 何をおいても、私は自分が何なのか、どうしてあんな事件を起こす力があるのか事実を知りたいのだ。

 家に戻ると私は祖父と真に話があると言った。
 その私の真剣な表情に、二人は気付いたようで、二人の顔にも真剣さが漂っている。
 リビングのテーブルを挟んで向き合って座ると、私は一気に本題に入るため、率直にたずねた。

 「ねえ。私って、何なの?」

 「どう答えてほしい?」

 祖父も真剣なのだろ。そう言った祖父の声はいつになく低いトーンだ。

 「私はあの男たちに襲われた時、昔のあの事件の事を思い出したの。あれはとても怖い経験で、ずっとそれは私がやったんじゃないと思い込んでいたんだけど、本当の事を思い出したの」

 「あの腕を潰されて死んだ男の事か?」

 「うん。そう。
 ずっと、あれはその前に殴られていた男の人が、あの人の腕を食いちぎったんだと思い込んでいたんだけど。そうじゃないかもしれない。
 本当はみんなが言うように、私が握りつぶしたのかも知れない」

 「どこまで、思いだした?そんな事は小さな女の子にはできないだろう?」

 「そう。普通なら。
 小さかった時、私は気付くと普通の子ではなかった。
 時々、信じられないような事ができたの。それを隠そうと、無理をし続けていた。
 そして、何とか自分が普通ではない事を隠し続けられていた。あの時までは」

 「そうか。そこまで、思い出したか」

 「うん。やっぱり、私は普通じゃなかったの?
 あの事件はやっぱり私がやった事なの?」

 私の問いかけに短い沈黙の時が流れた。


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